▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『愛された聖母 〜子守唄の終焉〜 』
セレスティ・カーニンガム1883)&モーリス・ラジアル(2318)&マリオン・バーガンディ(4164)&(登場しない)

■ 特別なティータイム

「今日はとても残念でした」
 照りだした日も少しばかり傾いたある日の午後、まるで異次元空間のように美しく整った庭園に降り立った銀色の海のような髪の持ち主は豪華絢爛、磨かれそして何より大切にされてきたと一目で分かるリムジンから静かにその深いアクアマリンを伏せそう呟いた。

 リンスター財閥。そこはある種の異空間だ。何のことは無い、この屋敷の持ち主がとてつもなく長い生を送り、悪戯心と遊戯を愛する気持ちで建てた、世界でも何件あるか本人ですらあまり把握していない東京の別荘。
 当人達からは全く異空間でも特殊空間でもないそこは、通りすがり、或いはただの一般人にとっては異空間にしか見えず日本とは全く異なる様相を見せる姿は彼ら独特の価値観を世間に知らしめるのには十分であった。
「あまりご無理をされませぬよう。 もっとお身体を大事になさって頂かなければ…」
「分かっていますよ」
 セレスティ様、そう呼ばれこの異空間という名の屋敷の主人、セレスティ・カーニンガムはリムジンの運転を任せていたモーリス・ラジアルの声に淡く微笑み、杖とは別の手に持ったパンフレットを部下である彼に手渡す。
 世界有数の著名人の名前が刻まれたパンフレットは安く言ってしまえば通販カタログのように物品と、その値段が、目が飛び出る程の価格で記されている。
「休日はなるべくお休みなさってください。 この暑さではセレスティ様のお身体に障ります」
 モーリスの口調はいつもセレスティの身体を気遣うもので主治医として、何より一番の部下としてのそれではあったがどこか説教じみている。それもこれも、大切な主を失いたくないという一心で発せられているのだから、肩を竦め。
「心配をかけてしまい申し訳御座いません。 ですが本日はもう行く所はありませんから…」
 安心して欲しい、何より出来ればまたオークションに付き合って欲しいと微かな悪戯心を込めて、この二日間の休日に出向いたオークションの帰りに用意した、特別なお茶会が待っていると暗に瞳で語る。
 こういった会話はセレスティにはお手の物だ、モーリスに丸め込まれる事は殆ど無かったし、何より好奇心の行く先であるオークションに泊りがけで行った事など、帰る直前に専属のパティシエに特注したスィーツと部下が大切に育てたハーブティーで帳消しに出来るのだから。
「セレスティ様…。 分かりました、それでは離れにお連れ致します」
 捕まって下さい、と差し出された手は思いやりに満ちていて、良心の呵責がセレスティを苛む事が無い――わけではなかったが、結局それはそれ、これはこれ。なのだ。

 疲れを癒す為には睡眠が一番。確かにそれは一理あるが、あまりにもすぐ眠ってしまってはかえって身体に悪いという事もある。
 それらを踏まえた上で用意されたのが特別なお茶会。そう称する、セレスティの親しい者のみで開かれるハーブティーとスィーツのゆったりとした空間なのだ。
 深海の中に居るかのごとく青い絨毯を渡り切り、常人ならば肌寒い離れは屋敷の主人専用に作られた特殊なセッティングが施してある。
 スィーツを運び終え、すれ違うパティシエに礼をしながら扉の無い空間に入れば甘いチョコレートの柔らかな香りと耳に届く蓄音機を使用したクラシックが、何より人魚の環境とは一味違う甘酸っぱいレモンティーがひっそりと温かな湯気を放っていて。
「セレスティさま、お待ちしておりましたのですよ!」
 古い本と木製の心地よい香りがその空間から飛び出してくる。
 猫がそのまま人間になってしまったような、くるくると変わる表情と声は明るく、主に飛びつくようにして特別なお茶会の常連でもある部下、マリオン・バーガンディ。
 彼は歳のわりにはとてつもなく幼い、なによりオークションへ行ってきた主にその瞳を零しそうな程見上げている。
「マリオン、道を開けてください」
「すみません、マリオン。 今回のお土産は無しのようです」
 顔を見るとすぐにモーリスはマリオンを主から遠ざけたがる。セレスティと自分の後輩は随分とアンティークの話で盛り上がれる、いわば友人のようでいて、主治医の彼からすれば無茶の原因の一つともなる人物なのだから放ってはおけない。
「むう…。 それは寂しいのです」
 モーリスの顔を一瞥、マリオンとて負けてはいない。大切な主として、アンティークという共通の美術品を愛する仲間として近くに寄りたいのだ、大きな瞳はセレスティに向け一番柔らかなソファに移動許すもののその間、先輩の顔は一度も見ていない所は怖いもの知らずといった所か。

