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『闇の婚礼 』
ジェネシス(mr0174)



1.
 男は『花嫁』を探していた。
 男は今年で『大人』となる。
『大人』となったものは『花嫁』を得なければいけないというしきたりがある。
 ──しきたり、儀式。
 男はこれを快くは思っていなかった、『大人』になったこともだから嬉しくはなかった。
 だが、その歳となった瞬間、男の中にある本能がそれを求めた。
 花嫁を見つけ、儀式を行え。
 聞こえてくるのは男の声なのかそれとも同族のものたちのものか。
『花嫁』を見つけることは容易い。
 こちらへ導けば、それは必ず現れる。
 そしてすぐに『婚礼』の儀式は始まるのだ。
 ──闇の婚礼。
『花嫁』となったものを『贄』とする『大人』となったものがする定めの儀式。
 そんなものはしたくないと思いながらも、男は昏い声を歌うように紡いだ。
 その声に応えるよう、ぼうと鈍く光る扉が現れる。
 ゆっくりと、扉は開く。
 開いた先には、その声に呼ばれたのだろうか、ひとりの者の姿があった。
 人ではない──ダークエルフと呼ばれる種族の若者がひとり。


2.
「……っ! 迷信を信じるにも程があるよね」
 そう悪態をつきはしたものの、実際のところジェネシスにさほど余裕はなかった。
 どうやってここへ呼ばれたのかはわからない。
 気が付けば、自分が普段住んでいる世界ではない何処か──しかも、できるならばあまり来たくはないような陰鬱とした世界にジェネシスは放り込まれていた。
 困惑しているジェネシスの耳にその単語が入ったとき、最初は己に言われたことだとは思わなかったのも当然だろう。
『花嫁だ……』
『あれが…花嫁……』
 暗い、聞いているほうの心まで暗澹とさせるような声が周囲からあがり、彼らは口々に花嫁と言っていたがジェネシスには何のことか見当も付かなければまさか自分のことだと思うわけもない。
 その容姿から間違えられることは多いが、ジェネシスはれっきとした男なのだから。
 しかし、それを理解する暇も、まして相手の勘違いを正す暇もジェネシスには与えられなかった。
『我等の…花嫁……』
 そう、黒い塊のひとつがそう言ったのを合図に、『それら』が突然ジェネシスに襲い掛かる。正確には捕らえようとしていたようだが、それを辛うじてかわし、ジェネシスはその場を逃げ出した。
 逃げながら、追ってくる『それら』の声からジェネシスは自分が置かれた状況をある程度把握した。
 どうやら、連中はジェネシスを『花嫁』にするつもりらしいこと。そして、その花嫁とは儀式に用いる生贄を指しているらしいこと。
 冗談ではないとジェネシスは思った。
 そもそも自分は男なのだ。花嫁になどなれるはずがない。
 そして、ダークエルフである自分がその生贄に選ばれたということもジェネシスには気に食わない。
 闇に落ちた種、邪悪なものへの供物にもっとも相応しい種。
 そんな黴の生えたような伝承がいまだ残っているということは知っていたが、そんなものはただの言い伝えに過ぎないことをジェネシス自身がよく知っている。
「俺は……普通の学生なの!」
 そう声を荒げても追っ手の手は緩む気配がなく、徐々に追い詰められていっているのを感じる。
 儀式まで殺してはまずいらしく加減はされているが、方々から捕らえようとする腕が、縄が、何か異様に伸ばされたものがジェネシスの身体に伸びてはそれを必死に払う。
「……うわぁっ!」
 ひとつの腕と呼ぶにはあまりにゴムのように伸びたそれを必死に振り払ったと同時に足を掬うように放たれた縄が絡みつき、その場にバランスを崩れて倒れこむ。
 しまった、と思ったときには視界は黒い群れによって埋め尽くされ、悪態をつく暇さえ与えずにジェネシスの意識は闇へと落とされた。


