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『私と彼女のダイアリー 番外編 』
龍宮寺・桜乃7088)&黒・冥月(2778)&立花香里亜(NPC3919)

 うっわー、疲れた。
 この前商談?したフランス企業の子会社とのあれこれ、面倒だわぁ。
 会社って社長がいて、何か適当に指示してってイメージあるけど、実際は「日本支社及び、その契約により派生する関連会社との提携における諸問題の調整前の橋渡し」とか、「相手の日本支社&その関連企業がその契約を守っているかの調査」とか……あー自分で考えててめんどくさくなってきた。部下の私でこんなに面倒なのに、それを把握してる社長はすごいわ。
「でも、次の仕事は気楽なのよね」
 あとは商談場所に使った蒼月亭に行って、場所の使用料とかの話をするだけだから楽なのよね。マスターと社長知り合いみたいだし。こういう仕事ばっかりだと楽なんだけどな。
「おっ、見えてきた」
 蔦の絡まるビルと、古い木の看板。
 そっとドアを開けるとドアベルの音と共に、声が掛けられる。
「いらっしゃいませ、蒼月亭へようこそ。桜さん、こんにちは」
 ん?いつも隅っこで煙草吸ってるマスターがいない。香里亜ちゃんは黒髪のアジアンビューティーと談笑中……って、親友が師と慕う黒 冥月さんじゃないの。丁度いい、私の『目』でどんな人か観察しよ。
「こんちは〜香里亜ちゃん。この間はごちそー様」
 ここで商談した後、試作のケーキをごちそうしてもらっちゃったのよね。少し離れた場所に座ると、香里亜っちがレモンの香りがする水を持って来てくれる。
「いえいえ、感想すごく参考になりました。今日はどうされました?」
「あー、今日は仕事の後始末中なのよ。商談の時にここ借りたから。契約資料に載せにね……」
「大変なんですね」
 いい加減な資料作って後から色々言われたら、社長に迷惑かかっちゃうし、この辺はちゃんとしておかないとね。でもそう言いながら私は水を一口飲んで、溜息混じりに悪戯っぽく笑う。
「でも本音は息抜きってとこかな。社長には黙っててね?」
 マスターもいないし、ここって何か落ち着くのよね。仕事合間に休憩も取らないと、過労死しちゃう。
 そう言うと香里亜っちが満面の笑みで頷いてくれる。
「はい、分かりました」
 にこ。
 うわぁ、今の笑顔可愛い〜。この邪気のない笑顔覚えとこ。人を安心させる笑顔っていいわよねぇ。私もつられて笑顔になって、メニューを指さす
「お勧めケーキと紅茶よろしく。何が美味しい?」
「今日はフランボワーズのタルトと、レモンのロールケーキがあるんですよ。それとダージリンなんていかがですか?」
「んじゃ、それで」
 さりげなく話しつつ、香里亜っちに視線を送るついでに、離れた場所にいる冥月さんを観察してみる私。
 ……むう、隙がないわ。静かにコーヒー飲んでるけど、人形みたいに何も読めない。何というか、達人の域。でも香里亜っちと話すときは、その緊張感がちょっと緩む。やっぱ仲良いからなのかしら。
 あんまり見てると気付かれちゃうわよね。サングラスを直して水を飲むと、突然冥月さんと話していた香里亜っちが、私の方に手を差し出してにこっと笑った。
「あちら、今丁度話していたお友達の桜さんです。この前も一緒にいらっしゃってくれたんですよ」
 ぶはっ!何この急展開。
 あまりに唐突だったから、水噴きそうになったわ。しかも丁度話してたって、なんたるタイミング。噂をすれば影?
「ほう、あの子に友人がいたとはな」
 わーお、話しかけられちゃった。でもいい機会かな。ちゃんと挨拶しておこうっと。
「初めまして……」
 椅子から立ち上がって、挨拶をしようとすると二人がこっちを見た。その瞬間、ぞっと背筋に寒気が走る。
「………!」
 香里亜っちじゃない。冥月さんの視線に鳥肌が立った!
「どうした?」
 すうっと目を細める冥月さん。
 敵意じゃない……逆に観察されてる?
 ううん、違う。これは観察してた事を質す目だ。無意識に体が身構えるけど、どこまで下がれば安全か分らない。間合いが全く読めない。
「う……」
 でも下がっちゃダメ!不信感与えちゃう。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。前出ろ私。でも一歩毎に冷汗がじわっと流れる。
 ヘビに睨まれたカエルって、こんな気持ちなのかしら。ひーもう許してー、ごめんなさーい……。
「冥月さん、あまりじろじろ見ちゃダメですよ」
「ああ、すまない。つい癖でな」
「そんなに見られたら緊張しちゃいますよね、桜さんも」
「あ、う、うん……」
