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『それゆけ草間探検隊! ―幻のユタリアを求めて― 』
シュライン・エマ0086
●オープニング【0】
 地球上のどこか某所、うっそうと生い茂った草木の中を掻き分けるようにして前進を続ける一団があった。先頭を歩くのは眼鏡をかけた男である。
「草間隊長!」
 一団の後方から、声が上がった。
「……何だ」
 隊長と呼ばれた先頭の眼鏡の男――草間武彦は振り返らず歩みも止めず口を開く。草間はこの一団、草間探検隊の隊長を務めていた。
「かれこれもう1時間は歩いていると思うんですが……あとどれだけ続くんですか、このジャングルは」
「俺が知るか。だが確実に言えるのは、前に進まなければ求める物が決して見付かることもないってことだな」
 隊員の言葉に、草間は額の汗を手の甲で拭いながら答えた。彼ら草間探検隊は、幻のユタリアを探している最中であったのだ。
 遺跡? 動物? 人物? 財宝?
 ユタリアが何であるのかはまだ分からない。だが、そこにあると信じているから探検隊は道なき道をも進むのだ。我が身の危険を省みることなく。
 さあ、草間探検隊の行く手に何が待ち受けているのか。果たして彼らは無事に、幻のユタリアを見付けることが出来るのか!

 ところで。
 探検隊の前方を、ビデオカメラを担いだ男が逆向きに歩いているのはどういうことでしょうか?

●先は見えぬ【1A】
『我々草間探検隊は、さらに奥地へと進むことにした。しかし、進めども進めども周囲の風景は一向に変わる様子がなかった……』
 草間探検隊はなおも草木を掻き分け進んでゆく。揃いの隊員服の背には、ローマ字で記された『KUSAMA』の白い文字。隊長である草間の表情は相変わらず険しい。
 ギャア! ギャギャア! ギャア……!
 さほど遠くはなさそうな辺りから、野鳥なのかそれとも野生の獣なのか、奇妙な鳴き声が何度となく聞こえてきていた。
「気を付けろ。様子を窺っているのかもしれん」
 草間が隊員たちにそう警告した。隊員たちの間に、一瞬動揺が走る。
『だがしかし、ここで引き返す訳にはいかない。何故なら、我々は名誉ある草間探検隊なのだから』

●撮影の裏側【1B】
 ビデオカメラは草間の表情をアップで撮影していた。草木の生い茂った一帯を、ぐるぐると回り続ける草間探検隊。一同の様子を、少し離れた場所で別のカメラが撮影している。
「ギャア! ギャギャア! ギャア……!」
 カメラ画面の外では、探検隊に通訳として参加していたシュライン・エマが奇妙な鳴き声を担当・演出していた。それを聞き、草間が隊員たちに向けて言う。
「気を付けろ。様子を窺っているのかもしれん」
 カメラはその草間の表情も、余すことなく映していた。それから少しして――。
「カァァット! ここはこのくらいでいいだろう」
 スキンヘッドでサングラスをかけた男が、このシーンにカットをかけた。男は探検隊の様子を撮っていたカメラの後ろに腕組みをして立っていた……。

●襲撃【2A】
『我々草間探検隊を夜の闇が包み込んだ。夜は……危険だ。凶暴なる野生動物の時間である……』
 草木の生い茂った一帯を抜け、夜の闇に包まれた森をヘッドライトの明かりのみを頼りに草間探検隊は進んでいた。
「隊長。今夜の野営地を確保しなければ……」
 鳥の鳴き声が遠くで聞こえる中、隊員の1人が草間に向かって言った。
「分かっている。だが、ここは危険だ。隊長として、最低限の安全を確保出来る場所でなければ野営地とする訳にはゆかん」
 真面目な表情で答える草間。その瞬間だった!
 けたたましい鳴き声とともに、木の上から巨大な猿が探検隊目がけて飛び降りてきたのである!!
「きゃーっ!!」
「化け物猿だーっ!!」
 不意の襲撃を受け、隊員たちの悲鳴が闇に包まれる森に響き渡る。草間が大声で怒鳴った。
「全員、全速力で前に向かって逃げろ!! 決して振り返るな!!」
 隊長命令を聞き、探検隊は前に向かって逃げ始める。だが、不運な1人の隊員が木の根に足を取られて転んでしまった。そこへ、あの巨大な猿が襲いかかってきた。
「うわーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 逃げる他の隊員たちの耳に、犠牲者となってしまった不運なる隊員の絶叫が否応なく聞こえる。隊長である草間は、その悲鳴に思わず引き返しそうになってしまった。
「大丈夫か! 今すぐ助けてやるからな!!」
 だが、犠牲者となった隊員からこんな言葉が返ってきたのである。
「た……隊長! 自分に構わず……行ってください!! 必ずユタリアを……ぐぁーーーーーっ!!!」
 悲鳴とともに、何かを激しく殴り付けたような鈍い音が聞こえていた。
「く……すまん! お前の犠牲は絶対に無駄にはしない!!」
 草間は悔しそうな表情を浮かべ、他の隊員たちを追って夜の闇へ消えていった……。

