▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『[ rowdy watermelon!! ] 』
シオン・レ・ハイ3356


『冷蔵庫荒らしを捕まえた、子供の癖にどうやら常習犯らしい。俺の貴重な食料が――じゃ、なくてだ……』

 全ては又…とでも言うべきか、草間武彦より入った一本の電話から始まった。

『いろんな人に会って勉強がどうたら言うんだが、まぁ問題はそんな所じゃ――ちょっ、お前ら待て!? 零、止めっ…』

 ――――プツッ‥ツーツー..。


 通話は一度そこで切れる。しかし、勿論草間興信所ではこの後あらゆるものをひっくり返すほどの騒動が巻き起こっていた。
「だぁああっ、それを開けるな中身を持ってくな!!」
「兄さん、そんなに声を荒げて怒ったら……あっ」
 武彦の怒声をよそに、小さな二人の侵入者は冷蔵庫の中で冷えていた小玉のスイカ二つを箱ごと持ち、興信所を飛び出していく。
「ああっ、依頼の謝礼が持ってかれ…たっ……折角今日食べようと…っ」
「美味しそうなスイカだったのに……残念ですね、兄さん」
「………………っ!!!!」
 そして武彦は再び受話器を取った。

『冷蔵庫荒らし(妙な子供二名)がスイカ二玉を強奪、現在逃走中。捕まえてくれた奴には一割くらいは……くれてやる、取り戻してくれ!』


 秋を目の前にした草間興信所、そこはもはや季節問わず…毎度食べ物に悩まされる場所である。


 一方、まんまとスイカを手にした子供二人は

「スイカ割りー!! やってみたかったんだ、海辺でぱかーんって!」
「……スイカ…でも、勝手に持っていっちゃっ……それに何か、変だよ」
「変?」
「だってほら…手足が――――」
 二人が覗き込む箱の中身、それは確かにスイカなのに。
 そこには確かに手足と顔が存在した。二人にとってはあまりにも衝撃的な初体験であり。


「坊主に嬢ちゃん、そんなに浜辺でオレらと遊びたいのか?」
「割れるもんなら全力で割ってみな、このアタイらをね」


 それは同時に興味をも持つ。
 しかし 海まではまだまだ遠い……。



    □□□



「さて……どうしたものかしら」
 場所は変わって月刊アトラス編集部。たった今武彦から入った意味不明の電話を置くと彼女――碇麗香は、部屋の隅にマイ机という名のダンボールを持ち込み、今も尚原稿を書いている一人の男に目を向けた。
「……どうせ採用されない原稿なんて放っておいて、ちょっといいかしら」
「はいはい、なんですか麗香さん?」
 編集長自らが言い放った最初の言葉は聞こえていなかったのか、聞かなかったことにしたのか、理解できなかったのか……彼――シオン・レ・ハイは動かしていた手を止めると笑顔で顔を上げる。
「今の話、大方聞いていたでしょ?」
「勿論です、コレはスプーク写真を撮るチャンスですね!」
 シオンの言葉に麗香は一瞬顔を顰めたものの、「そう…ね」と小さく肯定した。
 そんな麗香の言葉を聞くと、シオンは書きかけの原稿を裏返し、誰も使っていないカメラを借り編集部を出る。
 白王社を出たシオンの姿といえば、首からデジタル一眼レフカメラを提げ、頭には大きな麦藁帽――気分的に被ってみた――、そしてなにやら色々と詰まった鞄が一つ。
 それはまだまだ日差しの強い夏の日のこと……。


