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『私と彼女のダイアリー・2 』
龍宮寺・桜乃7088)&葵(NPC4559)

「おーなかすいた、腹へーったー。なんかくれー♪」
 鼻歌を歌いながら、私は社員食堂へ向かう。
 時間は午後を少し回ったぐらい。お昼時からはちょっと遅い。
 社長は容赦なく仕事振ってくるし、忙しいからお昼も皆より遅くて色々大変だけど、ここの会社のいいところは社食が二十四時間使えるとこなのよ。食品関係を扱ってるってのと、いつでも美味しい食事が出来るようにって心遣い。こういうのってなにげに嬉しいわよね。
「何にしよっかな」
 今日のお勧めは「夏野菜のカレー」かぁ。夏はカレー美味しいわよね。私は仲のいい食堂のおばちゃんに声を掛ける。
「お勧めのカレー、大盛りでよろしくー」
「今日も大盛りかい。そうそう、これ取っといたから、良かったら食べなさい」
 そう言うと、私のお盆に二つデザートを乗せてくれるおばちゃん。小さな声で「内緒だよ」って。
 わーい、スイーツげっと。
 大抵ここで食べるときは大盛り。だって食堂のご飯美味しいし、メニューも色々あるし、内装もお洒落なレストランぽいし……って、最後のは関係ないわ。
 カレーと付け合わせのサラダ、そしてトッピングにチキンカツと温泉卵を受け取り、席に座った私は、早速携帯でメールを打ち始める。
 えっ、食べ過ぎ?若いから食べ盛りなのよ。

 『スィーツ確保。食堂おいで』

 よし、メール送信っと。普段はこんな素っ気なく一言メールのやりとりなんてしないけど、今日は急ぎだから別。何分で来るかなー。わくわく。
 カレーに温泉卵を乗っけたり、はふはふと食べていたりしていると、葵ちゃんは五分で私の前にやってきた。うーん、今日もきっちりと着ている制服が眩しいわぁ。
「やほー、早いね」
 右手をひらひらさせる私に、葵ちゃんは私の前の席にすっと座った。
「丁度総務課に届け物をしていた時でしたから、抜けやすかったんですの。休憩時間ですわ」
「おおー偉い偉い。ご褒美に特製プリン進呈」
 社食のスイーツも美味しいのよ。このプリンも人気メニューで、お昼時に間に合わないとなかなか食べられないんだから。おばちゃんに「食べっぷりがいい」って覚えてもらってるから、お取り置きしてもらえてるけど。
 プリンを受け取った葵ちゃんは、少し笑ってそれを受け取る。
「ありがとうございます。こちら、人気だって伺ってたんですけど食べたことがなくて……」
 このプリンうまうまなんだから、食べて食べて。私も一口……んー、この滑らかさと絶妙な甘さがたまらないわぁ。葵ちゃんもそっと食べてるけど、何か落ち着きがない。
「仕事中だったでしょ?ゴメンね」
「ええ。でも桜さんからのメールでしたから。課が違うとなかなかお会いしませんし、顔ぐらい合わせたいですもの」
 嬉しい事言ってくれるなぁ。もう。
「よかったわぁ、これぜひ食べて欲しくて。どう?」
「私も食べてみたかったんですの、ありがとうございます。とても美味しいですわ」
「なら良かったー。それにほら、そろそろ買物行かなきゃだし」
 その瞬間、スプーンを持つ葵ちゃんの手が止まる。
「お買い物……ですの?」
 あ、この様子だと葵ちゃん任務のこと忘れてるな。
 私達は表向き事務や受付をやっているけど、実は篁コーポレーションの社長が持つ個人組織Nightingaleの一員。こんど護衛任務があるんだけど、場所会社の保養所のある海だから、水着買いに行こうって言ってたのに。
 私はきょとんとしている葵ちゃんに、思い出させるようカレーを食べつつ話す。うーん、今日のカレーも絶品だわ。
「ほら海水浴用の水着よ」
「水着って今はお仕事中ですし、お休みの時じゃないと……」
 いつも思うけど、葵ちゃんって真面目よね。いや、私が不真面目なのか。
 でも、お休みの時って言っても、私と葵ちゃんお休みが合わないのよ。合うの待ってたら海に行く日にち過ぎちゃうじゃない。
「護衛任務なんだしこれも仕事の内よ。問題ナッシング」
「出かけるのでしたら、事務課の課長に外出届を頂いてきますわ」
「許可?私の許可じゃダメ?」
 私、Nightingaleでは葵ちゃんよりちょーっと立場が上なのよね。一応命令権があったりするのよ。
 まあ、事務課の課長にはそれは通じないから、流石に私から連絡して、上の方から事務課の課長に言ってもらわないとダメなんだけどね。私、社内ではぺーぺーだし、Nightingaleって秘密部隊だし。
 許可って言われてそれを思いだしたのか、溜息をつく葵ちゃん。
「桜さんにそう言われると、お断り出来ませんのよ。私」
「まーまー。上にメールは出しとくから、理由のない外出にはならないし。さ、買い物行こ♪」

