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『トールギストと少女の出会い 』
シシト・ウォルレント7164)&白鳥之沢・由貴子(4657)&SHIZUKU(NPCA004)

「……森の奥の?」
 青年の静かな声が、依頼者の耳に届く。
「ああ。都内にある――ここだ、ここの森の奥だ」
 依頼者は地図を広げ、さっと赤ペンで×を打つ。
「ここにいる悪霊の種類は?」
 青年――シシト・ウォルレントは地図を目を細めて見つめながら尋ねる。
「怨霊だな。落ち武者の怨霊……その類だ」
「他にもいるのですか」
「さあて……ここは何かと噂の耐えない場所でね」
 依頼者はすっとぼける。シシトは眉をひそめた。
「詳しい情報を教えて頂けないと?」
「というより、詳しい情報が分からないのさ」
 依頼者が肩をすくめる。
 シシトはあまり表情を動かさないまま、
「……特別料金、頂きますからね」
 自分で情報収集してくると――言外に告げた。

     ++ +++ ++ +++ ++ +++ ++

 待ち合わせの場所は、女の子好みの喫茶店の前――
「お待たせ! SHIZUKUちゃん!」
 肩までの髪を跳ねさせながら、元気よくSHIZUKUのところまで走ってきた少女がいた。
 白鳥之沢由貴子。俗に言う“お嬢様”である。
 走る姿もスカートを軽く持ち上げてのお嬢様走り。作法は完璧な由貴子だ。
 ……ただし作法が完璧な人間が、こんなに元気よく走っているかは別問題だが。
 そんな彼女の呼びかけに振り返ったのは、約束通りの場所で待っていたサングラスをかけた少女だ。
 彼女は慌てて、しーっと唇に指を立てた。
「あ……ごめんなさい」
 サングラスの彼女の元までたどりついた由貴子は、しゅんとなって謝る。
 ――ここは外。行き交う人々の中で、うかつにサングラスの少女の名を呼んではいけない。
「……ま、バレないとは思うけどね」
 サングラスをはずして、その由貴子ほどに小柄な少女は笑った。
 SHIZUKU。知る人ぞ知るその名は怪奇系アイドルの名。
 歌も歌う。明るく元気よい、しかし歌詞がホラーな歌。
 心霊現象系の番組には欠かせない存在。ストーリーテラーに怪奇評論、現場リポーターとして、17歳ながら経験をつんでいる彼女。
 由貴子は彼女に憧れていた。学校が違うというのに、こうして近くで話せるようになってとても幸運だと思っている。
 そう――
 由貴子も、怪談が大好きなのだ。
「今日のお仕事は大丈夫なの?」
「OKOK。しっかりオフ取ってきたから!」
「じゃあ今日も探検ね!」
「もっちろん! あのね、早速だけど番組の方から情報仕入れてきたんだ――」
 言いながら2人は、喫茶店の中へ入っていった。

 今までに、色んなところを回ってきた。情報源は主にSHIZUKUだが、由貴子も負けてはいない。彼女の通うお嬢様学校でも、なぜか怪談は話に上る。
 いわくつきのトンネルなんていくつも突破してきたし、いわくつきの旅館も2人の金に任せて体験してきた。
「でね、今回はここに行こうと思ってるんだよ」
 言いながら、SHIZUKUはいつも持ち歩いている地図を鞄から出した。
 えーっと、と言いながらぺらぺらページをめくり――
「あった、ここ」
 都内のある場所を指差した。
 パフェを食べていた由貴子は目をぱちくりさせた。
 等高線で山があるのが分かる。SHIZUKUが指しているのは――そのふもとだ。
「ここに……何があるの?」
「森」
 SHIZUKUはいたずらっこのように、にやりと笑ってみせる。「もちろん、たっぷりいわくつきの……ね」
 由貴子が目を輝かせて身を乗り出す。
 SHIZUKUは話が漏れないよう、小さな声で話し出した。

 それは数百年前のこと。
 そこがまだ平地であったころ。
 そこにはひとつの村がありました。
 それは少数の村人と、彼らが受け入れた落ち武者たちがいて、森の中、静かながらも平和に暮らしておりました。
 と、ある日。
 落ち武者たちの存在が、他の侍たちに見つかってしまったのです。
 侍たちは嬉々として落ち武者狩りを行いました。止めに入った村人たちも道連れにしました。
 それは恐ろしい惨殺事件。
 落ち武者と村人たちを惨く殺した後、彼らが貯めこんでいた木の実や果実をすべて奪い、侍たちはその場をあとにしました。
 荒れた村跡に訪れるものはなく。
 そこにはやがて樹木が育ち森となり。
 そう、それが数百年前のこと――