 ――とは言え、スイカを奪い逃走した子供がこの街の何処にいるかなど、シオンには見当がつかなかった。考えてもみれば、外見特徴も妙な子供二人としか聞いていない気がする。
「困りました、とりあえず近くにいれば…………?」
 ただ草間興信所発だから、その近くに行けば何かしら手がかりが見つけられるかもしれない。そう考えた矢先のことだった、シオンがソレを見たのは。
「待ちなさーい!」
「嬢ちゃん、海まではまだまだ遠いぜ」
 シオンの後ろから来てはあっという間に走り去っていくスイカと、ソレを追いかける少女らしき後姿。
 その光景に、身体が自然と動いた。その瞬間、シオンには記者魂が乗り移ったのかもしれない。慌てて追いながらも、首から提げていたカメラを素早く構え、連射モードで一気にシャッターを切った。
「でもお話では子供二人がスイカ二玉を持っていった、だったはずですが?」
 頭の中で麗香と武彦のやり取りを思い返しては、目の前の光景を見る。辺りにもう一玉と一人が居るようではない。それ以前にスイカが動いているという情報は聞いていなかった筈だ。
「……これはこれでスプークになりますよ、麗香さん〜」
 そう声に出して気合を入れ、シオンはスイカと少女を追う。しかし意外と足が速いのか、なかなか追いつけないまま数分が経過。
 最初は確かに走っていたシオンの足も、今では歩いているのか分からないものとなっていた。途中までは追いかけていた二つの後姿も、今ではもう何処にも見えない。
「あああ、スイカさんっ!!」
 余りの出来事に悲痛な叫び声をあげ、シオンはガクリと膝を突いた。
 会話の流れから恐らく海へ行くのであろうスイカと少女。しかし海といっても場所は無数にある。後をひたすら追うか、他に情報が無い限りもう追跡は不能と思われた。
「ああああ…麗香さん、スイカさんの写真はワンシーンしか撮れませんでした……」
 そう呟いては項垂れ、立ち上がれないシオンの肩を叩く者が居た。いつの間にか目の前に影がさしている。
「おいおい…何があったかしらねぇが、大の大人がこんな所で泣くんじゃねぇよ」
 涙で滲んだその向こうは、逆光も重なりよく見えやしない。ただ、シオンの肩に乗せられた手はまるで金平糖のようで……。
「ああ、どうだ、気分転換にオレらと海にいかねぇかい? そしてこのオレを割れるもんなら割ってみるといいんだぜ」
 声は近くで聞くほど豪快で野太い。
「……はぁはぁ、スイカようやく、追いついた! って、ん? いつの間にか知らないヒトが居る」
 その後からやってきた不思議な格好をした少女を確認すると同時、シオンは目の前のそれが捜し求めていたスイカだと気づく。
「ああ、スイカさん。行きます、行きますよ」
 思わず顔をあげ正座をしスイカに向き合うと、スイカはシオンから一歩離れ、まるで親指を立て――実際そこに指は存在しない――自分に向けるかのように言った。
「ならオレらについてきな、ついてこれるもんならな」
「うあー、まだ走るの!?」
 スイカの言葉に少女が項垂れるが、スイカはその場で足踏みしたまま「嬢ちゃん、海はまだまだ遠いぜ」と、不敵な笑みを浮かべる。

「あ、その前に! 写真を一枚」

「んじゃ海へのダッシュ再開だ」
 そう言ってスイカは再び走り出す。その後にようやく息を整えた少女が続き、シオンも後を追い始めた。
「あたしヒコボシって言うんだけど、おじさんは?」
 不意に、シオンの隣を走る少女が問う。
「シオン・レ・ハイと言います」
「えーっとハイ?」
「シオンと読んでくださいね」
「そっか、なんだかどうして一緒だかよくわかんないけどしばらくよろしく。でもあたしは全力でスイカ追うから。ぱかーんって割らなくちゃいけないし……途中でオリヒメとも合流しなくちゃいけないし」
 そう言ってヒコボシは加速した。
「あああ、待ってください〜〜」