「ですがマリオン。 例の件は…」
「はい、セレスティさま、ここにちゃーんと用意しておいたのです」
 特別な空間に置かれたチョコレートスィーツを一口、マリオンは満足そうに口元を緩め、テーブルに置いた数冊の古い本を退け、逆に自らの手に隠し持っていたような鮮やかな手つきで一つの木箱を取り出す。
「セレスティ様…。 マリオン、なんという事を…これは…」
 天使の柔らかなカーブが施された中に上手く仕込まれた聖母の像。それはモーリスも一度は見た事のある、主を窮地に陥れた曰くつきの品で。整いすぎたとも言える眉がマリオンへ向けて強烈に吊り上る。
「モーリスこれは私がマリオンに頼んで調べてもらっていたのですよ」

 まだ数ヶ月も経っていない、けれど春がもう少し遠かった日にセレスティが名も知られぬオークションで手に入れてきたオルゴールだ。
 木箱の手入れはセレスティが入手してきた時よりも幾分か美しく保たれており、何より曰くと言える雰囲気が少し緩んでいる。これは主がこのオルゴールの音色で窮地に陥った時、音自体をモーリスが調和したという事も関係しているが。
「このオルゴール自体の製作者は元々あまり知られない方のようなので、ちょっとだけお時間を拝借して観に行って来たのです」
 嗚呼、とマリオンの話でモーリスが微かにため息を付いた。
 どうやらこの二人の共謀者は自ら危険を冒してでもこの音色の元凶を突き止めたいらしい。
 つまり、セレスティがマリオンに頼んでいた事、というのはオルゴールの出所。そして曰くのついた原因となる事柄を調べさせるという事なのだから。
「製作者の方はオルゴール作りよりも彫刻家を目指した普通の方だったのです。 彫刻の出来は良いのですけれども…」

 天才という人物は大抵その全てが故人になってから評価されるものである。マリオンが最初に調べた事柄である製作者についてはまさにそれであった。
 ごく普通に彫刻にのめりこみ、売れず散った一人の彫刻家。その作品にオルゴールが入った為当事の物としては少々不思議な作りになってい、音を出すようにとその作品を買い取り、委託し、何よりこれを贈った人物。
「或いは、セレスティさまが見た、と仰った女性の手の持ち主が曰くの元凶だと思うのです」
「製作者の方以上はまだなのですか?」
「はい、セレスティさまのお話からその女性は黒死病だった可能性もあるかなぁと、調べていたのです」
 成る程、セレスティはマリオンの言葉に心の中で笑みを浮かべる。
「そんな危ない所に…まさかセレスティ様の前で行こうと思っているのではないでしょうね、マリオン」
 モーリスの言葉は矢張り痛烈だ。が、マリオンがセレスティの帰還を待ってからこのオルゴールを贈られた女性の元へ行きたいという、その心は主にこの強烈な先輩への言葉が欲しいのだ。

 相手の病状は完全にはわからぬものの、何か不治の病であった事は明白。セレスティのように悠久に近い生命を持つマリオンといえど治癒能力、医療知識は万が一の場合、犬猿の仲であるモーリスに頼る他無いのだから。

