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『まほろば島への招待! 〜三日目〜 』
梧・北斗5698



「明日で帰るのか、勿体ないね」
 オリヒメがぽつりと呟く。
 ステラはそんな彼に笑顔を向けた。
「今日は最終日っぽく、パーっといきましょう! 花火が見れますよ!」
「へぇー!」
 嬉しそうなヒコボシ。
「旅館のここからも良く見えます。それとも、外で見ます?」

***

 泊まっている二人部屋で、梧北斗はスイカをむしゃむしゃと食べていた。
 旅館の、庭に面した縁側ではたくさんの人が空を見上げている。あまりの多さに北斗は部屋にいることにしたのだ。
(狭いしなぁ……。それに)
 ちらりと、同じようにスイカを食べているフレアに目を遣る。またいつもの衣服姿だが、上の白いコートは脱いでいた。
 現時刻は夜の8時頃。空は暗く、そしてそこに花火があがっている。
 島に滞在できる最後の夜ということで、花火が盛大にあげられているのだ。
「なんかあっという間だったよなー。こんなに充実した旅行も久しぶりだったから、凄い楽しかった!」
 えへへ、と笑いながら言う北斗を、フレアは見遣る。
「そうだな。うん、単なる休みっていうのは今までなかったし……。二人っきりで過ごすというのもなかなかいいな」
 スイカを食べるフレアは、窓の外の花火に視線を戻した。
 北斗はその横顔に見惚れる。
(一番楽しかった理由はフレアが傍にいてくれたからだと思うけど……)
 今までこんな風に女の子と過ごすことはなかった。同じ部活の仲間や、クラスメートの女子と接触することはあっても……まさか二人で旅行なんて。
 だから、だろう。どうしていいか、未だにわからない。どう接すればいいのかも、わからない。
 逆にフレアはいつもと同じだった。女の子らしく恥じらったりしない。いつもと態度が変わらない。
「フレアも一緒に来てくれてありがとうな? えっと……」
 えっと。
「これからも俺は一緒に色んなところ行ったりしたいんだけど……。す、好きな子と出かけるのって楽しいし……!」
 顔が熱い。スイカを持ったまま、北斗は懸命に言う。
「それにまた何かあっても、俺がついてるから!」
 花火から視線を外し、フレアがこちらを見る。もぐもぐと口を動かしていたが、口の中のスイカを飲み干した。喉が動くのが、北斗のところから見える。
 あぐらをかいた状態のフレアは、真っ赤な顔をしている北斗を見つめた。
「アタシこそ、感謝してるよ。最近本当に、色々と考えてて、ゆっくりしてる暇もなかったしさ。北斗は裏表がないから、一緒にいたら凄く楽しい」
「ほ、ほんとに!?」
 花火の音が響く。けれど北斗は聞いていない。花火よりもフレアが気になってしょうがないのだ。
 フレアはスイカの皮を皿に置き、片膝を立てた。
「嘘なんて言わない。……朱理だった時は、おまえのことはいいヤツだなくらいしか思ってなかったのにな。
 それに……フレアになってから誰かに愛を告白されるとは、思ってなかったんだ」
「……フレアは頑張ってると思うぜ、俺。好きになるヤツがいても、全然変じゃないと思う」
「……おまえは人間のままなのに。歳をとっていくのに。アタシは……」
 フレアは視線を伏せた。
「肉体の成長や姿は色々とできるんだが、役目から降ろされない限りアタシは人外の存在なんだ。
 だから、ワタライは相棒を選べる。ずっと一緒に居られる相棒だ。そいつも人外になるしかないんだけどな」
「…………」
「こんなアタシでも、本当にいいのか?」
 今さらという感じでフレアは尋ねてくる。
「撤回してもいいんだぞ、好きだ、と言った事」
 なんでそんなことを言うんだと北斗は呆然となった。信じてくれないのかと、愕然とした。
 けれど、その気持ちとは別に思うところはある。北斗は朱理と別れてからそれほど時間が経過していない。けれどフレアは物凄い時間が経過しているのだ。
 女の子を好きになったのは初めてじゃない。でもそれは、幼い恋心だった。小学校の頃、クラスで一番の可愛い女の子だったり。中学の頃、よく喋ったクラスメートだったり。でもそれは、「いいな」と思っただけだった。
 フレアに対しては、その恋心とは違う。力になりたい。一緒に居たい。一緒に居ると嬉しい。守ってあげたい。
 『特別』なのだ。
「撤回しない!」
 北斗は強く言い放つ。
「俺はフレアが好きだ!」
「…………そうか」
 フレアは顔をあげる。頬が少し赤い。
「うーん。慣れないな、やっぱり」
「慣れないって?」
「誰かに好きだって正面から言われるのは、慣れない。
 それで、答えは出たか?」
 ぎくっとしたように北斗は身体を震わせる。
 どうしようかと、この三日間ずっと思っていた。
 いずれ出さなければならないものだ。それが今なのかもしれない。いまだに悩んでいる。すごく、悩んでいる。
「嫌なのか、アタシとは」
「そ、そうじゃなくて……っ!」
 心の準備が、と言うとフレアは呆れたように頬杖をつく。
「まあいいけど……。アタシもいつまでも待てないし、どうしようもなくなったら別のヤツに交渉するしかないんだが」
「べっ、別のヤツ!?」
 ガーンと北斗がショックを受け、よろめいた。
 そういえばそうだ。何も自分でなくてもいいのだ。これはあくまで『手段』の一つであり、愛を確かめ合う行為ではない。
(し、しまったぁ……! それは考えてなかった!)
 心の中は嵐だった。風が吹き荒れ、雨が激しく降っている。
(だいたい俺も何やってんだよ! 心の準備ってどうやったらできるんだよ!? 最近毎日考えてたって、結局ダメだったじゃん!)
 ならばいっそ、ここで答えを出したほうがいいだろう。
 北斗は拳を握りしめ、スイカを皿に置いた。
「えっと、あの……」
 嫌な汗が出ている。フレアはそんな北斗を見ておらず、花火を見ている。
「フレア!」