●準備は手間取る【2B】
 この15分ほど前。
「はーい、このシーンの段取りを説明しまーす!」
 タオルをはちまき代わりに頭に巻いたADが、草間をはじめとする探検隊隊員たちへ説明を行っていた。
「木の上から、猿が飛び降りてきます。草間さんの台詞の後、皆さんは思いっきり前に向かって走り出してください。で、猿が転んだ人に襲いかかりますんで、またそこで台詞をお願いします」
「ええと、『全員、全速力で前に向かって逃げろ』だったな……」
 ADの説明に頷きながら、草間が自分の台詞を確認するようにぼそりとつぶやいた。
「猿、準備はいいか?」
 サングラスにスキンヘッドの男が、他のADに確認をした。見れば他のADは、猿の着ぐるみの背中のジッパーを上げている最中であった。
「オッケーです!」
「よし。じゃあ、猿が飛び降りてきた瞬間に鳴き声頼むぞ」
 猿の準備が出来ているのを確認した男は、鳴き声を担当するシュラインに向かって言った。
「あ、はい。凶暴な猿ですから、力強い方がいいですか、監督?」
 シュラインは男にそう尋ね返した。
「まもなく本番でーす!!」
 ADが皆に聞こえるように言って回っていた――。

●犠牲を乗り越えて【3】
『不幸にも犠牲者を出してしまった我々草間探検隊は、それでもどうにか危険地帯を抜け出し野営地を確保していた。しかし……草間隊長を筆頭に、隊員たちの心は重かった……』
 野営地――たき火を囲む探検隊隊員一同の表情は重く暗い。その中で、草間が皆にお手製の珈琲を振る舞っていた。
「……疲れたろう。砂糖を多めにしておいた」
 と草間は言うが、隊員たちはなかなか珈琲に口をつけようとしない。そのうちに、シュラインが独り言のようにつぶやいた。
「このまま……進んでしまっていいのかしら。犠牲者を出してまで、見付け出すものなのかしら……ユタリアって」
 弱音、疑問、様々な感情の入り混じったシュラインの言葉。口には出さないものの、他の隊員たちの中にも大なり小なりある気持ちであろう。
 それに対し、草間はこう答えた。
「犠牲者を出してしまったからこそ……なおのこと俺たちはユタリアを見付け出さないとならないんだ。ここで引き返してしまったら、それこそあいつの犠牲は無駄になってしまう」
 それももっともな意見だろう。考えてみれば、一番苦悩しているのは隊長たる草間なのかもしれない。守るべき隊員の生命を、守ることが出来なかったのだから……。
 草間の言葉を聞いて、シュラインもそれ以上何も言えなくなってしまった。
「ともかく皆、冷めないうちに珈琲を飲めよ。苦さを飲み干して、明日に備えろ」
 草間が皆にそう言うと、隊員たちはようやく珈琲に口をつけ始めた……。

