▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『私と彼女のダイアリー 』
龍宮寺・桜乃7088)&葵(NPC4559)

 うーん、むにゃむにゃ。
 うふふ……そんなに一辺にいい男が来ても困っちゃう。苦節十八年、ついに私の時代が?
「………?」
 ……なんだ、夢かぁ。折角いい男に囲まれて幸せだったのに、携帯の着信で目覚めちゃったわ……って、着信音?
 まだ完全に目覚めてない頭で、私はベッドの中からのろのろと携帯に手を伸ばす。確か昨日メールしてから寝たから、この辺にあるはずなのよね。あと、布団から出たくないし。
 それにしても、誰よこんな朝早く。
 連休一日目の午前中は、私にとって深夜なのに。ふあぁ……。
「ふぁい……」
「もしもし、桜さん?なかなか出ないから、どうしてたのかと思いましたわ」
「葵ちゃ……?」
 寝ぼけ声で携帯に出ると、電話の向こうからは友達の葵ちゃんの声。日曜なのに朝早いし、キビキビしてるわぁ。朝強いのかな、羨ましい。
「どしたの、こんな早くに」
「早くないですわよ。今、桜さんの家の側にいるのですけれど、これから伺ってもよろしいかしら?前々からお約束してましたでしょう?」
「ああ、うん。おけー……ハッ!」
 おけー……?
 ちょっと待って、全然オッケーじゃない。急に血圧が上がって私もぱちっと目が覚める。見回すと全然片付いてない!散らかり放題!
「どうかなさいましたの?」
「あ、あのね。私の部屋すごーく散らかってるから、ゆ、ゆっくり来て?今片づけるし」
 葵ちゃんの住んでる寮と、私の住んでる寮は離れてる。
 前々からメールで今度休みの時にでも遊びに来て、でも来る前には連絡してとは言ってたけど、それは前の日とかに言うものであって、これはかなりのサプライズ。
 でも焦っている私に、葵ちゃんは電話の向こうで笑っている。
「部屋が散らかってるのは私も似たようなものですから、気にしませんわ」
 違う、私が気にするの。
 電話を片手に、既に脱ぎ散らかした服を集めてる私。
「いい、ゆっくり落ち着いて。出来るだけゆっくり来て」
「ふふ、桜さんってば。では、お土産を買ってから行きますわね」
 プツッ……。
 落ち着いて、落ち着くのよ桜。そう、今の現状を冷静に……。
「……ここは独身男性の部屋?」
 いや、事によっては独身男性の方がもっと整頓してるかも。
 ああー、服は散らかってるし、紙くずもそのままだし……って、これ何日前の下着よ!物が物なら売れ……違う違う、洗濯機洗濯機。
 一言で言うと、部屋の中は混沌。
 一人暮らしの女の部屋に幻想なんてないのよ。これが現実、現実なのっ。ゴミを拾って分別する袋に……ぎゃーホカ弁山積み!しばらく忙しかったから食生活が荒れてたのっ。
「ああーっ、いっそ焼き払った方が早いかも」
 弁当の殻を拾ってゴミ箱に。全部残さず食べてて良かったわ。これで付け合わせのキャベツとか残してたら混沌どころか、毒沼だわ……コン!
「痛っ!ビール瓶蹴った!」
 泣きっ面に蜂、足の小指にビール瓶。
 ワンウェイ瓶だからこれは資源回収で……とかやってると、本が崩れて……ああー、誰か助けて。時間よ止まれ!
