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『■『星の導き手』を導いて in 神社 』
トリストラム・ガーランド(mr0058)

●ユグドラシル学園にて
 広いユグドラシル学園の一角。
 賢者ごとにあてられた部屋の一室にて、部屋の主たる賢者ガルフ・ゲイルは怪訝な顔でソレを眺めていた。
「なんだ、こりゃ?」
「ソレは、私に聞かれても判りかねる」
 淡々と、彼付きの封機委員フェイシアが首を振る。
 彼女が示す半透明なディスプレイの上で、二つの光点が瞬いていた。
 7月7日。突然現れた光点は、追跡データによるとあっちへふらふら、こっちへふらふらと移動している。
 気が向いた時に、興味のある方向に動いているのか、規則性が全く皆目全然ない。
 そして、奇妙な事に……。
「微妙に平行世界も歪んでらぁな」
 光点の周囲に表示された数値は、引き寄せられるようにあっちこっちの時空が歪んでいることを示していた。
「よし。面白そうだから、見に行くか」
 乗り気の男に、フェイシアは理解しがたいといった風に首を振った。

●異種との遭遇
 灯りのついた提灯が、夜空の星に負けじとばかりにずらりと張り巡らされて並んでいる。
「ね、オリヒメ。あれ、ナンだろ」
「人間のお祭……じゃないかな?」
 天の川から流れ星の上に乗って落っこちてきた双子は、物珍しげにその『光景』を木々の陰から覗き込んでいた。
 人間達の話に聞き耳を立てていると、どうやら『ジンジャ』なる場所で『ヤタイ』なるお祭をやっているらしい。
 美味しそうな匂いと楽しそうな声が、様子を窺う二人の元まで届いてきて。
「何してんだ、お前ら」
「ぎゅっ、デターッ!」
 前方の祭の様子に夢中になっていたヒコボシは、背後からのっそりと熊の如く影から現れた男に声をかけられ、飛び上がる。
 それから慌てて、オリヒメを背中に庇った。
「誰だよ、お前!」
「そりゃあ、こっちの台詞だって」
 ぽしぽしと髪を掻くガルフに、ぐるぐると唸るヒコボシ。そんな姉の脇から、オリヒメがひょっこり顔を出し。
「実はですね……」
 カクカクシカジカと、双子が置かれた状況を説明した。

「つまり8月7日までは、帰る事ができない、と」
「はい」
「それまで、折角だから色々と下界を見て回ろう、と」
「はい」
「てか、何で全部ぶっちゃけて喋るんだよっ」
 理性的な弟の態度に、姉は頬を膨らませ、口を尖らせる。
「だって……悪い人じゃなさそうだし」
「見た目からして、悪いだろっ。こんなおっさん」
 ビシッと指差して断言するヒコボシに、若干傷つく「おっさん」が約一名。
「見た目はともかく、二人が一箇所に長く留まるのは好ましくない。色々と歪むからな」
 ガルフをほっといて、フェイシアが淡々と告げた。
 が、つーんとヒコボシは明後日の方向へソッポを向く。
「行かないからな」
「だが……」
「どーしてもっって言うんなら……」
 すっと白い腕を伸ばすと、ヒコボシは賑やかな屋台の列を示す。
「アレに参加してからだっ!」
 宣言するヒコボシの後ろで、頭をおさえたオリヒメがでっかい溜め息をついた。

