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『恐怖!戦慄!三下忠雄の愛ラブYOU!〜後日談〜 』
辰海・蒼磨6897)&氷室・浩介(6725)&三下・忠雄(NPCA006)

 ──近頃、浩介の様子がおかしい。

 日課である公園通いから帰宅したばかりの竜神様、辰海・蒼磨は『それ』を見るなり確信した。
「‥‥何だっ」
 イラついたように答える氷室・浩介は、最近黒眼鏡を手放さない。
 確か炎天下の猫探しがきっかけだったように思うが、それ以来ずーっとかけたまま。そして現在は。
「もう三本目なんだが、浩介」
「分かってる!」
 ぶちゅるとボトルから出した液体を全身に塗りつけている浩介。ジーンズから覗くほんの少しの足首にも塗っているのは、日焼け止めだ。
 ──シミを気にする女性のようだ。
 唖然として蒼磨はそれを見ていたが、そろそろ突っ込んでやった方が良いかもしれない。何故なら。
「お主最近顔が‥‥いや、顔色が悪いぞ」
「ああ!? んな事」
 あるか! と勢いの良い言葉が帰って来ない。鏡を何気に覗き込んだまま、時間が止まっている。外した黒眼鏡がカシャンと音を立てて落ちた。
「目‥‥目が赤けぇっ!?」
「だから早く寝ろと」
「違ぇよ! 黒目が赤いんだよ!」
 意味が全く分からない。
 訳の分からん事を、と振り返った浩介を見つめ返した蒼磨は。
「‥‥本当だな」
「だろぉおおおっ!?」
 動揺したままの浩介だが、これまでの異常行動を見守り続けていた蒼磨は膝を叩く。
 ──アレか。
「先月の吸血鬼か」
 月刊アトラスの方向性に歴史的事件を巻き起こした例のアレである。
「全く、一月半も放っておく奴があるか」
「何もなかったもんよ!?」
 幸いと言うべきか不幸というべきか。体内の竜玉が進行を抑えていたらしい。
「とりあえず、アトラス編集部に電話だな」
 治療法を得なければ。

●三下と何でも屋
「と思ったわしを他所に、ネタの売り込みか」
 心底呆れ果てたわ、と言わんばかりの蒼磨は隣を歩く浩介の全身を上から下まで眺める。
 真っ黒い革ジャンが追加された浩介の様相はどこからどう見ても症状が悪化しているとしか思えない。だというのにアトラスに連絡を入れた浩介の第一声は『ネタ買いません?』。取材料込みで自分を売ったのだ。
 若干心配していただけに、こちらの力まで抜ける行動だった。
「転んでも只では起きぬな」
「たりめーだろ。三下さんに責任取ってもらわねぇと」
「えぇっ!? ボボボボクですかあああっ!!???」
 今日も今日とて顔色の悪い三下・忠雄は、先日会った時のハイテンション振りは嘘のようだ。もっとも、こちらが本来の三下なのだが‥‥。
 憑依されていたらしい吸血鬼のせいで誰彼構わず襲っていた事実、三下は知る由もない。むしろ自分は被害者だと思っている。その三下の肩に回される何でも屋二人の腕。
「俺が吸血鬼になっちまったのは三下さんに噛まれたせいだしなァ?」
「また稼がせてもらうぞ」
 二人が言ってる言葉が分からない。

●教会にて
「こちらは以前取材でお世話になった司祭です」
 月刊アトラスが扱ってる事件や事象というのは奇々怪々な話ばかりなだけに、人材ネットワークは広い。
 三下が紹介した司祭は人に寄生した悪霊達を追い出せるという。
 聖別されたという聖水で傷口を清めると、浩介の額に十字架を乗せる。
「‥‥うッ」
 苦しいのは、魔に侵され始めているから。苦しげに息を吐く浩介に、蒼磨の撮影の手も止まる。
「主は此処に在れり。主の御言葉を唱えよ」
「アッ、やめっ、やめろッ!!」
 聖水が痛いと感じたのは初めてだった。浩介の肌にかかった水が蒸発し、乗せられた十字架が火傷を作る。
「うああー‥‥ッ!!」
「浩介!」
「ひえひゃっ!」
 持ち前の身体能力で逃れようとする浩介に、奇声を上げる三下。一ヶ月の魔の進行は思ったより深かったようだ。

