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『Tactics 』
ヴィルア・ラグーン6777)&陸玖・翠(6118)&ナイトホーク(NPC3829)

「明日辺り、ナイトホークが暇なら第二ラウンドと行かないか?」
「…それはもしかして『戯れ』の誘い?」
 ヴィルア・ラグーンがナイトホークを誘ったのは、土曜の真夜中のことだった。戯れ…という言葉にヴィルアは頷きながら、アイリッシュウイスキーが入ったグラスを揺らす。
 『戯れ』というのは、ヴィルアが居候している陸玖 翠(りく・みどり)の家の離れを使って行う個人戦闘のことだ。以前一緒に仕事をしたときにナイトホークが『もう少し洗練された戦い方がしたい』と言ったので、一度その実力を見たいと思って誘ったのだが、どうもナイトホークは戦闘に入ると我を忘れる傾向があるらしい。ナイトホークが不死であるということはヴィルアも知っているのだが、それでも流石に『少しは冷静さがあったほうがいい』と思っている。
「前回は思い切りやりあったから、今度は戦い方をどうにかした方がいい。命知らず…とは言わないが、あれじゃあまり賢いとは言えないからな」
 ヴィルアがそう言うと、ナイトホークは煙草をくわえたまま苦笑した。
 どうやら自分でもその辺は分かっているらしい。だからこそ戦い方を変えたいと言ったのだろう。
「その通りだ。その辺の話は戯れながら話そうぜ…今話すと酒が不味くなるから」