●コンタクト【4A】
『無事に明朝を迎えた我々草間探検隊は、さらに奥地へと進む。途中、蜂の襲撃や吊り橋の足が抜けるなどのアクシデントもあったが、隊員の数を減らすことなく先を目指していた』
 吊り橋を渡った直後、草間が隊員たちに向かって言った。
「……吊り橋があったということは、この先には原住民が居るに違いない。皆、足跡がないか注意して探してみろ」
 その命令に、隊員たちは手分けして周囲を調べ始めた。やがて1人の隊員が叫んだ。
「隊長ーー!! 来てくださいっ!! 見てくださいーっ!!」
「何だ、何があった!!」
 草間が駆け付けると、その隊員は地面を指差していた。見れば粘土状となっている地面に、くっきりと左右の足跡が連なってあるではないか。
「これは……靴跡か? ここの原住民は、俺たちと変わらぬ文化を持っているということなのか……?」
 疑問を口にする草間。足跡はどう見ても何らかの靴の跡であった。
「隊長! こっちにも足跡があります!!」
「何だとっ!?」
 別の隊員の報告を受け草間がそちらへ向かうと、やはり同様の靴跡らしき足跡があった。向かっている方角は、どちらも同じ。普通に考えるなら、複数の原住民が歩いていったと見るべきだろう。
「行くしかないな。何か、ユタリアについて情報が得られるかもしれない」
 草間のこの決定により、探検隊は足跡の向かった方角へと進路を定める。
『我々草間探検隊は足跡の向かう方角へ歩き出して1時間ほどが経った頃だ。ついに我々は、原住民との接触に成功した――』
 探検隊の前方に2つの人影が見えた。1人はリボンをつけた髪の長い女性、もう1人は……あれは猫の耳だろうか? 猫耳が頭にある女性のようだ。
「にゃーーーーーーーーーーー!」
 原住民が探検隊に気付いたらしい。猫耳女性が探検隊の方を指差して、猫のような叫び声を発していた。
「いかん! シュライン、通訳を頼む! 俺たちに敵意はないことを向こうに説明してやってくれ!!」
 草間がシュラインへ通訳を頼んだ。さっそくシュラインは様々な言語で、原住民2人へ向けて敵意がないことを伝えた。やがてある言語が原住民たちに通じ、どうにか探検隊の意志を伝えることが出来た。
 原住民2人と距離を縮めてゆく探検隊。次第にはっきりしてきた原住民2人の格好は、何故かメイド服と呼ばれる物に酷似していた。やはりこの地の原住民は、高度な文化を擁しているのかもしれない。
 その間、なおも会話を続けるシュラインと原住民たち。相手は主に、猫耳女性の方が喋っていた。
「……何て言ってるんだ」
 草間がシュラインへ会話の内容を尋ねた。そしてシュラインがそれを皆へ伝える。
「え……と、なるべく忠実に訳してみました。『外からの人が何の用ですのにゃー。ここはユタリアを祭る神聖な地ですにゃー。速やかに立ち去るがよいのですにゃー』と」
「ユタリアがここにあるのか!」
 草間がそう言うと同時に、隊員たちがざわめく。
「俺たちはそれを見付けに来たんだと伝えてくれ」
「……ええ」
 シュラインは草間の言葉にこくんと頷くと、その通り原住民たちに伝えた。原住民2人は一瞬顔を見合わせ、猫耳女性の方が言葉を発した。シュラインが同時通訳を行う。
「ユタリアは……神聖なりですにゃー。奪いに……来た……来たのなら……生命を奪わなくては……ならないのですにゃー……?」
 『生命を奪う』――その言葉にまたもやざわめく隊員たち。すると草間がシュラインの前にずいと進み出て言った。
「ユタリアを発見出来ないのなら、死んだも同然だ。俺の生命1つで済むのなら、せめて隊員たちにはユタリアの姿を拝ませてやってくれ……」
 草間の言葉に驚きつつも、シュラインが訳して伝える。と、それまでほとんど黙っていたリボンの女性が口を開いて何かつぶやいた。
「んと……『分かりました。ならば、ユタリアを守りし妖精にお伺いを立てましょう。もうすぐ、果実を捧げに行く所でしたから』……ですって」
 シュラインがリボンの女性の言葉を訳して皆に伝えた。さらに、それを受けての猫耳女性の言葉をもシュラインは訳した。
「えー、『レイちゃんがそう言うなら、従いますにゃー。妖精に全て任せますのにゃー。あ、あたしの名前はマオですのにゃー』……と」
 これによりリボンの女性がレイ、猫耳女性がマオだということが分かった。
『こうして我々は、ユタリアを守るという妖精の判断を受けることになった……』