「あら、やっぱり」
「おや?」
 声はほぼ同時に発せられる。
 スイカと双子の発見、二人の遭遇。物語は、ようやく此処から始まりだした……。



    □□□



 前方ではまずスイカが合流し、その後少年少女が合流する。
「シオンさんも武彦さんからの連絡で?」
「です。でも正確には麗香さんからと言いますか。それでさっきあのスイカさんとヒコボシさんに出会いました。もう一人は多分オリヒメさんですよ?」
 そう言うと、彼女――シュライン・エマが驚いた様子でシオンを見た。シュラインはたった今スイカと子供に遭遇したばかりで、名前に関しての情報は持っていないせいだ。
 シオンと行動を共にしていたヒコボシは走りながらも何か叫んでいて、その隣を走るオリヒメは既にフラフラで目も当てられない状態になっている。
 そんな様子にシュラインは足を速めると、まずは二人に追いついた。
「二人とも随分苦しそうだけど……もしかして水分摂ってないじゃない?」
「はぁはぁ……すい ぶん?」
 真っ先に反応したのは勿論というべきなのかオリヒメの方だ。しかし返事が出来ぬままで居ると、隣のヒコボシが手をあげながら言った。
「欲しい欲しい! あたしにちょうだいっ」
「慌てなくても水はあるから、はい。零さないようにね?」
 そう、走っている二人にスポーツ飲料水を手渡すと、二人はそのまま一気に飲み干し大きく息を吐く。
「はぁ、あの、ありがとう…ございます」
 そう丁寧に礼を告げたのはオリヒメだった。続いてヒコボシが口を開く。
「ぷはぁっ、生き返ったー。えっと、おばさんもシオンと同じでスイカ捕まえて割るの?」
「おばっ…………シュラインよ。えっと、まず二人はあの西瓜を持ち去った双子のオリヒメとヒコボシであってるかしら?」
 その問いかけにはオリヒメが素直に肯定した。
「そうですけど…、えっと、シュラインさんはどうしてそんなに詳しいのですか?」
「名前はさっきシオンさんに聞いたのだけど、元はといえば前を走ってる西瓜の持ち主から依頼されてきたからね。ねえ、どうしても西瓜割りをするの?」
「ああ、あのおじさんに……。でもあたしもオリヒメもスイカもそれを望んでるから返せって言われてもヤダから」
 武彦をおじさん呼ばわりするヒコボシは、スイカ割りを止められるのが余程嫌なのか、シュラインから逃げるように加速する。
「ええっ!? ヒコボシ、僕は……賛成じゃないんけど?」
 その後をオリヒメが追う。事の成り行きを見ていると、ヒコボシがオリヒメを巻き込んでいるようにしか見えなかった。
 そう考えを巡らせていると、後ろから弱弱しい声が届く。
「はぁはぁっ、ようやく、おいつき、ましたっ」
「えっと、シオンさんは何を?」
 シュラインが振り返ったとき、シオンは両手に布と針を持っていた。どう考えてもどう見ても、それは外で見る光景ではない。ただシオンはシュラインの問いに嬉しそうに答えた。
「ああ、スイカさんに着せる水着を縫ってました。二着必要なので、海に行くまでに終われば良いのですが……」
 言いながら、どこから取り出した生地を縫い続ける。勿論それは走りながらの作業であり、時折躓きかけては針で指を刺し、なんとも危険な作業は続くのだが。
「……みんな海に行くこと前提なのよね…しょうがないわ――」
 言うや否やシュラインは道を外れ、近場の店から大き目のダンボールを二つ拝借してきた。そしてすぐさまシオンたちと合流すると、ダンボールの一つを一番どうにかしてくれそうなヒコボシに渡す。
「なにこれ?」
「これであの西瓜を挟み撃ちにして捕獲しようかなって。手伝ってくれる?」
 そう言ってシュラインは潰れたダンボールの底部分を元に戻し、真似をして同じくダンボールを組み立てているヒコボシを見た。
「え、まさか捕まえてあのおじさんに返しちゃうわけ?」