「許して下さいモーリス。 貴方なら何かあっても対処して下さるでしょう?」

 モーリスの眉が一瞬下がり、そしてまた吊り上る。己を律していると分かっていても、最近は特にからかい甲斐のある部下はそうしてセレスティの言葉に心を折ってしまうのだ。
 勿論、暗に主へ、先輩部下への強請りを希望したマリオンは得意げに喉を逸らせ、セレスティに微笑みかけている。美術品への愛の結束は思いの外固いらしい。
 だからこそ、キュレーターの時を遡るという計画は実行に移されるのだから。

■ 薔薇の香

「良いですか、マリオン。 ここに戻ってきてもセレスティ様に近づく事は許しませんよ」

 モーリスの言葉はまるでマリオンを病原菌扱いでもするかのような、そんな意味合いにも聞こえてしまう言葉だった。
(…いくらセレスティさまの為とはいえ、酷いのです)
 オルゴールがセレスティの能力で見た、女性の元へ次元を越えた扉として現れる。その扉をくぐりながらマリオンはただひたすらモーリスの言葉に頬を丸く膨らませる。
 何もそこまで言う事は無いのに。そんな気持ちと相変わらずだという感情、けれど実はモーリスは密かに、いや、多分自分の身体も気遣っている。かもしれない、一つの確信を持ちながら次元の先、この入り口をくぐった。

 時代はここで百年単位は越えてしまっただろう。
「…う。 か、香りが…きついのです…」
 マリオンの能力で見えるこの世界、時空の色は鮮やかで、確かに主の言うとおり田舎の香りはするが貴族としてはそれなりの位置に居た者の屋敷だろう。調度品は多少古く、霞んで見えたがなかなかの創りに一瞬見惚れる、も、途端に香る薔薇の香りの強烈さに思わず両手で鼻と口を塞いだ。
(嫌な予感的中なのです)
 眉を顰め、周りを見渡せばそこは廊下、階段が目の前から一階へ下がっており、後ろを向けば廊下に面したどの部屋よりも美しく、かつ鍵穴のついた扉が見える。
「大当たり、なのですよ」
 薔薇の香りはその鍵穴のついた部屋に向かうにつれ、大きくなり口を開くのも肺から巡る空気でそのまま咽てしまいそうになるのだから、これは思った通り黒死病の類だと理解して進んだ。

 この時代がいつの時代か、もしマリオンが完全に瞳を開けるものならば分かっただろうが、何にせよ酷い香りが瞳をも曇らせ元からある知識を食い散らかしている。
 だが、黒死病という病が流行った当事、病人は死のカウントダウンと共に酷い悪臭に見舞われポプリ等の花を沢山用意していたというのだから、この先に居る人物の腕の色を先に聞いていれば自ずと全てが理解出来た。

 本来なら危険な事は避けてしまいたい、出来る事ならこの香りを嗅いだ時点で時空の扉を開きセレスティの元へと帰りたい。
 そう思うマリオンの心は同時に、好奇心という名の病に冒されてい、何より主がモーリスにかけてくれた言葉も大きく彼を味方した。勿論、自分一人がどうなろうと何をする先輩ではなかったがセレスティの言葉があるのなら百人力だ。
「あ、あの…誰か…居ますか?」
 扉はマリオン側から閉められていて、大きな南京錠がかけられ能力でどうにかできる物では到底、無い。
 ともすれば、部屋の中へ時空の扉を開けてしまいたかったがきっとそれは無理であろう。
(モーリスの調和能力のお陰でそこが曖昧なのです…)
 ここまで来て邪魔をするか、モーリス。言いたげなマリオンだが、曰くをどうにかしない事には自分の調査も捗らなかっただろう。ここは、ノックと声だけで扉の向こう側を調べるしか方法は無い。
「ごめんください、なのです…っ」
 一度では返事が無い。元々マリオンも大きな声で呼びかけたわけではないから、と嗚咽さえ抑えた声を張り上げると。

