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『小さなサイン 』
藤田・あやこ7061
水木・孝治(ミズキ・タカハル)は疲れていた。
徹夜で会社に泊まり込み、仕事をしていたのだ。
職業はSE……システムエンジニアである。

この仕事ははっきり言って激務だ。
目がかすんでいく。もう限界だ……。
そこで同僚に、

「俺仮眠するから、もし上司が来たらよろしく言っといて」

水木は重い足取りを引きずって、「仮眠室」と書かれた部屋に入っていった。
そこは堅そうなソファーに一枚の毛布があるだけの部屋である。
わざわざ仮眠室なんて作ること自体が社員を徹夜させてこき使うつもりなんだなと思い、
眠ることにした。携帯電話には、「10月31日2時23分」と書かれていた。

コツン。

コツン。

それは小さな堅い物がドアに投げつけられている音だった。

「誰だ?こんな音鳴らすのは」

水木はその音が気になって、ドアを開けてみた。
そこには信じられない光景が広がっていた。


そこは暗くて、ところどころに飾られているジャックオーランタンから、
ぼんやりした光が辺りを照らしていた。ドアの近くを見てみると何やらクッキーが落ちている。
EだのPだのクイズ感覚でクッキーを並び替えてみると……。

「HELP ME!」

後ろに何か気配がした。
振り返るのは怖い。がたがた震えながらも現世へ帰らなくてはいけないので、
そっと後ろを振り返ると……


ジャックオーランタンの顔をした大きなアリが立っていたのだ。

とりあえずクッキーを保護しつつ、大きなアリを力でどかして扉をバン!と閉めた。
その後もそのアリは体当たりでドアを開けようとする。
こんなにも力があるのなら、ドアが壊れそうだ。
実際にだんだんドアが変形して壊れかかっている。

頼む……

頼むから入ってこないでくれ……

するとドアは開いてしまった。

「水木さん、そろそろ起きて仕事しましょう」

そこには同僚が立っていた。
壊れそうなドアは以前のようなきれいなドアになってるし、
ドアの向こうも普通の廊下になっていた。

同僚は、
「今日はハロウィンだし、変な夢でも見たんじゃないですか?」

と明るく言うが……そうだ!クッキーだ。
これさえなければあれが夢だっだと証明できる。

しかし仮眠室のソファーの上に、「HELP ME!」のクッキーがある。
夢であってほしかった。


今日は久々の休みである。
特にすることもない水木は、インターネットをしていた。
いろいろ寄せられる怪奇事件を検証するサイト「ゴーストネットOFF」
回答率は一割といったところだが、わらにもすがる思いで投稿してみた。

一方、丁度休暇中の藤田・あやこがゴーストネットOFFの掲示板を見ていた。

『仮眠室から出ようとすると、真っ暗な世界が広がり、そこにHELP ME!
 というクッキーがあって、ジャックオーランタンをかぶった巨大アリが来るんだ。
 助けてくれ!!(メールアドレス)』

「ふーん。興味ある逸材ね。ぜひ調べてみたいわ」

と思ってのんびりしていると……

「きゃーーーーーーーーー!!!」

一体何が起こったの?とあやこは見ると、そこには例の巨大アリがいたのだ。
逃げ惑う客。そこであやこは指示を出した。

「従業員!そこの消火器ふっかけて。あとは私がなんとかするから」

そう言われると慌てふためきながらも店員は消化器を巨大アリに勢いよく吹きかけた。
そこで弱った巨大アリをあやこは小型の弓矢を取り出し、弓を引いた。

すると巨大アリは動かなくなり、息絶えたようである。

従業員は怪しそうな目であやこのことを見て、

「さようなら、あとはよろしくー」

と、その場を去った。

その後、ネットサーフィンで情報集め。被害者さんにもコンタクトを取った

ネカフェなどたくさんのパソコンが置かれているところに、アリが現れること。
インターネットにつなげてる小学生のところにも、よくアリがあらわれること。

その情報をまとめて、あやこの中で一本の線につながった。
どこかのサイトにアクセスした者が同じ目にあってるんじゃないかと。
それも小学生が好きなサイトで。

* * *

その頃水木は仕事をしていた。
「HELP ME!」のクッキーを引き出しに入れて。

パソコンの画面で、「Cookieに保存しますか?」という注意書きをみつけた時、
Cookie=クッキーなのでは??と思った。
そこで全部のデータを外付けハードディスクに保存して、
パソコンの本体は初期化した。しかし一つだけ消えないデータがあった。
それはあるサイトのURLとその最後のページであった。

* * *

あやこはというと、小学校の門のところで聞き取り調査をしようと立っていた。
(無論、仕事放ったらかし)

「わー!エルフだ、エルフ」

「うるさい!今から私の問いに答えなさい。でないと魔法つかっちゃうぞ」
はーいと意外にも素直だった。

「最近小学生に人気のあるブログやサイトって何?」
「新ブログの女王のゆりたんとか?」

「他にはないかな〜?」

「あるよ。『小学生ボクの日常〜いじめを苦に自殺した少年のブログ〜』」

* * *

そのブログが関係していることがお互いわかった。

中身を読んでみる。まず最初に遺族の文章があった。

「息子がこんなつらい目に合っていたにもかかわらず、何もできなかった自分がとても悔しいです
 幸いというべきでしょうか?遺書にここのURLとパスワードを残してくださったので、
 息子の死を無駄にしないように、日記は残しておくようにします」