「草間さんに返しちゃうんですか!!!?」
 ヒコボシのブーイングの後、ショックといった様子でシオンが縫いかけの水着を地に落としていた。ただ針がその手から落ちなかったため、かろうじて糸で引きずる形となるのだが、慌てて拾い上げてはシュラインの顔色を伺いながら作業を再開する。
「……ううん、そんなに揃って西瓜割りが希望ならば、西瓜の意識在る内に海行きたいでしょ?」
「つまり…どういうことですか?」
 この状況が初めての双子には当たり前の疑問だろう。シュラインは今までの経験から予測と、安全性を考えた上での話を始めた。
「このまま走って海まで行こうものなら、私たちも限界だし、西瓜ももしかしたら途中で意識を無くして動かなくなるかも。だから此処で安全に捕獲して、交通機関を使って海に持って行きましょ」
「――意識、無くなっちゃうんだ……?」
 ヒコボシが僅かに戸惑いの様子で問いかけてくる。それに対しシュラインは勿論、シオンも共に頷いて見せた。
「確かに良い考えです。それに電車やバスなら、縫い物も今よりは楽になりますからね〜」
「武彦さんも呼んでおきたいし――説得はこれからだけど」
「ふーん、まぁ…あたしが海でスイカ割れるなら別に何でもいいよ。どうすればいいの?」
 どうやら捕獲に関しては大人しく理解を示したヒコボシに、シュラインは自分が先回りし待機し、ヒコボシにはスイカを思い切り追いかけてもらい、自分の所まで誘導――そのまま挟み撃ちにする、と説明した。
 すると彼女はすぐ頷き、ダンボールを持って走り出す。それに続き、シュラインも足を速めると道を逸れた。スイカとヒコボシの足音や、時折聞こえる声を頼りに場所を把握し上手く近道を探す。幸いまだ見慣れた街の風景と言うこともあり、地理に関しては問題ない。
 何度かスイカが予想外の進路を取り距離を離されもしたが、ようやくそれも目と鼻の先となり、程なく追い越した。既にオリヒメとシオンの足音は遙か遠いものの、ヒコボシはスイカに接近している様子で、まさに絶好の追い詰め時。
「割らないように…割らないように……」
 速度のある物を止めるのはただでさえ難しい。加えて今回は二人のタイミングにも掛かっている。
「……(今だわっ)!!!!」
 足音と同時、シュラインはビルの角から飛び出した。驚いたスイカの片割れが、足をもつらせ思い切り転がると、そのままシュラインのダンボールの中に入り底に激突し動かなくなる。どうやら傷は無く、目を回しているだけのようだ。
「っ、卑怯な手を使いやがって、オレはそうはいかな――っ!?」
 その一瞬の隙、ヒコボシが一気に間合いを詰めスイカの後ろから襲い掛かる。此処まで距離が近づけば、体格差と言う物だろう。
 ダンボールを被せた瞬間悲鳴のような声が聞こえたが、ようやく二玉のスイカは暴走を止め、その後海に着くまでは一時休戦状態と言う和平が結ばれた。
 その後シュラインが武彦の連絡を入れ、海でのスイカ割り許可を取ることにする。その間ヒコボシはスイカと戯れ、シオンはチクチクと水着を縫い続け、オリヒメが皆の様子をハラハラと見守っていた。
「もしもし……武彦さん、これからちょっと出てこない?」
『どういうことだ? てか、スイカはどうしたどうなった!?』
 武彦の問いに、シュラインはここまでの経緯とこれからの予定を告げる。最初は勿論反対されるものの、それを説得するのがシュラインの仕事でもあるのかもしれない。
「そんなこと言わないで…西瓜に関しては、私の分を子供達にあげるから、ね? お願い……折角だし、楽しく割って、皆で食べましょう?」
 やがて武彦は幾つか溜息を吐き唸りながらも、ようやくその口を開く。ただ、その言葉はシュラインに向けられたものではない。
『…………零、出かける準備だ』



