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『海へ来たよ! 仕事編 』
黒・冥月2778)&草間・武彦(NPCA001)

 沖縄に着いてすぐ。冥月は一緒に来た連れを残し、市街にまで来ていた。
 仕事で沖縄に来たのだ。まずはその仕事をこなしてから遊ぼうと思ったのだ。
 依頼主との待ち合わせ場所に着いてみれば、一人の男がそこにいた。
「お前が依頼主か?」
 冥月が声をかけると、男が振り返る。
 その男は間違いなく、草間武彦その人だった。
「……っ!? 草間、何でお前がここに!?」
「さて、どうしてでしょう?」
「ふざけてる暇は無い!」
 バシン、と一つ殴る。予想外の人間がいたため、少し冷静さを欠いてしまった。
 冥月は一つ深呼吸をして再び尋ねる。
「……何故お前がここにいる?」
「俺が今回の依頼主でな」
「ふざけるなと言ってるだろ!」
 もう一つ、殴る。
 大人しく殴られた武彦は頭をさすりながら、ため息をつく。
「嘘じゃねぇって。それに、今は俺のことを『ディテクター』って呼んでくれるか? 一応仕事で来てるんでね」
「その立場で温い表情をするな、バカ!」
 とりあえずついでにもう一つ殴っておいた。

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「聞いてないぞ、IO2が絡んでるなんて」
「訊かないお前が悪いだろ。依頼の詳細を確かめないなんて、抜けてるんじゃないか?」
「……確か、私が依頼を受けた時にお前も居たよな? 何故その時言わなかった?」
「事情があるんだよ、色々と」
 黙って冥月が拳を掲げる。はぐらかすとためにならない、というジェスチャーだろう。
 慌てて武彦が手を振る。
「いやいや、マジだって。あの時点じゃ俺も知らなかった事だし、今回ここに来たのだってピンチヒッターみたいなもんだ」
「ピンチヒッター?」
「俺は別にIO2に所属してるわけじゃないしな。そんな余所者の俺やお前を借り出すぐらい、奴さんもテンパってるって事だ」
「……今回の仕事はそれぐらいヤバイ、という事か?」
 真剣な顔の武彦が頷き、冥月も一応納得する。
 確かに、言われて見ればIO2には人手があるはず。にも拘らず、武彦や冥月を呼び出すという事は、それだけ切羽詰ってるという事だ。
「俺が聞いた所によると、今回の件も例の如く異能犯罪者の逮捕だ。だが、敵はIO2のエージェントを何人も病院送りにしてる。NINJA装備の連中も何人かやられたらしい」
「それで被害を減らすために私たちが呼ばれたって事か」
「逮捕できればメッケモン、って所だろうな。悪いね、バカンスに来てるのに」
「……お前、妹にもその事を教えてなかったのか? 何も言ってなかったぞ」
「まぁ、言えないだろ。あんま顔には出てないかもしれないけど、アイツも今回の旅行をそれなりに楽しみにしてたみたいだからな。心配させるのは野暮ってモンだ」
「っち、妙な所で兄貴肌を見せて……」
 そんな事を言わなければ、まだ数発殴ってやろうと思ったが、怒る気も失せたので握り拳を解く。
 ため息を一つついて、武彦を見る。
「言っておくが、私は手を出さないぞ。IO2の狡い手に使われてたまるか」
「それならそれで良いがな、俺は一度受けた仕事はやるぞ? そうなると、俺が病院送りになる確率も出るわけだ。となると、やっぱり今回の旅行はボツになりそうだな?」
「私に脅しをかけてるつもりか?」
「そんなつもりは無いさ。ただ、俺もアイツらの楽しみを奪うのは気が引けるってだけでね」
 飄々として答える武彦。
 確かに、彼が大怪我でも負えば、色々波紋が起きるだろう。
 こんな男でも多くの人間に影響がある。冥月が見放したと知れれば、冥月自身の知人関係もこじれるかもしれない。
 面倒事が回避できるなら、それに越した事はない。
「報酬は弾めよ?」
「俺に言うなよ。そんな権限無いしな」
「じゃあ土下座でもしろ。それなら通常の報酬で我慢してやる」
「土下座は無理だが……」
 不意に武彦が冥月の前に立ち、真っ直ぐに瞳を見て一息置く。
 そして小さく頭を下げた。
「頼む、手伝ってくれ」
「……あー、わかったから顔を上げろ。お前からまともに頼まれたらむず痒い」
「大怪我を免れるなら、これぐらい安いもんだがね」
 顔を上げた武彦はいつも通り緩い笑顔だった。