「落ち武者と村人たちの怨霊は、今でも森の奥で恨めしい恨めしいと成仏できずにいるのです……と」
 SHIZUKUはそこで、ストーリーテラーのしゃべり口調をやめた。
 由貴子はわくわくした表情で両手を握り合わせた。
「い……行ってみたい……!」
「ん。行こう」
 SHIZUKUはこくんとうなずいた。「森の中だからね。それなりの格好しなきゃね?」
「あ……じゃあ私いったん着替えてこなくちゃいけないわ」
 スカートを持ち上げて、由貴子は残念そうに言う。
「今はまだ昼前だよ」
 SHIZUKUはくすくす笑いながら、「その森に行くのに1時間。着替える時間は充分にあるよ」
「急いで着替えなくちゃ!」
 勢いで立ち上がった由貴子に、
「パフェ、溶けるよ?」
 ……由貴子は大人しく席につき、溶けそうなパフェをそそと食べ始めた。

     ++ +++ ++ +++ ++ +++ ++

「落ち武者に村人の惨殺事件……そうですか……」
 シシトはネット上の怪談情報サイトゴーストネットOFFや、怪奇雑誌月刊アトラス、それから草間興信所の人脈から怪談に詳しい人を紹介してもらったりすることで、問題の森の中の怨霊の全体像をつかみだした。
「少々厄介ですね。怨霊ですが……悲しみも持っている。さてどうやって倒しますか……」
 長い銀髪を上の方で紐で縛りながら、シシトは考える。
 彼はトールギストである。いわゆる降霊術士だ。
 本来なら死者の霊を召喚して予言などを行う者のことをトールギストと呼ぶが、彼の場合は少々勝手が違った。
 彼が重きを置くのはトーテム、ペルソナなど。
 手袋をはめながら、大量の落ち武者たち村人たちと相対するところを想像する。
 視線を少し虚空に流し、
「……まあ、予定通りに行きましょうか」
 青年はつぶやいた。

     ++ +++ ++ +++ ++ +++ ++

 由貴子とSHIZUKUがその森にたどりついたのは、夕方の5時頃だった。
「由貴子ちゃん、時間大丈夫?」
「大丈夫、ちゃんといつもどおり親に言ってきた」
 由貴子は頬に両手を当てて、「SHIZUKUちゃんは今からようやく暇だから、これから遊んでくるねーって、いつもみたいに」
「この嘘つきさんめ」
「うふふ」
 2人で顔を寄せてくすくすと笑い、それから手を握り合った。
「迷子にならないようにね」
「うん。しっかり握ってなきゃ」
 そして2人は、
 奥の見えないその森の中へと、手をつないで足を踏み入れる――

 森は不気味にがさがさと鳴っていた。
「……風、ある?」
 由貴子が木々を見上げながらSHIZUKUに語りかける。
「ないような気がする」
「これは不思議現象かな」
 由貴子も、これくらなら怯えたりしない。むしろますます胸を高鳴らせて、
「どんなことが起こるんだろう」
 とつぶやいた。
「由貴子ちゃんも、本当に好きだね。怖いこと」
「怖くないよ? これくらいなら」
「――ああ、そっか。そうだよね」
 SHIZUKUは何かに納得したかのようにうなずいて、「じゃ、進もう」
 と由貴子の手を引っ張った。

 SHIZUKUは羅針盤を持っていた。
 森の奥に進むにつれ、羅針盤がくるくる回り始めた。
「ん……帰れるかな」
 足を止めて、SHIZUKUは困ったように言う。
「これくらい、よくあることじゃない、SHIZUKUちゃん」
 由貴子はにこにこしながら言う。
「うん、確かによくあるけど……ここ森だからなあ……」
 木々に覆われた世界を仰いで、SHIZUKUは不安そうにため息をつく。
「まだまだ行けるよ! SHIZUKUちゃん!」
 由貴子はのりのりでSHIZUKUの腕に飛びついた。
 そんな由貴子にSHIZUKUは苦笑して、
「じゃあ、もう少し奥までね」
 としっかり由貴子の手を握り、暗くなっている方向を目指した。

