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『●ユズリハ 』
天井麻里0057)&ヴァルス・ダラディオン(NPCS011)


「気が付いたか?」
 コロシアムに付属された医務室。ヴァルス・ダラディオンは、ベッドに寝かされた少女に声を掛けた。
「ここは……。また、わたくしは負けたのですね……」
 呟く少女。名を、天井麻里。ヴァルスに挑戦し続ける武道家である。……連戦連敗中ではあるが。
「それにしても、おまえも懲りん奴だ。まあ、若い内はそれで丁度良いかも知れんが、な」
 苦笑を浮かべるヴァルス。彼の記憶上、かつて、彼女程しつこく挑んできた人物は珍しい。
「次こそは……次こそは勝って見せますわよ!」
「解った解った……。だが、続きはまた明日だ」
 文字通り食って掛かりそうな麻里を、苦笑を浮かべながらあしらうヴァルス。朝早くから勝負を挑まれ、彼女が昏倒するまで叩き伏せる。それが既にヴァルスの日課になりつつあった。

 翌日。
「さあ、勝負ですわよ!」
「解っている。さあ、何処からでも掛って来い!」
 対峙する麻里とヴァルス。剣を構え、結界を築くヴァルスに対し、如何攻めようか、今までの経験をフル動員して考える麻里。
「来ないのならば……此方から行くぞ!」
 姿勢を低く、豹の様にしなやかな動きで突っ込むヴァルス。彼の身には、幾度と無く手合わせをしてきた麻里の手口が刻み込まれている。彼女の得意な武器は蹴り。重心を低く、且機敏な動きを取れる様にしておくことが、最も有効な対処方である。だが、標的の方から近付いてきたと言う一点だけで見れば、必ずしも麻里にとって不利ではない。
「甘いですわ!」
 低くなったヴァルスの頭部目掛け、中段蹴りを放つ麻里。鞭のようにしなやかな足がヴァルスの米神を襲う。
「それは俺の台詞だ!」
 伸びてきた麻里の足首を、片手で跳ね上げ、軸足を払うヴァルス。そのまま転倒した麻里の首筋に剣を突きつける。
「……先ずは一本。だな?」
「ま、まだまだですわ!」
 力の差を見せ付けるヴァルスを、必死で睨みつける麻里。ヴァルスのほうも、彼女が勝つか、動けなくなるまで続くと言う事は承知している。だが、油断でもしない限り、彼が負ける事は考えられない。だから、彼女が倒れるまで相手をする事になるのだ。
「……全く、とんでもない奴に見込まれたものだ……」
 口の中で呟くヴァルス。
「何か言いまして?」
「いや、なんでもない。準備は良いか?」
 こんな調子で一日は過ぎていくのである。

「勝負あり、だな?」
 もう日も暮れかけた頃。本日幾度目かの勝利宣言が行われる。
「ま、まだまだですわ!」
 やはり、幾度目かの同じ台詞が繰り返される。だが、今日は勝手が違っていた。
「気持ちは解るが、今日はもう遅い。また、明日にしよう。照明をつけるのは勿体無いしな」
「……解りましたわ……ですが、明日こそは必ず!」
「まあ、その為にもしっかり疲れはとっておけ。じゃあな」
 悠々と去ってゆくヴァルス。実際、周囲は伸ばした手の先が見えるかどうかと言うところまで暗くなっている。
 だからこそ、休戦を受け入れたのだが。
 自分はまだ、立っている。
 それは、本来ならば喜ばしい事かもしれない。今までは、KO負けだったのが、今回は判定負けまで成長したのだから。
 だが、何故か、不安が残る。それは、今まで厳しかった人が急に優しくなったのと通じる物があるのかもしれない。ともかく、何故か腑に落ちない。だから、ヴァルスを追いかけることにした。胸に残る不安の正体を見極める為に。