 ――ガタン。

「…っ!!」
 大きな、音が聞こえた。
 人の声では決して無い、鈍い肉の落ちるような音と同時に木の音。それから続くオルゴールの眠りを誘う子守唄が小さく、けれど確実に耳に。
「ご、ごめんなさいなのですっ!」
 途端、これ以上、ここに居ては危ないとマリオンの心が警告を放った。
 引き摺る肉塊の何かの音、硬い扉を挟んだそれでも、確実にここまで辿り着けるであろう曰くの正体。それはモーリスの調和能力でようやっと安全が保たれているだけであり、この中の人物は。

 光の海へと時空の扉へ逃げ込んだマリオンが最後に聞いたのは、息を荒げた女の声にならぬ嗚咽であった。

■ 現在へ

 マリオンが居なくなってしまった部屋はなんと寂しい事だろう。
(矢張り行かせるべきではありませんでしたか…)
 暖かいハーブティーを口に流し込んでも心配という二文字がセレスティの心を支配して離れない。ともすれば何か悪い事でもあったのか、オルゴールにはモーリスの能力が施され、この空間では心地よいメロディを奏でている。

 そんなものだから。
「…! マリオン!」
 光の扉が先程までマリオンが居た場所で開き、そして自らの身体を抱えた彼が戻ってきた時にセレスティの心臓は跳ね上がるかのようであった。
「セレスティ様はここで…」
 モーリスが珍しくマリオンの身体を抱き止め、素早く回復を施している。施されている側も、少しばかり小さく微笑んで同じ事を言うものだから、今更ながらに早く動かない足が悔やまれる。
「なんの事はない、あちらの空間で曰くにやられてしまったようですね」
「マリオン…すみません…」
 何度かマリオンの丸い瞳が瞬きをするとすぐに元居た椅子に座りなおす。モーリスも彼も、それはまるで身を翻すように。
「ええ、モーリスがこちらの曰くを調和してくれていたお陰なのです」
 つまりは、マリオンの行った空間への調和もしておけと、相変わらずな態度にセレスティは肩を揺らせる。
 言葉にしてみれば彼はすぐに回復をしたようで、不機嫌とも思われる瑪瑙の瞳をエメラルドのそれに合わせる。

「マリオン、無事で本当に…良かった…」

 犬猿の仲がまた火花を散らせる前にセレスティの口にした言葉が甘いスィーツのようにその場を緩和した。
 モーリスはまた痛烈な言葉を放とうと開きかけた口を閉じ、マリオンはそれを返そうとした身の強張りを解く、まったくもってこの二人は合わない時が多い、が。
「でも、あの空間でセレスティさまの見た女の方はきっと生きておられたのだと思います」
「生きて…ですか?」
 結局の所セレスティとマリオンの話でモーリスは淡いため息と、主に付き添うようにしてその隣に立ち、二人の会話を眺める。こういう時、下手に入っていくとセレスティの何かしらのお願いが待っているのだ、それが良い事であればいいのだが、大抵は無茶な事ばかり。
「セレスティ様、くれぐれも、ご無理は…」
「はい、モーリス」
 淡い笑顔ばかりを浮かべるセレスティが万遍の笑みで返すのだから、言葉が出ない。逆らう事の出来ない中、恨めしげにマリオンを見れば案の定丸い瞳は少しばかり尖っていた。

