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『マジカル・ミラクル・大決戦! 』
東雲・緑田6591)&風宮・紫苑(NPC1050)


 異能力者たちの間では、心霊テロ組織『虚無の境界』と異能力者至上主義の『アカデミー』が共闘するのではないかという見方が大勢を占めていた。ちょうど秘密組織を名乗る『アカデミー』の存在が明らかになった頃である。しかし前者は現代社会の純粋な破壊活動に、後者は既存の価値観を一新する社会変革を主眼においており、この世界全体をどう活かすかで思想に大きな隔たりがあった。この時点で両者の間に共闘の可能性はなくなったが、とある事件がきっかけで抗争にまで発展。アカデミーの生徒たちが虚無の境界との戦闘を経験する機会が多くなった。しかしまだアカデミーには余裕があるらしく、敵の行動を「実践訓練」と名づけて授業に取り入れている。もちろん駆け出しの生徒には教師がつくし、実力のある生徒は自力で戦い抜く。優秀な人材を失うことなく、さらにそれを育成する。まだまだこの抗争に決着がつく気配はないようだ。

 ただ、アカデミーの中でもこの男だけは違った。教師主任を務めるエリート・風宮 紫苑……彼は人智を超える能力を持ちながらも、霊能力に対する攻撃手段や耐性を一切備えていない。虚無の境界はどこかでそれを知ったらしく、最近では彼を集中的に攻撃を仕掛けていた。組織内外からも信頼の厚い人間だけに、もし彼を倒せばアカデミーの高い鼻もへし折れるというもの。いや、それ以上に日本支部そのものが傾くほどのダメージを与えることができる。
 もちろんアカデミーもバカではない。状況を判断した上で対策を講じていた。だからいつも霊能力を持った誰かを傍についていたのだが、ある日の夜は突然としてたくさんの生徒が同時に複数の死霊に襲われる事件が発生。紫苑は「自分よりも生徒の皆さんを」と警護の人間を他方面へと差し向けてしまった。そこに同じ形態であろう死霊たちが束になって闇夜から降り注ぐ!

 『ウゴゥアワアァァァ!!』
 「こうなるとは思っていましたが……今は逃げの一手ですね」

 街に響く人々の悲鳴と恨めしそうに唸る死霊の隙間を『神速の脚』でかいくぐり、なるべく人通りの少ない場所を選んで逃げていく。しかしすでに彼らは紫苑の匂いを記憶している。どこまで逃げてもきりがないのは、紫苑も承知の上。ある程度引き離したところで、状況把握のため携帯電話で他の教師と連絡を取り合おうと胸ポケットに手を伸ばす……が、その瞬間、紫苑はとんでもないスピードで走る車の中に叩き込まれた! 匂いを察知していきなり現れた死霊どもも目標がいなくなっておろおろするばかり。しばし人気のない路地は気持ちの悪い色で揺らめく死霊たちの疑問の呻きで埋め尽くされた。

 紫苑はいつの間にか自走する不思議な屋台に座っていた。しかも今走っているのは首都高。屋台なので流れる景色は横向き。ちょうど電車に乗っているかのようである。久しくそのような風景に出会っていない彼はしばし情景を眺めていたが、頭の中ではあり得ないこと尽くめのこの状況をひとつずつ整理していた。それを邪魔するかのように鍋はぐつぐつと煮立ち、小型テレビからは野球中継が流れている。そして極めつけはこの屋台の店主。深緑のロングコートを羽織り、紫苑に負けず劣らずの爽やかな笑顔を見せた。

 「危ないところでしたね、とりあえずこれを……」
 「この事件に関して、いくらか情報をお持ちの方であるとお見受けします。私自らが状況を把握するよりもあなた様にお聞きした方が早いでしょう。ところで……これはいったいなんでしょう?」
 「とんこつ茸フォカッチャラーメンです。どうぞ熱いうちに召し上がれ。私は怪しいものではありません。こういうものです」