 急激に緩む圧迫。
 ……香里亜っち、あんた凄いわ。つか、さっきのプレッシャーの中、普通にポットやケーキプレート用意してたり出来るだけでもすごいのに、そんなあっさり近寄れて制御まで。
「今用意しますから、お待ち下さいね」
 すー、はー。深呼吸。
 よし、落ち着いた。こんなの緊張したのって久しぶり。私は改めて挨拶をし直すことにした。
「初めまして。桜です。貴女の事は彼女から聞いてます」
「黒 冥月だ。彼女の友人か……私のことを何と」
「憧れだって言ってました」
 ぐっ……と、一瞬なんか詰まったような表情になる冥月さん。こういうの苦手なのかしら、心なし表情が緩んだ気がする。香里亜っちは二種類のケーキを皿に乗せて、フフッと笑いながらこう言う。
「冥月さんは、皆さんの憧れなんですよねー」
「こら、そういうことを……」
 あ、冥月さんが慌ててる。でも全然気にしない風に、私のぶんのケーキを冥月さんの隣の席に置く。
「本当のことですよ。桜さんもこっちに来て、皆でお話ししながら食べましょう」
 ……香里亜っち、あんた大物だわ。私が同じ事言ったら、多分刺されるどころじゃ済まないわよ。
 でも近くに座ってお話しできるのは、ちょっとありがたい。話さないと分からないこともあるし、香里亜っちが一緒なら空気も和むし。それに折角お会いできたんだから、お願いしたいこともあるし。
「はい、フランボワーズのタルトとレモンのロールケーキです。ダージリンは砂時計が落ちてからカップお出ししますね。渋くなったらお湯もありますから。冥月さん、コーヒーのおかわりいかがですか?」
「ああ、もらおうか」
「はい。豆挽きますからお待ち下さいね」
 二人で話せるように、距離取ってくれたのかな。コーヒー豆とミルを出して豆を挽き始める香里亜っち。私はそれを見ながらタルトを口に入れる。
 うん、美味しいわ。甘酸っぱいだけじゃなくて、上にかかってるサクサクのそぼろ状のクッキー生地が香ばしい。思わず隣を見ると、冥月さんも同じようにタルトを食べてて、やっぱり嬉しそうな顔してる。
「ん?何だ」
「い、いえ。このタルト美味しいですよね」
「香里亜が作った菓子は、何でも美味いぞ」
 あ、何かちょっと恥ずかしそう。香里亜っちはそんな冥月さんと私を見て、暖めたカップをそっと出しながらこんな事を言う。
「ふふっ、そんなに褒めても何も出ないですよーっと。ちょっと冷蔵庫見てきますね。あずきミルクゼリー固まったかな」
 働き者だなぁ。それに楽しそうに作ってるのがいいのよね。
 さて、カップにダージリンを注ぎながら、私は冥月さんに話をすることにした。湯気と一緒にふわっと漂う良い香り……ダージリンはこの爽やかな香りも含めての味よね。
「あの、冥月さんにお会いしたら、是非お願いしたいことがあったんですけど、いいですか?」
 ふい、と冥月さんが私を見る。流石にさっきほどの威圧感はないけど、やっぱちょっと緊張。
「私に出来ることならいいが、何だ?」
「あの、私の親友と冥月さんはお知り合いなんですよね」
 冥月さんのことはその子から聞いてる。憧れの師なんだって。私の話に冥月さんは何か考えたようにふぅと溜息をつく。
「ああ、そうだ。あの子とは何度か一緒に仕事をしたことがあるが、それがどうかしたか?」
 よっしゃ。ちゃんと覚えててくれるってことは、結構気にしてくれてるのかな?何にせよ、印象に残ってるのはいいことだわ。私はサングラス越しにじっと冥月さんを見つめて、お願い事をした。
「お願いがあるんです、彼女悩んでる様なんで相談に乗ってあげて下さい。これメアドですから」
 覚えているメアドをささっと自分の名刺の裏に書き、冥月さんに渡す。
「悩みの相談って、直接の方がいいんじゃないか?それに、私にアドレスを教えてしまっても良いのか?」
 いや、それだと困るのよ。
 だって本当のところ、悩みがある訳じゃないんだもん。ただ、憧れの人なんだけどメールアドレスも知らないし、仕事でしか顔を合わせないって奥手になってるから、これをきっかけに仲良くなって欲しいな……っていう友達心かな。絶対自分から「メアド教えて下さい」なんて言わないし、あの子。
「いえ、会ってだと緊張すると思うし。あ、私達の組織こういうの大丈夫ですから、よかったらメールしてあげて下さい。彼女も喜ぶと思います」
 不審がられてないかな?名刺の裏表を見た冥月さんは、それをそのまま胸ポケットに入れた。
「分かった。親しいからこそ言いにくいこともありそうだから、私からもメールを出しておこう」
「ありがとうございます」
 ばんざーい、やったー。