●竜神様の治療
「はーっ、はーっ、はーっ」
 全身汗まみれで壁にへばりついた浩介が、赤い目を晒してこちらを睨んでいる。困りましたね、と司祭が首を振った。
「根は意外と深いようです。これ以上続けると彼自身の気力と体力の限界を超える恐れが‥‥」
「全く、一月半も放っておくからだ」
 朝言われた事と全く同じ言葉を繰り返され、浩介が呻く。仕方ないだろ、と言いたいのだろうがそれすら辛いらしい。
 全く、と再度溜め息を吐いた。
「外から浄化出来るなら、内側からも出来ると思うのだが」
 ずるずると床に沈んだ浩介の心臓部分と傷口に、手を当てる。とくとくと規則的な心音。
「? 何やってらっしゃるんですか?」
 三下がカメラ片手に聞いてくるので、蒼磨は手を当てたまま答える。
「穢れを追い出している」
 気の流れを整えると、眉間に皺の寄っていた浩介が幾分表情を和らげた。
「あー気持ちいいわ‥‥温泉は言ってるみてぇ」
 正常な、気の流れ。それが体調の不快さを緩和し、穢れた気を傷口から追い出してゆく。それは当然のように心地良い治療だった。
「こら、寄りかかるな。重い」
「んあー‥‥良い‥‥」
 ぽえぽえと風呂上りのような晩酌一口目のような、妙に腑抜けた顔の浩介が治療者である蒼磨に抱きつく。他意はなかった。

●どうしてこんな事に
「よっしゃ、体調ばっちし! アトラス行って取材費もらうか!」
 くん、と伸ばした体を伸ばし、晴れ晴れとした笑顔を向ける浩介は気付かなかった。

「きょ、協力費は出ない‥‥? 何でだっ!?」
 アトラス編集部に戻り、意気揚々と語って聞かせていた体験談の後、写真選びに入った段階で。
 PCに入れられた画像をチェックした編集部員達が、可哀相な子を見る瞳で浩介を見つめていた。
「ほら、よく見てご覧。一つ目の写真から、最後の写真まで。これが載っている雑誌がどんなものか想像してみ?」
 さすが編集部員。サッと確認しただけでその画像の欠点を一目で見抜き、使えないと判断した。編集長に見せるまでもないと。
「何が問題だよっ? ‥‥て、あん?」
 自分が苦しげに呻いていた、浄化中の写真。何故か顔アップ。滴り落ちる汗がセクスィ。
 司祭から離れ、壁に追い詰められた写真。何故、司祭の足元から移っているアングルなんだろう。息が上がっている自分は一体何をされているのかとツッコミたくなった。
 床とお友達となった自分の心臓部分に手を這わし、首に指を伸ばしている蒼磨。蒼磨の無表情っぷりと自分の乱れっぷりがまた微妙。
 気の治療が心地よくて思わず抱きついた写真。問答無用で怪しかった。
 以下略。
「あー、こりゃ没るわ」
「うむ、アトラスが別の雑誌になってしまうな‥‥」
 うん、言っちゃ悪いが浄化写真が全てあっち方面のピンナップ状態。ある意味別の方向で三下の才能っぷりが開花された。

 ──だが、何故だ? ただの取材写真がこんなフィルターがかったエロス写真になる‥‥?

 それは誰にも分からない。

●裏稼ぎ
「ところで三下殿、使わぬのならこの写真、貰っても構わんか?」
「え? もちろん構いませんけどー」
 何する気ですかぁ? とボケボケと訊ねる三下は実はまだ気付いていない。一月半も前にアトラスの歴史を危うく変えそうになった自分と浩介の写真が裏で出回っている事など。

「ふっ、やはり雑誌記者が使うカメラの方が画質が良い」
 誰か止めて、竜神様を止めて。写真が某雑誌の表紙を飾る前に。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2007年05月28日

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