▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『人助けも修行のうち!?─盗賊退治の巻─ 』
ガイ3547)&(登場しない)

ぱちん。
「この俺様から血を盗もうたぁ、100年早ぇ」
黄昏時の森の街道にて、倒木に腰掛け一休みといった態の男の掌がその二の腕へと叩きつけられ、乾いた音と共に血を失敬しようとした小さな盗人は昇天した。
男は、圧死したそれがくっついている右の掌を顔の前へと持っていくと、ふぅ、と息で吹き飛ばしてしまい。その後、なんとはなし先に叩いた剥き出しの二の腕をぼりぼりと掻き。
「さぁて。小物は兎も角として、肝心の盗賊共は何時、姿を現すもんかな」
そう、にんまりと日焼けした面に、男臭い笑みを浮かべる男の名はガイ。
賞金首として追われる悪人や、魔物を狩る事で報酬を得る賞金稼ぎ兼、オーラバトラーである。
本来は異世界の生まれであり、この地には召喚されて現れたはず、なの、だが。
生来のよく言えば「豪快」な、悪く言えば「大雑把」な性格からか、今ではすっかりこの世界に馴染み、修行の一環とばかりに各地を旅して回っている。
所謂、武者修行という名目の通り、惜しげも無く晒された半裸の肉体は、鍛えあげられ筋肉の塊。
2m以上もある長身でガタイも良いとなれば、他者に対し威圧感すら与えるだろうが、純朴そうな黒い瞳が不思議と安心感を与えるようで子供に泣かれるという事もなく、それなりに友好関係を築いているようだ。
「熊のおじちゃん……ねぇ。俺は未だ23なんだがなぁ…」
何やら小さくぼやくと、左手に持った焼き菓子にかぶりつく。もしゃもしゃと咀嚼を始め──…かけた刹那。がさりと彼の周囲の茂みが揺れ、ばらばらと目立たない黒っぽい衣服に身を包んだ見るからにガラの悪そうな男共が姿を現した。
「てめぇ、命が惜しけりゃ、大人しく身包み全部置いてき───…ふげぇっ!?」
その男共のリーダー格なのだろう、手足のひょろ長い猫背の男は、しかしお決まりの口上を述べることが出来なかった。
ガイの拳が男の頬にめり込んだからである。
続いて、鈍い音が数発響くと先ほどまでガイを取り囲んでいた数名の男達は全て地面との親密度をあげる事となった。
数分後、ガイの周囲に誰一人として立っている者は存在しなかった。
「ふご、ふごごごごも、ふご(ふん。口ほどにも、無ぇ)。…──お前ぇら、アジトの場所を言わねぇと、一人残らず顔面踏み潰すぞ!」
一人、悠々と立つ男──…ガイは、口に咥えた焼き菓子を飲み下すと、倒れた盗賊の一人の眼前へと体格にあった大きな裸足の足の裏を近づける。
軽く男の顔位の大きさの足を近づけられた盗賊の男は、真っ青になって震えだし。やがて、恐怖に負けるとガイの望む通りアジトの場所をぺらぺらと口にしはじめた。
「──…こ、これでいいだろ。あんたの云う通り全部喋ったんだ、助けてくれるだろ?」
どこか卑屈な笑みを浮かべ、我が身可愛さに洗いざらいを離し終え地面に這いつくばったまま見上げてくる盗賊に対し、ガイはにっこり笑って背負っていた大きな麻袋から荒縄を引っ張り出し、蹴り飛ばしきっちり気絶させた後、ふん縛る事で答えた。
曰く、報酬を得る為にも、悪党に人権は無いのである。


「さぁて。あれが、ここいらを荒らす盗賊のアジトってやつかい」
先に盗賊と出くわした場所からやや離れた場所にある森の中、木々の影に隠れるようにしてひっそりと存在している洞窟を見やり、ちろりと下唇を舐めながらガイは呟いた。
近隣地区の街や村を荒らしまわり、ついには退治して欲しいという依頼まで出されるようになった盗賊団のアジトは、流石に人目につかぬよう細心の注意が払われていた。
当然、入り口には目立たない色の衣服を身に纏った盗賊の一味らしき見張りの男が数人、立っていた。
「…──よっしゃあ、いっちょうやったるか」
左手の掌へと右の拳を打ち付け、乾いた音を響かせたガイは不敵な笑みと共に、歩き出す。
腕につけた守護聖獣─ミノタウロス─を象った腕輪が月光を跳ね返し、きらりと冴えた輝きを放ち──…次の瞬間、ガイの表情が一変する。
どこか純朴な光を宿していた黒い瞳は、野獣のようなそれへと。
「ぎゃぁっ!!」
「──…な、何だぁっ!?」
入り口へと徐々に駆けよりながら、拳に溜めた気弾を見張りの男へ叩き込む。
もろに顔面に気弾を喰らった男が吹っ飛び、今一人の見張りが焦ったように振り向き近づくガイへ対して臨戦体勢を取るが、完全に不意打ちを食らった形となった彼らは完全に浮き足立っていた。
難なくそいつらを蹴散らすとガイはまさに歩く台風の如く、アジトの洞窟へと侵入していく。
「…て、てめぇ、何者だっ」
「俺か?俺は修行の旅の格闘家、兼、オーラバトラーだぁぁぁ───っ!腹が減ったから、即効で打ち倒してやるぜ」
洞窟の奥、首領格の恰幅の良い男の問いに半ば、腕輪の力を解放し同調しかけたガイは空気を震わすような怒号と共に返す。
彼方此方の細い横道から出てくる盗賊達を、修行で身につけた格闘技を駆使し、ある者は蹴り飛ばし、ある者は投げ飛ばししながら進むガイの瞳は爛々と輝き、筋肉の隆起した裸身は返り血に染まっていた。
「おらぁぁぁ───ッ!!」
咆哮と共に髭面の首領の顔面へと、獣の力を得たガイの飛び蹴りが炸裂する。
───…その後、アジトの洞窟からはガイの興奮が冷める迄、何かが砕けるような鈍い音と、男の気色悪い呻き声と、断末魔の悲鳴が鳴り止む事はなかった。

「ありがと、クマのおじちゃんっ。ピエールを取り戻してくれて」
ギルドから盗賊退治の報酬を受け取り、膨れた財布を撫でながら通りを歩くガイへと幼い声がかけられる。
振り返った先──、可也、目線を下に流した所に金髪を両サイドで赤いリボンで結んだ少女が、瞳に高価そうな宝石を埋め込んだクマの縫いぐるみを抱いて笑顔を浮かべていた。
「おう。いいって事よ。嬢ちゃんには、ちゃんと依頼料もらったしな──…嬢ちゃん、菓子作り上手だな。将来いい嫁さんになれるぞ?」
大きな掌で少女の頭部をゆっくりと撫でると、豪快な笑いを響かせて歩き出す。
ありがとうの言葉と共にいつまでも手をふる少女の声を背に次の修行の旅へと向かう。

これで暫く飯代には困らない──…そんな事を考えながら。

彼の修行の旅は、まだまだ続く。

【FIN】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
聖都つかさ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2007年07月05日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.