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『ビター・スイート@武彦 』
黒・冥月2778

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オープニング


「お兄さん、具合でも悪いんですか?」
妹である零に顔を覗きこまれ、男は我に返る。
バチッとぶつかる、視線。
男は苦笑しつつ、サッと "何か" を隠し。
「や。大丈夫だよ」
零の頭をポンと叩いて言った。
「なら良いんですけど…。それ、何ですか?」
男が隠した "何か" を、零が詮索すると。
「内緒」
男は 一言そう言って、視線を逸らす。
久しぶりに兄の慌てる姿を見た零は、
デスク上の卓上カレンダーを見て、ハッと気付く。
もうすぐホワイトデーだという事に。


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春の風が、頬を撫でる。
その心地良さからか。いつしか。私は眠りについて―…。

「ふーん…で?」
「それをね。お兄さんに、あげてイイですか?って聞いたんです」
「そしたら?」
「少し慌ててましたけど。好きにしろ…フッ。って」
「…何。今の、冥月の真似か?」
「似てなかったですか?」
「あぁ。まるで」

優しい声と腕に包まれて。
その安心感に、私は目を閉じたまま…告げるんだ。自分の想いを―…。

「ずっと傍にいて…」
「おい。何か、すげぇ格好で、乙女な事言ってんだけど」
「ちょっと、お兄さん!どこ見てるんですかっ!」
「いや、だって。仕方ねぇだろ。これは、お前…」
「そんな厭らしい目で冥月さんを見ないで下さいっ」
「厭らしい目って…」
「お兄さんの代わりに徹夜してくれたんですよ?感謝しないと!」
「してるよ。十分」

あぁ、どうして。すぐ、そうやって話を はぐらかす?
恥ずかしいのはお互い様だ。私だって…面と向かって、こんな事を言うのは―…。

「恥ずかしい…んだ」
「おいおい。どんな夢見てんだ、こいつ」
「んもぅ!お兄さんっ!」
「あー。はいはい。わかったわかった」
「本当に わかってるんですかぁ?」
「わかってるよ。でもなぁ、御返しは"体"が良いっつってたんだろ?それって、どういう意味?」
「…完璧に勘違いしてますよね。お兄さん」
「あ?」
「だから、それはですね。先月、冥月さんは、引越しを考えてたから…」
「あぁー。なるほど。引越しの手伝いをしろ、って事か。肉体労働ね」
「んもぅ…」

嫌だ。負担には、なりたくない。傍で、支えていきたい。
支える唯一の女でありたい。貴方にとって、かけがえのない存在でありたい。何故って―…。

「愛してる…から…」
「うぉい。マジで、どんな夢見てんの。愛を囁いてんだけど」
「嫉妬ですか?」
「ちが…」
「相手は、お兄さんですよ。きっと」
「…それは、ねぇだろ」

あぁ。目を逸らさないで。恥ずかしくても。こっちを見て。
ちゃんと向かい合ってくれないと―…。

「やだ…」
ギュッ―
「くぉっ…!?」
「わぁ…」
「おま。わぁ…じゃねーよ。どうすりゃいいんだ、これ」
「きゃー」
「あっ、こら。零!逃げんなっ!つか、置いてくなっ!」