「あー、さっきの鈍いおじさんだ」
「……草間武彦だ、草間さんって呼べ」
 十数分後合流した武彦は、少し不機嫌ながらにそう言うと「本当にあの子供はなんなんだ!?」とシュラインを見た。
「まぁまぁ落ち着いて。ほら、これから移動するからまずは一切れだけだけど……」
 そう言いながらシュラインは、武彦が来る間に馴染みの店に寄り預けておいた茄子の漬物を一つ、彼の口へと放り込んだ。
 結局彼は腑に落ちない様子ではあったものの、「後でもっとくれ…」と呟くと渋々ながらも同行の意思を示した。
「それじゃみんな、行きましょうか」
「じゃあ早く行くよ、武彦」
「ヒコボシ…ちゃんと草間さんって……」
「楽しみですね〜、コレだけ居れば良い写真も撮れそうです」

 かくしてスイカと双子、シュラインとシオンに武彦と零一行は海へ。



    □□□



 電車を利用しおよそ一時間半後、一同は砂浜の上に居た。
 適当な場所に零が持ってきたレジャーシートと、日よけのパラソルを開き、武彦はスイカを叩くための棒を物色するヒコボシを見つめながら漏らす。
「…結局いつもこうなるんだよな……分かってる、分かってはいるんだ。もう俺の貴重な食料を食うだなんて、そんな事言うのもいい加減大人気ない、だがしかしだ……」
 青空の下、寄せては返す波を見て、シュラインが持ってきてくれた茄子の漬物を食べながら……。
「他の誰かに割られるくらいなら俺が割る。アレは俺のデザートだ!!」
 やがて砂浜に飛び出した。
「割るというか、他の誰かに食べられることに多分抵抗はなくなったみたいだけど……なんだかおかしな話になったわね」
「良いと思いますよ? 兄さん、楽しそうですし」
 そう笑みを浮かべた零は、ちゃっかり塩と紙皿の用意をしている。武彦の差し金、かもしれない…。
「はんっ、何人増えようがオレらの敵じゃねぇんだよ」
 そう言いながら、スイカはダンボールから飛び出した。
「ルールは制限時間一時間以内にアタイらを割ること。もしアタイらどちらかでも逃げ切れた際、逃げきった方は他の人間の所に行って割ってもらうことにするさ」
「えー、つまりそれって逃したらあたしたち食べられないって事じゃ?」
 ヒコボシのブーイングに、スイカは短い手足でストレッチをするような仕草で返事を返す。
「だな。オレらはより強い者に食べられてこそ、育ってきた甲斐もあるってもんだ」
「なら意地でも割らないと!」
「いいや、俺が割る! シオン、意地でも阻止するんだ。成功したら、今回の功績を碇に伝えておこう」
「阻止…ということは、別にスイカさんを割らなくても良いんですね? 分かりました!」
 武彦の言葉に大きく頷くと、唯一棒を持たないシオンは無駄に構えて見せた。
「それでは僭越ながら……よーい、スタート」
 零のスタートを合図に走り出した四人と二玉。シュラインと零はパラソルの下で行方を見守っている。
「早速先制攻撃ですよ――――カキ氷!です、ほらこっちの方が美味しそうですよ〜?」
 そう言いシオンが何処からとも無く出して見せたのはかき氷二つ。片方に赤、もう片方に緑のシロップがかかり、アイスクリームも乗っている。
「あたしそんなの興味ないからって…オリヒメ!?」
「え…僕はこれで良いよ……もう疲れたし、あっちで食べてくる…。どうもありがとうございます、シオンさん」
 そうしてシオンから渡されたカキ氷を持ったオリヒメは、ぺこりと頭を下げるとシュラインたちが座るシートで黙々とかき氷を食べ始めた。

