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『『進むべき道』 』
ウィノナ・ライプニッツ3368)&ダラン・ローデス(NPC0464)

 一人、公園のベンチで待つ。
 約束の時間より、かなり早く着いてしまった。
 心は決まっている。
 迷いはないから。
 ウィノナ・ライプニッツは一人、約束の場所で待っていた。
 肩掛け鞄の中身は、郵便物ではない。
 沢山の本に、ノート、筆記用具が入っている。
 待っている間、鞄の中から本を取り出し、目を通すことにする。
 体内透視について書かれた魔術書だ。ぱらぱらと捲ってみると、服だけを透視する魔術も書かれている。ウィノナは一瞬、危なかったと焦る。ダランが魔術語を読めていたら、実行されていたかもしれない。
 ――ダラン・ローデス。
 それは、ウィノナが待っている人物の名である。

「ウィノナー!」
 彼はいつものように、笑顔で駆けてきた。
「おそ……」
 遅いとつい言いそうになって気付く。今がちょうど約束の時間だということに。
 ウィノナは言葉を変えることにする。
「ごめんね、今日も呼び出して」
「いや、俺も早く返事聞きたいと思ってたから。メシでも食おっか!」
「ううん。ボク、今日のうちにあっちに戻るから、あまり時間ないんだ」
「あっちって……」
 少しの間、沈黙をした。
 花壇に咲いているピンクの可愛らしい花が、風に吹かれて揺れている。
 見るともなく、その花を目に入れながら、ウィノナは両手を組んだ。
 いつの間にか、ダラン・ローデスが自分の隣に腰掛けている。
「ダランのこと、自分のこと、色々考えてみた。それで……ごめん。ボクは、まだ離れない」
「なんで?」
 ウィノナは月の半分を魔女達が暮す屋敷で過ごしている。
 最初は、ダランの為だったかもしれない。
 ダランは自分の為に、ウィノナが犠牲になっていると感じているのだろう。
 大切な母親の形見の力を使い、ウィノナを解放したいと言ってきた。
 だけれど……。
「向こうにある知識を得られなくなることや、キミのお母さんの力を使うことで、キミを救う可能性を削ってしまうことは出来ない」
「なんでだよ……」
 小さく言ったあと、ダランは拳を握り締めて、再び同じ言葉を繰り返す。
「なんで、だよ! だって、ウィノナには何の得にもなんないじゃん。俺のせいで監視されたり、屋敷で酷い目に遭ったりしてるんだろ!? だったら、そう言えばいいじゃん。言ってくれれば、仕方ないからこの力、ウィノナに使ってやるって笑って俺も言えんのに! そしたら、二人とも、楽になれる」
「酷い目になんて遭ってないよ。皆良くしてくれてる。だってボク、まだ何も払ってないんだよ。手伝いだって大してしてないのに、住む場所も食事も、沢山の資料も自由に閲覧できて、学ぶことができる。確かに、ダランに対しての扱いは最悪だったけどね。それに、キミの為だけじゃない。ボク自身のためにも」
「街にいた方が、もっと楽しく学べるに決まってる!」
 そう言うダランに、ウィノナは首を左右に振ってみせた。 
「……ボク、あの屋敷に行くまで、魔術なんて縁の無い世界だと思ってたんだ。けれど、はじめて行ったときにボクの中にある魔力に気づいて、弟子入りしてから、修行したり、知識を得たり、魔術を使ったりして……今思い返したら、ボクの見える世界が以前より広がっていることに気づいた。だから、ボクはもっとあそこで勉強してさらに世界を広げてみたい。それがボク自身のため、って言う理由」
「確かにきっかけにはなったかもしれないけど、魔術は街でも学べるだろ!」
 ダランの言葉に、再びウィノナは首を左右に振った。
「あそこでは、街では得られない知識が沢山得られる。ボクがあそこに関与していられる時間はそう長くはないけれど、街で学べる時間はボクの命が続く限りあるから。それに、訓練は厳しいけれど、上達が物凄く早いと思うんだ。ダランもそう思わない?」
「それは……思ってた、けど……」
 ダランが視線を落とした。
 落ち葉が、ダランの足下に舞い落ちる。
 ダランはその落ち葉が風で舞い上がるまで、何の反応も示さずにいた。
 ――そして、ゆっくりと語りだす。
「本当は、それは俺がすべきなんだ。あそこで魔術を学ぶことも、自分の身体を治すための勉強をすることも。……全部、俺のすべきことなんだ。だけど、俺はあそこに居られなくて、逃げた。でも、ウィノナは逃げるって選択をしない。なんか変だ」
 ダランは両手で目を覆った。小さな声で、言葉を続ける。
「やっぱ、俺、間違ってたのかな。でも……っ」
 彼の選択が正しかったかどうかは分からない。
 それはこれから判ることだ。
 だけれどあの時、彼が限界だったのは確かだ。
 彼の精神力では、あとどれくらあの場所で頑張れただろうか。
 精神的ストレスが発病を早めかねない状態だった。
 だから……。
「間違いじゃなかったと思うよ。ボクにだって、限界が来るかもしれない」
 ウィノナの言葉に、ダランが顔を上げた。
「もし、そうなったら……ボクがあそこから本気で逃げ出したくなった時、その時には、キミの力を借りてもいいかな……?」
 優しく、問いかけた。少しだけ、ほんの少しだけ不安を含ませて。
 ダランは、ウィノナを見つめながら言う。
「当たり前だって言いたい……だけど、きっと今のままじゃダメなんだって分かってる。足手まといになるだけで」
「すぐには根を上げないよ」
 そう言ったウィノナに、ダランは強く頷いた。
「俺、今の身体なら強くなれる。ウィノナが限界を感じるまでには……母ちゃんの力だけじゃなくて、自分自身ももっと役立てるようになっていたい」
「そんな時が来た時には、期待してる」
 ウィノナの言葉に、ダランはいつものような明るい笑みを見せた。
「わかった」
 その青い瞳は、真剣だった。
「それじゃ、ボク、行くよ」
「うん。またね、ウィノナ」
「またね、ダラン」
 どちらからでもなく、自然に握手をした。
 手を振って、分かれる。
 少女は狭い空間で、広い知識を。
 少年は広い世界で、深い技術を求めて。


●ライターより
『命運〜示された道〜』でのダラン・ローデスの申し出に対してのお答え、ありがとうございました。
違う場所で学ぶ二人だからこそ、協力する際には互いの至らない部分を補え合えるのかもしれませんね。
今後ともよろしくお願いいたします。(川岸満里亜)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年09月26日

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