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「で? その敵の情報は?」
 車で移動中、助手席で冥月が尋ねた。
 運転席の武彦は振り返らずに答える。
「全部聞いた話だが、二十代後半の男性で身長百八十強、体型はやや痩せ型のボクサータイプだそうだ」
「筋肉が無いわけではないんだな?」
「細身ではあるが、そういう事らしい。そんで、武装は例の符を大量保有しているらしい」
「符を大量保有って……まだそんなに出回ってたのか?」
「その辺の事情はわからんね。詳しく聞きたいならその辺嗅ぎまわってる娘に聞いたほうが早いんじゃないか」
 今回も一緒に沖縄まで来ているわけだし、その方が早いかもしれない。
 IO2が符の回収に乗り気でない事は以前、どこかで聞いた話だし、おそらく符の事情には彼女が一番詳しいだろう。
「続けるぞ? ソイツ自身に能力は無いらしいが、その大量の符が厄介らしくてね。みんな逮捕には苦労してるって話だ」
「符の内容は?」
「能力を封印する例の符、他に炎を発生させる符と結界符、移動符が確認されてるらしい。もしかしたら他にも種類があるかもな」
「能力封印符があるなら、あの娘のためにも頑張らなきゃならんな」
「お、やる気出てきたか? 期待してるぜ?」
「お前もやるんだからな? サボったら承知しないぞ」
「わかってるっつの」
 武彦は答えながら腰に隠している拳銃に手を添える。
「こんな物騒なモンまで支給されちまったんだから頑張るさ。これを使わないならそれに越した事はないんだがな」
「……まさか本物か?」
「んなわけないだろ。ゴム弾発射するヤツだよ」
 それなら以前に見たことがある。確か、例の娘が犯人逮捕の際に使っていた。
 見た感じ、それと同型のようだ。
「それにしても、IO2のエージェントが何人も病人送りにされてるって言うのに、私たち二人だけってのはどういうことだ?」
「それだけ期待されてるのか、若しくはただの様子見なのかもな。能力者が相手してどれぐらい戦えるのか、とかな」
「実験ってことか。ますます気に食わんな」
「だったらその思惑をぶっ壊しちまえば良いのさ。実験にすらならないぐらい、コテンパンにしてやれ。そうすりゃ俺の仕事も楽で良い」
「さっきも言ったが、サボったらまずお前から伸してやるからな」
「わかってるって言ってるだろ。ジョーダンだよ、ジョーダン」

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 停車した所は何も無い空き地だった。
「……こんな所に停まってどうするんだ?」
「言ったろ。ヤツは符を使いこなしてるって。色々符の新しい使い方を見出してるらしいぜ」
 そう言って武彦は車を降り、何も無い空き地に踏み出す。
 その空き地の中ほどまで来ると、見た事のない道具を取り出す。おそらくIO2から支給された道具の一つだろう。
「それをどうするんだ?」
「この辺にブッ刺すんだよ。見てろ」
 そう言って武彦はその道具を思い切り振る。
 すると、その道具は何も無い空中に突き刺さり、次の瞬間、その周りがひび割れを始める。
「これは……」
「移動符と結界符を同時に使って異次元を作り出してるらしい。色々悪知恵の働くヤツだぜ、全く」
 異次元を移動する符の中で結界符を使い、その異次元の中で足場を安定させている、という所だろうか。
「まずはこの中から引きずり出すぜ」
「どうやってだ?」
「敵の容疑、知ってるか?」
「まだ聞いてないな」
「婦女暴行、が主な罪状だそうだ」
 ニッコリ笑った武彦は冥月を見る。
 そして、突然彼女の背中をトンと押す。
 不意を突かれた冥月は、少しバランスを崩し、異次元に顔を突っ込んで『うぉ』っと声を出した。
「な、何するんだ!?」
「お前じゃ女っ気に疑問が残るが、まぁ大丈夫だろ。多分、お前の声につられて外に出てくるさ」
 とりあえずもう一発殴っておく。
 と、そんな事をしている間に、冥月は背後に気配を感じる。
「どうやらおいでなすったぜ」
「……コイツが、敵?」
 冥月と武彦はほぼ同時に距離を取るため、軽くステップを踏む。
 そして見た先には、情報通りの背格好、年恰好の男がいたのだが、その表情が尋常ではない。
「う、ううう、うが……」
「自我を失ってるのか? それとも喉をやられたのか?」
「おそらく、前者だろうな。首に傷は見当たらないし、誰かが喉を攻撃したなんて報告も聞いてない」
 武彦の意見を聞いて、冥月はそれに頷く。
 喉が攻撃されたなら、その時に捕らえられなかったIO2のエージェントの力を疑ってしまう。
 それが無いのだとしたら、考えられるのは言葉を操れなくなるぐらい知能が低下してしまったという事。
「原因は聞いてないのか?」
「特には。捕まえて吐かせるつもりなんじゃないか? まずはアイツをとっ捕まえなきゃ、婦女暴行されるぞ」
「っち、お前はよかったな、男で」
 銃を抜きつつ、軽薄に言う武彦を睨みつつ、冥月は臨戦態勢を取る。

