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『オス! 影中道場その六 』
黒・冥月2778)&三嶋 小太郎(NPC4205)

 いつもどおり、影の中の道場。
「先日、お前のお姫様に会ったんだが、」
 冥月はそんな前置きをして目の前に座る小太郎を見やる。
 お姫様、と言うのはいつも小太郎と一緒に居る娘の事だ。最早言わずもがな。
「仕事ぶりを見せてもらうに、随分と成長していた。我を失って右手を壊すような馬鹿とは大違いだな」
「……なんだよ、いきなり小言からか」
 痛いところを突かれた小太郎は罰の悪そうな顔をして反論する。
「わかってるよ、俺だって。馬鹿なことやったと思って凹んだし、反省もしたし、これからどうするかもちゃんと考えたさ! これじゃダメかよ?」
「次に実行できる確証はあるまい。結果が出るまで強く戒めておくんだな」
「言われなくても、そのつもりだよ」
 不貞腐れつつも返した答えに、冥月は一つ頷いて話を続ける。
「それで、今後の目標だが……お前の腹を刺した男、覚えているな?」
「忘れられるかよ。一度は殺されたと思ったんだぞ」
 初見では三本、次には二本の剣を持った男だった。軽薄な態度が印象に残る、居るだけで癪に障るようなヤツなので、忘れる事はあるまい。
「今後はその男を倒す事を目標に訓練しようと思う」
 目標を作ってそれを乗り越える。わかりやすい訓練方式だ。
 それに目標があれば訓練する側もやる気が出よう。
「……ところで小太郎、あの男とお前と、以前から面識があるのか?」
「は? いや、妖狐の一件が初めてだけど……なんでだ?」
「いや、別に」
 以前、冥月が単独でその男と接触した際、その男が小太郎との因縁を思わせるセリフを吐いていたのを思い出す。
 小太郎が面識はないといっていれば、そうなのだろう。この小僧に咄嗟に嘘なんてつけるほど器用な生き方は出来まい。
 ならば、小太郎が意識していない外で繋がりを持ったか、若しくはその男が一方的に恨んでいるのかもしれない。
 気になるか気にならないか、と言われればぶっちゃけどっちでも良いのだが、気に留めておくのに損はあるまい。
「なんだよ? 謎かけか何かか?」
「いや、気にするな。訓練に移ろう」
 小太郎に尋ねられ、冥月は適当にはぐらかした。

***********************************

「さて、相手を想定して戦うわけだが……小僧、お前はヤツに勝てないといったな?」
「ああ、まだアイツには敵わないと思う」
 立ち上がって向かい合い、冥月の問いに小太郎が答える。
 小太郎がその男に勝てないと悟っていたのは、前回、小太郎が右手を壊した時の一件の際だ。
 小太郎は明確に自分の力量が相手より下回ってる事を理解していた。
「それは何故だと思う?」
「そうだな……単純な力もあるだろうけど、実戦経験とか、体格差とかかな」
「まぁ、そんなところだろう」
 問答において、適当な答えを返す小太郎を多少意外に思ったが、冥月はそれを表に出さずに話を続ける。
「だが、私が見るに、重要なのは戦い方だ」
「戦い方……?」
「そうだ。お前は純粋な力が劣っていると言ったが、それはおそらく間違いだ。能力をプラスした攻撃力ならば、お前の方がヤツより上だろう。攻撃を当てる事ができれば勝つ事は出来るはずだ」
「ほ、ホントか!?」
 勝機を見つけて、小太郎は目を輝かせる。
「だが、お前はヤツに、まともに攻撃を当てた事がない。そうだな?」
「……っう、確かに」
 思い返してみれば、クリーンヒットを与えた事はあったが、追撃をしなかった故に勝機を逸した。
 あのまま追撃していれば勝てたかもしれないが、それ以降、小太郎がヤツに攻撃を当てた事はない。
「ならば、何故攻撃が当たらないのか、考えてみろ」
「そりゃ避けられるからだろ」
「……少し期待した私が馬鹿だったよ」
 先程適当な答えを返してきたかと思えばすぐこれだ……。
 冥月は少し額を押さえて、頭を振る。小太郎には期待し過ぎないほうがいい。
「私はどうして避けられるのか答えろ、と言ったんだが、砕いて言わないとわからないか?」
「なんだよ、引っ掛けか」
「勝手に引っ掛かられても困るんだがな」
 垂らしても居ない釣り針をくわえるとは珍しい事をしてくれる。
「あまり問答に時間をかけていても仕方が無いから答えを言うが、次からはもっと考えてモノを言え」
「お、オス」
「答えはヤツの戦い方には虚実が含まれているからだ」
「きょじつ……? 嘘ってことか?」
「まぁ、薄っぺらく言えばそういう事だ。単純な斬り合いならばフェイントなどがそれに入るだろう」
 小太郎はなるほど、と興味深そうに頷く。確かに小太郎の戦い方にそんな器用さはほとんど無い。
 偶に考えて攻撃を組み立てている事もあるが、組み手の相手である冥月にそれを悟られているようではまだ甘い。
「じゃあ、これからは俺もその、虚実ってヤツを組み込んで戦えば良いのか」
「それは違う。お前の場合、そんな事を考えながら戦っていては、一つ一つの動作がおろそかになるだけだ」
「ならどうすりゃ良いんだよ」
「それを見切る術を身につけるんだよ。相手の虚を見切る事が出来れば、相手の攻撃も避けられるし、相手に攻撃を当てる事もできるはずだ」
「な、なるほど」
 冥月は頷く小太郎に近付き、拳を小太郎の頬に当てた。
「良いか? これから虚を交えながら訓練を行う。最後の攻撃までに幾つ虚があったのか数え、出来るものならそれを全て見切って攻撃を避けて見せろ」
「お、オス」
 それからまた二人は距離を取り、向かい合って訓練を開始する。

