▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『美味しい食事に乾杯! 』
ガイ3547)&(登場しない)

 夕食時の酒場や食堂は、どこも仕事帰りの職人達や冒険者でごった返しているものだが、本日のこの店は普段よりもさらに賑やかなことになっていた。
 店の中心に位置する大きなテーブルに、クマと見間違えそうな大男が1人。その身長は2メートルもあろうか。
 しかも裸足に腰巻き、マントのみで、そのがっしりとした体躯を晒しているとくれば、目立つのも当然と言えよう。
 彼の名前はガイ。賞金稼ぎをしながら世界各地を渡り歩いているオーラバトラーである。
「お客さん、本当に気持ち良いくらいよく食べますねぇ」
 テーブルへと追加料理を運んできた店員が、ガイの様子を見て思わず笑った。
「いやいや、こんなのまだまだ序の口さ。じゃんじゃん持ってきてくれ! ああ、お代のことは心配無用だぞ! こないだ捕まえた賞金首の懸賞金が、がっつり入ったからな!」
 豪快にガイは答えながら、料理の乗った大皿を手元へと引き寄せた。
 右手にした野菜のサンドイッチを大口で頬張ったかと思えば、空いた左手で若鶏の唐揚げを取り上げて口へ運び、もぐもぐ咀嚼して、次は木の実のサラダへフォークを伸ばす。そしてその合間に、ジョッキにたっぷりと注がれた酒を美味しそうに飲む。ピリ辛に仕上げられたスパゲッティを平らげると、次はカボチャとコーンのスープに取り掛かり、その目の前には焼き立ての魚料理、香ばしいキノコのバターソテーと続いている。
 それらの仕草がどれも、見ているこちらまで食欲をそそられるほど楽しそうで満足そうなのだ。食事が好きでたまらないといった様子である。先ほど本人が、まだ序の口だと言っていたが、どうやら本当のことらしい。これは料理人も腕のふるい甲斐があるというものだ。
「美味い、この料理は何てぇ名前だ? お、こっちのも塩加減が絶妙だねぇ、気に入った!!」
 ガイの心から嬉しそうな声に、周りの客達の顔も自然にほころんで会話が弾む。新しい酒樽が開けられ、いよいよ酒場が盛り上がってきた、そのときだった。


「なんだとォ?! このハゲ頭、もっぺん言ってみやがれ!!」
「何度だって言ってやらァ! お前なんざ、いつまでたっても半人前なんだよ、トンチキ野郎!」
 ガタァン! と木の椅子の倒れる音と共に、明るい雰囲気にそぐわぬ罵倒が酒場の中に響いた。
「ん?」
 南国風味のピザパイに夢中になっていたガイも、その騒音に振り返る。その視線の先では、2人の男が真っ赤な顔をして睨み合っていた。
 所謂、酔っ払い同士のケンカというやつだろう。酒場という場所ならば別段珍しい出来事でもないが、せっかくの楽しい雰囲気が一瞬にしてぶち壊され、客達も店員も一斉に眉をひそめた。
 本人達は酒のせいで周りを見る余裕などなくなっており、やれブタ男だの、やれトウヘンボクだのと大声で互いを貶し合っている。そのうちそれはヒートアップしてきて、2人は胸倉を掴むと派手な音をたてて殴り合いのケンカを始めようとした。
「おっとっと、待ちな!!」
 そこに割って入ったのは他でもない、ガイであった。2人の酔っ払いは、ガイの体躯の良さに思わず言葉を失いかけたが、酒の勢いとケンカの熱が後押ししてか、今度は怒りの矛先をガイへと向けた。
「なんだァてめえ、でかいなりしやがって。何か文句でもあんのかァ?!」
「これは俺達の問題なんだよ、余所者は引っ込んでな!!」
「そういうわけにゃあ、いかねえさ。せっかくいい気分でみんな飯を食ってるんだ。それを邪魔しちゃいけねえよ」
 ガイが言うと、なんだとォ…とつぶやいて片方の酔っ払いがガイにくって掛かった。
「こっちは大事な話をしてんだよ!てめえにゃ関係ねえことだ、黙って隅っこでジュースでも飲んでろ!」
「だから…」
「うるせェ!! これでも食らえ!!」
 そのままその酔っ払い男は、ガイに向かって拳で殴りかかろうとした。…が。
 ダン!という音と同時にあっけなく床に倒れて気絶した。拳を片手で受け止めたガイが、もう片方の手で男の首の後ろに手刀を叩き込んだのである。賞金稼ぎをしている戦士ともなれば、こういったケンカの類は慣れたものだった。
「な、な…」
「皆楽しくやってんだ、それを壊しちゃいけねえって言っただろ? わかったらお前も今日はさっさと帰りな」
 残ったもう1人に、ガイはひらひらと手を振る。しかしそんな風に言われては、こちらの男も黙ってはいられない。卑怯にも空いた酒瓶を片手に、大声をあげながらガイへと全力で突っ込んできた。あぶない…!と周りの客が思ったのも束の間、ガイはひらりと男の攻撃をかわすと
「酒は飲んでも…!」
 瓶を避けられ、慌てて振り返った酔っ払い男の顔面を、その頑丈な裸足で思い切り踏みつけた。
「飲まれるな、っと!」
 ガッターン!という音と、蛙のつぶれた様な声をあげて、そちらの男も床へと撃沈する。当然の如く、意識はない。やれやれと呟きながら、ガイは気を失った2人を酒場の端っこへと積み上げて、軽く一仕事終えたようにパンパンと手を払う。そしてその時点でようやく、店中の視線が自分に集まっていることに気がついた。
「…ん?」
 しーんとして、ガイを見つめる人々。2人の酔っ払いがあれよあれよという間に片付けられたことによる、沈黙。
 そして次の瞬間、一斉にワーッという歓声が酒場中を満たした。
「やるなぁ、でっかいの! いやあ、俺まですっきりしたよ!」
「天晴れ! 見事なもんじゃのう!」
 わいわいと酒場にいた人々がガイの周りを囲む。
「ありがとうございます、お客さん、助かりました…! お礼と言ってはなんですが、これ、サービスです!」
 店員が満面の笑みで、フルーツの盛り合わせをテーブルへと運んできた。
「おうおう兄ちゃん、俺にも一杯奢らせてくんな!」
「アタシからも、はい! このデザート、どうぞ食べてちょうだい!」
 居合わせた人達が次々にガイのテーブルへと料理や酒を乗せて、見る見るうちにテーブルがいっぱいになる。
 それを見ながら、呆気にとられてガイはがしがしと頭を掻いた。
「えっ、なんだなんだ、そんな大したことしたつもりはねえが…いいのかい?!」
「もちろんだよ! さあさ、遠慮しないで!」
「そうか、それじゃありがたくいただくか! みんなもこっちへ来て一緒に食わねえかい?! やっぱり飯は大勢で楽しく囲むのが一番ってもんだ」
 酒場はすっかり活気を取り戻し、その賑やかな声を聴きつけて、さらに外から人が入ってくる。ガイは沢山の笑顔と料理に囲まれて上機嫌でジョッキを高く持ち上げた。
「そんじゃ改めて、みんなで食う美味しい飯に、乾杯!」
「カンパーイ!!!」
 その日の酒場は夜更けまで、元気な笑い声や話し声、優しい明り、陽気な音楽が途絶えなかった。

〜fin〜
PCシチュエーションノベル(シングル) -
あざな クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年07月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.