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『まほろば島への招待! 〜一日目〜 』
橘・エル6236



「べ、勉強……?」
 顔を引きつらせるサンタ娘・ステラは目の前に座る少年と少女を見遣った。
「そう! 色んな人に会って、色々勉強したいわけ。ステラっていうサンタに会えば、奇天烈なこととか面白いことになるって聞いてさ!」
「…………」
 ひどい言われようだ。
 せっかく今年は罰ゲームなしで平穏無事に過ごせると思っていたのに……。
(そういうのは草間さんとことか、雫ちゃんとこに行ったほうがいいと思うんですけどねぇ……)
 なんてことを思ってはいたが、口には出さない。
「すみませんけど、わたし、お出かけする用事があるんですよねぇ。三泊四日で、ある島に行ってバカンスを満喫するんですぅ」
「ばかんす? 島?」
 ヒコボシが瞳をきらきらさせ、身を乗り出してくる。
「はい。『まほろば島』というところですぅ。短期間だけ出現する島なんです。人口は……100人にも満たないほど。小さな島なんですよ。
 旅館も無料ですし、料理は美味しいし、海は綺麗だし、お祭りもあるし! もうほんと、色々飽きない島なわけです!」
 えっへんと胸を張るステラは双子に背中を向け、せっせとサンタ袋に衣服や水着を入れていく。
 そんなステラの背中を見て、双子は顔を見合わせた。
「どうするの……ヒコボシ」
「そりゃ、ついて行くに決まってるじゃないか!
 ねえステラ! 一緒に行きたいっ!」
「はあっ!?」
 ステラが仰天して振り向く。
「あの、でも……」
「大勢で行ったほうが楽しいはずだよ! ね!?」
「……そ、それはそうかもですけど……」
「じゃあ決まり! ステラの友達とか呼ぼうよ! 色んな人呼んでさ! 独り占めはよくない!」
「え……えぇ〜」
 情けない声を出すステラを、オリヒメは哀れそうに見ていた。

***

 そのツアーというのは、ある短い期間だけ出現する『島』へ行くというもの。
 本来参加する予定だった友人は、残念なことに夏風邪。その代理として参加したのは橘エルである。
 バスに揺られ、窓の外を見ながらエルは思う。
(素敵なお土産とお土産話を手に入れましょう……!)
 やる気満々だ。せっかくタダで来れたのだし、満喫しなくては。
(しかし……日本のどの辺りなんでしょう? そもそも『島』なのに、ずっとバスに乗り続けていますけど)
 山奥に入って行ったと思ったら、そのままどんどんひと気のない方向に進んで少々不安になったが……乗客はあまり不安がってはいないようだ。
 このバスに乗っているのは、友人を誘ったという双子の姉弟と、金髪赤服の少女。
 他にもそこそこ人数がいる。エルが座っているのは一番後ろから二番目の席だ。
 運転手のすぐ後ろの席には、友人を誘ったという双子の姉弟が楽しそうに何か話している。通路を挟んだ反対の、一人用の席には金髪赤服の少女が項垂れたまま座っていた。
 ちょうど真ん中辺りの二人がけに座っているのは、若い男女。彼女のほうは窓の外ばかり見ている。
 その幾つか後ろの席にも、同じように若い男女が座っている。男のほうが積極的に話し掛けていて、ツインテールの彼女が面倒そうに応えていた。
 ……うん。なんというか、穏やかというか、平和というか。
(落ち着く空気というか……)
 ふふ、と微笑むエルである。

 到着したのは旅館の前だった。一体どういう道順で来たのかわからない。
 だが確かに、見回せばここは島だろう。小さな島だ。島の大部分は森で占められている。旅館からは海が一望でき、旅館は旅館で……。
「いらっしゃいませ〜」
 出迎えたのは、着物姿の狐たちだ。二本の足で立つ彼らに挨拶をしているのは、このツアーの責任者らしい金髪赤服の娘。
(あら……立派な旅館ですね)
 純和風の旅館は大きい。しかも、古めかしい感じは一切しない。
 エルは個室をとった。案内された部屋はそこそこ広い。これで個室というのだから、かなりの贅沢だろう。
 早速水着に着替えて、海へ行くことにした。海へ行く道も教えてもらったのでバッチリである。
 青空色のビキニにフリルのスカート。エルは自身を見下ろし、我ながら似合うと心の中で褒めた。全身を映す鏡があれば、きちんと今の姿を確かめることもできるのだろうが、生憎とここには大きな鏡がない。
 眼鏡を軽くあげ、エルは小さく微笑む。
「さ、出発です」
 大きな麦わら帽子を被り、用意した水筒にいれたアイスティーをトートバッグに詰め込むと、彼女は部屋をあとにした。
 なんだか楽しく過ごせそうな予感がする……!