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 開始と共に冥月は左手を目線の高さまで上げ、掌を小太郎に見せる。
 そしてゆっくりと近付き、指の隙間から小太郎の目を見る。
 今の所、バッチリ目が合っている。寸分も逸らす事はないだろう。小太郎は冥月の動きを見ようとしている。
 それはそうだ。今回の訓練の主題は見切る事。ならば彼はそれを愚直に守るだろう。
 十分ゆっくり時間をかけて近付いた後、突然スピードを速めて接近する。
 もう二歩半ぐらいの距離だったので、不意のスピードアップに小太郎も多少驚いたが、すぐに対応する。
 小太郎の顔に覆いかぶさろうとしていた冥月の左手を上に払い、冥月の次の行動に備えて構える。
 今のは攻撃ですらない。それには気付いている。ならば次に何かしらの攻撃が来るはず。それが虚ならば、見切る!
 そんな小太郎の意気込みに応えたかのように、冥月の右拳が小太郎の頬目掛けて飛ぶ。
 だがそれは、大して勢いも無い。これは決め手ではないと悟る。
 ならば、次は弾き飛ばした左手か! そう思ってそちらを見やれば、左手は手刀を形作っていた。
 しなる左腕から打ち出される手刀。それこそ本命の一打。小太郎はそう思って、右拳を弾くのをそこそこに、左腕に集中する。
 ……のだが、左手が小太郎にぶつかる前に、小太郎の腹に衝撃。
 冥月の右足が完璧にクリーンヒットした……と思われた。
 冥月もそれなりの手応えを感じた。冥月の弄した虚に、小太郎はまんまと引っ掛かっていたはずだった。
 だが、その蹴りは薄皮一枚ほどの光の壁に阻まれている。……とは言え蹴りの衝撃を緩和するには力不足だろうが。
 証拠に、小太郎は蹴り飛ばされて床を転がった。