●待ち時間が長い【4B】
「カット!! 次のシーン行くぞ!!」
 サングラスでスキンヘッドの男がカットをかけた。それにより、安堵の空気が現場に広がった。
「にゃー、待ち時間が長かった割には、出番があっという間でしたのにゃー」
「何言ってる、次のシーンもあるぞ」
 日本語で愚痴る原住民マオ役のマオに向け、男が苦笑しながら言った。
「あ、そうでしたにゃー」
「2人はまだましなのでぇす!!」
 その時、何事か怒っている声が聞こえてきた。見ればテーブルの上にちょこんと座って、はむはむとフライドチキンを食べていた露樹八重が、ぷんぷんと怒っているではないか。口の回りが、油でてっかてかである。
「あたしの出番はまだでぇすか? 前乗りした待っているのでぇすよ?」
「仕方ないだろう、台本はそうなってるんだから。当日乗り込みでもいいって、伝えてあったはずだが……」
 怒りおさまらぬ八重を、男が何とかなだめようとする。
「ふ、朝早くの移動は大変なのでぇすよ……」
 口元をごしごしと拭った八重が、明後日の方を向いてぼそっとつぶやいた。
 その近くでは原住民レイ役の草間零が、草間とシュラインに挟まれて褒められていた。
「なかなか演技が上手いじゃないか、零」
「え、そうですか? でも、あんまり台詞がないですから……」
「謙遜しなくていいわよ、零ちゃん。ほんと、雰囲気出てたわ」
 シュラインが零の頭を撫でてあげる。
「次のシーンも頑張りますね」
 零は両手のこぶしをぐっと握り、笑顔を浮かべて言った。
「はい、皆さん移動お願いします! 次は祭壇のシーンですので!!」
 ADが皆に聞こえるように言って回っていた――。

●妖精との出会い【5A】
『我々草間探検隊は、原住民の2人とともに祭壇へやってきた。ユタリアを守りし妖精は、資格がある者の前に姿を現すという……』
 探検隊の前には、石造りの古めかしい祭壇があった。確認出来るどの面にも不思議な紋様が彫られているが、所々薄れて紋様が消えかかっている箇所もある。
 マオとレイは祭壇にかごいっぱいの果物を捧げると、その場にひざまずき何やら祈り始めた。探検隊の一同も同様に真似をする。
 しばらく祈っていた時だった――。
「ユタリアを探しているのでぇすか?」
 不意に声が聞こえた。と同時に、マオが驚きの声を発した。
「にゃーーー!」
 見ればいつの間にやら祭壇の上に、10センチほどの妖精が姿を現しているではないか。
「……日本語を喋っている?」
 草間がそうつぶやくと、妖精が口を動かした。
「あたしの力で、心に直接伝えているのでぇすよ♪ あたしがユタリアを守っている妖精なのでぇす」
 にこにこと語る妖精。その胸元には、大きな懐中時計が提げられていた。
「その懐中時計はいったい……」
「過去のぶんめーのいぶつなのでぇす。これ以上はひみつなのでぇすよ♪」
 さすがは妖精、肝心な部分は答えない。
「あなたたちにはしかくがあるのでぇす。よって、これからあたしが案内してあげますのでぇすよ」
 どうやら無事、探検隊は妖精のお眼鏡にかなったようである。
「ユタリアはここからさらに奥へ行ったところにあるのでぇす。さー、れっつごーでぇすよ♪」
 妖精はそう言うと、やはりいつの間にか現れていた虎猫の背に乗って、探検隊を導き始めた。草間たち探検隊の面々は原住民と別れ、その後を追って歩き出す。探検隊の背が次第に小さくなってゆく。
『こうして我々草間探検隊は、ユタリアを守りし妖精に導かれさらに奥地へ歩みを進めてゆくのだった……』

●骨の使用は次のシーンで【5B】
「カット!! よーし、いい具合だ。この調子でいくぞ!!」
 カットをかけたサングラスでスキンヘッドの男が上機嫌で言った。次のシーンは、ユタリアのある場所へ向かう道中だ。
「おりこうさんな猫さんでぇすねぇ♪」
 虎猫の背に乗ったまま、妖精役の八重が戻ってきた。どうやらこの虎猫が気に入ったらしい。
「ねえ武彦さん、懐中時計はロストテクノロジーってことよね?」
 シュラインが八重の懐中時計を見ながら言った。
「そうなるんだろ。でなきゃ、辻褄は合わないからなあ……」
 草間が苦笑いを浮かべながら答える。まあ、原住民役のマオや零がメイド服を着ている時点で、だいぶ辻褄は怪しくなっているのだけれども、それはそれとして。
「おいっ、フライドチキンの骨はちゃんとあるか!」
「はい先輩! 全部残してあります!!」
 先輩ADが後輩ADに向かって指示を出している。さて、フライドチキンの骨を何に使うつもりなのだろうか……。

