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『強運と不運は紙一重 』
来生・一義3179)&来生・十四郎(0883)&草間・武彦(NPCA001)

●突然の羽振り
「ふぁ〜あ……」
 暖かい日差しに照らされながら、草間武彦はデスクに突っ伏して居眠りにつこうとしていたその時、興信所のチャイムが鳴った。
「誰だよ、折角の良い気分を台無しにしやがって……」
 ブツクサ文句を言いながら、興信所のドアを開けた。
「よう、邪魔するぜ」
 仕事も無く、暇を持て余しいるんだろ? と草間の断りもなく興信所に上がりこんだのは来生・十四郎だった。
 気のせいだろうか? いつもより一層煙草臭い気がする。十四郎がヘビースモーカーなのを知っている草間が、自分の気のせいだと思った。
「相変わらず暇そうだな、草間探偵さんよ」
「うるさい。おまえこそ何の用だ」
 十四郎は「いつも仕事の世話になった礼だ」と言い、マルボロのカートンが詰まった袋を草間の目の前に差し出した。
「こ、これは……! 本当に貰ってもいいのか!?」
 これで当分煙草代が浮くぜ! と内心大喜びの草間が訊ねると、勿論、と満面の笑みで答える十四郎。
「おまえ、本当は良い奴なんだな……」
 ホロリと泣く草間に「本当に、じゃなくて、いつもだろ?」と突っ込む十四郎。
「んじゃ、俺帰るわ。用があるんでな」
 口笛を吹きながら、十四郎は機嫌良く草間興信所を後にした。

●兄からの依頼
 その翌日、草間は十四郎と兄、来生・一義が住む「第一日景荘」に呼び出された。
「お願いがあります。一週間ほど、弟の十四郎の行動を見張って欲しいのです」
 眼鏡のブリッジを中指でクイと上げ、より真面目さを増した表情で一義は草間にそう依頼した。
「弟が何か悪いことでもやらかしたってのか?」
「……それに近いようなものです」
 一義は溜息をひとつ吐くと、事の詳細を話し始めた。
「十四郎には煙草代、仕事の付き合い上に必要な経費等の必要最低限の小遣いしか渡していないのに、最近、妙に金回りが良くなった様子なんです。仕事でおかしなことに手を出していないかと思うと……」
「奴は仕事の鬼だからな。それに関係あるようなことであれば、悪……」
 一義がキッと睨むので、草間はそれ以上何も言えなかった。
「とにかく、十四郎の行動を見張っていただき、何故金回りが良くなったかという原因を探ってください、お願いします!」
 頭を下げて頼まれ、不安そうな顔で内職で貯めた金を依頼料として手渡されては、断ろうにも断れない。腹を括った草間は、正式に一義の依頼を引き受けることにした。

「そういやぁ、昨日、来生がマルボロのカートン差し入れてくれてっけ」
「それは本当ですか!?」
「あ、ああ」
 1カートン3300円なので、袋詰めとなると相当の額になる。軽く3万は超えているだろう。
「考えたくもないことですが、十四郎は悪いことを……」
 泣き崩れる一義を必死で宥め、俺が真相を暴いてみせる! と約束した草間。こうでも言わなければ、一義は落ち着かないだろう。

●見張りの結果
 十四郎の見張りを続けること五日。
 草間は、十四郎が行きつけのパチンコ店「エヴリディヘヴン」に入って行くのを目撃した。
 こっそり後をつけると、十四郎は以前ここで会った(というよりは、運悪く見つかってしまった)時に座っていた413番台にどかっと腰掛けた。

 ――創世機レヴォリュートのCR機、まだあったんだな……。

 妹が厳しく監視するので、パチンコ店に入るのは一ヶ月振りだ。そんなことを考えているうちに、時間はあっと言う間に過ぎた。
 時間が経ち過ぎたことに気付いた草間は、偶然を装い十四郎に声をかけた。
「よう、来生、儲けはどうだい?」
「なんだ、草間か。見てわかんねぇのか?」
 十四郎が親指で足下を指差すのでそこを見ると……パチンコ玉が入った箱が大量に置いてあった。
「す、凄いな、おまえ……」
「おまえのおかげだ。あの一件以来、俺がここでずっとツキまくりよ。懐が淋しくなったらここに来て、こうして稼いでいる。元手1万円程度で、軽く5万以上は稼げるぜ」
 俺よりも強運かも、と思った草間は、青褪めた表情で高笑いする十四郎を呆然と見詰めていた。
「おっ、リーチ来たっ!」
 それから暫く経過。結果、大当たり!
「よっしゃ! また大儲けだぜ!」
 笑いが止まらない十四郎に「じゃ、またな」と草間は挨拶したが、完全に無視された。