 ――ほう、ほう、と。
 こんな時間に啼いているはずがないふくろうの声が聞こえる。
「SHIZUKUちゃん。ふくろうって夜じゃなくても啼くの?」
「……森が夜なみに暗ければ、昼間でも啼くって聞いたことはあるけど……」
 この森はそんなに暗くない。まだ背後から明るい光が差し込んでいるから、2人は前に足を進めている。
 ――ばさばさばさっ
 何かが目の前を通り過ぎた。
 由貴子がきゃっと飛びあがった。
「い、今の……なに?」
「モモンガ……か何かに見えた……」
 なぜふくろうがいてモモンガまでいるのだろう。都内の森だというのに。
 ふくろうやらモモンガやら、あんなデリケートな動物がこんな場所にいるだろうか。
「数百年前なら、当たり前にいたのかな……」
 SHIZUKUがつぶやくと、由貴子は、
「それじゃあ私たち、その時代に迷い込んだみたいね!」
 SHIZUKUがぎくりと止まって、由貴子を見た。由貴子はきょとんとそれを見返した。
 耳に――
 声が聞こえてきた。

 ――気になさんなお侍さんたちよ。ここでおれたちと一緒に暮らそう。お前さんたち、家事の仕方はとんと分からんじゃろう?
 ――拙者――いや私たちはもう侍ではない。負けた者だ。
 ――関係ないじゃろうよ。生き延びた者はその命を無駄にしてはいかん。さあ一緒に自分の身を汚しながら自給自足じゃ――

 楽しそうな笑い声が聞こえた。
 心底、幸せそうな。
 SHIZUKUと由貴子が目を閉じると、瞼の裏に元落ち武者たちと、それに生活の仕方を教える村人たちの一生懸命な姿がうっすらと視えた。
 由貴子とSHIZUKUが握り合っていた手が、自然と離れた。
「SHIZUKUちゃん、何だか素敵な村――」
 と由貴子が言った刹那。

 ――負け犬がいるというのはここか。
 ――こんなところで身を汚して自分の食い扶持を手に入れて。
 ――負け犬らしい生き方じゃ。だが悪いな、わしらは負け犬どもをすべてあぶりだして殺すように命令されておる――

 刀が――振り下ろされる――

「見るな!」
 ぱぁんと手を叩く音がして、由貴子とSHIZUKUははっと目を開けた。
 気がつくと、周りをうっすらと白い存在が大量に囲んでいた。

 ――恨めしい
 ――恨めしい
 ――ああ、悲しい 悲しい

「〜〜〜〜〜」
 由貴子がSHIZUKUの腕に抱きつく。それを護るように由貴子の体ごと抱いたSHIZUKUも震えていた。

 ――お前たちも仲間か
 ――お前たちもあの侍たちの仲間か
 ――私たちを再び殺しにきたか

「ち――違――」

 足のある幽霊。草を踏む音さえする。
 落ち武者の1人が、血まみれの刀を持って少女2人に迫ってくる。
 頭からどろどろと血を流し、左眼は斬られて失い、左腕は中途半端に斬れてぶらぶらと揺れている。

 ――お前たちもやつらの仲間か――

 落ち武者は刀を振りかぶった。
 由貴子とSHIZUKUは思わず目をつぶった。
 ――ずしゃあっと、草の上を革靴の底がすべる音がした。

 ……刀が振り下ろされてこない。

 少女2人がおそるおそる目を開けると、
 その刀を、
 左腕で、
 受け止めている、青年がいた。
 由貴子はぎくっと青ざめSHIZUKUに再度抱きつく。
 ――青年がまとう霊の気配に怯えて。

「立派な武者が、少女2人に刀を振り回すほど堕ちましたか」
 長い銀髪をポニーテールにした青年は、その細身の体では信じられない力で落ち武者怨霊の刀を押し返している。
 しかも、左腕だけで。
 SHIZUKUが「すごい……」と感嘆する。由貴子はがくがくと震えていた。