  ―― オリヒメ 戦線離脱 ――

「やりましたよ草間さん!」
「でかしたっ、こっちはどうにかするから、もう片方のスイカを割られないようにしてろ」
 言いながら武彦はスイカに襲い掛かっていた。
「あー、あたしが割る!!」
 その様子を見たヒコボシはあっという間に武彦のもとへと行ってしまい、ポツリ残されたシオンは辺りを見渡した。
「ん、アンタがアタイの相手かい?」
 ふと見れば、シオンのすぐ足元にスイカが居た。武器も持たない男に割られる訳がないと思ってのことなのか、避けられる自信があるのか。ただ端から割る気など無いシオンは、その場にしゃがみこむとスイカに笑みを浮かべ言った。
「いえいえ、私は……スイカさんの写真が撮りたいのです」
 続いて取り出すはタライ。
「海の家で先ほど真水と氷を貰ってきました。きっと海に入るよりも冷たくて気持ち良いですよ。後は私手製の水着などいかがでしょう!!!?」
 そう言って、此処に来るまで一生懸命縫っていた水着を取り出して見せた。そこにあるのはビキニの水着だ。スイカは一瞬目を見開いたものの、コホンと一つ咳払いをし、シオンから僅かに目を逸らし言う。
「…………まぁ、たまにはそういうのも悪くは無いね。スイカなんてもんはこのままじゃ着飾れないもんだからさ」
 その後シオンの水着で着飾ったスイカは妙なものだった。それでも彼はその姿に感動し、カメラを構えシャッターを切り始める。スイカも満更嫌でもなさそうな様子で、時折ポーズを決めていた。
 ピンショットは勿論のこと、たまにセルフタイマーを使ったりして一緒に写真撮影をしてみたり、浜辺ではそんな穏やかで楽しい時間が流れていた。そう、ヒコボシの怒声に近いものが聞こえるまでは……。
「このスイカ、あたしが貰ったぁぁあああああっ!」
 見ればほのぼの風景とは打って変わり、ヒコボシが両手で棒を振り上げ、空中でスイカの背後を取っていた。武彦は何故かスイカの前方でバランスを崩している。
「武彦さんっ、スイカは丁度右斜め後ろよ!」
 思わず状況を遠くから見ていたシュラインが掛けた言葉。それに武彦の体が反応する。
「――――っ!? 俺が割ってみせるっ!!!!」
 一拍置いて鈍い音。
「ぐあっ…‥」
 悲痛の声。二本の棒が、スイカの顔面と後頭部にめり込んでいた。
「ち、畜生…まさかこのオレが割られるとはな……美味く食えよ、オマエら…」


  ―― スイカ(男) 武彦・ヒコボシ両者により撃破 : 残り時間3分 ――


 思いの外たった一つのスイカに時間を取られた。その分シオンは多くの写真を撮る事が出来たわけだが……。
 割られたスイカは既に意思を失っており、シュラインと零に回収されると綺麗に洗われ、切り分けられると今度は皿へと盛られていく。
「はぁはぁ……同時とは…次、次こそあたしが、割る!」
「ぜぇはぇ…………いや、俺が…割る!!!! シオン退けっ! 次はそのスイカをやる!」
 一方砂浜に着地した二人は、すぐさまシオンの傍に居るスイカに眼を向けた。
「ええええ!? まだ写真撮影が――」
「これは穏やかじゃないね、アタイは逃げるよ!」
「ああ、急に動いたらっ」
 シオンの声と同時、スイカの足がタライに引っかかり、その全てをひっくり返し砂浜に転がる。勿論、二人がそれを見逃すわけが無く、互いが互いを押しのけてでも迫ってきた。
「うっ、兎さんです!!!!」
「――――――――」
「……」
 思わずシオンが叫びながらも見せたのは、彼の友達でもある垂れ耳兎である。
「…………可愛い、ですよ? 兎、さん…」
「おま…え――」
 両手で持っては差し出すシオンに、武彦はなんとも言えない呆れ顔を見せるが、ヒコボシは違ったようだ。
「――――……かわ、いい?」
 その丸くて小さい目を凝視した後、垂れた耳をぺろぺろと捲って見たり、なにやら興味津々である。
 それを無言のまま見守っていた武彦は、右手に持っていた棒を見返しては、フッと笑みを浮かべた。
「……隙あり」
 ぼこっ――…‥。
 片手で振り下ろされたそれは、気を失ったスイカの脳天に直撃。赤い中身が覗いて見えた。
「あ」
「スイカ…さんっ……!!」
「アタイのベストショット…大事にするんだよ……」
 最後には、悲しいシャッターの音が響く。