 一方、ヴァルス。
「やはり、衰えは止まらんな……」
 ヴァルス・ダラディオン、35歳。肉体のピークはとうに過ぎ、徐々に体力は衰えて行く。連日の麻里との戦いは、確実に彼の体に疲労を刻み付けてる。
「……今日は銭湯にでも寄って疲れを癒してゆくか……」
 長時間の戦闘からの開放、そして、彼の肉体に刻み込まれた疲労は、彼に一瞬の隙を作った。細い路地に折れた瞬間、走り寄ってくる足音。
「ヴァルス・ダラディオン、覚悟!」
「むうっ!」
 後ろから突っ込んで来た影、とっさに身を捻るヴァルス。腰から太股に掛けて、生暖かい物が流れ落ちた。
「お前……、いやお前等……何者だ?」
 慌てず、冷静に状況を把握しようとするヴァルス。影とすれ違った拍子に腰を軽く斬られたらしい。そして、どうやら、数人に囲まれているらしい。
「貴様を快く思っていない者も少なからず居るって事だ! チャンピオン!」
「白昼のコロシアムでは勝てんので徒党を組んで闇討ち、か……御苦労な事だ」
 建物を背に、剣を構えるヴァルス。傷は深くは無い、が、まだ血も止まって居ないようだ。時間を掛けるわけには行かない。だが、迂闊に切り込むのは自殺行為だ。
「お待ちなさい!」
 不意に浴びせられる声。闇討ち、と言う後ろめたいことをしている連中に動揺が走る。
「一人で勝てないからと言って多人数で闇討ちなんて卑怯ですわ!」
 路地の明るい側に仁王立ちしている一人の少女。そう、天井麻里だ。そして、ズビシッと指差し、さらに続ける。
「彼にはチャンピオンで居て貰わねば行けませんわ。そう、わたくしが勝つまでは!」
「……おいおい……」
 流石にヴァルスも負傷を忘れて呆れ返る。だが、闇討ちを仕掛けていた悪漢は動揺するばかりである。
「み、見られたからには貴様も放っては置けん、ヴァルス共々闇に葬ってくれる!」
 悪漢の内一人が麻里に向かって一直線に突っ込んでくる。
「突っ込むばかりでは能がありませんわね?ウインドスラシュ!」
 麻里の手から真空破が放たれる。魔法の刃は、突っ込んで来た悪漢のみならず、その後方に居た輩も傷つける。
「今ですわ!」
「応!」
 すかさず攻勢に転じるヴァルス。近くに居た相手を切り伏せ、さらに逆側の相手を裏拳で沈める。
 その間に麻里も手近な方から順に、飛び蹴り、肘、後ろ回し蹴りと沈めていく。
「成程、中々やる物だ」
 麻里の手際の良さに感心するヴァルス。若さゆえの勢い。それは、ヴァルスが失いつつある物だった。
「片付いた様ですわね?」
「ああ」
「あの程度の相手に遅れを取ってもらっては困りますわ。貴方はわたくしの目標なのですから」
「面目ない。今回は礼を言わせて貰おう。」
 腰を抑えて苦笑を浮かべるヴァルス。
「ところで、大丈夫ですの?」
「……大した怪我ではない……が、塞がるまでには数日掛るだろうな……すまんが、それまで待っていてくれ」
「解りましたわ。完全な状態の貴方に勝利する事こそ、わたくしの望みなのですから」
「フ……古き葉と新しき葉が同時に茂る、か……」
「?」
「いや、何でもない。俺に追いつく日を楽しみにしている。それでは、な」
「ええ」
 こうして、闇に消えるヴァルスを見送る麻里であった。

 ユズリハ。古い葉が残ったまま、新しい葉が芽吹き、その後ゆっくりと古い葉が落ちてゆく植物である。麻里がヴァルスと並び、そしてヴァルスに取って代わるのも遠い未来の事ではない………のかも知れない。

 了

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 引き続きのご指名ありがとうございます、九十九陽炎です。
 今回も、楽しんで書かせて頂きました。
 宜しければ、感想等聞かせていただければと思います。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2007年07月23日

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