「げほ、げほ……っくそ! 本命は蹴りかよ!」
「ここまで上手く引っ掛かってくれると、逆に疑わしいな」
 咳込む小太郎を見下して冥月が言う。
 小太郎は冥月の仕掛けた罠にまんまと引っ掛かっていた。左手に集中していた辺り、それは疑いようもあるまい。
 だが、だからこそ逆にあの光の壁の事が気になる。
「小太郎、体に貼ってある光の壁はいつからだ?」
「は? 光の壁? んなもん、作ってないけど」
 そう言って小太郎は首を傾げた。前述したが小太郎に咄嗟に嘘をつくような器用さは無い。
 だとすれば、あれは無意識の内に……? だとすれば防衛本能が上手く作動しているようだ。
 とは言え、防御が薄すぎて何の効力も発揮していなかったが。
「まぁ、それはさておき、小太郎。幾つ虚があったか言ってみろ」
「アレだろ。右手の一発! あれは見切った!」
「答えは? 一つか?」
「それ以外はわからん」
 実に素直な答えだった。
「……答えは六つだ。私の目の動き、身体の使い方、足運び、そして攻撃前にお前の頬に拳を当てた事、お前の見切った一発、最後に最初の会話で私が『虚を交える』といった事そのものだな」
「そんなにたくさん……。嘘だろ。後付だろ?」
「そんな事をして私に何の得があるんだ?」
 訓練中の冥月の動きには一つ一つ意味がある。
 小太郎に掌を見せたのは上半身、特に手に集中させるため。
 目を見たのは決め手の蹴りを放つために、下半身に注意させたいため。
 ゆっくり近付いたのはその二つの注意を引くため。
 突然速度を上げたのは小太郎の視界を狭めさせるため。
 右手によるフェイントは言わずもがな、蹴りのための布石。左手の手刀もその一環だ。
「ぬぅ……難しいな……」
「すぐにこなせるとは思っていない。数を重ねて、少しずつ目を鍛えればいい……とは言え、お前は目が良すぎるきらいがあるからな」
「……目が良すぎるとだめなのか?」
「無意識の内に虚に引っ掛かりやすいんだよ。視力が良すぎると色々なものが目に入り、集中が利かなくなるからな」
「なるほど……でもその目の良さも使い方次第ってことだよな?」
「そういうことだ。人間は視覚による情報に頼ることが多い。その点、視力の良さはアドバンテージだな。あまり目を疲労させるなよ。天性のモノは大事にするべきだ」
「オス」
 携帯電話で色々やったり、偶にネカフェに出かける小太郎は、それらを少し控えるように心に決めた。
「よし、ではもう一度やってみるか。立てるな?」
「あったりまえだ。次こそは全部見切ってやるからな!」
「その調子だ。頑張れよ、小僧」

***********************************

 とまぁ、勢いは良かったのだが、所詮小太郎程度では冥月に歯が立たないわけで。
「今日はこれぐらいにしておくか」
「お、おつかれさまでしたー」
 と、いつものように床にへたばって終了の挨拶を交わした。
 結局小太郎の見切りは完璧とまでは行かず、最高でも三つの虚しか見切る事はできなかった。
 まぁ、その時は細かいフェイントが十二ほどあったのだが。
「ふむ、少し汗をかいたな。風呂にでも入っていくか。小太郎も一緒にどうだ?」
「うるせぇ、一緒になんか入るわけねぇだろうが」
 わかりきった答えではあったが、尋ねずにはいられない小僧イジりが趣味の人の性。
 と、風呂の話が出てきたところで、またイジリ甲斐のある話題を思い出す。
「そうそう、風呂といえば、こないだあの娘と一緒に風呂に入ってな」
 あの娘とは言わずもがな。
「彼女は仕事だけじゃなく、身体も成長していたぞ。ちゃんと女らしくな」
「う、うるせぇ! 人が休んでる時に変な事口走るな、外道師匠が!」
「具体的に言うなら、胸がな……」
「あーあーあー、きこえないー」
「たくさん揉んでやればまだまだ大きくなるぞー」
「揉っ……!? てめぇ、揉んだのか!?」
「そりゃもう、あの娘が泣き叫ぶくらいな」
 多少、過大表現も混じったが、まぁ……大体は間違っていまい。
「ちょ……ッ! 今すぐ外に出せ! アイツは大丈夫なんだろうな!? 変なトラウマとか負ってないよな!?」
「まぁまぁ、落ち着いて風呂にでも入ったらどうだ」
「落ち着いてられるかよ! くそぅ、出ーせー!!」
 どうやらその娘の事が気になって仕方がない様子の小太郎を眺めて、冥月はニヤニヤと笑っていた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
ピコかめ クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年06月19日

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