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『避暑日記のススメ 』
門屋・将紀2371)&(登場しない)

 8月○日(はれ)
 今日もごっつ暑い。気温37度やて! なんでそない暑いねん!
 こないな気温が長く続いたら、塩かけられたナメクジみたいにとけてしまうやん。
 ボク、そんなんいやや!
 まだまだこない暑い日が続くかと思うと、気が重うなるわ。
 はよ、秋にならへんかなぁ……。
 
●真夏日の中
 門屋将紀は、冷たい麦茶を飲みながらニュースの天気予報を見て、一気にぐで〜っとなった。気温35度を越す猛暑日が7日連続続いているからである。
「夏は嫌いや……。夏休みが長いのは嬉しいけど、暑いのはかなわんわ、ホンマ。こない暑いのに、何でクーラー使うたらあかんねん!」
 その理由として『門屋家家訓その1・昼間はクーラーをつけるべからず』というものがあるからだ。
 理不尽! といわんばかりの家訓があるため、昼間はクーラーがつけられない状況にある。窓を全開にし、少しでも風を入れようとしているのだが……今日に限って無風だ。ただでさえ猛暑が続くというのに、8歳の将紀にとってこの情況はかなり酷である。
「もうあかーん! 市民プール行こっ」
 水着と着替え、タオルをバッグに詰め込み、将紀はルンルン気分で急いで暑い中プールへと向かったが……

『プール点検のため、本日臨時休業致します』

 という張り紙が門に貼り付けられていた。
「な、何やてー!! このクソ暑い中、来た意味全然ないやん!!」
 無常な結果に、市民プールの前で将紀はへなへな〜とへたりこんだ。

●思いついた納涼
「はぁ〜」
 溶けかけのアイスクリームの気分や……と思いながら、将紀はやっとの思いで家に辿り着いた。
 
 ――ボク、何のためにプールに行ったんやろか……

 玄関に座り込み、馬鹿なことをしてしもた……と呆れた。
「あづ〜! このまんまやと、熱中症で死んでしまいそうやわ……」
 プールで思う存分泳げなかったこと、骨折り損のくたびれもうけでクタクタな将紀は風呂を沸かしておいてくれ、という頼まれ事を思い出した。

 ――こないなクソ暑いのに、風呂なんかに入れるかい! ん? 風呂……?
   せや! このテがあったわ!

 将紀は風呂掃除を素早く済ませると、蛇口を思いっきり捻り、浴槽に水を溜めた。
「何で、こないなことに気づかへんかったんやろ。これなら、うちでも気軽にプール気分が楽しめるやん♪」
 自宅でプールで泳ぐ気分を楽しむ。暑さで参っていたので、そのことを全く思いつかなかったが今頃になって悔やまれる。
「はよ、これに気づけばよかったわ」
 水が溜まり始めた頃、将紀は服を素早く脱いで水風呂に浸かろうとしたが
「あ、ダッくんも連れてこ」
 ダッくん、というのは、知り合いからもらった黄色いアヒルのおもちゃである。
 パパッと服を脱ぎ、浴槽に飛び込む。プールではないので裸でも構わないし、注意する監視員もいない。
 一人で水のかけあいっこをし、ダッくんを浮かべ、紐を引っ張って泳がせては大はしゃぎ。
「気持ちええわ〜♪ プールが休みの間、これで涼しめるな〜♪」
 でも、一人やとちと虚しいなぁ……と本音を零した。

●涼んだ後の楽しみ
「あ〜気持ちよかった〜♪」
 服に着替えた将紀が真っ先に向かったのは、言うまでも無く冷蔵庫。
 最後の一本であるオレンジジュースのペットボトルのキャップを開け、ラッパ飲み。
「ぷは〜!」
 ビールを一気飲みした後の親父みたいだ、というツッコミはご遠慮願いたい。
「ごっつ気持ちえかった〜♪ 明日もやろっと♪」
 気づけは、夕暮れ時だった。開いている窓からは、心地よい微風が吹いていた。
 気持ち良いうちに、ここで日記をつけようと決めた将紀は、自室から日記帳と筆記用具を持ち出した。

 8月○日(はれ)の続き
 市民プールがおやすみやったんで、おふろでプールごっこした。
 水は冷たかったけど、ごっつ気持ちえかった。
 ダッくんも気持ち良さそうやったから、今度はふくざわさんにも気持ちええ思いさせたろ。
 ふくざわさん重いから、浮き輪で浮かせたほうがええかなぁ……?
 明日も、これで暑い夏を乗り切るで!

 翌月、水道代値上がりにより雷が落ちることなど、その時の将紀には知る由もなかった。

<おしまい>
PCシチュエーションノベル(シングル) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年08月20日

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