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『運命の華 〜紗名andまれか〜 』
彼垣・紗名7064)&彼垣・まれか(7065)&(登場しない)


 ──それは、運命だったの。

 花のように可憐な少女は、そう言って笑った。


 自分よりずっとずっと高い身長の青年と並んで歩くのに、自分がついて歩けるわけがない。それなのに一緒に歩けるのは‥‥
「ん〜ふふふん〜‥‥よし、一曲出来た♪」
 インディーズで歌を歌っている彼は、時折こうやって鼻歌を歌ったり、ハミングしてる。まれかは、こういったところが見れるのも好きだ。
 外見はラテン系の、クールガイ。けれど彼が──彼垣・紗名が、それだけでないのは知っている。
「うわっ、もうバイトの時間じゃねぇか!」
 並んで歩いていた紗名が、慌てたように腕時計を見た。二人の足が、止まる。
「まれか、俺これからバイト行ってくっからお前家に帰れよ!」
 つれない言葉を残し、去る背中を。その場で見送ったまま、まれかは動かない。すると。
 100メートルほど走った背中がくるり、と振り返る。
「いいかっ!? 知らない奴が着てもドア開けんじゃねぇぞ! あと火! メシは冷蔵庫だからレンジでチンして食えよ! ガスコンロは危ないから使うなっ!!」
 言うだけ言って、またダッシュしてバイト先へ向かう。その慌しい背中を見送り、まれかは幸せそうに笑う。

 言葉は、乱暴だけれど。とてもやさしい、ひと。

 ──出会えたのは、運命なのだと。そう、まれかは知ってるの。


●後ろの気配
「一本だけで構いませんか〜?」
「ん、あ、ああ、一本で」
 花屋の店先で、どもる怪しい自分(俺だ)と快活な花屋の店員。
 母の日くれぇは、と普段通り過ぎる店先で、躊躇いながらも一本の花を買ったんだ。‥‥それは、日頃親不孝してる親に対しての、ほんの少しの罪滅ぼし。
「お待たせしましたぁ〜♪」
「お、おぉ」
 やたらテンションの高い女性店員はまだ若く、やはり花屋なんぞ男一人で来る場所じゃねぇな、と彼垣・紗名は思う。
 母の日専用だと知っているのだろう、真っ赤なカーネーションに括られたリボンはパステルピンクで、自分の骨ばった手には少し不釣合いだ。
「‥‥遅くなっちまったな」
 すっかり暗闇と化した通りを眺め、藍色の空を見上げる。こんな夜は、『アレ』が出やすい──からだ。
「だ、大丈夫だ、最近は平和だったじゃねぇか」
 全然大丈夫じゃない事を口走りつつ、足を踏み入れる。真っ暗闇の、通りへ。
 じゃり、じゃり、じゃり。
 自分の履くスニーカーの足音だけが、響く。
 じゃり、じゃり、じゃり‥‥ぺた。
 ──ぺた?
 自分のスニーカーの音が止まったというのに、妙な足音『ぺた、ぺた、ぺた』が近づいてくる。
 いつもはクールだと評される顔が、段々と崩れていく。さああああ、と青ざめ、錆びたロボットのように挙動不審になる。
 ぺた、なんて可愛らしい擬音にも戦慄するのは、紗名の過去にそれだけの(ありがたくもない)実績があるからだ。
 何の因果か霊だの妖怪だの妙な物を見てしまう。ちなみに歌っても妙なものが近づいてくるが、歌は好きなので止める事は出来ない。ので、こういう不気味な気配が常に近くに居る事も‥‥慣れてしまっては、いるのだが。
 ──今度は何だあああ?
 止まらない寒気に、ますます顔面が引きつっていく。『ぺたぺた』が近くなってきたのも気になり、恐る恐る肩越しに振り返った。
 ──あん?
 半分透けたおどろおどろしい死霊かと覚悟して振り向いた紗名は、些か期待外れの展開に肩の力が抜けた。
 振り返った先に居たのは‥‥非常に見目麗しい、可愛い少女。
 足もちゃんとある。
 ──なんだ。
 一気に弛緩した太腿の筋肉を持ち上げ、再び帰途につく。絡んでくる死霊でも、妖怪でもなかった、とホッとして。