 草間は店内を出ると、一義に即、連絡した。
「俺だ。来生の羽振りの良さの原因がわかった。あいつは、パチンコで稼いでいたんだ」
「そ、それは本当なんですか!?」
 一義は、驚きを隠せなかった。
「……ああ、残念ながらな。詳しいことは、明日そっちで話す」
 と言い、草間は携帯を切った。

●二人の逆襲
 翌日、草間は再び「第一日景荘」を訪れた。
「昨日も話したが、あんたの弟はパチンコで稼いでいた。懐が淋しくなると、ある程度の元手を持って「エヴリディヘヴン」というパチンコ屋に出稼ぎに行っている。あいつにマルボロカートンを差し入れしてもらった時、異様に煙草臭いと思ってたんだが、あれはパチンコ店で染み付いたのもあったんだな……」
「十四郎の煙草臭さはいつものことなので、私は、気にもとめていませんでした。そこまで見抜くとは、さすがは草間さんですね」
 いやぁ、それほどでも……と照れる草間。
「草間さん、お手数をおかけしますが、もう一つ頼みがあります」
「どんなことだい?」
「あのですね……」
 一義に相談されたことを聞いた草間は、それは面白いと協力することに。

 それから一週間後、いつものように「エヴリディヘヴン」に行った十四郎は、店員に呼び止められた。
「お客様のご入店は、お断りしております」
「な、何ぃ!? こないだまで何も言わなかったくせに、今頃何を言うんだ!」
 突然の入店拒否に、十四郎が怒るのは言うまでもない。
「だって、あなた、パチスロの来生十四郎さんでしょう? 最近、色んなお店で素人に変装して荒稼ぎしているっていう」
「誰がそんなこと言ったっ!」
 そう言った店員の胸倉を掴んで情報元を吐き出させようとする十四郎だったが、他の店員に押さえ込まれ、強制的に店の外に連れ出された。

 後日、一義から追加の謝礼を渡された草間は、彼と共に作戦が成功したことを喜んだ。
「悪事でなくて良かったですが……我が家の経済状態を知っていて賭け事など……」
 冷静沈着の一義にしては珍しく、拳を握り、怒りを堪えるのに必死だった。
「で、弟の処分はどうするんだい? お兄さん」
「当分小遣いは無しです」
 と怖い笑顔で呟く一義であった。
 
 一義と草間が、店員に十四郎がパチプロで、「エブリディヘヴン」で荒稼ぎをしていると吹き込んだという真相は、十四郎はまだ知らない。
「何で俺がパチスロと勘違いされたんだ……? 外見がソレっぽいからか? それとも……」
 あれこれと思案するが、何が原因なのか未だにわからない。いや、わかってほしくはない。
 兄の仕業とわかれば、壮絶ともいえる兄弟喧嘩が始まるのだから。

 どうか、真相が十四郎にバレませんように、と一義は天国にいる両親に祈った。

<後書き>
 来生・一義様、十四郎様
 お久しぶりです、氷邑 凍矢です。シチュエーションノベルのご発注、ありがとうございました。
 パチンコ店「エブリディヘヴン」のご指定、ありがとうございます。
 十四郎様がご参加くださった草間探し依頼を覚えてくださっていたことが嬉しかったです。

 それにしても…あんなに大儲けする十四郎様は凄いですね。
 一義様は大変ご苦労なさったようですが…今は大丈夫でしょうか?
 真相は、十四郎様がじっくりと考えることでしょう。

 またお二人にお会いできることを楽しみにしながら、これにて失礼致します。

 氷邑 凍矢 拝
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2007年02月28日

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