 男は割り箸に名刺を挟んで紫苑に手渡す。そこには『東雲 緑田』とだけ書かれていた。自走式高速屋台で人を拉致し、謎のメニューを何の気兼ねもなく差し出し、名前しか書かれていない名刺……これで怪しくなかったら、いったい何が怪しいのか。しかし紫苑もこういう展開に慣れているせいか、名刺をポケットに入れると箸を割って摩訶不思議なラーメンを口に運んだ。たださすがの彼も『一口だけでも食べれば非礼にはあたらないだろう』と思ってやった行為であり、それ以上食べる気はなかった。しかし食べてみると……普通においしい。今日に限って食事抜きで仕事をしていた紫苑は完食する気もないラーメンをエレガントに食べ始めた。この緑田なる男、只者ではない。彼はそう感じながら口の中を空にし、さっき言いかけたことを改めて聞きなおした。

 「緑田様、この私を連れ去るということは……全容をご存知だと考えてよろしいのでしょうか?」
 「ご存知も何も。これだけの力を持った男性が、一応は平和のために戦っているのですから。今日は手助けをしようと思い、参上した次第です」
 「一部気になるご発言もありましたが、大変ありがたいことですね。その口調に嫌味はないのですが……緑田様、何か隠してらっしゃいますか?」

 さすがは教師主任。多くの人間と接しているだけあって、その観察眼も完璧だ。緑田も「あはははは、わかります?」と笑いながら頭を掻く。ただどんなに相手が怪しくとも、たとえ紫苑は食事を終えてもここから去る気はなかった。この屋台は自分が持ち得ない力で動いている。つまりは霊能力か魔法……いずれにせよ、状況を打破するには緑田の助力が必要になるだろう。そして敵も首都高を蛇行しながら、この店にご来店したがっている。紫苑が中でのうのうと食事しているにも関わらずまったく風圧を感じないのは、屋台全体にバリアーのようなものが発現しているからだということはわかっていた。しかしこの屋台は逃げている。ということはこのバリアーには敵の攻撃を防御するまでの性能はない。結論から言えば、今から緑田の切り出す内容こそがすべてを解決する唯一の術なのだ。
 食事を終えた紫苑はいくらかもわからない料理に対して小切手で支払いをしようとしたが、それよりも先に緑田からあるものを差し出される。それは妙にでこぼこした飾りっけのない銀のリングだった。

 「ああ、お代は結構です。それを身に着けてくだされば。もう時間はありません。この屋台もそろそろ終点ですし、ね」
 「これが……あの死霊の群れを撃退するアイテムですか?」
 「そうです。さぁ、今こそリングに口づけしかざすのです! そして『おぐし少女★キューティクル藍子』と名乗りなさい!!」
 「……そ、そういう関係の方……だったのですね。ま、まぁ、耐性はありますから、できなくもありませんが……」
 「身内にそういうの大好きな方を知ってます! あなたにならできるはずです!」

 紫苑は不意に『今さらその人物の名前など聞きたくない』と思ってしまった。そして無表情のままリングを取り、屋台の外へと出た。そこは飾りっ気のない道路の真ん中ではなく、明るく煌びやかな遊園地のセントラルスクエアだった。シチュエーションまで変身後に合わされた以上、そして敵が攻撃の射程範囲内に入った以上、もう引き返すことは許されない。例のリングを手にして貴婦人の手にキスするように口づけすると、恥ずかしながらもその場で要求どおりに叫んだ!

 「『おぐし少女★キューティクル藍子』……あ、あら、声が女性に、髪が藍色に?!」

 トレードマークのタキシードは中世ヨーロッパの貴族を意識した男装の麗人に早代わり。そして口づけを受けたリングはふたつに分かれ、大きな握り拳としてまとまった髪にメリケンサックとして装着される始末。これもすべて緑田が『呪縛の毒蛇』という能力をあることを知ってのアビリティーアレンジなのだ。とにかく何になろうと、死霊は倒さねばならない。紫苑、いや藍子は自分の能力と同じように髪の拳を振り乱す!

