▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『運命の悪戯 』
ファム・ファム2791)&立花香里亜(NPC3919)

 それはひな祭りの前…三月一日の事だった。
「今日は色々買い物しちゃった」
 散々迷ってJRの駅を出た後、立花 香里亜(たちばな・かりあ)は、足取りも軽く商店街を歩いていた。今日は仕事が休みで、始まったばかりの春物のバーゲンなどで、可愛い服やアクセサリーなどを買ったので気分も軽い。いつもは自宅で夕食を作るのだが、たくさん買い物をしたので外で済ませてしまった。たまには外食もいいものだ。
 明日の朝食用のヨーグルトもあるし、まだ野菜も残っているから買い足す物は特にないだろう。そんな事を思いながら、香里亜が電器屋の前を通りすがろうとしたときだった
『緊急特番!春の怪奇?!深夜に暴れる雛人形!』
 丁度時間は夜の七時になったばかりで、そんなテロップが流れているテレビの画面が目に入る。香里亜は元々霊能力が高い方なので、あまりそういう番組を積極的に見たりはしないのだが、通りすがりに流れていたのでつい立ち止まって見てしまった。
「これは、ある店の防犯カメラに写った映像である…」
 淡々としたナレーションがまた怖い。なので本当はそこから目を逸らして立ち去りたいのだが、ちらっと見てしまうと何だか妙に気になってしまう。
「あんまり見ると怖いから、早く帰ろうっと」
 そっと顔を逸らし、そこから立ち去ろうとした瞬間……。
「これなのですぅ!」
 そう言いながら唐突に目の前に現れたのは、香里亜が何度か会ったことがあるファム・ファムだった。
 ファムは『地球人の運命を守る、大事な大事なお仕事』をしており、香里亜もその手伝いを二度ほどしたことがある。緑のふわっとした髪と、首に付いているリボンが愛らしい六歳ぐらいの少女だ。
「うわっ、びっくりした…こんばんは、ファムちゃん」
 その姿は香里亜にしか見えていないらしい。少し辺りを気にしながら挨拶をすると、ファムは全身でぴょんぴょんと跳ねるようにしながら、番組が流れているテレビを指さす。
「いいところで偶然お会いしました!緊急事態なのですぅ」
 ファムが来ているということは、きっと『運命』に関わるような出来事があったのだろう。だが、それがテレビ番組とどう繋がっているのかが分からない。香里亜は少し首をかしげながら、テレビとファムを交互にチラチラと見た。
「緊急事態って、何かあったんですか?」
「大ありなのですぅ!このままじゃ大変なことになってしまうのですぅ」
 もうどうしたらいいのかいうように、ファムは手をばたばたさせ香里亜の前で目を潤ませている。それをなだめるように香里亜はそっとファムの頭に手を置いた。
「落ち着いてください、ね?私で良ければまたお手伝いしますし」
 何が起こっているのかは分からないが、困っているファムを放っておくことは出来ない。
 ふと辺りを見渡すと、歩いている人たちは皆テレビにも香里亜達にも興味がないという風に、急ぎ足で通り過ぎていく。電器屋の前に立ち止まっているのは、香里亜とファムだけだ。
「何かあったんですか?」
 安心させるように微笑みながら香里亜がそう言うと、ファムはやっと落ち着いたようにふぅと息をつき、事の顛末を話し始めた。
「それはそれは、大変なことなのですぅ…」
 前置きの通り、それはこの次元だけでは考えつかないほど、壮大な話だった。
 今この瞬間…この世界ではない、別の二つの次元が戦争中だという。多くの戦死者が出るほどの大戦だが、それだけなら特に問題はない…はずだった。
 本来命を落とした者は、自分の住んでいる次元の輪に還っていくはずなのに、その戦死者の霊がなぜかこの次元に現れ、人形に宿り闘争本能のみで戦争を始めたのだという。
「もしかして、それって今テレビでやってるこれですか?」
 香里亜が横目で見た画面には、防犯カメラの荒い画像に人形達が飛び回ったりする姿が映っていて、スタジオの観客達の悲鳴と重なっている。それにファムはこくこくと頷いた。
「別次元の魂がここで昇天すると、この次元の生命循環システムが狂い全生命が大変な事になるのですぅ!それを祓うお手伝いをして頂けませんか?」
 生命循環システムとかの話は取りあえず置いとくとして、画面からでも禍々しい気配がよく分かる。これを見ないふりするわけにはいかないし、前にファムの手伝いで別次元の邪霊を祓ったこともある。今回もその手伝いをしたらいいのだろう。
「分かりました。でもその前に、家に帰って荷物を置いたりしてもいいですか?」
「お手伝いして頂けます?」
 今まで涙ぐんでいた、ファムの表情がぱっと明るくなる。
「この世界のピンチですから、私で良ければお手伝いさせて頂きますよ」
 人形達がいるのは近所の大手人形店だという。
 ファムの持っている袋の中にその霊達を詰め込むにしろ、数が多いうえに素早いのでどうすることも出来ずに困っていたようだ。
「暴れ出すのは深夜ですので、その時になったらお願いするのです」
「はい、じゃあ家に帰って着替えたりしますね。今はスカートなので動きにくいですから」

