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『夢かうつつかメイドカフェ 』
藤井・葛1312)&藤井・蘭(2163)&藍原・和馬(1533)&(登場しない)

 桃の節句の、うららかな土曜日のこと。
 3人は――藤井葛と藍原和馬と藤井蘭は、揃って遊びに出かけようということになった。
「どこに行きたい?」
 このメンバーだと、当然のことながら、運転手は和馬がつとめることになる。お出かけに高揚した蘭は元気よく、はーい! と手を挙げた。
「いつもの公園の動物園がいいなのー! 『げんじゅう』さんたちとあそびたいなのー!」
 蘭は目をきらきらさせるが、和馬は額に縦線と汗マークを浮かべ、ぽりぱりと頭を掻く。
「……う。あそこか。ちょっと今日はなんていうか、心の準備ができてなくってなァ。また今度ってことにしねェか?」」
「んー。そうだね」
 葛も、大きく伸びをしてから、蘭の頭を撫でる。かかりっきりだった論文がようやく上がり、やっとひと息つけるのだ。
「あの公園は、良くも悪くもテンション高すぎるからね。のんびりするには向かないかも。もっとまともな……っていうと語弊があるけど、普通の動物公園でいいんじゃないか? お天気もいいし、お弁当作るよ?」
「わーい、なの! 持ち主さんのおべんとう、大好きなのー」
 そして、めでたく(?)3人の意見は一致し、和馬の運転する車は井の頭通りに近寄ることもなく、一路、千葉にある某動物公園へと向かうことになったのである。

 そこは、名前を言えば日本中の人々が「ああ!」と手を打ち合わせるであろう、超有名な二足直立するレッサーパンダがいることで有名なところだ。そのレッサーパンダは、今は双子の赤ちゃんの父親となっており、親子ひっくるめてより一層の人気を博し、動物園の集客に貢献している。
  園内は、さまざまな種類の猿が見られる『モンキーゾーン』、ヤギやヒツジなど、動物に直接触れることができる『子ども動物園』、家畜化した動物の原型がいる『原種ゾーン』、象やキリンなどの大物が闊歩し、まれにダチョウも発見可能な『草原ゾーン』、水槽の地下部分が見学通路になっていて、ペンギンとアシカとペリカンの泳ぎ方の違いをウォッチできる『鳥類・水系ゾーン』、レッサーパンダやビーバー等の小動物を間近で見学できる『小動物ゾーン』等に分かれており、盛りだくさんである。動物との距離が近いように配慮されていて、親しみやすい正統派なつくりであった。
「キングペンギンさんがいるの! おっきいのー!」
「うわア。ちょっと待てェ。レッサーパンダってのは、何であんなに狙ったみたく可愛いんだ。成体でも十分可愛いのに、双子の子どもなんて反則だ」
「運が良ければダチョウが見られるらしいんだけど――あっ、いたいた!」
「どこなのー? 見えないのー」
「今、象の影に隠れてるよ。肩車したげて、和馬」
「ほいきた」
「見えたの。あっ、走ってるの。早いのー!」
 ひととおり見回ったあとは、ベンチで、葛のお弁当(ひな祭り風プチお寿司ランチ:薄焼き卵を使ったツナサラダ巻きと梅納豆巻き。菜の花のからし和え、鮭そぼろ、炒り卵の、三食ミニ押し寿司詰め合わせ)を広げる。
「おいしそうなの! お花畑みたいなの。食べるの、もったいないの」
「蘭がいらねェんなら、俺が全部食っちまうぞ?」
「あっ、だめだめ、だめなのー。僕も食べるの」
「そんな慌てなくても大丈夫だよ。和馬は本気で取ったりしないから――たぶん」
「ふう、それにしても、ドラゴンやらグリフォンやらケルベロスやらがのこのこ出てきたりしない、普通の動物園はいいねぇ。癒される」
 幻獣たちがこの場にいたら、ハンカチを噛みしめて涙にくれそうだが、それはそれとして、3人は正統派動物園でのひとときを十分に堪能したのだった。
 