 制服姿のまま私達がやって来たのは、『水着庭園』ってファッションビルの季節コーナー。
 ここは私のお勧めの場所。すっごくに可愛い水着や、極端に前衛的でセクシーなデザインの水着が多く並んでるの。ごく普通のはスポーツ系を除いたら少なめ。コンセプトが「海でのおしゃれ」だから、小物やサンダルとかもやたら可愛い。
 やっぱ女の子だし、可愛い水着着なくちゃね。
「何か色々ありますのね」
 たくさんの色とりどりの水着を、珍しそうに見ている葵ちゃん。メールでも水着買いに行こうって話はしてたんだけど、ジムに行ったときに着る競泳用の水着しか持ってないって言ってたのよね。学生時代はスクール水着だったって話だし。
 でも、折角海に行くのにそれはもったいなさ過ぎだわ。スク水も一部の人には人気だけど、海で着てたら別の意味で注目浴びちゃう。
「可愛くいくかセクシーで攻めるか。ナンパ目的ならセクシー系?それともキュート系?」
「………」
「でも最近ロリコン多いし……そんな奴嫌よね」
 同意を求めつつくるっと振り返ったら、葵ちゃんがそーっと遠くに行ってた。
「ってって葵ちゃん、何躊躇してんの。こらこら、競泳水着の方に逃げない」
「でも、こんなに露出が高いと恥ずかしいですわ」
 むー、メールでは頑張って素敵な水着を選ぶとか言ってたけど、いざとなったら尻込みしたか。普段、戦闘とか護衛とかじゃ絶対怯まないのに、こういうところは乙女よね。
 でも、ここで競泳用水着は、天が許しても私が許さないわよ。私がいるからには、葵ちゃんに似合う可愛いやつを選ばせるんだから。
 ぐいぐいと葵ちゃんの手を取り、私は可愛い水着ゾーンに引っ張っていく。
「今時のに慣れなさい。社長やあの人に誉められたいでしょ?」
「そ、それはそうですけれど……」
 こういうときは、葵ちゃんの高い向上心をくすぐったげないとダメなのよね。会社の事務系で使う資格とか、戦闘訓練の時とかはすごく真面目に真っ直ぐ取り組むのに、悲しいかな葵ちゃんってばおしゃれにほとんど興味がない。最近私と一緒に服買いに行くまで、普段着はジャージとTシャツだったんだから。折角長くて綺麗な黒髪美人の、ナイスプロポーションなのに、隠したらもったいないわっ。
「スタイルいいんだし露出高くいくわよ、あちこちきわどくね」
 まずそう言って私が選んだのは、三角ビキニだった。葵ちゃんははっきりと濃い色の方が似合いそうだから、色は黒。胸元で縛ってあるようなリボンも付いている。
「まずこれ行こっか。上下チョイスだから下はハイレグよね……すみませーん、試着お願いします」
 そうそう、ここは専用の下履きをつければ水着の試着オッケーなのよ。ちゃんと試着用の水着もあるから、衛生面とかも安心だし。やっぱその辺大事よね。服着たままだとシルエットとか分からないし。
「ち、ちょっと桜さん?ハイレグって……」
「はいはい、試着するだけならタダなんだから、どんどん着て似合うの選ぼ」
 着替えるのには時間がかかりそうだから、その間にまた別のを選んでおく。ホルダーネックのもいいし、ミニスカがついてるのもいいわよね。
 ワンピースだったら体の線がはっきり出るエロ格好いい路線でー、あっ、このローライズのビキニもいいんじゃない?これを着こなせるのはなかなかいないわぁ。
「あの……桜さん?」
「あ、着替え終わった?……って、どうしてカーテンから顔だけ出してるのよ」
 試着室から顔だけ出してるのも可愛いけど、それじゃ私が見られないでしょ。
 とーう!と思いきりカーテンを……こらこら、自分で閉めたらダメだって。ええい、減るもんじゃないんだし、覚悟を決めろ。
 ばっとカーテンを開けると、私の思ってた通り葵ちゃんのビキニは似合っていた。うん、これよー、海で見たら絶対いいわぁ。
「可愛ーい。やっぱ葵ちゃんビキニ似合うわぁ」
「でも、恥ずかしいですわ。やっぱりワンピースが……」
「ダメだって。下手に隠してた方が恥ずかしいし、それにいいの?社長狙ってる秘書課の人に負けちゃうわよ」
「うっ……それは嫌ですわ」
 社長ってば若くて格好いいから、狙ってる人も多いのよね。秘書課の嫌な女が最近露骨に狙ってるって話も、葵ちゃんとはメールでしてたし。そうそう、向上心も高いけど、競争心も強いのよね、葵ちゃん。
「んじゃ、このヒモもね」
「が、頑張りますわ……」
 ヒモで布面積の少ない超セクシー水着やティーバック、アニマル柄や三角ビキニ。とにかく私が似合いそうだと思った物をどんどん着せる。
「ちょっと、このビキニは大胆すぎますわ……」
 ホルダーネックでローライズのビキニを着た葵ちゃんが、しきりにお尻の方を気にする。
「うーん、似合うけどやっぱりあんまり『攻め』って感じだと逆に引くわよね」
「攻めって、桜さん。私達の任務は護衛ですわよ」
 こらこら。それも確かにそうだけど、海行ったのに何もないのもつまらないでしょ。恋愛したくないの?
「考えてもいませんでしたわ」
 うぬぅ、純情な奴め。でもそのギャップはいいかも知れない。
 色んな水着を取っ換え引っ換えして、最終的に私と葵ちゃんの二人で決めたのは、無地の青いホルダータイプのビキニに、大きな薔薇が描かれたパレオのついたやつだった。
「これなら足下も隠れますもの……」
 葵ちゃんはそれが気に入ったみたいだけど、甘いわ。パレオは透けたり歩いたときに見える足がポイントなのよ。葵ちゃん足長いから様になるし、いざとなったらパレオ取っちゃってもいいんだし。
「んじゃそれにしよっか。あ、小物とか分かる?」
「小物も必要なんですの?」
 サンダルとか、ヘアバンドとか、水着入れるためのバッグとか色々あるじゃない。
「取りあえず、パーカーぐらいは買おうと思ってたんですけど」
 ま、取りあえずそれでいっか。水着以外は私が揃えてあげよ。まだ社長からカード預かってるし。
 水着に着替えるのは遅かったのに、自分の服に着替えるのは妙に早い。ささっと制服に着替えて、私をじっと見る。
「桜さんは水着は新調しませんの?」
「するに決まってんじゃない。今度は私に付き合って、可愛いの選んでもらわなきゃ」
 そうしたら、やっとほっとしたのか少し頬笑んで。
「こちらなんかどうですの?セクシー路線ですわよ」
 葵ちゃんが出したのは、紫色で胸の先だけ隠れて下はヒモのティーバック……って、こんなの誰がどこで着んのよー。どっかのセレブ姉妹じゃなきゃ着こなせないもの選ばないでよ。あー、自分が恥ずかしい思いしたから、根に持ってるわね。
「よし、じゃあ葵ちゃんも着てくれたら着るわ」
「お断りしますわ」
 ……早っ。