●危険が牙を剥く【6A】
『ユタリアのあるという地に向かう道のりは、危険に満ちたものだった……』
 妖精に導かれ進む草間探検隊。妖精の口から時折発せられる言葉は、危険をとても含む物であった。
「あそこを見るでぇす」
 妖精が指差した先には、まだ真新しい骨の残骸があった。所々に肉片が残っているのがまた……恐ろしい。
「道をまちがえると、こわーいもーじゅーがおそいかかってくるのでぇすよ」
 妖精がさらりと言い放つのが、さらに怖い。特別珍しいことではないのだと思えてしまう。
「隊長。向こうに何か……草に隠れて……」
 隊員の1人が恐る恐る草間へ報告する。すると妖精がまたもさらっと言った。
「さそりでぇすね。もーどくでぇすよ」
 だが、さそりらしき物は動く気配が見られない。
「……動きませんねぇ。ねじきれているかもしれないでぇす」
「なるほど、すでに他の動物に襲われてねじ切れているのか……。皆、気を抜くなよ」
 草間が妖精の言葉を聞いて、真剣な表情でつぶやいた。
「ひゃあっ!!」
 突然、妖精から叫び声が上がった!
「助けてなのでぇすよぉ……!!」
 見れば妖精が、大きな蜘蛛の巣に引っかかって、じたばたとしているではないか。虎猫は引っかかってこそないものの、顔にべったりと蜘蛛の巣が張り付いていた。
「恐ろしいわ……妖精にも牙を剥くのね……」
 シュラインが口元を押さえてそうつぶやいた。
「う〜……助けてくださいなのでぇす!!!」
 妖精がなおも助けを求めていた……。

●一部カットしました【6B】
「隊長。向こうに何か……草に隠れて……」
 隊員の1人が恐る恐る草間へ報告する。すると妖精役の八重がさらっと言った。
「さそりでぇすね。もーどくでぇすよ」
 だが、さそりらしき物は動く気配が見られない。
「……動きませんねぇ。ねじきれているかもしれないでぇす」
「なるほど、すでに他の動物に襲われてねじ切れているのか……。皆、気を抜くなよ」
 草間が八重の言葉を聞いて、真剣な表情でつぶやいた。八重はさらに言葉を続けてゆく。
「学会に発表しないのでぇすかー?」
「あ、いや、学会とは無縁だしな……」
「この先の底なし沼、誰かはまったらそれで22回目なのでぇす」
「……22回目っておい」
 八重の言葉に呆れる草間。カメラはその姿もしっかりと撮影している。
「この辺はばっさりカットだな。この手の番組で、あからさまに危険な発言してどうするんだと」
 カメラの後ろで見守っていたサングラスでスキンヘッドの男は、そう言って大きな溜息を吐いた。

●幻のユタリア【7】
『やがて我々草間探検隊は、ある洞窟の前へ辿り着いた。この中に、幻のユタリアはあるのだろうか?』
「ここなのでぇす」
 妖精が探検隊へ伝えた。目の前には、洞窟の入口がぽっかりを口を開けて待っていた。
「この奥に、ユタリアがあるというのか……。よし、慎重に進むぞ」
 草間は皆に伝えると、妖精に続いて洞窟の中へ入っていった。他の隊員たちもそれに続いてゆく。
 入ってすぐの所、明かりに壁画が照らされる。それは髪の長い女性が、剣のような物を手にしている壁画であった。
「これは……?」
 草間の疑問に、妖精が答えた。
「ユタリアと、それを使っていた人なのでぇす」
『何と――ユタリアとは剣だというのか』
「この突き当たりに、ユタリアはあるのでぇす。あたしの案内はここまでなのでぇす」
 妖精は探検隊にそう伝える。この先は、草間たち探検隊だけで向かわなければならない。
 妖精を残し、洞窟の奥へ向かう探検隊。罠など危険はない。やがて、探検隊は洞窟の奥へと辿り着いた。そこには、岩に突き刺さった光り輝く剣の姿があるではないか。
「あれがユタリアなのか……」
 草間がまじまじと岩に突き刺さった剣を見つめる。
『ついに我々草間探検隊は、幻のユタリアの姿を目の当たりにした。そしてもっと近くで見るべく進もうとした――その時』
 草間が1歩足を前に踏み出した時だった。突然轟音が響き、洞窟の天井から大量の砂が落ちてきたのである!
「皆、引き返せ!! 崩れるぞ!!」
 草間のその声に、隊員たちは慌てて洞窟から脱出する。最後尾の草間は、最後に1度剣の方へ振り返った。
『草間隊長が見たそれは、果たしてユタリアが見せた幻だったのだろうか?』
 天井から落ちる砂の向こう、剣を手にした髪の長い女性の姿があった。それは壁画と全く同じ構図の――。