 ピンポーン。
 わ、もう来た。相変らずセッカチな。そして時間が止まるわけもなくて。
「こんにちは、もうよろしいかしら?」
 あっちゃー……玄関の外で待たせるわけにも行かないから、やっぱ出なきゃ。葵ちゃんが遊びに来てくれるなんて、今を逃したらいつあるか。テンパってわしわしと服を抱えたまま、玄関のドアを開ける。
「は、はろ〜……」
 ケーキ屋さんの包みを持った葵ちゃんは、私と一緒に買い物に行ったときに買ったローライズの黒いパンツにキャミソール、そして半袖のジャケット。うん、これよこれ、こういう格好をして欲しかったのよ……って、葵ちゃん、私を越えてどこ見てんのよ。
「桜さん、お部屋……」
「そんな目で見んな。悪かったわね足の踏み場もなくて!」
 ごめん、完全に逆ギレ。こういうときは先にキレた者勝ちよね。いや、本当は悪いと思ってるのよ。遊びに来てとか言いながら、素敵な混沌ルームにご招待なんだから。
 ぐいぐいと足で荷物をよけ、何とか葵ちゃんが座れる場所だけ確保。
「まあ取りあえず座って。今ちょっ早で片づけるから」
 地層の下の方から出てきたクッションを敷くと、葵ちゃんは少し溜息をついてこう言う。
「お手伝いしますわ。ケーキ、冷蔵庫に入れて下さるかしら?」
「手伝ってくれんの?」
「一人でやるより、二人の方が早く終わりますでしょ」
 よっしゃ、ラッキー……とか言ったら終わりかな。でも、会社での書類整理みたいに、話ながらやったら確かにすぐ終わるかも。冷蔵庫に入ってるものと言えば、ビールとかばっかで、食材なんて入ってないからケーキの箱ぐらい入るし。
「どこからお手伝いしたらよろしいのかしら」
 こういうとき、真面目な友達を持つと助かるわぁ。私は持っていた服を洗濯機の方へ持って行ってから、取りあえず床を指さす。
「じゃ適当に同じのを……って待って!」
 既に床の本などを拾おうとする葵ちゃんに、大事な事言うの忘れてたわ。私は物が積んであるテーブルの上に置いてある、小さいサイズのお中元食玩や、アニメの名シーンフィギュアをつまんで葵ちゃんに突きつけた。
「足下に落ちてるフィギュアは踏まないでよ、やっとお菓子のおまけコンプったんだから!」
「踏まないように気をつけますけれど、床に落ちてるのはどうしてですの」
「テーブルに飾ってあったのが、色々不可抗力とか重力に負けたとか……」
 はい、その理由は簡単。
 『フィギュアをテーブルの上に乗せる、他の物もテーブルに上がる、雪崩起きる、床に落ちる……』の繰り返しでこうなったのよ。飾り棚も買ってはあるんだけど、部屋を片づけたら組もう組もうと思って今日になっちゃったわけで。一日って過ぎるの早いわよね。
 取りあえず雑誌とか新聞を一カ所にまとめて縛ったり、受け取ったままになってるダイレクトメールを出してからシュレッダーしたり。別に私の情報なんて見ないと思うけど、Nightingaleの一員としては、些細な物でもしっかりやらないとね。
「葵ちゃん、新聞とか縛ってくれる?私洗濯機回すから」
「分かりましたわ。それにしても新聞も色々取ってますのね」
 まあねー。これでも諜報部だから、経済新聞とか海外紙とかそういうのにも目を通して、情報収集してるのよ。えっ?通販のカタログ?それはまた別。
 雑誌類は葵ちゃんに任せて、私は洗って畳んだままになっている服とか、かかったままの下着とかをタンスへ。
 流石にこの「乙女の秘密」に関しては、葵ちゃんにも見せられないわ。実はクローゼットとかも結構すごいことになってるんたけど、あそこまで行くと宇宙よね。自分がちっぽけすぎて、どうにもならないっていうか。
 ……まあ、今の状態も充分宇宙なんだけど。
「なんか何処かで星とか生まれてそうだわ」
 ここまで散らかってると掃除じゃなくて、撤去作業。取りあえず必要なものとか、別に片づけたりする物をベッドに避難させて、ゴミを捨てたり服を洗濯したり、なくしてたと思ってた靴下の片方に再会したり。
「この服はどうしたらよろしいんですの?」
 おっ、葵ちゃん仕事早いなぁ。
「ああー、今洗濯機回ってるから、服とか適当に放り込んっで……」
「洗濯機ですのね」
 回したばっかだから途中追加しても……って待って!葵ちゃん持ってた服って、インド綿で出来てなかった?アレは色が落ちやすいから、色物と分け…。
 私は慌てて洗濯機のあるところに躍り込み、一時停止ボタンを押して今投入されたであろうチュニックを引っ張り出す。
「遅かった……」
 チュニックは入れたばかりだからいいんだけど、白いチビTに色が少し移ってる。
「葵ちゃん、色物と白いのと一緒はダメよぅ」
「ご、ごめんなさい。そういうデリケートな服は持っていなくて」
「んにゃ、適当に放り込んじゃってって言ったの私だしね」
 そうだった。
 葵ちゃんって会社の仕事とか任務に関しては、完璧すぎるほど完璧主義者なんだけど、そのぶん家事とかお洒落とかに関してからきしだったんだわ。最近まで普段着がジャージとTシャツって、洗うのに技術も何もいらない服ばっかりだったみたいだし。
 私は洗濯機から引き上げたチュニックを取りあえず洗面台に置いて、洗濯に関してもちゃんと教えることにした。
「今履いてるデニムとか、色物は分けたりしないと大変なことになるから。服のタグとか見たら洗い方とか書いてあるから、それ見て気をつけてね」
「色物は別ですのね。Tシャツに色を移してしまってごめんなさい、弁償しますわ」
 いや、そこまで大した服じゃないし。
 つかそんな大した服なら、別口でちゃんとクリーニングに出したりしてるから。
「いいのいいの、その辺に放ってた服だし。でも、葵ちゃんって本当に家事ダメなのね」
 家事全般が苦手ってのは聞いてたし、実際料理が下手ってのも知ってたけど、ここまでダメだとは思ってなかったわ。
 まだ床に残っている物を拾いながら私が笑うと、葵ちゃんが少し憮然とこう言う。
「桜さんも同じじゃありませんの」
 へ?同じって?
