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『まほろば島への招待! 〜一日目〜 』
初瀬・日和3524



「べ、勉強……?」
 顔を引きつらせるサンタ娘・ステラは目の前に座る少年と少女を見遣った。
「そう! 色んな人に会って、色々勉強したいわけ。ステラっていうサンタに会えば、奇天烈なこととか面白いことになるって聞いてさ!」
「…………」
 ひどい言われようだ。
 せっかく今年は罰ゲームなしで平穏無事に過ごせると思っていたのに……。
(そういうのは草間さんとことか、雫ちゃんとこに行ったほうがいいと思うんですけどねぇ……)
 なんてことを思ってはいたが、口には出さない。
「すみませんけど、わたし、お出かけする用事があるんですよねぇ。三泊四日で、ある島に行ってバカンスを満喫するんですぅ」
「ばかんす? 島?」
 ヒコボシが瞳をきらきらさせ、身を乗り出してくる。
「はい。『まほろば島』というところですぅ。短期間だけ出現する島なんです。人口は……100人にも満たないほど。小さな島なんですよ。
 旅館も無料ですし、料理は美味しいし、海は綺麗だし、お祭りもあるし! もうほんと、色々飽きない島なわけです!」
 えっへんと胸を張るステラは双子に背中を向け、せっせとサンタ袋に衣服や水着を入れていく。
 そんなステラの背中を見て、双子は顔を見合わせた。
「どうするの……ヒコボシ」
「そりゃ、ついて行くに決まってるじゃないか!
 ねえステラ! 一緒に行きたいっ!」
「はあっ!?」
 ステラが仰天して振り向く。
「あの、でも……」
「大勢で行ったほうが楽しいはずだよ! ね!?」
「……そ、それはそうかもですけど……」
「じゃあ決まり! ステラの友達とか呼ぼうよ! 色んな人呼んでさ! 独り占めはよくない!」
「え……えぇ〜」
 情けない声を出すステラを、オリヒメは哀れそうに見ていた。

***

 初瀬日和が目を覚ましたのは、そこに到着してからだった。
 旅館の前に停車した古めかしいバスの中、どうやら眠っていたらしい自分は、他の乗客が降りてから運転手に起こされたらしい。
 慌てて荷物を持って旅館に入る。
「いらっしゃいませ〜」
 遅れて入った日和を出迎えたのは、人間ではなかった。
 狐だ。人の大きさの、二本足で歩く狐たち。全員着物姿だ。
「我らが自慢の、『旅館・ひもろぎ』へようこそ〜」

 部屋に案内されて、日和は荷物を降ろした。
 窓をあけて、外を眺める。綺麗だ。海が見える。すぐ近くだ。
 旅館から伸びる細い道を歩く人たちが見えた。全員水着姿をしている。
(仲居さんが説明してた道はあれなんですね)
 海に行く人はあの道を真っ直ぐ行けば、辿り着くらしい。さほど歩くこともないので、確かに着替えて行ったほうがいいだろう。
 今年の海にはちょっと障害があって、と仲居さんは言っていた。
(プールもあるって言ってましたけど)
 窓枠に手をついて、日和は歩いていく人たちを眺める。海のほうは賑わっているというよりは、悲鳴のようなものと、ドン! と軽い爆発音がしている……。ばくはつ?
「……夏風邪が治ったばかりですし、海は遠慮しておけって言われたんでしたね……」
 小さく呟いて、日和は空を見上げる。都会では見られない、澄んだ綺麗な青空だ。
 そうだ、と日和は思い出す。
 島にはのんびりと暮らす猫がいるらしい。と、よく聞く。散歩がてらに、探しに行くのもいいだろう。