 結局私が新調したのは、上は面積小さめの明るい赤色のビキニブラ、下はオフホワイトの綺麗なデニム生地の短パン、それにヒールが低めの可愛いサンダル。葵ちゃんも私がサンダル選んだのを見て、水着と同じ青っぽい色のサンダルを履いてみて買うことにしたみたい。そうよね、サンダルは合わないの履くと足痛くなっちゃうもの。
「じゃ、まとめて精算してくるから、ここで待っててね」
 さりげなく葵ちゃんを待たせて、レジに。葵ちゃんの支払いはカードで、私は自腹。無論葵ちゃんには内緒。言ったら絶対遠慮して、自分が持ってる競泳用水着着てくるし。
「水着って、布が少ないのにどうしてこんな高いのかしら……」
 自分のぶんはちょっとお値段痛いけど、今年は社長がビールくれるって言うからそのぶん浮くし、それにここでカード使うと、多分私ダメになる。
 そもそもカード借りてる理由だって、おしゃれに興味のない葵ちゃんに少しは女の子らしく可愛い格好させたいだから、私の私物は買わないの。
「お待たせー」
 二つ紙袋を持って、一つは葵ちゃんに。
 私はにこっと笑って、歩き出して。
「海楽しみだね、葵ちゃん」
 そう言ったら、葵ちゃんも嬉しそうにはにかんで。
「そうですわね。海に行くのは久しぶりですし、皆さんと一緒なら楽しそうですわ」
 よしよし。きっと賑やかで楽しい一日になるんだろうなー……っと、ちょっと携帯いじらせて。
 実は葵ちゃんが試着してたとき、こっそり携帯のカメラで隠し撮りしてたのよ。ちょっと特殊装備だから、カメラはその辺で売ってるデジカメの画質なんか軽く越えるけど。
「どうかなさいましたの?」
「あ、うん。ちょっとね……」
 ……まさか社長達にお土産なんて言えないし、隠し撮りされたなんて知られたら締め上げられるわ、文字通り。
 ま、それは置いといて会社帰ろ。
 あー、何か楽しみになってきたわ。護衛とかもあるけど、一人ぐらいいい男が引っかかるといいわぁ。
 夏だもの、恋愛しなきゃ。
 葵ちゃんにも、協力してもらっちゃうからね。

fin

◆ライター通信◆
ありがとうございます、水月小織です。
海の行く話の前に、水着を買いに行く話をとのことで書かせていただきました。
桜さんが葵をリードしつつ、仲良く水着を選んでいる所が書けているなと思っています。お買い物は楽しいですよね。葵も桜さんに連れられて、その楽しさが少しずつ分かってくればいいのですが…。これからも連れ回してやって下さい。
リテイク、ご意見は遠慮なく言って下さい。
またよろしくお願いいたします。 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年07月30日

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