「違うわよ、私は苦手じゃなくてしないだけ」
「似たようなものですわ。散らかってるとは聞きましたけど、ここまでだとは思いませんでしたもの」
 うぐっ。それを言われると痛いわぁ。
 謙遜してると思ってたんだろうな、葵ちゃん。でも玄関開けたら混沌の世界だもん。私だって見なかったことにして、ご飯食べてお風呂入って寝ちゃったりするし。
「葵ちゃんは部屋に物置いてないんだっけ?」
「整頓も苦手ですから、必要な物しか置かないようにしてますの」
 それも確かに一つの手なのよね。
 物が少なければ片づける手間も少ないだろうけど、でも生活してるとゴミは出るのよ。あと忙しくて帰れない日に限って収集日だったり、休みの日は寝ちゃったりしてるし。洗濯に関しては……はい、その日のうちにネットに入れたりします。

「ああー、やっと終わったぁ」
「お疲れ様ですわ」
 見えた床にモップをかけて、ついでに食器も洗ったりテーブルも拭いたりして、全部が終わったときはもう午後になっちゃってた。風呂場に干すだけじゃ物干し場が足りないから少しこっちにもはみ出してる。
「ごめんね、ありがとー。助かっちゃったわ」
「気にしないで下さいませ。これも家事の練習ですから」
 何だかんだ言っても片づいた部屋っていいわぁ。ふうっと二人で溜息をついて床に座って。でも、慣れない片づけでお互いぐったり。
「ねえ、葵ちゃんって明日も休みよね?」
「ええ、そうですけれど」
「じゃ、せっかく来たんだから今日は泊まっていって。ここ葵ちゃんの寮から遠いし。下着は明日買いに行こ」
 私の部屋って最上階の端部屋でなかなか快適なのよ。内装とか設備も豪華だし、Nightingale専用の寮舎なんだけど、ここに住所だけ置いて住んでない人も多いから、時々寂しいのよね。
 それにやっと葵ちゃんと連休が合わさったのに、掃除だけで終わりましたーじゃ切ないし。
 じっと見てると、葵ちゃんが仕方ないというようにくすっと笑う。
「そうですわね。でも、何の用意もしてまいりませんでしたわ」
「いいのいいの。洗濯したばっかだし、パジャマ代わりになりそうなTシャツぐらい持ってるし。さて、お土産のケーキ食べよ。私コーヒー入れるから」
 お湯を沸かして、カップも用意して……私が豆から入れると何かヤバイ味になるから、コーヒーはインスタントだけど。でも、誰が入れても同じ味になるのはいいわよね。
「じゃあ、一晩お世話になりますわ。マンゴーのムースとフルーツたっぷりのロールケーキが美味しそうだったから、それを買ってきましたの」
「マンゴーいいじゃない、夏だし。ところで、晩ご飯どうしよ」
 昼ご飯はケーキ二個食べたら充分だろうけど、夜はどうしようかしら。折角仕事休みなのに会社の食堂行くのも切ないし、でも二人で料理を作るのは不安だわ。私、見た目は美味しそうでも何か毒味になるし、葵ちゃんもご飯とみそ汁以外は満足に出来ない……それ以前に、自炊しないから米買ってないし、私。
「どこか食べに行きましょうか?私、お店は詳しくないのですけれど」
「そうね。ケーキ食べながらゆっくり考えよっか」
 ピザ取ったり、デパ地下でお総菜買ったり、何処か食べに行ってもいいんだし。
 っと、お湯も沸いたしコーヒーブレイクしましょっか。
「ケーキさんきゅー。はい、コーヒーどうぞ」
「いただきますわね」
 さて、今日はずっと葵ちゃんと一緒だから、色々話したりしちゃうわよ。
 メールも楽しいけど、やっぱり直じゃないと話せないこともあるし。
「桜さん、どうかなさいました?」
「ん、なんでもない」
 まだ休みは始まったばかり。さて、これから遊ぶぞーっ。

fin

◆ライター通信◆
いつもありがとうございます、水月小織です。
いつもは過去のお話しなのですが、今回は現在の話と言うことでタイトルも少し変えて書かせて頂きました。部屋は散らかると混沌が広がるばかりですね…いつでも人を呼べる部屋というのはなかなか難しいです。
葵の「家事全般が苦手」も出てますね。Tシャツとジャージだとあまり気にせず洗濯機に突っ込めますし、制服などはクリーニング任せてす。これからも桜さんには引っ張って頂きたく思います。
リテイク、ご意見は遠慮なく言って下さい。
またよろしくお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年07月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.