●闇夜のストーカー?
 じゃりじゃり、じゃり。ぺたぺた、ぺた。
 ──気のせいじゃあ、ないのか。
 肩越しに振り返ると、義務教育を終えていないと思われる年齢の少女が、にこにこと紗名の背後をついて歩いてきている。
 10メートルは、気のせいだと思った。20メートルは、目的地が同じなのかと思った。30メートルは、自意識過剰だと意味もなく照れた。40メートルで、流石に妙だと気付いた。
「‥‥おい」
 じゃり、と足音が止まる。何者だ、と強く誰何した。見目の純粋さもあり、さほど警戒はしていなかったが。
 完全にストーカー扱いされてるとも思っていない少女は、振り返って声をかけてもらえたのが嬉しかったのか、てててっと紗名に近寄り。
「まれかはねぇ、花の子なの!」
 それはそれは笑顔満面に答えた。
「‥‥‥‥そうか」
 紗名は、ちょっぴり遠い目をしてから頷いた。──うん、まぁガキの言う事だからな。俺が分かんなくても当然なんだよ。
 気のない返事をして再び前を向いて歩く紗名に、もはや遠慮する必要はないと思ったのか。少女は足早に歩く紗名の隣に並ぶ。
「まれかはねぇ、まれかなの! お名前は?」
「‥‥紗名」
 何故自分はこんな年端もいかぬ少女の話し相手をしているのだろう?
 悪意のなさそうな少女を邪険にする気にもならず、仏頂面で答えてやる。にぱっ、とまれかがまた笑った。
「サナ! まれかねぇ、サナのことだーい好き!!」
 お嬢さんお嬢さん、通り過がりの青年に告白しちゃイカンだろう。

●押しかけ女房?
「‥‥おい」
 気付けばもう自分の家に辿り着いていて、鍵穴に挿したまま紗名はまれかを諌める。
「もう家に帰「おじゃましまーす」うぉい!!」
 振り返った背後には既になく、開け放した玄関に堂々と上がりこんでいた。
 ──未成年者略取。
 道徳観念に何かが訴える。

 少女に好きとか言われた挙句自宅に連れ込んだ。これってどちらが悪い?
 社会的に抹殺されそうな犯罪を無意識のうちに犯していそうで、紗名は立ち直れない。その様子を見てまれかは首を傾げる。
「ねぇサナー」
「お前もう自宅へ帰れっ!」
 何故か最近やたら見かける幼女かどわかし事件。この場合自分も容疑者に名を連ねる事になるのだろうか?
 堪らず怒鳴ると、
「うっ‥‥サナが、おこっ」
 じわあ、と涙が盛り上がる。泣く、と理解出来た時には既に‥‥遅かった。

「悪かった」
 同世代の野郎共が少女に土下座する割合を知りたい。
 向こう三軒両隣には響いたであろう号泣を何とか宥めすかし、萎れたカーネーション片手に謝る。
「サナ、‥‥っく、まれか、めいわくぅぅ?」
 未だ半泣き状態のまれかに、誰が『迷惑だ』などと直球を投げつけられるだろう?
 いいや、と困ったように首を振れば、先ほどのアレは嘘泣きかと追究したくなるほどの笑顔が咲いた。
 ‥‥何故か、手元のカーネーションも。
「花が」
 母の日用に買った一輪のカーネーション。まるでビデオの早送りのように萎れ、復活したその姿にまれかが重なる。
 ──まさかとは思うが、まさかとは思うが、ひょっとしたらひょっとして?
「サナー、だい好き!」
 腰にまとわりつく、この少女が?

●何だかんだで
「サナ、サナ、アイス食べたいー」
 同居生活三日目。
 何故か自宅に戻ろうとしないまれかが、自分の横をちょこちょことついて回っている。
「この前買い与えたのが癖になったか? 駄目だ、そんな甘いものばっか食ってたら豚になるぞ」
「むー、ぶたにならないもん。サナが食べたいクッキーのも、バナナのも、半分こしたげるよ」
「俺の為か! ‥‥はぁ、ったく、仕方ねぇな」
「わあい、サナだい好き!!」

 ──迷惑そうな顔をしながらも、絶対に置いてきぼりに、しない。まれかの為に、ゆっくり歩いてくれる。

 一目惚れだった。運命だと思った。この想いのままに、飛び込んで良かった。

「サナぁ! だーいっ好きだよぉ♪」

 いつか絶対振り向いてもらうんだから。
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東京怪談
2007年06月01日

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