**

 広がる砂浜。そしてその向こうには青い青い海。美しいその眺めに感嘆の息を洩れる。
 砂浜には海の家がある。そこにはうちわを扇いでいる中年の男性がいる。犬の尻尾が生えていた。
「わぁ〜!」
 と、声をあげた観凪皇は遠逆深陰に対してはしゃいだ。
「水の掛け合いっこしましょうよ、深陰さん!」
「え……。な、なにそれ……?」
「なにって、恋人同士はよくドラマでやってるじゃないですか」
 途端、深陰は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「なんであんたとそんなことしなくちゃいけないのよ!」
 キーンと耳に響いて、皇は「はわ〜」と弱々しい悲鳴を洩らした。
 そんな彼らの背後から、誰かがやって来る。
「すっげー! なぁフレア、綺麗だな!」
 梧北斗がフレアよりも先に駆けて来た。
 大きな麦わら帽子をかぶったエルも、ようやく到着した。
 旅館から来たのはこの五人らしい。少なくとも、今は。
 目の前に広がる砂浜には、他にも客がいる。だが……全員海にいない。砂浜で足止めをくらっているのだ。
 旅館で聞いた話――スイカが異常発生していて海に入れないのであまりおすすめできない――の意味がこの光景を見てわかった。
 砂浜に埋もれているらしいスイカの一部が、ぽつんぽつんと見える。まるで地雷だ。上から見ればそう思えてしまう。
 砂浜に通じる階段を降りれば、もうそこは海だというのに。「キャー」とか、「わー」とか、砂浜を行き交う人々がいる。時にはぼごんと音がして、スイカが破裂していた。
「……うっわー……懐かしい光景だな〜……」
 物凄く嫌そうな、うんざりした表情で北斗がそう洩らす。
「なるほど」
 と、エルが呟く。
「仲居さんが言っていたのはこの事なんですね。確か、退治用の専用武器があるとうかがいましたが」
「それなら、海の家に売ってるぞ」
 フレアがエルに教えた。エルは軽く会釈する。
「そうですか。ではわたくしはお先に」
 トートバックを抱え直し、エルは階段を降りていく。残された皇は深陰の手を引っ張った。
「俺たちも行きましょう、深陰さん!」
「え、でも……。なんか大変そうじゃない? これならプールに行ったほうが……」
「俺は深陰さんと海で遊びたいっ!」
 大きな声で言うや、皇は我慢できなくなったらしく深陰を強引に引っ張って階段を降りていく。
 北斗はその様子を眺め、それから横に立つフレアを見遣る。
「……行く?」
「あぁ。でも、アタシはあまり手伝えないと思うぞ。ここは完全に制限されてるから」
「は?」
「アタシはここに居ちゃいけないってこと。居てもいいけど、人間として、ってことだから」
 肩をすくめるフレアは階段を降り始める。北斗は首を傾げつつ、それに続いた。