 「えいっ! えいっ! おぐしだぶるパンチーっ!」
 『ブグシャァ、ブゲアァァーーーッ!』
 「ああ……ちゃんと魔女っ子っぽくがんばってくれてます。完璧です!」

 この拳、尋常ではない力を発揮する。なんと一薙ぎで3体の死霊を吹き飛ばし、四散させてしまったのだ。変身した時まではインチキアイテムかと思ったが、実際にはものすごい力を秘めていた魔女っ子パワー。ただ緑田の妙なフォローを聞いてしまうと意図せず素に戻るのでなるべく聞かないよう注意しつつ、藍子はオリジナルの『神速の脚』さえも駆使しながらあっという間に死霊を撃退した。その戦闘時間は3分にも満たない。もちろん霊に対抗できる魔女っ子パワーは緑田がいて初めて発動するものだが、それに紫苑のパワーが合わさるともはや敵なし。敵から「反則だろ、その強さ!」と批判を受けても仕方のないくらい最強の『おぐし少女★キューティクル藍子』である。

 さすがに異変に気づき、死霊たちを操っていたネクロマンサーのお出ましとなった。いや、正確には紫苑を倒すことを目的にしていたはずだから、おそらく死霊に混じって移動していたのだろう。しかしすでにそいつも紫苑の予想外の強さに完全に及び腰になっていた。しかしこっちから藍子に「許してくれ!」とは口が裂けても言えないし、相手もかわいい生徒を襲っている以上は許すつもりはない。
 ついにオッサン、やけっぱちになって杖を振りかざして特攻。しかし速攻で髪の拳に捕まった挙句、メリーゴーランドのようにぐるんぐるん回されて、パンジージャンプの勢いで投げ飛ばされるも超加速で先を越されてキャッチされ、最後は魔女っ子お約束の必殺技でようやくお仕置き完了の運びとなった。もちろん藍子こと紫苑は、緑田のガッツポーズは見ない方向で精一杯がんばった。

 「かわいい生徒さんたちをいじめた罰です! おぐしナックルクエイクっ! 闇の彼方にさようならっ!!」
  ゴンっ! ゴンっ! バシッ! ヒューーン……………

 銀のメリケンサックが地面を轟かせて敵の墓標を作り出すと、その中へ無造作に捨てられる首謀者・ネクロマンサー。名乗る暇さえ与えられるあえなく昇天となった彼は何もわからないまま最期にこう叫んだ。

 「お、俺のセリフってここだけ……あ、ああ、地面の裂け目に、す、すっ、すごい早さで吸い込まれて……ああああああああぁっ!」

 以上が『おぐし少女★キューティクル藍子』の活躍の一部始終である……と言いたいところだったが、予想以上の活躍っぷりに興奮した緑田が彼女の手を引いて、次の現場へと連れて行こうとするではないか。これにはさすがの藍子も驚きの声を上げた。

 「も、もういいでしょう! 敵もすべて倒しましたし……」
 「とりあえず今晩は『キューティクル藍子』でがんばりましょ! つまんない悪からでっかい悪までたくさん倒して少しずつ世の中を平和にしましょ、ね、ね!」
 「……ま、助けてもらったと思って我慢しましょ。しかし、あなたもしょうがないわねぇ……」
 「じゃあ次の現場に向かいますから、また屋台に座ってください! 飛ばしますよ〜っ!」

 緑田はすでに大喜びで今夜だけでも夢と希望を満ち溢れさせようと躍起。紫苑もいつの間にか口調が完全に藍子そのものになりつつあった。はたしてこのコンビはただの1回で終わるのだろうか……とんでもないふたりを乗せた屋台は再び東京のどこかへと走り出していった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年02月26日

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