 思い切って声をかけると、「あ?」と彼女はこちらを見遣った。
「なんだ?」
「答え! 出たから!」
「はぁ……。別に急がなくていいんだけどな。時間が迫ってたらちゃんと言うし」
「いい! 今ここで出す!」
 何を意地になっているのかと思えるほど、北斗ははっきりと短く言う。
 フレアは苦笑した。
「わかった。じゃ、教えてくれ」
「お、俺に、抱かれてくださいっ!」
 ずいっと一歩分後退し、そのまま土下座した。畳に額を擦りつける北斗を見下ろし、フレアは唖然としたまま「はぁ」と洩らす。
 花火のどーんという音が響き、部屋の中を照らした。
「なんで土下座してるんだ?」
 フレアは疑問符を浮かべつつ言う。北斗はゆっくりと頭をあげ、羞恥で真っ赤になったまま手で顔を隠した。
「だ、だって俺、こういうの初めてなんだ……!」
「…………」
「よろしくお願いします……!」
 震える声で言うと、フレアは小さく吹き出した。
「はい、こちらこそ。
 あぁそうだ。じゃあ、言っておかないとな」
「ん?」
 まだ何かあるのかと北斗が身構えてしまう。どうしよう、心臓が破裂しそうなんだが!
 息苦しさに胸元を手でおさえていると、フレアがさらりと恐ろしいことを言った。
「アタシさ、朱理の時なんだが……学校の教師に陵辱されてるんだ」
「……………………」
 ぽかーん、としてしまう。
 北斗は目を点にしていた。
「とはいえ、小学校の時の話で、相手はイタズラのつもりだったんだろうけどな。いや、でも困った大人ではあったわけだが。
 その時のアタシは内向的で、暗いヤツだったんだよなー。誰にも言わないだろうってことで狙われたんだろう」
「な、なにさらっと……」
「その一回きりだったんだが……。ま、そういうわけだ」
「なっ……! なんてヤツだ!」
 北斗の頭に血が一気に上り詰める。抵抗できない子供になんてことをするんだ! 信じられない!
 フレアは後頭部を掻く。
「いやー、当時は痛いことされたくらいしか認識がなかったんだよな。性知識がなかったし」
「でも! そ、そんな……。もっと怒ったほうがいいと思うぞ!」
「そりゃ怖いなって思うし、今から思うとひでーことしやがるって思うし……。あ、でもフレアになってから、その教師には仕返しをしたさ。どういう方法を使ったかはナイショだ。
 でも、アタシの男の経験はそれしかないんだ。知らないよりはいいだろうと思って話したんだが……」
 あまりにさらっと話してはいるが……それを口にするのには勇気がいることだろう。
 わざと、気にしていないように言っているのではないだろうか? 北斗には判断が難しい。
 フレアが言っていることは嘘ではないだろう。知識がないから、何をされているか理解できなかったということも、きっと本当のことだろう。
(前に別れる時に言おうとしてたのは、このことだったのか……?)
「これを聞いた上で、判断してくれ。嫌なら、それでもいいぞ」
 考えている最中にフレアの声が割り込む。何度も何度も念を押すフレアに、北斗は苛立った。
「嫌じゃない! は、話してくれて嬉しいぞ、俺は」
「そうか? 汚されてるとか、期待を裏切られた感じはしなかったか?」
「……俺、フレアはもっと経験あると思ってたし」
 別の意味でショックは受けたが……。
 北斗の言葉を聞いてフレアは安堵したように微笑んだ。照れ臭いような、はにかんだ笑みだった。
「良かった……。嫌われるかもしれないと覚悟していたんだ。実はこの事、誰かに話したのは初めてでさ」
「っ」
 明るく言うフレアの言葉に、胸が痛くなった。やっぱり彼女だって、どれほど強くたって女の子なんだし、知られたくないことの一つや二つはあるだろう。それを、話してくれた。話してもいいと、思ってくれたのだ。
 これは、絶対的な信頼をおいてくれている、のではないだろうか?
「じゃ、改めてよろしくな」
 彼女が差し出してきた片手を、北斗は強く握り締める。なんでもいい。どんな方法でもいい。俺は彼女の力になろう。そう決めた。
「……俺のこと、好きなだけ利用してくれ」
 小さく言った北斗に、彼女は不敵に微笑む。
「ああ、そのつもりだ。だからおまえも覚悟を決めろ。この先アタシが死んでも――」
 フレアはそのまま体を北斗のほうへ近づける。ドキッとしてしまう北斗に構わず、真剣な瞳で言う。
「決してこの事は口外するな。
 ……それから、今からすることは確かに『手段』の一つだが、おまえに対して愛がないわけじゃないから」
「ほ、ほんとに?」
「なんとも思ってない男に抱かれるわけないだろ」
 北斗の額に、こつんとフレアは自分の額を合わせる。花火の音が響き、それを見物している宿泊客たちの声が聞こえた。
「三日間の滞在最後の日に、おまえが答えを出してくれて助かった。ありがとう」
 小さく微笑んだフレアは、北斗を畳の上に押し倒した。北斗の視界の隅に花火が見える。綺麗だった――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【ヒコボシ(ひこぼし)/女/外見年齢10/星の導き手】
【オリヒメ(おりひめ)/男/外見年齢10/星の導き手】

【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ)/女/?/ワタライ】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 「答え」を出した、という最終日、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・星の彼方 -
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東京怪談
2007年08月10日

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