 あの子ツンデレな所があるから、心配させてとか言って最初ちょっと怒られるかな。でも、その後で喜ぶんだろうなー、メールが行くまでは内緒にしておかないと。あ、でもいきなりメールが行ったら、誰がメアド教えたのかとか不審がるから、その辺は仄めかして……あー、何かこういうの楽しいわ。でもあんまり嬉しい顔してると「悩みがあるのに、その顔は何だ」とか言われちゃいそうだから、そのへんはしっかりと。
「あの子は、内に抱えそうなところがあるから心配だな……」
 いえ、そんなに深刻になられると困ります。
 軽く、軽ーく流してくれると……メールのやりとりして欲しいなって思ってるだけだから。
「あ、冥月さんが心配しているほどでは」
「いや。見て分かるぐらいなら、かなり悩んでいるんじゃないのか」
「冥月さんにあまり心配されると、彼女も戸惑うので……」
 うわおぅ、何か生真面目なのかしら。でもあんまり問いつめられて、今更「実はメールしてあげて欲しかっただけなんです」なんて言ったら後が怖い。きゃー、どうしよう。
「はい、冥月さん、コーヒー入りましたよ。あと、あずきミルクゼリーが美味く行ったので、お二人とも味見にどうぞ」
 あっ、天の助け。香里亜っちありがとー、助かった。ふぅ。
 香ばしい香りと共にコーヒーが置かれて、涼しげなガラスの器にはあずきとミルクの部分が二層になったゼリー。
 冥月さんはスプーンを持って、ゼリーの端っこを突いている。
「香里亜、これは別々に固めてこうなったのか?」
「いえ、あんこと牛乳にゼラチンを入れて普通に固めると、下に沈んで自然にこうなるんですよ。冷たいうちにどうぞ」
 んー、美味しい。あんこの優しい甘さとミルクがよく合うわ。これからの季節は冷たいデザートがあると嬉しいわよね。
「うん、美味いな。すまん、ちょっと電話だ」
 あれ?冥月さんってばクールな感想。
 甘い物苦手なのかしら……何か電話が来たみたいで、さっと席を立って外に出て行っちゃった。せっかく作ったのに、香里亜っちしょんぼりしなきゃいいけど。
 その姿を見送ると、香里亜っちがにこっと笑って内緒話をするようにこう言った。
「冥月さん、本当はケーキとか好きなんですよ」
 あ、いいこと聞いちゃった。今度メールで教えてあげなきゃ。
 ぱっと顔を上げる私に、香里亜っちは内緒ですよと自分の口に人差し指を立てる。
「ここだけの話ですよ」
「りょーかい」
 でも、あの子には教えてあげてもいいよね。それぐらいはきっと許してくれそうだもの。そっか、ケーキとか好きなんだ。美味しいもんね。甘い物は幸せ味だわ。
 香里亜っちがコーヒーのネルを洗ったりするのと、冥月さんが外で電話をしているのを見て、私はそっと携帯を出す。
「桜さん、メールですか?」
 そ。いいことは早く教えてあげないとね。
 それに私がメールする前に、冥月さんがメールしちゃったら困るし。紅茶が冷めないうちに、ささっと最後にこれ書いて送らなきゃ。

 PS 誰かからサプライズメール届くかもよ?

 これで送信っと。
 さーて、どんな顔するかな。楽しみ。そんな事を思ってると、冥月さんも電話終わったみたい。また隣に座ってコーヒーを一口。
「何かあったか?」
「いえ、ちょっと……」
 あ、甘い物が好きってメールに書くの忘れちゃった。でも、まあいいよね。
 だってこれからも、メールは何通も出せるもの。冥月さんともきっと仲良くメールするんだろうけど。私も負けないからね。
 ……って、一体何に勝つ気なんだろ、私。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】  
7088/龍宮寺・桜乃/女性/18歳/Nightingale特殊諜報部/受付嬢
2778/黒・冥月/女性/20歳/元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

◆ライター通信◆
ツインノベル発注ありがとうございます、水月小織です。
NPC交流メールからのコラボと言うことで、桜さんと冥月さんが出会ったところと、どうしてメールをすることになったのかなどを書かせていただきました。
初めは迫力に押されてますが、そう考えると最初からほにゃっと懐に入った香里亜は言われてみればすごいですね。ここからメールのやりとりが始まったんだと思っていただければいいなと思っています。
リテイク、ご意見は遠慮なく言って下さい。
また機会がありましたらよろしくお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年07月17日

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