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『星屑に乗って 』
フィール・シャンブロウ(mr0341)

 六月の花嫁。
 ある国の神話では「六月」というのは、結婚を守護する女神の名前だとか。その為、この月に結ばれた花嫁は末永く幸せになれるだろうという伝承がある。
 夢か現か。
 月の光に呼ばれた幻獣たちが、幸せを望む者と共に夜空の銀幕を飛ぶ。
 普段ならば触れられない星屑、流れ星の軌跡。手を伸ばせば届くかもしれない。



「今宵我が背を許すは我が主、フィール・シャンブロウ」
 零れ落ちそうな星空の下、厳かに声を紡いだのは白い翼を持つ天馬だ。教養や名誉を象徴し、瞳は凛として誇り高き強さを宿している。何者にも屈しない天馬ではあるが、星降る夜、今はフィールに深く頭を垂れた。

 フィールは微かな衣擦れの音をさせながら、大地を踏み進み出る。普段纏っているようなゆったりとした魔導師のローブではなく、今身を包んでいるのは穢れのない純白のドレス。白や真珠色のレースを多く使い、胸元には花を纏めたコサージュで飾っている。
「ありがとう。まさか私がこれを着るときがくるなんて思わなかったわ……」 
 ふわりとペガサスの背に乗り、フィールはそっと密やかに唇を開いた。
 過去が己を形成するものであっても、人は今を生きるしかない。近い未来、例えば10秒先のことあであっても、予測することは不可能。だがそれも「普通の人間」なら、の話だ。学園で占術学を学ぶフィールは未来が恐らくこうなるであろう、と視ることができる。タロットカードといった比較的簡単なものから、水晶玉に映像を映し出すという高度な手法まで様々。占いは技術より、才能や経験から培われる術師の能力が重要であるが、結果としての現象から意味を読み解くにはそれ相応の知識も必要とされる。学術として道を究めるには気の遠くなるような時間が必要だろう。
「占術師が自分の未来もわからないなんてね」
「人を癒す薬師とて、いつ病に倒れるかわからぬもの」
 白い翼を羽ばたかせ、目的地をどこと定めることなくペガサスは飛ぶ。
「でも、私が言うのもなんだけど、だからこそ今が幸せなのかもね」
 無数に広がる分岐から自らが選び取った道を行く。もしかしたら永い時が流れる頃、未来を予測する方法が確立されているかもしれない。それでも、自分の人生を生きるのは自分自身。それだけは、いつの時代も変わらない真実だ。
「生まれが生まれだから今まであまりいいことが無かったけど、夜空の星は私が幸せになるのを祝福してくれるのかしら?」
 流れるような銀色の髪がさらりと零れ、それまで明るかったフィールの顔を隠す。僅かばかり振り返ったペガサスは暫し沈黙し、それからゆっくりと言葉を紡いだ。
「生まれる場所は選べずとも、死ぬ場所は選べる。どう生きるかは主次第。……星空だけでなくもちろん我も、主を祝福する」

 高く鳴き声を響かせ、ペガサスが空を駆ける。星が輝き祝福を示すのなら、夜空を駆け美しきものを巡り己なりの祝福を授けようというように。
 かなりのスピードで走っているが、強い風や寒さは感じない。フィールが意識を集中して辺りを視てみると、薄らとした膜のようなものが張られているのに気付いた。防護壁だ。魔術的な用具一切なしで、このような大きさのものを長時間創るのは魔力そのものが必要になってくる。試しに手を伸ばしそっと触れてみると、柔らかな弾力がある。まるで水の泡の中にいるようだ。
「……あなたはどう?」
 不意に問いを投げられ、ペガサスは少し驚いたように顔を上げる。走るペースを緩め、フィールに鬣や首の辺りを撫でられると心地良さそうに青い目を細めた。
「幸せとは何か、我にはまだわからぬ。……だが、とても良い気分だ。夜が終わってしまうのが心底惜しいと思えるほどに」
 繰り返し何度も触れてみても、ペガサスは少しも避けようとはしない。それどころか大人しくされるがままに、まるで子犬のように撫でられるのさえ楽しんでいる様子。
「それにしても、夜空は何度も眺めてきたけれどこんなに綺麗だと思ったのは初めてじゃないかしら」
 白や淡い赤、青。薄い緑。様々な光を放つ星を眺めながら、フィールは呟いた。
「星は常に流れ変わる。我も酷く永い間、それを見守ってきた。その日の心持ちや隣にいる相手、それを想えば同じ星空などない」
 ペガサスは足を止め、フィールと同じように夜の空へと視線を向ける。天には星、地には人の灯りがあった。
「星のかけらも手を伸ばせば届きそうね」
「我が主、それが望みならば」
 白い翼が大きく羽ばたかれ、それに命じられ光がある一点に一気に収束する。すぐ目の前に光の塊が生まれ、フィールが白い両手で包み込むと形を持ち具現化していく。何だろう。溢れた光を払うようにふっと息を吹きかけてみると、掌に乗せられていたのは一つの万華鏡。精巧な細工がされており、見た目にも美しい。覗いてみると、きらきらと輝く光の粒子や透明な硝子の欠片、ふわりとした鳥の羽。角度を変えながら見てみると、鏡は万の花を映し出しフィールの目を楽しませてくれる。
「下界で密やかな流行物になっていると聞いた。気に入ってくれると良いのだが」
「えぇ、綺麗よ。……ありがとう。願わくばこの幸せが永遠に続かんことを」

「万物は流れ変わる。月日、人の心もまた同じ。だが、人が永遠を願うその心こそ……それこそが真実の永遠と我は思う」
 万華鏡を手にしたまま、フィールは淡い笑みを浮かべる。肯定も否定もせず、地上に広がる人の灯りを眺めた。一つ、また一つと消えていく灯り。そろそろ深夜を過ぎ、本当に人々が眠る頃になってきたようだ。けれどまだ夜明けには時間がある。
「行きましょう。……とりあえず今はこの一足早い夜空のハネムーンを楽しもうかしら」
 誰も見ていない、誰も聞いていない。今此処に存在するのはフィールとペガサスだけ。
「あちらに精霊が守るという星の泉がある。今度はそこに案内しよう」
 恭しく頷くとペガサスはフィールを乗せ、秘密の場所へと飛び始めた。
 美しき純白の花嫁は、こうして一夜、星と天馬の夢を見た。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【mr0341/フィール・シャンブロウ/女/不明】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご参加ありがとうございました。少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。
それでは、またご縁があることを祈りつつ……失礼致します。
PCゲームノベル・6月の花嫁 -
水瀬すばる クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2007年07月18日

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