   ○

「このお祭りは……此処の季節のお祭りみたいだね」
 賑やかな屋台の列を、ジェネシスが観察していた。その傍らでは10歳くらいの双子の姉弟が、彼を真似るように参道を窺っている。
「それで、どうするのかな?」
『調査』の為に同行したトリストラム・ガーランドに、ガルフは「ふむ」と腕を組んで唸った。
「どーもこーも、あいつら遊んだら満足するってんだから、目指せ円満解決ってトコかねぇ……どうやら、別の世界から『引っ張られた』のも何人かいるようだし」
 その何人かについては、フェイシアが既に接触に向かっている。
 ガルフ達と共にユグドラシル学園からやってきたトリストラムとジェネシスは、ひとまず『保護』したヒコボシとオリヒメと共に、簡易のテントで彼女の戻りを待っていた。
「まぁ、待つ間は暇だろうし、折角だから先に着替えとけ」
 ぽんと、賢者は二人へ服を投げるように寄越した。
 直線的なパーツで出来たそれは現地の服で、名称「ユカタ」というらしい。
「ガルフ先生のくせに、珍しく細かいよね」
 ぼそりと呟くジェネシスの言葉に、ひらひらとガルフは手を振った。
「どっかの言葉に『郷に入りては郷に従え』ってのもあるだろ? まずは、形からってトコだ」
「ふ〜ん? てっきり夏の暑さで、どっかやられたんじゃないかと思ったよ」
「やられたって、そんなストレートに……」
 傍で聞いていたトリストラムは、ジェネシスとガルフのやり取りに思わず困ったような笑みを浮かべる。
「というか、表現法が問題なのかよ」
「え?」
 恨めしそうにガルフがすれば、きょとんとしたトリストラムは目を瞬かせ。
「おっさん、まだー?」
 不満げに口を尖らせるヒコボシに、やれやれとごつい男は首を振った。

 別の平行世界から迷い込んだと思しき二人の女性と共に、フェイシアが戻ってきた。
「あら〜? みんな、若い人達ばかりなのね〜」
 意外そうに細身の女性――エルダーシャは、緑の髪を指に絡めて遊びながら、小首を傾げる。
「なんだか賑やかだと思ったら、お祭があるとかで……何かの縁ですし、よろしくお願いしますね」
 もう一人の女性、レンヌ・トーブが笑顔で軽く会釈をすれば、背中で黒髪の三つ編みと一緒に二本の細長い触覚が揺れていた。

●お祭デビュー
「これが、此処の通貨だよ。二人に同じ数だけあげるから、無駄遣いしちゃダメだよ」
 黒に紫の蓮の浴衣の裾に気をつけ、腰を落としたジェネシスが、オリヒメとヒコボシに同じ額の硬貨を手渡した。手のひらを広げた二人は、互いの手に乗ったソレを見比べている。
「それから、これ。ウチワっていう、このお祭りの必須アイテムらしいよ」
 ドコから仕入れてきたのか、更に彼は星を模った透かし絵の入ったウチワを、双子姉弟の開いた方の手に握らせた。
「ジェネシス……実は君、意外と子供好き?」
「べ、別に、違うからっ」
 トリストラムにストレートに指摘されたジェネシスは、慌てて切り揃えた銀髪を左右に振って否定する。
「お待たせしました」
 三つ編みを解いた浴衣姿のレンヌが、下駄を鳴らして彼らに駆け寄った。
「それじゃあ、屋台探検に出発かな。しばらくの間、宜しくね」
 微笑んでトリストラムが差し出した手を両手で握り返し、少女もにっこりと笑顔を返す。
「はい。こちらこそ、短い間ですがよろしくお願いしますね」
 そして、五人の少年少女は並ぶ屋台へ繰り出した。
「ふふ。仲がよい事ねぇ」
 その後ろ姿を、柔らかな緑の瞳でエルダーシャが見守る。
「ま、遊んで満足するんなら、安いモンだ」
「だが、賢者はハメを外さぬようにな」
 すかさず釘を刺すフェイシアに、ガルフはやれやれと肩を竦め。
「重そうだし、持つぞ。折角だから、身軽で楽しみたいだろう」
「……はい?」
 声をかけられたエルダーシャは、提げていた小さな酒樽を指差されて「あぁ」と納得した。
「でも……」
「なに、ブン捕りはしねぇから、安心してくれ」
「窃盗を働くようなら、喜んで私が捕まえよう」
 ひらと手を振るガルフに真顔のフェイシアが付け加え、笑いながらエルダーシャは小樽を手渡す。
「それじゃあ、お願いするわねぇ〜」
「お安い御用だ」
 それから五人の後を追い、三人の『大人』達も祭の熱気へ混ざっていった。