違う日にちの日記を拾って読む。

「今日お父さんにおねがいした。携帯ゲーム機を買ってほしいと。
 すると『ウチは貧乏だから買えん』と言われた。
 じゃあこのパソコンは何?と思った」

その何日か先のブログ

「男の子たちが携帯ゲーム機で遊んでる。ボクはそれをみている。いまどこの子に話しかけても
 無視するんだ。さんざん話しかけて、去っていくと教室に笑い声がひびくの」

かなり先のブログ(10月31日)

「もう死ぬことに決めました。貧乏だからボクはいじめられるんだ。貧乏が憎い」


そこで水木からあやこのメールボックスに新しい報告があった。
「自殺した少年のブログというところまではお互い調査が進んでいたが、SEのウイルスに強い連中が
 一種のウイルスがブログから感染しているという事実を突き止めた。
 ただ、残念ながらウイルスのワクチンを作るまでには至らなかった」

あやこは少し残念だった。そうだ!その子が欲しがってたゲーム機があれば……。
そこであやこは大手電器店に行ってみた。

「もう製造中止になってて売ってないんですよ」

製造中止とは……。そこであやこはこんなことを思いついた。
「そのゲーム機本体に似たものをSEさんに作ってもらえばよかったんだ!」

あやこはメールボックスを開いてみた。
すると被害にあった人からメールが届いていた。

「とりあえずその子供のブログのパスワードはわかった。
 しかしこの先どうすればいいのかわからない」

あやこは即返事を書いた
「じゃあいっそ合流しましょう。待ち合わせは次の日曜二時、あなたの会社に近い駅前で」

日曜……とはいってもSEに日曜なんてあるんだろうかと思いつつあやこは待っていた。
その時スーツ姿で走ってくる青年がいた。真面目でいい人で終わってしまうような人……
と言っちゃ悪いが、そういう男の人は嫌いじゃない。

「君って人間じゃなかったのかい?」
「ええ。エルフです」
「じゃあ俺のの会社に来てくれないかな?」
「はい」

歩きながらもいろいろお話した。

「私はね、あの子が欲しがっていたゲーム機があれば成仏すると思うのね」
「でもいじめ自殺でしょう。相手が悪いんじゃないのか?」
「悪いけど……今回みたいなクラス全員無視は犯人が一人もしくは数人。
 でもその連中の報復を恐れて皆して従ってしまう。みんなが犯人なのよ。
 その中でも彼は主犯を見抜けなかった。だとすればゲーム機しかないでしょ?」

あやこはいじめについて妙に詳しかった。自分も昔は体験したことのある事柄なのだろうか。

「僕の仕事仲間でゲームに詳しい奴がいるんだ。頼んでみるよ」

水木はあやこが何故エルフなのか、そういったことには一切触れなかった。
触れてはいけないと思った。

そうしてる間に会社に着いてしまった。
しかし期待のゲーム好き社員は、

「俺だって鬼のように忙しいんだ!水木だって最近仕事ためてるだろ!」

そこでつかつかとあやこがやってきて、

「ここの会社、残業代ないんですってね」
「あぁ、そうだが」
「携帯ゲーム機を作ってくれたらその作成料と別の企業を紹介してあげるわ」

その誘いに乗った彼が、仕事を放り出してゲーム機作りに精を出している。あとは待つしかない。
その社員がクビになった時は作業を続けられるよう、それなりの機械をあやこの会社で用意した。

「やった!できたわ」

それは少年が欲しがっていた機種にそっくりな形、初期型の色、
芸の細かいことに当時流行っていたソフトまでついている。
さっそく作成者にはお礼金を払い、自分の会社でSEとして就職させた。残業代もつくように。

電源をつけてみる。すると旧式のコミカルなキャラ達が姿をあらわした。
それと「HELP ME!」のクッキーを添えて。

自殺した少年のブログにあやこはこう書いた。

「健太くんの欲しかった携帯ゲーム機。ここにあるよ。もう一人じゃないんだよ」

するとクッキー達がぱぁんと散って消えてしまった。

「あぁ、もう救われたんだね。よかった……よかったよ……」


後日、あやこは草間興信所で調べて貰って、ご遺族の方と対面する。
亡くした息子さんの写真立てのところに、あやこは欲しがっていたゲーム機をそっと置いた。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7061 / 藤田・あやこ / 女 / 24歳 / IO2オカルティックサイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます。あやこさんいつの間にやら職業変わってらしてびっくりでした。
前半は文字で人間の恐怖を描くのに挑戦しました。結構ストーリーに忠実のようで、
裏切ってる部分もありますが、楽しんで読んでくだされば幸いです。
Trick and Treat!・PCゲームノベル -
麻衣 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年10月01日

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