3.
 鈍い痛みが、ジェネシスの意識をぼんやりと覚醒させた。
 ……何処かで葬式でも行われているのだろうか。
 聞こえてきた声に、ぼんやりとジェネシスはそう思う。
 いつの間に自分は葬儀場へ入り込んでしまったのだろう。まるで、さっきのあの悪夢のような場所へと入ったときのように。
 そう思った瞬間、ジェネシスの意識は覚醒し、同時に先程よりもはっきりとした痛みを感じる。
 視界などもはっきりしてきた。どうやら、先程の悪夢はまだ終わっていないらしい。
 場所は何処かの式場のようだが、豪華ではあるが真っ黒に塗り潰された建物は暗く中にいる者に厭な圧迫感を与え、流れている葬送曲のような重苦しいメロディが更にその場を沈痛なものにさせていた。
 しかし、それよりもジェネシスの意識を持っていったのは香りだった。
 咽返り、呼吸にも支障が出ると思われるほどの薔薇の香りがジェネシスの嗅覚に問答無用で入り込むのも無理はない。
 そのときになって、ようやく自分がどういう状況に置かれているかが大体把握できた。
 埋めてしまおうとするかのように紅い薔薇が敷き詰められた祭壇の上、両手両足を戒めているのは先程からジェネシスに鈍い痛みを与えていた黒く太い茨の枷。
 そして、ジェネシス自身はというと、いつの間にか漆黒のタイトなドレスと黒のヴェールという姿に着替えさせられていた。
「……何、この悪趣味な格好」
 言いながらも、なんとかその場を逃れようともがいてはみたものの、茨は更に食い込みジェネシスの動きを封じ込める。それでも更に強くもがけば鈍い痛みが腕に走り、何かが伝う感触がした。どうやら微かにだが血が流れらしい。
 途端、その場にいたことにいままで気付かなかった『彼ら』はおおと感嘆の声を漏らしたのは血の匂いを嗅ぎつけてなのかもしれない。
『式を……』
『…儀式を……』
『花婿に相応しい花嫁を……』
 その単語に、ジェネシスはひとつ重要なことを思い出した。
 結婚はひとりではできない。花嫁を連中が探していたということは、花婿がすでにいるはずだ。
 だが、その花婿らしいものの姿はまだ見ていない。
 と、その疑問に答えように建物の巨大な入り口が大きく軋んだ音を立てて開かれ、そこに『花婿』がいた。
 まるで死に装束のようにも見えるほど白々とした燕尾服を身に纏い、しかしその顔は沈鬱な表情でじっとジェネシスを見つめていた。
「……では、式を行いましょう」
 いつの間にか現れた、通常ならば神父役をおそらく務めるらしいものの顔にも喜びの色はない。
 参加者も同様で、皆一様に暗く悲しみに満ちた陰気な顔をして新郎がゆっくりと花嫁のもとへと近付いていくのを見守っていた。
 微かに聞けばすすり泣きの声も聞き取れたかもしれないが、やはりそれも喜びのためではない。
「汝はこれを己の花嫁とするか」
「はい」
「血を得、肉を得、永劫にこの者の血肉を己の身に宿すと誓うか」
「はい」
 神父の問いかけは新郎に対してだけだ。それどころかジェネシスはどうしたことか口を開くことも声を出すこともできなくなっていた。
「汝の花嫁は決まった」
 神父のその言葉に、会場がおおと暗いながらも初めて喜びの含まれた声があがった。
「さぁ、誓いの儀式を」
「血を」
「肉を」
「心臓を」
 その言葉に従うように、花婿の手に渡されたのは一本の鋭いナイフ。だが、それは単なる儀式用のもので、『花嫁』を引き裂くにはそんなものは必要なかっただろう。
 何故ならば、花婿の手にはその肉を切り裂き心臓を抉り出すことなど容易くできる鉤爪が備わっており、肉を噛み切ることも簡単な鋭い牙が口にはあったのだから。
「さぁ、花嫁を……」
「永遠の誓いを……」
 さぁ、さぁという言葉が聞こえる中、ゆっくりと花婿がナイフをかざした。
(……ふざけるな!)
 声の封じられている状態でそう叫び、ジェネシスは渾身の力でもがいた。枷は更に食い込み手からも足からも先程などより多く血が流れたが、そんなことで今度は足掻くのを止めなかった。
「うぅ……!」
 ギリギリと食い込む痛みを必死に堪え、限界と思えるほどの力でなんとか荊の枷は千切れ飛んだ。
 会場に、どよめきが走る。その周囲も刃を向けている花婿も、ジェネシスは力強い目で睨み付けた。
「俺が添い遂げる相手は、俺自身が決める。こんな事で俺の魂を如何こう出来ると思ったら……大間違いだ!」
 そう叫ぶと同時に勢いよく花婿に身体ごとぶつかる。祭壇となっていた場は崩れ、灯してあった明かりも倒れ、その火が祭壇を飾っていた薔薇へと燃え移っていく。
『儀式が……』
『花嫁が……』
 燃え盛る火に、周囲の者たちは狼狽の声を上げる。同時に、花嫁は何処だという声も聞こえてくる。
 いま捕まれば儀式など無視して八つ裂きにされかねない。そんな危機感がジェネシスを襲ったときだった。
「……こっちへ」
 その声が何処からしたのかも一瞬わからなかったが、突然掴まれた腕は鉤爪があり、ジェネシスが息を呑むには十分だった。
 だが、相手はジェネシスを儀式の場から遠ざけるつもりらしい。
「貴方は……強い」
「私も、そうなりたい……」
「掟だからと、本能だからと戦うことさえしなかった己が恥ずかしい」
 ジェネシスに言っているというよりは自分に向かって呟いているような陰鬱な声を聞いていたと思ったのも一瞬のように感じた。
「……さぁ、貴方は、貴方のいつか添い遂げる相手がいる世界へ……帰りなさい」
 それを最後に、ジェネシスはまた見知らぬ場所へと移動するのを感じた。
 その瞬間、暗くだが微笑んだ『花婿』の顔を見たような気がする。


4.
 今度は、森の中にいた。だが、先程まであった暗い気配や禍々しさは感じられない。
 どうやら、今度こそジェネシスは帰ってこれたようだった。
「なんだったんだ……あれは」
 明日にでも学園で調べてみれば、もしかすると文献などであのような種族の話が出てくるのかもしれない。
 遠い昔にいてすでに滅んだ闇の種族。もしくは、いまもなおここではない世界で蠢いている者たちのことやその儀式のことも。
 だが、ジェネシスにいまはそれだけのことを考える余裕はない。
 顔を上げれば、空には三日月があった。
 ナイフのように鋭い、けれどナイフとは違い柔らかい光を放つ三日月を見ながら、今度こそは安堵のため、ゆっくりとジェネシスは気を失った。





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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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mr0174 / ジェネシス / 18歳 / 男性

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ジェネシス様

初めまして。ライターの蒼井敬と申します。
この度は当依頼に参加してくださり誠にありがとうございます。
衣装なども闇などに相応しいものを提示していただけたのでそちらを取り入れさせていただきました。
迷い込んだ悪夢のような話をなりましたがお気に召していただければ幸いです。
ご縁がありましたときは、またよろしくお願いいたします。

蒼井敬 拝
PCゲームノベル・6月の花嫁 -
蒼井敬 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2007年06月26日

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