   ○

 木製の簡素な棚の上に、おもちゃの箱や小さな人形が並んでいる。
 中には番号の付いた人形もあり、棚の両脇に飾られた大き目のぬいぐるみにも、同じ番号が付いていた。
 トリストラムが手持ちの硬貨を店の者へ渡すと、コルクの弾が入ったアルミの椀と射的用のライフルが台に置かれる。
「これ、持っててくれる?」
「はい。頑張って下さい」
 三匹の金魚が泳ぐ金魚袋を、笑顔でオリヒメが預かった。
 店の者から使い方を教わると、トリストラムは射的銃で番号付の人形を狙う。
 ポンッ!
 引き金を引くと、発射されたコルクは棚板に当たって弾かれた。
 続く二発目は人形の向こう側へ飛んでいき、ヒコボシがからからと笑う。
「意外と、難しいんだよ……それに射撃とか、得意じゃないし」
 軽く注意するようにヒコボシを小突いたオリヒメは、次の弾をセットするトリストラムを見上げた。
「すみません。ヒコボシは気にしないで下さい……的当ての遊びですし」
 謝るオリヒメへ、彼は首を横に振って。
「うん。でも、やるからには当てたいかなって」
 ――風の精霊に弾を運んでもらうのは出来るけど……ガルフさんかフェイシアさんに、バレそうだし……。
「何とか自力で……ままよッ」
 片手で射的銃を持つと、できるだけ腕を伸ばして構える。
 パンッ!
 飛び出した弾は、狙っていたのとは別の番号付の人形に当たる。
 棚の縁に押しやられていた人形は、コルクが当たった反動で棚から落ちた。
「やった……!」
「うわ、当たったーっ」
 飛び上がって、ヒコボシが喜ぶ。そして思いがけず大きなぬいぐるみを受け取ったトリストラムは、それをオリヒメへ差し出した。
「はい、プレゼント」
「僕に、ですか……? ありがとうございます」
 恥ずかしそうに受け取ったオリヒメは、人形を抱いて嬉しそうな笑顔をみせた。

 辺りに響くは、楽の声。
 面は阿弥陀で、水風船つき。
 射的、綿菓子、金魚すくい。
 カラリコロリと、下駄鳴らし。
 浮かれ囃子に、そぞろ歩く。

●楽しい時間は早く過ぎ
 人ごみに疲れたら、石段に腰を下ろして一休み。
 わた飴、たこ焼き、焼きそばなどなど、目に付くままに買った食べ物を、思い思いに頬張る。
「頭、キーンとします……」
「カキ氷を食べると、何故かキーンってなりますよね」
 赤いシロップのかかったカキ氷のカップを片手に頭をおさえるオリヒメに、くすくすとレンヌが笑う。
「あふっ、あふい〜っ」
 丸ごとたこ焼きを口に放り込んだヒコボシは、その熱さに慌ててオリヒメからラムネの瓶をひったくる。
 瓶の中のビー玉が、カラカラと涼しい音を立てた。
「熱いけど、美味しいです?」
「うん。おいひいけど、でもあふい〜っ」
「もう……一口で食べるからだよ」
 レンヌへ答えるヒコボシに、、オリヒメが苦笑する。
「でも、こうして皆で食べると楽しくて、美味しいね。はい、お裾分け」
 もつれた焼きそばに苦戦するトリストラムは、ほぐれた分をヒコボシのたこ焼きの舟に乗せてやる。
「ところで、ガルフ先生は?」
 いつの間にやら姿の見えない賢者に気付き、ジェネシスはフェイシアに所在を尋ねた。
「エルダーシャと、『大人の話』だそうだ」
「なにそれ?」
 苦笑するトリストラムの視界の隅で、ぱっと空に光の花が開いた。
 それから少し遅れて、どぉん……っと身体に振動が伝わってくる。
「今のは……」
「花火だね」
 驚くオリヒメにジェネシスが説明をした瞬間、次の花火が夜空に上がった。
 放射状に光の筋がパッと広がり、はじけながら闇へと溶けていく。
「とっても、綺麗です……」
「うん」
 わた飴を食べる手を止めて、レンヌが光に目を細め。
 トリストラムもまた、しばし夜空を眺めた。
 様々な光が、一瞬だけ夜の空に咲いて。
 名残を惜しむ間もなく消える。
 その繰り返し。
 綺麗だけれど、どこか切なくて。
 六人は言葉少なに、繰り返し上がる花火を眺めていた。