**

 ノースリーブのチャイナブラウス。巻きスカート。
 お洒落をして散歩をする日和は、きちんと日焼け止めクリームを塗るのも忘れない。日傘があっても夏の日差しはかなり強い。
 サンダルを履いている足もとを見下ろす。影が濃いような気さえする。
 のどかな景色を眺めつつ歩く日和。南国とは言いがたいが、田舎の夏休みという感じがして、なんだか落ち着く。
「あ。この通りには家があるんですね」
 大きな通りに面する形で家屋が並んでいる。一直線の大きなその道を、日和は進んだ。
 行き交う人たちは人間の姿をしている者もいれば、半透明、ヒトではない姿をしている者もいる。
 それぞれみな、のんびりと歩いている。
「お店もあるんですね」
 軒先に長椅子を出しているところを見つけ、日和は「へぇ」と思いつつそちらに近寄っていき……思わず足を止めた。
 店に飾ってある風鈴を見上げている人物が目に入ったのである。黒髪と、片目だけ色が違う少年の姿が。
 日和の胸が、知らず、ときめいてしまう。
(か、和彦、さん……)
 以前会った時と何も変わらない。彼は風鈴を見つめていた視線を日和に向ける。
「あ」
 つい、小さな声を洩らす。日和は慌ててぎゅうっと傘の柄を握った。
「あ、あの、お久しぶりです……」
「久しぶり」
 彼は微笑んだ。戸惑う日和の心情とは違い、和彦は落ち着いたものである。
 日和はどぎまぎしながら近づいていく。
「こんな所で会えるとは思いませんでした、和彦さん……」
「俺もだ。変な双子に誘われて仕方なく来たんだが……。一人か?」
「は、はい」
 こくこくと激しく頷くと、和彦は目を少しだけ細めて「そう」と呟いた。
 風が吹き、風鈴が小さく鳴った。