「いらっしゃい、ナイトホーク。休みの日なのに熱心ですね」
 次の日。
 ナイトホークはヴィルアに言われたとおり、肩に銃の入ったケースや紙袋を持ってやってきた。今日の土産は酒ではなく豆大福と苺大福だ。
 入り口で七夜と共に出迎える翠に、ナイトホークは煙草をくわえたまましゃがんで七夜を撫でる。
「どうせ暇だし、戦い方を変えたいのは事実だから」
 戦い方を変えたい。
 それは大した言葉ではないはずなのに、何故か奇妙な違和感を感じる。変えたい…ということは、これから先戦いの場に出る気があるとでもいうのだろうか。それはナイトホークの本意なのか、それとも抗えない何かがあるのか…。
「ん?どうかした?」
「いえ、何でもありませんよ」
 案内した離れには、既にヴィルアが待っていた。前に二人で戦闘したときの血の汚れなどは跡形もなく綺麗になっている。ヴィルアはナイトホークが来たのを見て、嬉しそうに目を細めた。
「待ちかねたぞ」
「悪い悪い。ちょっと着替えさせて…戦闘服で街中歩く勇気はちょっとないから」
 今日は何をしようか。
 服を着替えに下がったその後ろ姿を見ながらヴィルアは思う。
 前回はとにかく全力でやったのだが、それを何度やったところで結果はあまり変わらないだろう。ナイトホークからの反省点を聞き、それに合わせてやった方が良いのかも知れない。ヴィルアとしては、ナイトホークと戯れるのが純粋に楽しいというのもあるが。
「ヴィルアも何を考えているのやら」
 翠は今日も部屋の隅で観戦だ。色々思うことはあるのだが、それは二人だけの時に聞いた方が良いのかも知れない。多分自分が知りたいと思っていることを聞くためには、ナイトホークの過去に触れなければならないだろうから。
「お待たせ」
 スーツ姿のヴィルアに反して、ナイトホークは今日も都市迷彩の戦闘服とコンバットブーツだ。足首をを確認するように何回か回し、ヴィルアに向かってふっと笑う。
「さて、今日はナイトホークの反省点にでも付き合おうか。戦闘方法を変えたいのならそれに付き合うが」
 そう言ったヴィルアに、ナイトホークがしばし考え込む。
「俺さ、何で自分が銃剣戦闘が得意なのか覚えてないんだよな。戦い方自体勝手に身に付いてるみたいだから、どこから直せばいいか分からん」
 覚えていない。
 その言葉にヴィルアと翠が顔を見合わせる。
 ナイトホークはある一定期間から前の記憶がない。旧陸軍の制服を着ていた記憶があるので、多分戦い方はその時に身につけたのだろう…ということだった。
「厄介だな。頭で覚えているのではなくて、体に身に付いているのか」
「俺も冷静に冷静に…って思ってるんだけど、スイッチが切り替わるともうどうしようもない。だからまずキレないで戦うところから始めた方がいいかもな」
 それがまず一番だろう。冷静さを欠くのは、その「戦闘状態へのスイッチ」が入るからで、それがなくなればもう少し自分の身を傷つけずに戦えるはずだ。
「そうだな。それに人間相手に戦うのであれば、あそこまで徹底的にやる必要はない」
「それなんだけど、俺ただ死なないだけで、戦闘力が高い訳じゃないよ。出来ればへたれて暮らしてたいぐらいだし」
 冷静に戦うというのであれば、まず銃剣を使った防御の方法を身につけた方が良いだろう。ヴィルアは魔力でサーベルを作り出し、ゆっくりと組み討ちをし始める。
「自分の体に私のサーベルが触れないように防御しろ。ゆっくりやるからついてこられるはずだ」
「了解」
 少しずつ振り下ろされるヴィルアの刃を、ナイトホークは銃剣や銃床を使って自分に当たらないように防いでいく。今のところは冷静に、自分を見失わずにやれているようだ。
「もう少しスピードを上げてもよさそうだな」
「………」
 翠はその様子をじっと見ていた。
 戦闘状態のスイッチが入る…それに関しては分からぬでもないのだが、仮に戦い方を軍で身につけたとしても、あれは異常だ。あんな戦い方では普通に長生き出来ない。
 あの身のこなしなどは、ナイトホークがなくしてしまった時間の何処かで身につけたものだ。
 それも、不死になった後で。
「……おっと」
 ヴィルアがそう言って後ろに跳躍した。今まで黙ってサーベルを避けていたナイトホークが急に前に踏み込み、左手でサーベルを受け流したのだ。そして続けざまにヴィルアの手首を掴もうとする。
「ナイトホーク!冷静さはどうした?」
 必死にやっているうちに戦闘状態へスイッチが入ってしまったらしい。ヴィルアの問いかけに答えず、そのまま肘めがけて銃床を打ち込もうとしたその時…。
 パシッ……!
「……あれ?」
「あれ?じゃない」
 あらかじめナイトホークが我を忘れた時のことを考え、指を鳴らしたときに目の前で魔力が弾けるようにしておいたのだが、こんなに早く使うことになるとは思わなかった。ヴィルアとしてはこのまま本気で戯れても良かったのだが、それだと本末転倒だ。
 呆れたように溜息をついてみせると、ナイトホークはその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
「キレるのが早すぎないか?」
「あーダメだ。『やべー、着いていけねぇかも』って思ったところから途切れてる。散歩のリード見た途端ハイテンションになる犬か、俺は」
 これはなかなか重症かも知れない。ナイトホーク自体何か思うところがあるわけでなく、気が付くと本気で戦いに行っているというのだから始末に負えない。
 座って眺めている翠も溜息をつく。
「何かそこに入る過程が分かればいいんですけどね。背水の陣で戦っているみたいですよ」
「それはその通りなんだけど、どうしたらキレないで済むかが分からねー」
 もしかしたら実戦より先に必要なのは、精神面でのトレーニングなのかも知れない。犬のしつけのようだが「待て」を覚えないことには、肉を斬らせて骨を断つような戦い方は変わらないだろう。
 しゃがんでいるナイトホークの肩を叩き、ヴィルアは少しだけ笑ってみせる。
「お前に必要なのは、冷静さを保つ精神力だな」
「全くもってその通りでございます。こんなの普通の人間がやってたら、命がいくつあっても足りねぇ」
 これがいつものナイトホークなのだろうか。
 もう一度同じように防御をやらせながらヴィルアは思っていた。蒼月亭のカウンターではどんな客が来ても冷静で、決して酒に飲まれたりしないナイトホークが、戦闘の時は別人のように我を忘れる。本人は「キレる」と言っているが、そんな生易しいものではない。
