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『星屑に乗って 』
城ヶ崎・由代2839

 六月の花嫁。
 ある国の神話では「六月」というのは、結婚を守護する女神の名前だとか。その為、この月に結ばれた花嫁は末永く幸せになれるだろうという伝承がある。
 夢か現か。
 月の光に呼ばれた幻獣たちが、幸せを望む者と共に夜空の銀幕を飛ぶ。
 普段ならば触れられない星屑、流れ星の軌跡。手を伸ばせば届くかもしれない。



 藍色の夜空に輝くのは数えきれぬ星々。
空は無限に広がっているというのに、今この瞬間、世界は二人のものだった。さらさらと吹き抜ける夜風はさらりと月子の髪を揺らした。
「綺麗だよ、月子。良く似合ってる。……ほんの少しだけ、目を瞑っていてくれないか」
 夜の闇の中、モーニング服姿の由代がそっと囁く。胸を飾る百合の花は、つい先程まで花束の一片だったものだ。古くは聖母マリアの花といわれ、清らかな乙女のイメージを内包する。
「ええ、いいわ」
 月子は頷いた。理由も疑問も口に乗せず、一欠けらの警戒心もない。確固とした信用と信頼、何より深い愛情をもっているからこそ通じ合う心がある。何を考えているかはわからなくとも、恐ろしいとは思わない。プレゼントを待つ子供のように心躍らせ、そっと目を閉じた。
 身に纏っているのは常の和服ではなく、薄い青色をしたウェディングドレスだ。身体のラインをぴったりと出すもので、胸元には由代と揃いの花が飾られている。華美な装飾はなくどちらかといえばシンプルなデザインだが、それだけに着る者の美しさを引き出すドレスといえよう。
「ありがとう。夜空の旅には案内役が必要だからね……ほら」
 由代の指先に淡い光が灯り、すっと音もなく宙を滑らせては慣れた様子でシジルを描いていく。人間が住むこの世界と、異世界とを結ぶ小さな召喚陣。やがて指揮者に創り出された旋律は、力強く美しい翼竜を呼び出す。二対の翼に赤い瞳を持ち、主人である由代の前に恭しく頭を垂れた。
「――可愛い。いい子ね」
 目を開けても月子は驚かない。手を伸ばして翼竜の首に触れ、そっと撫でてやる。触れられた翼竜も実に大人しく、心地良さそうに目を細めて小さく鳴いた。



「それじゃ、よろしく頼むよ」
 二人は翼竜に乗り、星屑の中へ一夜の旅を始める。
 ずっと昔に放たれた光が今、瞬きとなってこの地球に届く。今宵星々がこの結婚を祝福しているというのならば、二人が結ばれるのは運命なのだろうか。あの日初めて出会ったことも、一度目が二度目となり、幾度目かの逢瀬から今夜へと続く物語。星に比べれば人間の生きる時間など一瞬の炎。
 愛する人を見つけられず迷う者もいるだろう、愛とは何かを知らずに死んでいく者さえいるだろう。そんな中、刹那の命を美しく燃え上がらせ生涯の伴侶を見つけられたなら、これ以上の幸せはない。
「あ、……流れ星。手が届きそうね」
 落ちぬようにと由代の腕に捕まりながら、月子が呟く。やや上気した顔に、朱を引いた唇がやんわりと動く。地上から見上げるばかりだった星がすぐ傍にあるように感じられ、星屑に触れてみようと手を伸ばしてみる。空を流れる星なら、その軌跡を追ってみようと。
「……、……」
 由代はそんな月子の横顔を見ていた。美しいものに手を伸ばし、興味津々といった様子で目を輝かせては笑みを浮かべる。夢中になり過ぎて自分の腕から落ちてしまわないよう、そして何より離したくないという思いで由代は抱き締める腕に力を込めた。写真や映像に留めていたとしても、形あるものはいつか色褪せ失われてしまう。それならばいっそ、今宵の記念すべき逢瀬を記憶の中だけに留めておけばいい。瞳を閉じればいつも、鮮やかに、零された吐息さえ思い出せるのだから。
「流れ星か……何か願い事をする?」
「これほどに幸福なのに流れ星に願うことがあるだろうか。なんてね。……このままでいいんだ」 
 遠く前方に、星屑が渦になっているのが見える。竜はその大きな翼を羽ばたかせ、低く鳴いた。忠誠を捧げる主人の為、その伴侶の為、何かしたいと思ったのだろう。気の利いた贈り物でもなければ高価な宝石でもない。夜空に浮かぶ星屑の中へ、二人を乗せたまま飛び込んでいった。



「ちょっと待ってくれないか。ん、できた。……これなら、例え今夜限りで消えたとしても心にずっと残るだろう」
 由代は片方の腕に月子の身体をしっかりと抱いたまま、すいと手を伸ばして星屑を掴み取った。さらさらとまるで砂のようでもおり、海に流され角が取れた硝子の欠片にも似ている。唇で何事か呪文を呟くと、掌に現れたのは一つの首飾り。海に咲く真珠のようで、月の雫を中に封じ込め、珠は艶やかで光沢がある。
「つけてみないか」
「え?」
 由代が促すと、嬉しさと驚きに少し戸惑いながらも月子は待つ。首飾りは薄青のドレスと良く似合い、共に一層光を増して新しい持ち主を祝福した。

「そうだ、月子。……言い忘れていたことがあった」
 ふと思い出したかのように、或いは少しばかり芝居がかった口調で由代が言う。
「なに。それは大事なこと?」
 きょとんとした様子で返すと、月子は次の瞬間、腰を抱き寄せられた。すっぽりと腕の中に入り、胸に耳が触れる。とくんとくんと、規則的に響く鼓動の音さえ聞こえそうだ。身体が邪魔な境界線の役目を果たしてしまうものの、これ以上ないほどに距離は近い。思わずびくりと小さく身体を震わせてしまう。でも、怖くはなかった。 
「あぁ、大事な事だ。憶えておいてくれないか。――愛してるよ、月子」
 耳元に唇を寄せ、由代は囁いた。決して大きな声ではない。だが世界中でたった一人、月子しか聞けない言葉だろう。
「忘れるはず……ない」
 言いたいこと伝いたいことはたくさんあるのに、上手く言葉にならない。月子は短くただそれだけを告げ、由代の胸に頬を寄せた。
 二人の夜は、まだ始まったばかり。




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【2839/城ヶ崎・由代/男/42歳】
【3822/高柳・月子/女/26歳】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご参加ありがとうございました。
どうか末永くお幸せに。世界の片隅よりお祈り申し上げます。
PCゲームノベル・6月の花嫁 -
水瀬すばる クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年07月02日

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