大きな声で。あなたが叫ぶのは。恥じらいでも。憤りでもなくて。
戸惑いと、困惑。あぁ…私の想いは、重荷なのか…?
「…ん」
フッと目を開け、ゆっくりと一度瞬き。
あれ…今の。何だ…夢か。薄っすらと覚えている限りでは、
私が、ただひたすらに愛を告げ、愛を乞うという、酷く滑稽な内容で…。
「…ん?」
何かを抱いているような感覚に眉を寄せる。
はて?疑問に思いつつ、目線を下にやると。
「お、おはよ…」
「ぎゃぁぁぁ!!!」
ドカッ―
「へぶっ!」
何で。何で何で何で何で何で。
私が草間を抱いているんだ。いや、違う。
おそらく私は被害者だ。今の鉄拳は、正当防衛に違いない。
「いっ…てぇ〜…」
俯き、固く目を閉じたまま、鼻をさする草間。
その姿を見やりつつ、私は声を裏返して言う。
「何してんだ!この変態!」
私の言葉に、草間は顔を上げ、苦笑して返す。
「そりゃ、こっちの台詞だって」
「はぁっ?」
「朝から大胆だな。冥月」
何を言ってるんだ。こいつ。頭オカしいのか?
いや、それは知ってたけど。遂に完全にイカれてしまったのか?
もしも、そうなら。不憫で不憫で。思わず涙が零れるぞ。
「いやぁ〜…ビックリした」
そう言って笑いつつ、再び近くに寄ってくる草間。
事態を把握できていない私は、
近寄ってくる草間に、若干妙な恐怖を覚え、僅かに退いた。
「………」
無言のまま、草間の顔を見やっては、パッと目を逸らす。
一体何が起こっていたのか、何が起こっているのか。
さっぱり理解らなくて、私は秒刻みに困惑する。
「さて。どーすっかな」
私を見やりながら苦笑する草間。
はぁっ?どうするって、何をだ。
え。まさか、私をか?いやいや。待て待て。
何を、ホザくんだ。こいつ。殺すぞ。それ以上近寄るな…!
「…まぁ、今更 うだうだ考えても仕方ないな。よし」
ズイッと詰め寄る草間。
ふっ、ふざけるなっ。
どうして、いきなり、こんな展開になるんだ。
っていうか、何、一人で勝手に覚悟決めてんだ。貴様はぁぁぁっ…。
グイッ―
「きゃぁぁ」
腕を掴まれ、思わず悲鳴をあげる私。
草間は、ギュッと固く握った私の手を強引に解き。
何かを握らせて。再び、元の状態に戻す。
「…………」
おそるおそる目を開くと、草間は少し離れて、クックッと笑っていた。
その意味深な笑いに疑問を抱くと同時に、
自分の手の中に "何か" がある事に気付く。
「…………?」
ギュッと何かを握っている自分の左手をジッと見やり、首を傾げる私。
「開いてみ」
妙に催促力のある草間の その言葉に従って、ゆっくりと手を開くと。
そこには、紅いガーベラのピアスが一組。
「何だこれ…」
ポツリと呟くと、草間はクッと笑い、言った。
「ピアス」
「それは見れば理解る。これを、私にどうしろというんだ、と聞いている」
私が言うと、草間はパッと私の手からピアスを取り。
「黙って受け取りゃーいいんだよ」
そう言って、私の耳に指をかけ、慣れた手付きでピアスを吊るす。
「だから、何で…」
キョトンとする私。
草間は少し呆れて肩を竦めると、暦を指差した。
暦…。今日は、三月…十四日。三月…十四日。
「…あっ」
気付き目を丸くする私を見て、草間はテーブルの上の手鏡を取りつつ言う。
「気付くの 遅ぇよ」
全く…全くもって、頭になかった。
渡し方が、どうであれ、先月チョコレートを渡したのは事実だから、
どんな御返しをさせようかと。今月頭くらいは、色々考えていたのに。
仕事が忙しく、それどころじゃなくて。
いつしか、忘れていた。今日という絶好の日を。
「ほれ。見てみ」
私に手鏡をあてがい映す草間。
鏡に映るは、ほんのりと紅く頬の染まった私と。
その両耳で可愛らしく揺れる紅いガーベラ。
「も、もう見たっ」
パッと草間から手鏡を取り上げる。
何だ。今のは。いや、紛れもなく私だが。
何とも…気恥ずかしい…。
「うん。似合うな。良かった」
満足気に言う草間の顔を見る事が出来ず。
私は俯いたまま。心の中で"ありがとう"と囁きつつ、
草間の言葉に噛み合わず、意味不明な。
それでいて少し失礼で滑稽な台詞を吐いた。
「…煩いっ」


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━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / ♀ / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒

NPC / 草間・武彦 (くさま・たけひこ) / ♂

NPC / 草間・零 (くさま・れい) / ♀


著┃者┃通┃信┃
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こんにちは。いつも、発注ありがとうございます。心から感謝申し上げます。

いや〜…。夢とリンクさせる冒頭が、書いてて楽しかったです(笑)
妙に反応する武彦を、楽しんで頂けたら。と思います^^
結末というか何というか。シメは、やっぱり甘く(笑)
気だるさの中に男らしさを兼ね備える武彦で、
何だかんだで主導権を握られっぱなしのホワイトデー演出でv
作中でプレゼントされたガーベラのピアスは、
後日、発注頂いている別ノベルと一緒にお渡しします。
このノベルと一緒に渡せればベストなんですが、このノベルには、
アイテム付加ができないので…。御了承下さいませ^^

気に入って頂ければ幸いです。また、どうぞ宜しく御願いします^^

2007/03/14 椎葉 あずま
ホワイトデー・恋人達の物語2007 -
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東京怪談
2007年03月12日

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