 現に前回一緒に戯れたときには、左腕を斬り飛ばされても果敢に向かってきた。その体を突き動かすのは、一体何の衝動なのだろう…。
「………」
 最初は大丈夫なのにまたキレはじめてきた。目が据わり、口数が少なくなってくるのがその兆候だ。最初から全開の力でと言えば、即座にスイッチが入るようになっているのだろう。ヴィルアは影を使いナイトホークの後ろに回り、トン…と背中を押す。
「あああああっ」
 膝を突いたナイトホークがそのまま床をバンバン叩いた。自分でもキレていたということは分かっているらしい。
「ダメだ…犬だってもっと物わかりいいって。戦術も何もあったもんじゃない」
「原因を探るか、もしくは矯正するしかないですねぇ…ひとまずそれは置いておいて、他にキレずに出来ることをやってみたらどうです?」
 翠はすっと立ち上がってナイトホークの前に行った。立ち上がって溜息をついているその姿は、いつものナイトホークだ。
 だが…そっと背中からヴィルアが近づき、拳銃を突きつけようとすると…。
「………!」
 がばっと振り返ったナイトホークが、銃床でヴィルアの手を跳ね上げようとする。続けざま踏み込もうとするのを翠が符で止めると、はっと我に返りがっくりと肩を落とす。
「反応はいいんだな」
「でも、厄介ですねぇ…」
「うわー…めっちゃ自信なくす。このままじゃダメだって分かってるんだけどな」
 そんなナイトホークを見てヴィルアも苦笑する。
 何だか深い訳がありそうだ。自分はナイトホークの過去を知らないし、記憶がないことも今日初めて知った。そこに原因があるのだとしたら、それを直すのは出来なくもないだろう。我さえ失わなければ、それなりに戦闘センスはあるはずなのだ。相手が自分や翠のような能力者である場合は、不死だけではついていけないだろうが…。
「組み討ちはこれぐらいにして、他にやりたいことがあったら言え。急ぎで身につけたいのでなければ時間は腐るほどあるからな」
「うーん、拳銃の撃ち方…つか、当て方かな。近距離戦闘じゃなくて、遠距離戦ならキレずに済みそうだから」
 そう言ってナイトホークが取り出したのは『コルトガバメント』だった。オートピストルとしてはかなり旧式に入るが、旧陸軍にいたという言葉と、普段使っているのが三八式歩兵銃というところにも関係するのかも知れない。
「拳銃は苦手か?」
 二挺拳銃を持ち、壁に向かって構えるヴィルアにナイトホークが頷いた。
「ライフルはいいんだけど、短銃はどうも苦手で。これも少しは頭良い戦い方しようと思って使うことにしたんだ」
 45口径の銃を片手で構えるぐらいは出来るようだ。だがライフルの方が得意なようで、的に当たる構え方ではない。翠はまた隅の方に下がり、その様子を見ている。
「最初は片手じゃなくて、左手を添えて的を狙え。拳銃の引き金は『引く』じゃなくて『絞り込む』ようにな」
「手伸ばして当てるってのが難しいんだよ」
「拳銃相手ならよほどの腕前か近距離じゃないと、急所に当たることは少ないからな。戦闘で使うならとどめというより、威嚇に使え」
「了解」
 少なくとも拳銃を使わせている時にキレることはないようだ。それは相手が的だからであって、もしお互い距離を取って撃ち合いを…と言ったら、違うのかも知れないが。
「………」
 その撃ち方を教えながらヴィルアは思っていた。
 もし、ナイトホークがキレずに本気で戦ったとしたら、もっと面白い戦いが出来るのだろうかと。この前は満身創痍で突っ込んできたが、あれに防御が伴えばダンスももっと長く続くだろう。出来ればそれが身に付いたときにもう一度戯れてみたい。
 しばらく的に当てる練習をさせた後、一生懸命肩を回すナイトホークにヴィルアはこう言った。
「そういえば昨日の『酒が不味くなる』ってのは、記憶がないって話だったのか?」
「そう。俺の昔話なんか聞いても酒が不味くなるばかりで、面白くないし」
 最後の銃声。
 それはヴィルアの拳銃だった。それに関してはお互い様だ。過去の話はしたくなったときに話せばいい。
「終わりましたか?」
 ホルスターに銃をしまっている二人を見て、翠がゆっくり近づいてきた。そして一枚の符をナイトホークに渡す。
「これ、何?」
「遅い遅いバレンタインの贈り物です」
 それは翠が作った召喚符だった。符を握り召喚したいものを念じれば、実物に限りそれを瞬時に召喚できる物で、素人でも使えるように翠がカスタムしてある。
 ナイトホークは主に着剣小銃を使うので、その持ち運びもこの符があれば楽だろう。それに、こうすることでもしかしたら戦闘のスイッチの入り方が変わるかも知れない。
 符を受け取ったナイトホークが煙草をくわえながら笑う。
「サンキュー翠。次はこれを使った戦い方とかも考えるわ」
「そうして下さい。お返しを期待してますよ」
「えっ?」
 くすくす…と、翠が笑い、ヴィルアも煙草を出してくわえる。
「冗談ですよ。今日も美味しそうな物を頂きましたから…お茶にしましょうか?」
「翠、私は抹茶がいいな。点ててくれ」
 抹茶と聞いたナイトホークが少しだけ後ずさる。
「ちょっと待って、俺作法知らない」
「堅苦しくなくていいんですよ。じゃあ、今日は茶でも飲みながら戦術の講釈でもしましょうか」
 体で覚えるだけではなく、知識があればまた少し変わってくるだろう。
 生きている限り、勉強と修行はいつまでも続く。

fin

◆登場人物(この物語に登場した人物の一覧)◆
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
6777/ヴィルア・ラグーン/女性/28歳/運び屋
6118/陸玖・翠/女性/23歳/面倒くさがり屋の陰陽師

◆ライター通信◆
ツインノベルありがとうございます、水月小織です。
ナイトホークとの戯れの第二ラウンドという事で、少しだけ戦闘でキレたり我を失う訳などを語らせて頂きました。ヴィルアさんも翠さんも本気で戦えば敵わないのでしょうが、物覚えの悪い犬をしつけているような気持ちで見て頂けたらと思っています。
キレる理由とかはまた別の機会と言うことで。
リテイク、ご意見は遠慮なく言ってください。
また機会がありましたらよろしくお願いいたします。 
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
水月小織 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年02月28日

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