 ◇◆◇ ◇◆◇

 ――さて。
 ここまでは、まずまず、健康的でほのぼのな春の休日と言えよう。
 ところが、である。
 せっかく某公園を敬遠したというのに、事態は急転直下の方向をだどった。動物園をあとにして、お茶でも飲もうかということになったとき、蘭が、変わった『カフェ』に行きたいと言いだしたのだ。
 手作りケーキが自慢だったりする普通の喫茶店にしておけば、丸くおさまるものを……。
「あのね、かずまにーさん、持ち主さん。僕、『いけぶくろ』のお店に行きたいのなの。だめ?」
「池袋かア。行けなくはないが、遠いな。……って、なんでまた」
「へえ。蘭がお店を指定するなんて、珍しいね」
 よもや、蘭の口から池袋という地名が出ようとは思いも寄らず、和馬と葛は顔を見合わせる。
「『めいどさん』がたくさんいるお店が、『いけぶくろ』にあるの」
「メイド……?」
「まさか、メイドカフェ……?」
「はいなのー!」
 蘭は無邪気に、にこにこと力説した。
「今、『いけぶくろ』はもっともホットなスポットなの。大きなお友だちの夢と希望ともうそうが大ばくはつなのー!」
「蘭……」
「そんな濃い情報、誰がおまえに教えたんだ?」
「公園の女神さまなのー」
「……ふぅ」
「……はァ」
 蘭が行きたがった店は、『メイドカフェ:エルザード王立魔法学院』という――まあ、ある意味、正統派なメイド喫茶だった。
 健康的休日は、どうやら終わりを告げたようである。

 そして3人は、『エルザード王立魔法学院』にて、後輩(という設定)の、ファンタジーテイストの制服にレースのエプロンをつけた美少女たちから、めくるめく歓待を受けたのだった。
 ここでの来客の立場は、魔法学院の優秀な卒業生という設定である。後輩たちが先輩をもてなすというコンセプトなので、葛も和馬も蘭も、ひとしく「せんぱい」と呼ばれることになる。
「いらっしゃいませ、蘭せんぱい!」
「こんにちは、葛せんぱい」
「和馬せんぱい、いらして下さって嬉しいです!」
(お、おい、蘭。どうすりゃいいんだ?)
 和馬は落ち着かなそうに、クラシックな調度品や、それっぽい魔法道具がディスプレイされた店内をきょろきょろと見回す。
「こわくないのなのー。ふつーに飲みものとかケーキとか、たのめばいいと思うのなの」
「うん、そうだよね。女の子たちはきちんと演技してて、感じがいいね。……ケーキ、何にしようかな」
「僕、『フェアリーが残していった、伝説の樹のかけら』にするの」
「ああ、はちみつロールケーキね。美味しそう」
「蘭センパイも葛センパイも、どうしてそんなに馴染んでらっしゃるンですかぁー?」
「『めいどさん』には、なったことがあるのなのー! ごほうし、楽しいの」
「俺も、1日だけ、執事喫茶に勤めたことあるから」
「……文字通りのセンパイなんすね。人生経験豊かっすね」
「和馬せんぱーい。コーヒーにミルクはご入り用ですか?」
 テーブルに突っ伏した和馬に、飛び切り可愛い『後輩』が、オーダーしたコーヒーを運んできた。
「あ、ああ」
「それじゃ、失礼して私がお入れしますね♪」
 にっこり微笑んだ彼女は、ミルクポットをそっと持ち上げて、コーヒーカップに注ぎ、しかもスプーンでかき回してくれた。
 どぎまぎしながら、和馬は額の冷や汗を拭う。
(か、可愛いじゃないかッ。それにこの制服の、見えそうで見えないミニは反則だよな!)
「……………和馬………」
 和馬の揺れ動く男心に気づき、葛はしゃきーん! と何かを構えた。
「おわァ! ハリセンは勘弁!」