 足下はスニーカー。動きやすいカットソーと締め付けすぎないジャージ、そして腰にはミニスカート。そのポケットには塩の入った袋を入れてある。
「まだ夜は寒いしポケットもあるし、ちょっと可愛いかな?」
 本当はそんな事を言っている場合ではないのだろうが、服装がしっかりしていると気持ちも引き締まる。肩まである髪はヘアピンで邪魔にならないように止め、香里亜は気合いを入れるようにぎゅっと両手を握った。
「あっ、これも付けておこうかな」
 右手にアメジストの数珠ブレスレットで準備完了だ。全体的にピンクとパープルの装いになっている。
「お店に忍び込むのは、亜空間操作で次元穴を作りますから心配しないでください〜」
 ファムは麻袋を持ち、香里亜の準備を待っていた。人形が売っている店はさほど遠くもないので、そこまでは走っていくつもりだ。
「よし、じゃあ行きましょう!」
「はいなのですぅ」
 静かな夜の街を、ファムが飛ぶ後ろについて走っていく。月は丸く天高く煌々と冷たい光を放っていて、吐く息はまだ白い。それでも走っているうちに体が温まってきて、だんだん体が軽くなってきた。
「平常心平常心…」
 そんな事を考えているうちに、人形店の前に着いていた。いきなり正面から忍び込むのはあまりにも危険なので、裏口の方からファムの次元穴でそっと忍び込む。
「うわー……」
 休憩室のような所からフロアを覗き込むと、そこはまさに戦場だった。
 人形達が二手に分かれ、滅茶苦茶に暴れまくっている。数も多く素早い。普通の霊を祓うぐらいのつもりだったのだが、この喧噪では流石に香里亜も手の出しようがないし、迂闊に叩き落としてしまえば人形を壊してしまう。
「ど、どうしましょう…」
 気軽に引き受けてしまったが、これはどうしようか。考えている香里亜の顔をファムがそっと覗き込んだ。
「あたしの力で貴女をいーっぱいパワーアップできますが、反動が酷いです。してくれますか?」
 そうだった。確かクリスマスの時もファムのキスで、自分の能力を上げてもらったことがあった。あの時は一瞬だけだったが、いっぱい…ということはどれぐらいなのか。
「い、いいですけど…」
「じゃあ、顔をそらせないでくださいね〜。一分ほどですから」
 そう言うと同時に、ファムがそっとキスをした。別に誰かに見られているわけではないのだが、やっぱりキスというのは恥ずかしい。
「これはノーカウント、ファムちゃんは天使だからノーカウントー!」
 大変な時だというのに、ついこれはファーストキスに入らないと一生懸命自分に言い聞かせてしまう。目はぎゅっと瞑っているのだが、少しずつ自分の体に力がみなぎり、辺りがほのかに明るくなるのが感じられる。
 やけに長い一分の後スッとファムが離れる。ふうっと息をつきながら香里亜が目を開けると、全身にはほのかに光を纏っていた。体も軽いし、あんなに素早かった人形の動きがよく見える。
「今なら触るだけでも祓えちゃいますので、どんどん行っちゃってください〜」
「はい!行きます!」
 飛び回る人形にぶつからないように、香里亜はフロアの方へと飛び出した。今まで二手に分かれていた人形達が、突如乱入してきた香里亜にざわめく。
「………!」
 何を話しているのか分からないが、自分達の敵だということは認識したらしい。何体かの人形が真っ直ぐ香里亜めがけて飛びかかる。
「悪霊退散!」
 その動きがゆっくりと見えた。それをぱしっと手で受け止めると、人形に憑いていた別次元の霊が叫び声のようなものをあげ離れていく。
「捕まえましたぁ!」
 離れた霊がまた別の人形に入る前に、ファムが次々と袋の中に詰めていく。そうしている間にも、香里亜は次々と霊を祓っていった。
「まずは防御…そして、どこに来るのかの予測…」
 自分の顔や体に飛びかかってこられても、動きが分かれば避けられるし、相手の力を受け流し、その勢いを利用することだって出来る。香里亜はブレスレットをした右手で人形達をつかみ取り、ミニスカートの左ポケットから塩を取りだし辺りにばらまいた。
「この世界は私が守ります!」
 ……ちょっと言いすぎな気もするが、まあいいだろう。
 一気に塩がふりかけられた人形から霊が離れ、それをファムはひょいひょいと袋に詰めていった。見た目は小さな袋だが、たくさん入れても底がないらしい。
「まだまだですよ〜全部袋に詰め放題なのですぅ」
 今まで何度かやって来た訓練を思い出しながら、香里亜は霊を祓っていった。
 体が軽い…自分の後ろから放たれる殺気や、空気の動きも感じられる。きっと達人の域になれば、これぐらい相手の気や力が分かるのだろう。どこを狙ってくるか、どう動くか。それはたとえ直接の攻撃であろうと、飛び道具であろうと同じだ。
「この感覚を覚えとかなきゃ…」
 これはファムにパワーアップさせてもらった仮の力だが、感覚を覚えておけば後々役に立つだろう。今こうやって人形達の攻撃を避けられるのも、ある程度の積み重ねがあるからだ。
 ざわ…ざわざわ…。
「………」
 残った人形達が香里亜を取り囲んだ。ファムは空を飛びながら心配そうに声を掛ける。
「頑張ってください〜!あとはそこに残った奴らだけなのですぅ」
 お互い戦っていた者達が、ひとまず共同戦線を張ったようだ。それでも香里亜は落ち着いてじっと構えを取ったまま、相手の気を読み取ろうとしている。
 焦っちゃダメだ。自分から仕掛けなくても、相手の方からやって来る…それまで動いちゃいけない。ひゅっと風を切る音を聞き、香里亜は声高らかにこう叫びながら、順序よく人形達にほのかに光る指先を向けた。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前!」
 ぱあっ…と香里亜の足下が強く光る。
 その呪が光の矢になって、一気に襲いかかろうとする人形達に突き刺さった。中に入っていた霊達が無念の声を上げすーっと離れると、人形達は静かにゆっくりと床に転がっていく。まだ何処かに残っているものがいないだろうか…構えを取ったまま気を探っていると、不意にほわっと声がした。
「これで全部なのですぅ。お疲れ様でした〜」
 ごそごそと中で動いている袋を持ち、ファムが香里亜の前に降りてくる。その晴れ晴れとした表情を見れば、自分がちゃんと役に立ったことが分かった。香里亜はそっと微笑み、人形を蹴らないようにそっと忍び込んだ部屋に歩いていく。
「お役に立てて良かったです」
 そう言うとファムもにこっと微笑み、また壁に穴を開けた。
「まだ光ってますので、ここからお家にお帰り下さい〜。大漁なのでお礼はまた改めて〜」
「いいですよ、お礼なんて」
 これが自分の住んでいる世界を救うことになるのなら。
 次元穴から自分の部屋に帰った香里亜は、心地よい疲れと共にベッドに倒れ込んだ。