「そろそろ、時間だぞ」
 ガルフに声をかけられ、石段に座った者達は顔を上げる。
 屋台を回る人々の数もいつの間にか減って、店じまいを始める屋台もあった。
「お祭……もう、終わりです?」
「ええ。残念だけど、終わりなの〜」
 問い返すオリヒメにエルダーシャが頷けば、ヒコボシは口を尖らせる。
「もうちょっと、遊びたかったな……」
「でもねぇ。ちょっと遊び足りないくらいの方が、楽しい思い出になるわよ〜?」
 のほほんと答えて、エルダーシャは微笑んだ。

   ○

 屋台の列から離れ、暗い木立の中へと戻る。
 誰もが歩く間、屋台での出来事をあれこれと話していたが、テントを前にすると誰ともなく言葉が少なくなっていた。
「また……何処かで、会えるといいね」
 隠していた簡易テントの前まで来ると、ジェネシスが口を開く。
「それまで、さよならだね。二人とも」
「うん」
 小さく首を縦に振ったトリストラムも、笑顔で言葉を続ける。
「ヒコボシ達に会えて、楽しかったよ」
「私も、楽しかったです。あまり出来ない体験でしたし、浴衣も着れましたし」
 名残惜しそうにしながらも、レンヌは浴衣の袖をつまんで、くるりとその場で回ってみせた。
「二人とも、素敵な出会いをありがとうね〜」
 オリヒメ、そしてヒコボシの順に、エルダーシャは二人を抱きしめる。
 金魚袋、射的の景品のぬいぐるみ、水風船など、沢山の『お土産』を貰った姉弟は、互いに顔を見合わせて。
「あの……お礼、してもいいかな」
「今日は、とても楽しかったので」
「あらあら、なにかしら〜?」
 小首を傾げるエルダーシャに、「持っててくれる?」とヒコボシが『お土産』を預け。
 暗がりの中で、二人は並んで立つ。
 手を打ち合わせ、束ねた紫の髪を揺らし、ふわりふわりと長い着物の袖を振り。
 小柄な二人は、軽やかに踊る。
 土の上へ、踏み出す一歩。
 木々の陰に、翻る衣。
 その一挙一動のたびに、暗闇に小さな光が瞬いて。
 気付けば辺り一面、無数の光で満ちていた。
 まるで星空がそのまま地上と重なったような光景の中、ヒコボシとオリヒメは軽やかに踊る。
 きらめく星の川の流れの上に立っているような、えもいわれぬその光景を。
 時を忘れて、六人は魅入っていた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1780/エルダーシャ/女性/23歳(実年齢999歳)/旅人】
【mr0174/ジェネシス/男性/18歳/ユグドラシル学園学士(専攻:想魔学)】
【mr0058/トリストラム・ガーランド/男性/17歳/ユグドラシル学園学士(専攻:精友学)】
【3502/レンヌ・トーブ/女性/15歳(実年齢15歳)/異界職】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 お待たせ致しました。「ゲームノベル・星の彼方/『星の導き手』を導いて in 神社」が完成いたしましたので、お届けします。
 このたびはご参加いただきまして、有難うございました。
 初めましての方、お久し振りの方を取り混ぜて、楽しく書かせていただきました。お気に召していただければ、幸いです。
(担当ライター:風華弓弦)
PCゲームノベル・星の彼方 -
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学園創世記マギラギ
2007年08月13日

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