 ◇◆◇ ◇◆◇

「じゃ、またな。センパイたち」
「はいなのー! 今度はかずまにーさんも、『めいどさん』になるの!」
「あのね蘭。ひとには、向き不向きってものがあってね……」
 ふたりを部屋まで送り届け、帰っていく和馬を、葛は見送る。トータルで考えれば、楽しかった1日ではあった。
 ……あったのだが。
(何だか今日は、どっと疲れたぞ)
 着替えてベッドに辿り着くまえに、葛はこてっと床に横になってしまった。
「持ち主さーん。こんなところでねると、かぜひくのなのー!」

 ――霧の中。
 その古びた洋館は、ひっそりと建っていた。
 獅子の口から下がったノッカーを鳴らせば、重厚な一枚板の扉が開く。
 出迎えてくれるのは、気心の知れたメイドたち。彼女らはいつも、屋敷のすみずみまで整えて、この館の主である葛の帰宅を待ち望んでいるのだ。
「おかえりなさいませ、ご主人さま」
「おかえりなさいませなのー!」
「……えっと?」
 不意に、ここがどこで、自分が誰で、このメイドたちが何者だったか判らなくなる。
「どうなさいました? 葛さま」
 毛足の長い犬耳のメイドが、小首を傾げる。おっとりと可愛い感じの、細身の少女である。どこかで見たことのあるような面差しであるが、思い出せない。
「藍原カズ子ですわ。お忘れですの?」
「あ……あ。そうだった、かな?」
「藤井蘭なのー!」
「……うん、それはなんか、良くわかる」
 ふかふかの白い猫耳の蘭は、メイド服が板についていた。カズ子よりもかなり年少なのだが、雰囲気は先輩である。
「ごほーしします、なの!」
「センパイ、お手伝いしますわ! ご主人さまに喜んでいただくために、全身全霊全力でお仕えします!」
 蘭はさっそく、とっておきの紅茶を入れる準備をした。
 ミントンのデミタスカップ&ソーサー・バヴァリアを使い、キーマンにベルガモットオイルで着香した、古式ゆかしいアールグレイを注ぐという、本格的なものである。
 それを補佐するカズ子も、やる気十分気合いばっちり無限大であった。
 
 ――しかし。

 どんがらがっしゃーーーん!!!!!

 ふたりはどうやら、ドジっ娘であるらしい。
 哀れ、カップ&ソーサーは砕け散り、紅茶は床一面にこぼれてしまった。
「ごめんなさいなのー!」
「いいえ、センパイは悪くありませんわ。私がふがいないんですのッ!」
「ああもう、いいからカズ子、モップ持ってきて!」
「はいっ!」
「ふえーん。カップ割っちゃったなのー」
「破片触っちゃだめ。怪我するよ」
 涙目の蘭を、思わず横抱きにする。
 結局、ご主人さまが率先して後始末をする羽目になってしまった。

 ◇◆◇ ◇◆◇

「うー。だから、集めた欠片はひとまとめにして燃やせないゴミの日に……」
「持ち主さん、持ち主さん」
 蘭の声が、遠くから響く。
「おふとんかけて寝ないと、いけないのー」
 小さな手で何度も揺すられて、やっと目が覚めた。
 全身にびっしょり、汗をかいている。
「ふぅ……。夢か……」
「だいじょうぶなの? わるい夢だったの?」
「……いや」
 どっちかというと、面白い夢、だったような気がする。
 なんというか、かわい……かった。ふたりとも。
 メイド経験者の蘭は、まあ、わかるとしても、犬耳ドジっ娘メイド藍原カズ子が、結構いけてたのは意外だった。

 夜が明けたら、朝一で携帯を鳴らし、この話をしよう。
 和馬はたぶん、落ち込むだろうけど。


 ――Fin.
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2007年03月06日

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