●苦い結末【8A】
「あと1歩だったんだがな……」
 洞窟からの脱出後、夕日を見つめる草間の表情は憂いを帯びたものであった。
「結局、ユタリアというのは何だったんだ?」
 妖精に尋ねる草間。明らかに悔いたっぷりの質問である。
「それはひみつなのでぇすよ♪」
 妖精はそうとだけ答え、虎猫に乗ったままいずこへともなく姿を消した。
『こうして……多くの謎を残したまま、我々草間探検隊の今回の探検は幕を閉じた。世の中には、我々人間が不用意に手を出してはならない領域というものが存在しているのかもしれない。そう思い知らされた探検だった。だが、それでも我々は未知なる物へ向かってゆく。何故なら我々は、名誉ある草間探検隊なのだから――』

●オールアップ【8B】
「カァァァット!! 撮影終了、皆お疲れさん!!」
 サングラスでスキンヘッドの男は、そう言って一同を労った。これにて全シーンの撮影が終わったのである。
「はい、特別出演の高峰沙耶さんでしたー!」
 と言ってADが拍手する。高峰沙耶は最後、砂が落ちてゆく洞窟で剣を手にして立っていたのである。ちなみにその砂だが、カメラの前でADが大量に降らしていただけだったりする。
「えー、この後打ち上げがありますんで、お時間ある方はどうぞご参加ください!!」
 ADが皆に聞こえるよう言って回る。近くの居酒屋を借り切っているそうである。
「やれやれ、ようやく終わったか」
 肩を叩きながら溜息を吐く草間。そして、サングラスでスキンヘッドの男の方へ近付いていった。
「こういうのはもう勘弁してくれよ」
 苦笑して男に伝える草間。
「なかなか似合ってたと思うがね。まあ急遽作ることになったんだ、助かったよ」
 男――内海良司はそう言って豪快に笑った。

●エンドロール【9】
〈出演〉
 草間武彦
 シュライン・エマ(ナレーションも)
 露樹八重
  *
 草間零
 マオ(友情出演)
  *
 高峰沙耶(特別出演)

〈演出〉
 内海良司(オフィス内海)

〈製作〉
 草間探検隊製作委員会


 ※この作品は、フィクションです

【それゆけ草間探検隊! ―幻のユタリアを求めて― おしまい】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】

●東京怪談 SECOND REVOLUTION
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1009 / 露樹・八重(つゆき・やえ)
          / 女 / 子供? / 時計屋主人兼マスコット 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
・ご参加ありがとうございます。このお話の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、このお話の文章は(オープニングを除き)全15場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。エイプリルフールでなければなかなか出来ない、このようなお話をここにお届けいたします。
・NPCについてですが、草間武彦、草間零、高峰沙耶は東京怪談のオフィシャルNPC、内海良司は東京怪談の高原のNPC、マオは聖獣界ソーンの高原のNPCです。
・このお話、構成としては変わってる部類かと思います。基本的に【*A】となっている場面、もしくは数字のみの場面はフィルム本編と考えてください。【*B】となっている場面はメイキング側と考えてください。
・お話の内容としては……有名な『あれ』の撮影の裏側をふと考えてみて、それを表現してみるとどうなるかなと思ったのが動機だったのですが、実際やってみるとなかなか難しいですね。偉大さが改めて分かったような気がします。
・シュライン・エマさん、ご参加ありがとうございました。通訳など担当ということで、途中でにゃーにゃー言わさせていただきました。目的地の前で断念とかは、もうこの手の定番ですよねえ。で、何故かカメラは引き返す探検隊を目的地側とか洞窟の奥側から撮ってたりするんですよね、不思議なことに。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また何かの折に出会えることを願って。
エイプリルフール・愉快な物語2007 -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年05月11日

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