 海の家ではスイカ退治の専用武器が配られていた。水鉄砲である。子供のおもちゃだ。
「レンタル料金、一個100円ね」
 店主が「ほい」と北斗に渡す。
「いやあ、今年は爆裂スイカが異常発生したってんで、商売あがったりかと思ってたんだが……。どうしても海で遊びたいって人はいるもんでな」
「ウォーターガンみたいなのじゃねえの!?」
 北斗の不満の声に、店の主人はうちわをパタパタ仰ぎながら答える。
「大量に配るならこれが限界なんだよ。別に退治しなくていいんだぜ? 避けて海に入ればいいんだから」
「入れるわけねーだろ! 砂浜一面に埋もれてるの見えたぞ、上から!」
 地雷のような光景を思い出し、文句を言う北斗である。
「嫌ならそいつで退治するんだな。うまく近づいて海水をかければ動かなくなるから、まぁ頑張りな」
「あのスイカはお土産にもらえるんでしょうか?」
 エルはオモチャの水鉄砲を引っ繰り返して見ながら、店主に問い掛けた。
「持って帰ってもいいが、食べたら腹を下すぜ? でもって、お湯を少しでもかけると、今の状態に戻る」
 水鉄砲を受け取った皇は、ぐっと拳を握って深陰に向き直る。
「行きましょう、深陰さん!」
「えっ!? な、なんかさっきからあんた、目が怖いんだけど……」
 ドカン! と破裂音が響いた。店に居た全員が砂浜のほうを見遣る。
 スイカが破裂したらしく、それを全て被ってしまった女と男の姿が見えた。皇は深陰のほうに向き直り、神妙な顔つきで言う。
「俺だけで頑張ってきますから、深陰さんはここで待っててください」
「どうしたの、急に」
「行ってきます!」
 深陰を振り切るように皇は砂浜を駆けた。
(言えるわけないじゃないですかぁ……! スイカであんなびしょびしょになった姿、見たくないなんて……!)
 複雑な男心がここにある。スイカの汁や種を被るのはいいのだが、深陰がそんな状態になった姿を他の男に見せたくないのだ。
(想像したら結構えろっちかったなんて、深陰さんに言えるわけない〜っ!)
 自分はもっと健全に彼女と海で遊びたいのだ!
 水鉄砲を構え、埋もれているスイカ目掛けて引き金を引く。ぴゅう、と頼りない水の量が発射された。
 さて、海の家にまだ居るメンバーだが……。
 エルはお土産用にするため、店主から手頃な網を借りていた。
 水鉄砲をいじくりながら、北斗はフレアを見遣る。彼女は海の家で焼きそばを購入している。手伝う気はないらしい。
「一緒にやろうぜ、フレア」
「それは無理だとさっき言ったじゃないか。アタシはここでおまえの勇姿を見てるから、存分に戦って来い。海への道ができたら呼んでくれ」
 どっかりと軒先のベンチに腰掛け、彼女は焼きそばを食べ始めてしまう。そんなぁ、という気分になった。
(いや、ここでがっくりしてる場合じゃねぇな! そう……俺はフレアのためにも海への障害を取り除かなければいけないわけだ!)
 北斗は頭を軽く振って考えを改めるや、フレアをじっと熱く見つめる。
「よし! 待ってろ! すぐに全部退治してきてやるっ!」
「おぉ。期待してるぞ。ファイトだ」
 全く期待していないような声音だが、フレアはにっこりと微笑んだ。これがまた、彼女に惚れている北斗には効果覿面だった。
 彼はダッシュして砂浜を駆け抜ける。物凄い勢いだ。
 遅ればせながら、エルがたっ、と軽やかに砂浜に踏み出す。残されたフレアは深陰のほうを見た。
「や」
 片手を挙げて挨拶すると、深陰は頭を軽くさげた。
「彼氏と旅行? 可愛い彼氏だね」
「かっ、かわいくなんてないわよ、あんなやつ!」
 思いっきり否定する深陰は腕組みし、フレアの横に腰掛けた。そして頬杖をつき、ふてくされた顔で嘆息した。



 砂浜は大パニックである。破裂する小振りなスイカの洗礼に悲鳴をあげる人々。
 そんな中、エルは網を片手にゆっくりと歩いて水鉄砲を構える。騒いでいる周囲など、一切気にせず、だ。
「珍しいスイカですわね。一つは必ず持って帰りましょう」
 あぁしかし、腐ったりするのだろうか? まあいい。
 あら、と気づいてエルは右方向に進む。頭のてっぺんだけ覗いたような形のスイカを発見。普通に歩いていく。
 あまり近づきすぎるとスイカが破裂するという。
「これくらい?」
 近づきつつ、水鉄砲の引き金を引く。届かない。
「これくらい……ですか?」
 さらに近づき、引き金を引く。じりじりと近づくエルは、周囲を見回した。他にも水鉄砲を手に走り回っている人たちを眺め、射程距離をはかった。
(……かなり近づかないとダメのようですね……)
 それはそれで危険だ。だがやってみる価値はある。
 じりじり、じりじり……。
 砂を、サンダルを履いた足で避けつつ、進む。あと少し、というところでスイカがぷるぷると震えた。あ、まずい、と思ったエルは駆け足でそこから脱出する。背後でスイカが破裂した。