 日和は和彦と一緒にのんびり散歩をすることになった。なぜこんなことになってしまったのかわからない。ただわかっているのは……。
(ど、どうしよう……すごくどきどきします……)
 横を歩く和彦を見上げる。彼は本当に、変わらない。
 以前のままの美貌だ。男のくせに、綺麗すぎる。
「日和さんはどうして散歩を?」
「へぇっ!?」
 唐突に尋ねられたため、反応がおかしくなった。そんな日和の態度に和彦は小さく笑う。
「別にとって食ったりしないぞ、俺は」
「あ、いえ、別に警戒しているわけではないんです。
 わ、私は……あの、ちょっと練習やら色んなことを忘れてのんびりしようと思って……」
「確かに時には休むことも大事だな」
「風邪が治ったばかりで海に入るのは心もとないので、お散歩していたんです……」
 真っ赤になって俯く日和に気づかず、和彦は前を向いたまま歩いている。ただ歩幅は日和に合わせていた。
「風邪か……それは大変だった。大事無いならいいんだが」
「だ、だいじないです。はい」
 ああ、どうしよう。猫じゃなくて和彦さんを見つけちゃうなんて……。
(こ、幸運なんでしょうか……それとも?)
 素敵な男の子がいればどきどきするのは当たり前だ。魅力的な和彦なら、仕方ないことといえる。
 でも、でも!
(私にはちゃんと好きな人がいるわけで……!)
 だったらこの胸のどきどきは一体なんなんだ???
(いえ、だってそれは和彦さんが素敵な人だからで、深い意味はないです……ないはずです!)
 自分に言い聞かせる日和はもう一度和彦を見上げた。色違いの桃色の瞳が見える。
 自分の好きな人とは、正反対の人、だ。
「散歩して何かいいものは見つかったか?」
「へっ?」
 考え事をしている最中に声をかけられてしまい、日和はまたもおかしな声を出してしまう。そもそも考え事をしながら一緒に歩いている自分が悪いのだが、それでも心が揺れてしまうのだから仕方ない。
 和彦の言葉を頭の中で反芻し、それから口を開く。
「いえ、特には」
「そうか。何か探しに来た、というわけではないんだよな。散歩だし」
「あ、猫を探していたんです」
「ねこ?」
 和彦がこちらを見下ろす。互いの視線がかち合った。途端、彼はぐっと言葉を呑み込むような仕草をし、視線を逸らした。
 今の態度はなんだろうかと日和は思いつつ、頷く。
「島にはのんびり暮らす猫がいるって、よく聞くので」
「……そうかな。島に限らず、落ち着ける場所なら猫はのんびり過ごしているんじゃないか?」
「そうかもしれません」
「とはいえ、ここは普通の島じゃない。普通の猫がいるかどうか怪しいな」
「そうですね」
「とりあえず、のんびり歩くか」
「……はい」
 小さな声で応えると、和彦は小さく笑った。
 二人はゆっくりと歩いていく。ちょうど海が見えた。砂浜からは悲鳴があがっており、爆発音が響く。
「なんだか賑やかだな」
「そうですね。なんだか、楽しそうです」
 海に入れないのがなんだか悔しい。あ、あっちに海の家もある。
 日和は海からの風になびく自身の髪を直しながら、和彦に笑いかけた。
「和彦さんも泳げばいいのに」
「うーん……。俺、あまり海で遊ぶのは得意じゃないんだ」
「えっ? そうなんですか!?」
 意外だ。なんでもできそうなのに。
 まじまじと日和に見られ、和彦はやりにくそうに肩をすくめる。
「水中で戦う訓練はしているが、『遊ぶ』ということは一度もないからな。潜るのは得意だぞ」
「…………」
 あまりに真面目な顔で言うので、日和は吹き出してしまう。くすくす笑う日和を、和彦は不思議そうに見つめた。
「なんだか、和彦さんらしいなって、思って……」
「そ、そうか……? んー、でも、ちょっと残念かもしれない」
「何がですか?」
「日和さんの水着姿、ちょっと見たかった」
 照れ笑いをして言う彼は、とても可愛らしい。思わず日傘を落としてしまう。
 頬を染めたまま唖然としている日和に驚き、和彦は慌てて弁解した。
「あ、べ、別にいやらしい意味で言ったわけじゃないんだ。単純に、いつもと違う格好を見たかったというか……。いや、俺も男だからそういう視点がないわけではないんだが……本当に単に、見てみたいなと思っただけなんだ」
「わ、わかってますよ!」
「え。あ、ならいいんだが……。すまないな、驚かせたみたいで」
 申し訳なさそうに言いつつ日傘を拾って渡してくる和彦に、日和は心底驚いてしまう。時にはストレートに思ったことを口にするが、やましい気持ちがあまりないというのは珍しい。
(……でも、でも和彦さんだって……やっぱり、その……)
 ちら、と砂浜へと視線を動かす。遠目ではあるが、水着姿の女性が数名見えた。
 日和は自分の胸元をなるべく自然に見る。やはり、お世辞にも大きいとはいえない。胸の大小にこだわるほうではないが、気になってしまうのは乙女心というものだろう。
 水着姿になるとすればやはり自分のプロポーションは気にしてしまう。可愛い水着があっても、自分に似合うか否か、もしくは自分の身体のサイズに合うかどうかで左右されてしまう。可愛くても諦めるしかないことだって、あるのだ。
「じゃ、そろそろ戻ろうか。別の道を通って宿に戻ればいいと思うんだが、どうだろう?」
「はい。お任せします」
 歩き出した和彦に日和はついて行く。
 この人は私のことをどう思っているんだろう? 仲の良い女の子? それとも……。
 世の中、綺麗なことだけでは済まない。日和はそれを痛感している。彼と同じ、遠逆の少女とのやり取りで、だ。
「…………」
 和彦の背中を見つつ、日和は胸の奥底がもやもやすることに気づいた。
 彼氏に対する後ろめたさではない。彼氏のことは好きだ。一緒にいて安心する。けれど、違うのだ。
 和彦と一緒に居る時の穏やかな気持ちとは違う。ドキリとするような、心臓に負担をかける仕草を見た時など……迷ってしまう。
(……いつか和彦さんにも恋人ができるんでしょうね……)
 やだな、と思ってしまった。自分以外の女の子とこんな風に過ごされたら、と想像すると……。
 頭を振ってその考えを追い払う。せっかく二人での散策なのだし、今を楽しめばいいのだ。
「あ、猫だ」
 和彦の言葉に日和は思わず「えっ!」と声を出し、「どこですか!?」と身を乗り出した。
「あそこ」
 彼の指差す先には猫がいる。白に茶色の模様の猫だ。尻尾が二つあるところは、目を瞑ったほうがいいだろう。
「ふにゃ」
 と、一声鳴くなり、猫は軽やかに駆けていってしまう。
 和彦は嘆息した。
「……やはりな。俺は動物に嫌われるから」
「そんなことないですよ」
「いや、俺が苦手なんだ。最近本当に実感している」
 眉をさげる彼を見て、日和は再び小さく吹き出した。
「さ、和彦さん行きましょう! せっかくですから島を一周しましょう」
「一周してたら随分時間がかかってしまうぞ」
 冗談で言ったのに律儀に返してくる和彦である。日和はその言葉に笑い声を洩らした。
 平和で、穏やかな島だ。たった三日間だけど、満喫しよう――!



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【3524/初瀬・日和(はつせ・ひより)/女/16/高校生】

NPC
【ヒコボシ(ひこぼし)/女/外見年齢10/星の導き手】
【オチヒメ(おりひめ)/男/外見年齢10/星の導き手】

【遠逆・和彦(とおさか・かずひこ)/男/17/退魔士】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、初瀬様。ライターのともやいずみです。
 和彦と共に島を散策していただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・星の彼方 -
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東京怪談
2007年08月07日

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