  ―― スイカ(女) 武彦により撃破 : 残り時間15秒にて終了 ――



    □□□



「結局なんだ、動く…要するに生き物に興味津々なんだな、お前は」
 自分の手で割ったスイカを食べながら武彦はヒコボシに言う。
「だって面白いじゃん。こんな生き物、あたしたちの住む場所には居ないんだから。あのスイカもだけど」
「確かにそれはあります……次見れるのは早くて来年だろうし、……可愛い」
 兎を撫でながらオリヒメとヒコボシは早々に最後のスイカを食べ終えた。余程お腹が空いていたらしい。
「あのスイカはイレギュラーだけど、少しは勉強にはなったかしら?」
 シュラインの問いにはオリヒメもヒコボシも不思議な表情を見せ、揃ってどうしてそれを知っているのかと逆に問い返した。
「武彦さんが電話で漏らしてたからね」
「充分貴重な経験ができました。その…どうも、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げたオリヒメと同時、ヒコボシがゴソゴソと袖を漁りだす。
「まぁ面白かったし美味しかったし……コレ」
 そう言って全員に渡されたのは星の欠片。ヒコボシとオリヒメにとってはお金のようなものだった。ただ彼女にしてみれば、形あるそれをお礼としてプレゼントしたかっただけかもしれない。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
 その証拠に、陽が暮れ始めた景色の中、それぞれの欠片は優しく光を放って皆の目を楽しませようとしていた。
「それでは、僕たちはこれで……さよなら」
「あら、此処でお別れなの? もう暗くなってくるし…気をつけてね」
「じゃ、またね」
 オリヒメの言葉に、ヒコボシも続く。突然現れてはあっさりと消えてしまう、長い時間関わったけれど、まるで流れ星のような存在の二人。
「また兎さんと遊んでくださいね〜」
 シオンの言葉を聞き終わると最後、二人はホンの少しだけ、四人に舞を見せた。
 瞬間世界が変わる。幻、のようなものなのだとすぐに理解は出来た。それはまるで天の川の上の景色――星空の中に放り込まれた感覚で。
「綺麗、ですね」
「ホント、綺麗ね……」
 零の言葉にシュラインが続けば、彼女の隣に立つ武彦までも声を上げた。
「これは…凄いもんだな…もしかしてあいつらなりの礼のつもりか?」
 そしてそこから少しばかり離れた場所では、シオンが兎と共に一心不乱に写真を撮っている。
「この写真は、是非とも麗香さんにプレゼントしましょう……」

 やがて幻が解けたとき、そこにオリヒメとヒコボシの存在は無かった。
 騒がしかった時間は過去のものとなり、今は波の音だけが小さく耳に響いている。


 まだ薄明が少し残る空には 一番星が輝いていた――――。




 ――後日談。

「はい、没」
「ああ、ちょっとは見てくださいよ、今回はわりといい出来だと思うんですよ?」
「普段がダメな自覚でも出来たのかしら? ……あら、この星の写真は? 他の写真に比べて随分まともなものだけど」
 毒舌を交えながらも、最早麗香の眼にスイカの写真は入っていない。その目に付いたのは、シオンが最後に撮った星の写真だった。
「これは麗香さんにと、……気に入ってもらえましたか?」
「……コレは貰っておくわ。いつかどこかで使えるでしょ。でも他の記事も写真も没。とっとと戻りなさい」

 冷たい麗香の態度と声に、シオンはしゅんと俯き自分の机へと戻っていく。
 ただそんな後姿を見送る麗香の口元が、僅かに緩んだことをシオンは知らなかった…‥。




━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/紳士きどりの内職人+高校生?+α]


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 こんにちは、ご無沙汰しております、李月です。お届けが遅くなった挙句、現実世界は秋になってしまいましたが、地域によっては残暑も厳しいかと思いますので、まだ記憶に新しいはずの暑い屋外・砂浜をイメージしていただければ幸いです。
 今回個別部分は最初と最後のみになり、後は完全共通部分となります。視点もそれぞれに動かせない状態になってしまったのですが、この全体図をお楽しみいただければと思います。

 又、不測の事態でしたがプレイング拝見できて一安心しました。どうもありがとうございます。
 そろそろ餅や芋やスイカの総集編のような、本格的写真集が出来る気がしてしょうがありません(笑)

 久方ぶりに書かせていただき、また初心に戻っての再開となりました。
 又のご縁がありましたらよろしくお願いします。

 李月蒼
PCゲームノベル・星の彼方 -
李月蒼 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年09月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.