(愛する深陰さんのためにも頑張るぞ〜)
 むん、と気合いを入れると皇はチャキン、と水鉄砲をピストルのように構える。
 彼の周囲ではスイカの破裂音と、悲鳴があがっている。海辺なだけに、カップルが多い。
(俺と深陰さんの邪魔をするヤツは、馬に蹴られてしまえ……!)
 水鉄砲をうまく操ってスイカに水を当てていく皇。なんだか執念すらうかがえる様子だ。
 とにかく海へ続く道を作らなければ。
 皇と同じく軽い身のこなしでスイカに水を当てているのが、北斗だ。
 二人とも目の色が明らかに違っていた。
「どけどけどけーっ!」
 水鉄砲の引き金を引きつつ、北斗が物凄い勢いで砂浜を駆け抜ける。
 二人はちょうど背中合わせになった。
 ふ、と北斗が笑う。
「なかなかやるじゃん、あんた」
「そっちこそ」
 皇も笑う。二人とも妙にテンションがあがっているせいか、怪しげな笑いを口元に浮かべていた。

 悲鳴がとりあえず止んだのは三時間もあとのことだった。時刻は昼の2時過ぎ。
 砂浜はスイカの汁まみれだ。
 若干スイカが残ってはいるが、粗方片付いている。
「よければアイスティーをどうぞ」
 エルが、海の家の軒先でぐったりと倒れている皇と北斗にコップを差し出す。だが二人は無反応である。よっぽど体力を消耗したのだろう。
「アタシが受け取るよ」
 フレアがエルからコップを受け取った。コップからアイスティーを飲んだフレアが「へえ!」と声をあげる。
「美味しい!」
「お褒めいただき、恐縮です」
 微笑むエルの足もとには、アイスティーを入れてきたトートバッグの他に、網がある。捕まえたスイカが二つ、網の中に入っていた。
 深陰は呆れたように皇を見下ろす。
「……遊ぶ前に疲れてどうすんのよ、あんたは」
「だ、だって……ど、どうしても深陰さんと海へ……」
 皇の答えに深陰は嘆息する。
「はいはい。あとでいくらでも一緒に遊んであげるから」
「うぅ、嬉しいです、深陰さん……」
 感動してしくしくと泣き出す皇の横で、倒れたままの北斗が親指を立てる。
「も、もうちょっと待ってくれよな、フレア……す、すぐ回復して一緒に海にい、行こうぜ」
 へへへと乾いた笑いを洩らす北斗に「ああ」とフレアが微笑む。
「早く回復してくれよ。遊べないからな」
「お、おう」
 広がる青い青い海……だが、まだそこで遊ぶ者の姿はない。疲れきった人々は海の家で、とりあえず腹ごしらえと休憩をとっていた。スイカを相手に削った体力を回復するには、まだかかるらしい。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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PC
【6236/橘・エル(たちばな・える)/女/20/斡旋業職員】
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】
【6073/観凪・皇(かんなぎ・こう)/男/19/一般人(もどき)】

NPC
【ヒコボシ(ひこぼし)/女/外見年齢10/星の導き手】
【オチヒメ(おりひめ)/男/外見年齢10/星の導き手】

【フレア=ストレンジ(ふれあ=すとれんじ/女/?/ワタライ】
【遠逆・深陰(とおさか・みかげ)/女/17/退魔士】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ご参加ありがとうございます、橘様。初めまして、ライターのともやいずみです。
 素敵な水着姿でスイカ退治に参戦し、お茶も振る舞っていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCゲームノベル・星の彼方 -
ともやいずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年08月06日

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