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「何か事を有利に運べそうな道具は貰ってないのか?」
「銃だけで我慢してくれ」
「使えんな……。間違えても私を撃つなよ?」
「バカにすんなよ」
 そんな軽口を言い合いながら、戦闘が開始される。
 自我を失っているらしい男は、迷わず冥月に向かって走り出す。
 本能に忠実、というのだろうか。一番底にある欲求に素直なようだ。
 それで罪状が婦女暴行だったりするのだろう。迷惑な話だ。
「情状酌量の余地は無いな。大人しく死ね」
 冥月は影を操り、敵の足場を失くす。影の落とし穴だ。因みに、はまれば出られないようにしてある。
 そこに足を踏み入れかけた瞬間、男は咄嗟に符を繰り、その影をかき消す。
「……能力封印符か。まずはアレをどうにかするべきか」
「気をつけろよ、符はアレ一枚じゃないぞ」
 武彦の忠告を無言で受け取りつつ、冥月は男との距離を詰める。
 能力封印符らしきものは、まだ男の手に握られている。
 それを払い落とすべく、冥月は男の腕を叩く。
 これで痺れて腕が動かなくなり、符を落とすはず……と、冥月が次の手を考えている間、男のもう一つの腕が伸びてくる。
 全くもって、片腕が痺れたダメージなど感じさせないような素早い動き。驚いた冥月は一瞬回避が遅れてしまった。
 胸倉をつかまれ、強引に引き寄せられる。
 緊急避難のために、仕方なく影で服を斬る。ついでに、男が落とした符も影で破っておく。
 バッサリと服を斬りおとしてしまったので、随分と肌が露出してしまった。
「おぅおぅ、サービスしてくれるね」
「うるさい! 黙ってろ!」
 武彦の冷やかしに荒っぽく答えながらも、視線は敵から外さない。
 気のせいか、多少興奮しているように見える男。
「向こうも気が立ってるぜ? 色気作戦は逆効果だな」
「次に口を開けば命は無いと思え」
 キツ目に忠告し、襲い掛かってきた敵に対応する。
 大きく振りかぶってきた男の腕を軽くいなし、影の剣で斬りつけようとしたが、どうやらまだ封印符を持っているらしく、影がうまく操れなかった。
 結局、斬りつけることは出来ず、男の顎に掌底を喰らわせる。
 だがほとんど痛みを感じていないらしい男は、そのまま冥月に突進し、彼女を押し倒した。
「っく! 鬱陶しい!」
 冥月は男を蹴飛ばし、自分の上から退けた後、すぐに自分も起き上がる。
「自我を失って痛みに対する反応が鈍くなってるのか……面倒だな」
 影が使えればすぐに倒せる相手だが、封印符が邪魔でそれも出来ない。
「こうなれば、もっと直接的に攻めるか」
 そう言った冥月は影の中から剣を取り出す。これは影で出来ているわけではなく、しっかり実体を持った普通の剣だ。
「影に頼ってばかりでは腕も鈍るからな。偶には良いだろう」
 軽く振り回しつつ、構えて敵を見る。
 武器を持ち出しても警戒する様子は無い。やはり頭が随分と馬鹿になっているようだ。
「こいつを捕らえても何も聞きだせそうに無いぞ?」
「でも、依頼は捕まえろって話だ。仕事はキッチリこなせよ」
「いっそ斬り殺せば平和のためだと思うがな」
 冗談を言いつつ、冥月は剣を構えて敵に向かう。
 猪突猛進が如く突進して来た男に対し、冥月は男の肩を剣で突く。
 肩が貫かれてもお構い無しに、男はそのまま冥月に近付く。
 冥月は剣で肩の肉を斬り飛ばし、そのまま袈裟懸けに斬りかかる。
 肩口を完全に捉えた斬撃は、しかし男の身体をズンバラリと切り裂くわけではなかった。
 剣の腹で叩いていたのだ。しかも超強烈に。
 それにより、男の自由が利く方の腕がくっついている鎖骨が折れ、男は両腕ともに動かなくなった。
「この程度でIO2の連中がてこずったのか……? 底が知れるな」
「油断すんなよ、相手はまだ気を失ったわけじゃないぞ」
 武彦の忠告が聞こえたとほぼ同時、男の胸元が淡く光る。
 次の瞬間、冥月の回りに結界が張られていた。
「……これは!?」
「マズイ! 冥月、逃げろ!!」
 声が聞こえ、冥月が咄嗟に影で逃げ道を作り出した途端、男は自分の周りに符をばら撒く。
 それの一つ一つが淡く光り出し、それぞれ能力を発動する。
 それは冥月が結界の外へ逃げ出そうとする前に起こる。