 ――憎い

 落ち武者の声がする。
 そうだそうだと賛同する村人たちの声も。
 青年――シシトは、優しく輝く緑の瞳を、悲しげに光らせて、
「――しかしあなたたちに同情している時間は、もう終わったのです」
 急にまなざしを鋭くした。
「いまやあなたたちは怨霊、そして悪霊。少女たちにまで刀を振り下ろすようになってしまった時点で、成敗するに値する」
 左腕で受け止めていた刀を、くるんと腕を回すことで脇に抱きこみ、そしてあいている右腕で落ち武者の鳩尾に拳を叩き込む。
 落ち武者が体をくの字に折った。シシトはそこでとどめとばかりに、後頭部に拳を叩きつける。
 ――今、彼が宿らせているのはトーテムの、力系の魔神だ。シシトの腕力は並外れて高くなっている。
 そして魔神であるがゆえに、悪霊たちを退治できる。
 1人目の落ち武者はしゅうと音を立てて消え去った。
 それを見た他の落ち武者たちと村人たちが一斉に躍りかかってくる。侍たちは刀で、村人たちは農具などの獲物で。
 シシトは飛びあがり、1人目に脳天から拳を突き下ろして消滅。そのまましゃがんで刀を避け、下からのアッパーで2人目を撃破。そこからアッパーに使った腕の肘を3人目の顔面に打ちこみ撃破。
 横から来た得物を蹴りで弾き飛ばし、その腕をつかんで投げ飛ばし4人目撃破……
 青年の銀髪が揺れる。
 戦いなれた素早い動きと腕力とで、シシトは情け容赦なく落ち武者と村人の怨霊を消滅させていく。
 SHIZUKUと由貴子は息をのんでそれを見守っていた。

 やがて怨霊たちが最後の1人を残していなくなる――
 最後の1人、村人だった怨霊が、
 ――なぜ、なぜおらたちが死なねばならなかった。なぜここでもう一度殺されねばならぬ。
 シシトをそれを見下ろし、
「……落ち武者たちを受け入れたのはあなたたちだ」
 ――……
「落ち武者狩りの可能性は分かっていたでしょう。そして今ここでもう一度――」
 ――殺すのか。
「殺されるのではありません。1度目に逝き損ねた場所へ、今度こそ逝くだけです」

 森ががさがさと揺れ、
 ふくろうが、ほう、ほうと啼いた。

「では……逝くべきところへ」
 シシトは殴るのではなく、そっとその村人の頭に手を触れた。
 村人は最後に一筋の涙を流し――
 そして、そのまま徐々に消えていった。

     ++ +++ ++ +++ ++ +++ ++ +++ ++

 それにしても驚いた、とシシトは思う。
 偶然にもこんな時に、少女2人がこんなところに迷い込んでいるとは。
 2人とも、かわいそうなほどに怯えていた。それはそうだろう、怨霊に殺されかかったのだ。
「大丈夫かい?」
 シシトは2人に近づいて話しかける。「怪我なんかは……」
「あ――大丈夫です」
 どこかで見たことのあるような顔の少女の方は、こくんとうなずく。
 逆に、いかにもお嬢様然とした少女の方は、シシトが一歩近づくたびに一歩退いた。
「あの、ありがとうございました」
 大丈夫と言った少女の方は、丁寧にお礼を言ってきた。
 逆に、お嬢様の方はどんどんシシトから離れていった。
 そして――シシトから10フィートは離れた場所までいくと、突然どさっと腰をぬかしてしりもちをつき、やがて泣き出した。
「ああああああああん!」
「由、由貴子ちゃん、どうしたの?」
 もう1人の少女が慌てて泣き出した友人の元へ行く。
 シシトもそっと近づいてみた。
「僕は、あなたに危害を加えないよ。僕の仕事は今の怨霊退治だ――」
 しかし由貴子と呼ばれた少女は猫のようにまなざしを鋭くして威嚇してくる。
 彼女はシシトを見通すような目をしている気がする。シシトは思う。ひょっとして、自分がまとっているトーテムが視えているのだろうか。
 それで怖がって近づかないのか?
(そうだとしたら……まあいつものことか)
 トーテムやペルソナ状態でいると怖がられるのは珍しいことじゃない。目の前で大泣きしている少女を見ながら、シシトは半ば諦め気分でため息をついた。

 その後、シシトがとりあえず2人の前から姿を消してみると、由貴子が泣き止んだので、森から出ようともう1人が提案する。
「ほら、羅針盤直った」
「あ、ほんとだ……」
 由貴子はもう1人の少女の腕にしっかりしがみついて、
「帰りは、もっと慎重に行こ……」
 元気のない声で言った。
「悪い人じゃなかったと思うよ?」
「怖い人だった!」
「そうかなあ……」
 シシトに関して意見のすれ違いを繰り返しながら、少女たちは確かに森の外へと向かっていく。
 けれど――危なっかしいので。
 シシトは木々にトーテムを解除した状態で、念のため木々に隠れて少女たちが無事外に出て行くまで見守った。
(まあ2度と会わないだろうが……あれだけ強烈に反応されると辛いものがあるな)
 由貴子の反応を思い出しながら――


 しかし意外なところで縁は結びついてしまうもので。
 3人は知らない。
 これが、彼らの『腐れ縁』の始まりだったということを――……


 ―FIN―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年09月07日

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