 どちらもどちら、セレスティから言わせてみればそれもまた一興であったが本人達は子供じみていながらもなかなかにして白熱している。

「私が行けたのはセレスティさまの見た時間の後だと思うのです、鍵もかかっていましたし…」
 しかしながら、子供の喧嘩をいつまでも引き摺る二人でもない。言葉を一度置くと、マリオンは息を呑んで続けた。
 行けたその場所に人の気配は無く、あったのは薔薇の花の酷い香り。最後に聞いた女性の呻きのような音。調和されたその中で未だ生き続けるあのオルゴールを贈られた女性は。
「まだ、あの屋敷にいらっしゃる…という事ですか…」
「はい、あり得ない話ではないと思うのですよ」
 時代に埋もれた廃墟というものは今現在、何かの災害をも恐れずにひっそりと生き続けている場合が多々ある。もし、以前愛しい人の元へ行けたと感じたあの手が鍵のかかった部屋で一人きり、誰も来る事はない廃墟に居るのだとしたら。
(幸せに、なれる筈などありませんよね…)
 セレスティは眉を顰める。
 愛しいと思う人の側に居る事ができない。それは自分自身が一番よく分かっているのだから、例えば自分があの女性であったなら耐えられない苦痛を背負い続けるだろう。
「侮り過ぎましたか…能力で、完全に消してしまう事は…」
 ふと、思う。
 あの手が既に人としての心を失っているのならば、消してしまった方があの人物の為。何より辛い場所からの開放となるのでは、と。だが、言いかけてセレスティは首を振る。エゴでしかない、自らが愛する人を想う気持ちがそうであるように、完全に消してしまえる想いなど無いのだから。
「セレスティさま…なんなら…私が…」
 マリオンの言葉にセレスティは首を横に振るしかなかった。
 あの魂が安寧の地へ行くのならば自分は惜しみない力を使うだろう。だが、あくまでもそれは自分にその力があれば、だ。
 もし、ここでマリオンにあの屋敷のある空間へ赴かせ、もしその地域一帯が黒死病の流行った場所であったなら。どれだけ部下を苦しませる事になるだろう。知らずの事とはいえ、一度危険に晒してしまっただけでも悔やまれるというのに。モーリスがいくらその力で彼の地に赴いた身体を治せたとしても、だ、苦しみというものの残骸は記憶の中に刻まれる事に変わりは無い。

「セレスティ様…本当にそのオルゴールを贈られた女性が…気になるのですね?」

 ふと、モーリスが口を挟んだ。背の高いアメジストを見上げると、矢張りこの一件から手を引けという瞳が待っているのか。
「すみません、モーリス」
 自らとマリオンの楽しみになればと思ったオルゴールの真相は、とんでもない悲しみをセレスティに与えてしまった。
 曰くの主を救う事も、マリオンを危険に晒したという事も。いや、もしかすればこれが本当のオルゴールの曰くだったのかもしれない。
「仕方ないですね…今回だけですよ」
「? モーリス?」
 視線を合わせずに居れば、モーリスのため息が静かに室内に響いた。
 呆れた、というよりは一種の信頼を含んだため息にその場に居たマリオンですら口を挟まぬほどの、アンティーク美術趣味の無い彼が、一通差し出した手紙は既に開けられており――。

■ 愛された聖母

 滅多に無いオークションがある。いや、殆ど借金のかたの競売のようなものではあったが、建築という物も時としてそれ自体が美術品として名付けられ、そして人々に見初められる事があるのだから。

「モーリス、貴方はもしかしてあの屋敷がオークションの品であった事を知っていたのですか?」
 広いリムジンの中、セレスティはあれから手渡されたオークションのパンフレットと、そして屋敷の権利書を手にし、遠い運転席のモーリスに声をかける。
「…どう、なのでしょう」
「貴方という人は…」
 主に来た手紙を先に開けるという事は本来褒められるべきではない。けれど、モーリスやマリオン、そして一部の近しい者はその中身を開封し、セレスティに有害なものであるか、ないかを確認する権利も矢張り、あったのだ。
「全く、モーリス。 本当に貴方という人は…随分と優しくなったものです」
 リムジンの中は酷く安定していて、セレスティの足にも負担は全くかからないようモーリスは細心の注意をはらっているのが分かったが、一度だけ、その強気な部下の肩が遠目に揺れた気配がして、口元に笑みが零れる。

 完全な異次元となったあの屋敷がこれからどうなるのか、それはセレスティが決めていく事で、何より先に開放されるのはあの女性の部屋、全ての始まりの部屋がオルゴールの音色と共に完全な終焉を迎えるのだ。
 それは決して、愛の終わりではなく、置いて行かれたという人間の悲しみとしてでもない。
 セレスティとモーリス、マリオンに見守られた、これが曰くの付いた聖母の子守唄の最期であり、愛されたオルゴールの現実なのだから。


END

PCシチュエーションノベル(グループ3) -
クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年04月12日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.