 次の日…。
「す、すみません…全身筋肉痛なので、お仕事お休みさせてください…」
 ファムに「反動が酷い」と言われたように、疲労困憊、精根尽き果てた香里亜は、ずるずると這い出すように電話をかけ、ぐったりとベッドで寝込んでいた。昨日の体の軽さが嘘だったように、今日は全身鉛を付けたように重たい。膝を曲げたりするだけでも痛いので、動きも何だかロボットのようだ。
「ひー、全身筋肉痛になると思ってなかった…痛…」
 何だかちょっと熱もあるようだ。仕事は休んでもいいと言われたので、今日はゆっくりしていよう。布団に潜り、そっと目を閉じる。
「ファムちゃん、お仕事大丈夫だったかな…」
 そんな事を思いながら眠っていると、不意に何かの気配がした。
「大丈夫ですかぁ?」
 ベッドの横にちょこんと座っているのはファムだった。きっと心配してきてくれたのだろう…それに微笑みながら、香里亜は何とか体を起こした。
「ファムちゃん、来てくれたんですね」
「昨日はお世話になったのですぅ。何かして欲しいこととかありますかぁ?」
 時間は昼を少し過ぎたぐらいだ。電話をかけたのは朝だったので、結構眠っていたらしい。少し起きて湿布でも貼っておこうか…きしむ体を何とかベッドから降ろし、香里亜は居間に置いてあるこたつへ向かった。
「取りあえず肩と背中に湿布貼ってください…いつもは手が届くんですけど、今日は届かなくて」
「このへんですかぁ?」
「もう少し右…あ、その辺で」
 ファムに湿布を貼ってもらい、香里亜はテレビのスイッチを入れた。するとワイドショーの画面に、こんなテロップが踊っている。
『美少女霊能者大活躍?深夜の霊退治』
「はい?」
 唖然としながらテレビを見ていると、それは霊障なのか、それとも防犯カメラ映像が粗かったのか、顔はちゃんと写っていないが紛れもなく香里亜の姿だった。全身に光を纏い、動くたびにミニスカートが揺れている。
「あははは…」
 もうこれは苦笑するしかない。まあ見ただけで自分と分かる人はいないだろう。そう思いながらファムに何か言おうとした時だった。
「がーん…」
 ファムはテレビの画面を凝視したまま呆然としている。そして大きな目からじわっと涙があふれ出す。
「フ、ファムちゃん?」
 香里亜の言葉も聞こえてないのか、ファムは涙ぐみながら謎の言葉を残して去っていった。
「お仕事が大勢の目に…また二千年前の『神の子』事件の悪夢がぁ…!」

fin?

◆ライター通信◆
ありがとうございます、水月小織です。
別次元の戦死者の霊達を香里亜に力を与えて祓うということで、こんなお話を書かせて頂きました。パワーアップさせてもらって張り切ってますが、キスの時にはどうでも良いことを考えています。その辺の羞恥心に違いがあると言うことで…。
何だか続きのありそうなプレイングでしたので、最後に「?」を付けてます。
リテイク、ご意見は遠慮なく言ってください。
『神の子』事件の真相や如何に?またよろしくお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年03月06日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.