 刹那、光と爆音。

 結界の中で大爆発が起こる。広域を焼け野原に出来そうな爆発が、結界内に集約され破壊力を増す。
 普通人ならば木端微塵どころか塵すら残らないような状況。
 一瞬、武彦も息を呑んだが、煙が消えた後に影の球体が見えたとき、安堵のため息をついた。
 冥月の周りを覆っていた結界が割れると同時、防御のために作り出した影の球体も消えてなくなる。
 一応、無事であるらしい冥月。だが、服は先程よりもボロボロになっていた。
「だ、大丈夫か?」
「傷は負っていない。服が焦げたり、顔に煤がついたりしたがな」
 冥月は顔を拭いながら、敵に背を向ける。
「お、おい!」
「心配ない。もう終わった」
 武彦が心配そうに声をかけるが、冥月は男に振り返ることは無い。
 その男はもう既に影にグルグル巻きにされていた。
「……あれ?」
「符は全て破壊しておいた。ヤツはもう、ただの変質者でしかない」
「どういうことだ?」
「爆発を喰らった時、影でちょっとな。どうやら、一度に発動できる符は数が決まっているらしい」
 火炎符を大量に発動させた際、能力封印符を使うほどの余裕は無かったらしい。そこを狙って符を破壊したのだ。
 あれだけの爆発を防御するのも難しいだろうに、その片手間に反撃をしてしまう冥月の技量に、武彦は小さく笑った。
「あの符は発動する際に発光するらしかったからな。先程チラリと、あの男の胸が光るのを見た。そこに符を隠し持っていたようだよ」
「良く働く目だな……。まあ、お疲れさん」
 ウガウガ言ってる男は、本当に行動不能らしいので、これで一件落着だろう。

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 冥月がボロボロの服を着替えた後、武彦は男を車に詰め込んでいた。
「お前は一人で帰れるよな?」
「ああ、私は問題ないが……お前はもう帰るのか?」
「用事は終わったしな。コイツも引き渡さなきゃならんし」
「みんなもいるんだ。お前も一緒に遊んでいけば良いじゃないか」
「子供のお守りはお前に任せるさ。俺は一人で休みを堪能するさ」
 武彦は運転席に乗り込み、窓を開ける。
「アイツらの事、頼んだぞ」
「まぁ、海難事故には遭わないだろう」
「だったら問題ない……あ、いや」
 思いついたような顔をする武彦。
 ニヤリと笑って冥月を見やる。
「お前の水着姿なら見てみても良いかもな」
「……っな!?」
 不意打ち。突然予想外の事を言われ、冥月は少し頬を染めた。
 それを見て武彦は馬鹿笑いする。
「あっはははは!! 照れるたぁ、可愛い所もあったもんだな!!」
「う、うるさい! さっさと帰れ、バカ!!」
「はは、まぁそうやって偶に女らしくしてな。そうすりゃもっと面白おかしく人生を送れるだろうよ」
 そういった後、武彦は車を走らせて消えていった。
「……っち、あんなヤツにからかわれるとは……」
 車を見送りながら唸りつつ、冥月はボチボチ帰り道に着いた。
 向こうでは子供たちが遊んでいるはず。面白そうな展開を見逃す手はあるまい。
 武彦にからかわれた苛立ちは、小僧でもからかって晴らそう。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ピコかめ クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年08月14日

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