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『Tower 』
ジュネリア・アンティキティ6923)&アヤカ・レイフォード(6087)&(登場しない)


 里帰りというものは、誰であっても郷愁を誘うものなのだろうか。それはよく分からない。
 ただ、今そこにいる彼女にとって、何かがあることには違いないだろう。



 その街は、たとえ深夜であろうともその光が途絶える事はない。
 眠らない街、などと言い出したのは一体誰なのだろうか。この光景を見れば、それも納得ができる。
 そんな事を、女は一人静かに考えていた。

 ジュネリア・アンティキティ。本来彼女がその住処を置くのは日本ではない。
 しかしその住処は、先日無粋な輩どもに破壊しつくされてしまった。
 彼らが何者だったのかは結局よく分からないままだったが、そんなことはどうでもいい。問題なのは、住処をどうするか、だった。
 結局彼らから修理費も貰えず(その分相応の報復はしておいたのだが)、復旧の目処など全く立っていない。

 全く持ってとんだ災難だ。しかし、彼女がそれを深く気にする事はなかった。
 これもまた何かのいい機会かとすぐさま思考を切り替え、彼女は飛行機のチケットを用意する。行き先は、ここ日本。
 彼女の出生を知るものなど他にはいないが、知っているものがいたとするのならこう思うのだろう。里帰り、と。





 彼女が生まれた時、それは遥か昔の話。
 そして産まれたのはこの東京ではないが、確かにそれは日本の何処か。
 随分と変わったものだと、彼女は静かに思う。
 自分がその身を鈍く光らせていた頃は、人工の光など一切なかったというのに。今やこの街は、いやこの日本中が人口の光に溢れている。
 それが寂しくもあり、新鮮でもあり。なんともいえない感覚に包まれる。

 適当に歩き、一つの公園を見つけたところでジュネリアはその中へと入っていった。
 一つ寂しそうに佇むベンチに腰をかけ、徐に鞄を開く。その中から現れたのは、何処にでもあるタロットカード。彼女にとって、命の次に大切かもしれないもの。
 慣れた手つきでカードを繰り、一枚引く。なんでもない占いだ。

 引いたのは塔のカードだった。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 流石に夜の公園ともなれば、幾ら東京といえど人通りはなくなる。そしてそういう場所を狙って何かをしようとする輩も多い。
「……?」
 ふと、何かを感じる。普段ならあまり感じることのないそれ。そして忘れるはずもないそれを。
 ジュネリアは一人、静かに歩き出した。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 彼女がそのような事をはじめたのは、一体何時の頃からだったのだろう。
 既に彼女自身よく覚えていない。なぜならやりすぎたから。
 だから今日もこうしている。こうしなければ気がすまない。

 目の前の少女は、少し正義感が強いくらいの何処にでもいる普通の女の子だ。
 そう、普通だ。それが彼女には許せない。
 半分彼女と同じで、しかし半分は彼女と決定的に違う自分が。
 苛つくのだ、どうしようもないほどに。

 だから何時も嬲り殺す。徹底的なまでに絶望させて、これでもかと言わんばかりに命乞いをさせて。そしてそんな惨めな相手を殺すのだ。
 その度に獲られる快感、満足感。あぁ、やはり自分は彼女達とは違う。

 ぶつりぶつりと。やはり何時もの様に少女の身体を穴だらけにしていく。ただでさえ幾つも穴がある女の身体なのに、さらに幾つも増えるだなんてなんてお笑い種だろうか。
 しかし、彼女――アヤカ・レイフォードは甚だ不満だった。今日の相手はどうにも弱い。
 もう少しこう、気丈に振舞ってくれる程度の方が楽しいのに。そんな、相手からしたら最悪な発想だけを浮かべながら、殺さない程度にそれを続ける。
 深夜の公園。人通りなどないのは分かっている。
「ほら、助け呼んでみなさいよ?」
 髪を引っ張り、唾液と涙で濡れたその顔を上げさせる。元々あった可愛らしい顔立ちなど何処へ行ってしまったのか、ただただその顔は歪んでいた。

 しかし。今日ばかりは何かが違っていた。

「っ!?」
 不意に、音。そして間髪いれずにアヤカが振り向いた。そこに、闇にも溶けない鮮やかな女が立っていた。
「…何者よ、あんた」
 女からの答えはない。女はただ、静かにアヤカだけを見ていた。まるでそこにいる少女などいないかのごとく。



 ジュネリアの感じたのは紛れもない魔力。それも禍々しいまでの憎悪の篭った魔力だった。
 そうしてやってきてみれば、あぁ何の悪夢か。見るもの全てが覚えてしまいそうな、目が覚めてしまいそうなほどの美少女が、一人の少女を今まさに嬲り殺そうとしているところだった。
 お互いに、ただ一瞥。それ以外には言葉すらない。



 お互いに何を思ったのか。
 ジュネリアはただ冷たい瞳で静かにアヤカを見やり。
 アヤカの興味の対象は、ただ五月蠅いだけの木偶から、目の前の美しいジュネリアへと切り替わる。
「…見られたからには、生かしておくわけにはいかないわよねぇ?」
 そんな三流悪役でも今時言いそうにないことを楽しげに呟いて。アヤカの爪が五月蠅かった少女の胸を貫いた。
「だから、殺されてよ!」
 そうして悪夢は、ジュネリアを標的に定めたのだった。





 アヤカの動きは、まるで疾風。普段の猫を被った姿からは想像できない速さで一気に距離を詰めていく。
 そんな彼女を見ながら何を思ったのか。ジュネリアは一つ手を振った。言葉にするなら、一筋の流れ星の如く。そんな光球が、アヤカへと放たれていく。
「はっ!」
 しかしそれは何でもないかのようにアヤカは身体を翻し、避けた勢いそのままにさらに距離を詰めていく。
 彼女が今まで相手してきたものは、何も弱い人間だけではない。遥かに強大な退魔士の類とも幾度も戦っている。そしてその度に生き延びてきたのだ。

 いよいよジュネリアとアヤカの距離がなくなる。
 元々ジュネリアは接近戦には強くないのか、表情は一切変わらないまでも避けるので精一杯になっていた。
 それに対して、アヤカの力は接近戦でこそ発揮されるタイプ。まるで水を得た魚のようにジュネリアを追い詰めていく。
「捕まえた…!」
 ジュネリアがまた避けたところで、遂に勝負は決した。避けて身体が翻り、他に動きようのなくなったその瞬間。闇色の糸が彼女の身体を捉えていた。

 キリキリと。女の細い身体を糸が締め上げていく。
 ありえない方向へと捻じ曲げられてしまいそうなほどの力。それを受けても尚、ジュネリアの顔はただ涼しい。
 それが、アヤカの加虐心に火をつけた。
「あははっ、貴女凄いわね! そんな状態でもまだ涼しい顔していられるなんて…!」
 糸には更なる力が込められ、さらにその爪も容赦なくジュネリアの身体を穿っていく。
 それでも。それでも尚、ジュネリアの表情は全く変わらなかった。
 その瞳はただただ静かにアヤカを見つめている。その不気味なまでの静けさに、一瞬アヤカは怯み…次の瞬間にはまた笑っていた。

 なんて女だ。こんな女を泣かせることができたら、一体どれほどの快感を得られるのか分からない。
 だから、少女はまた大きく笑って爪を振りかぶった。

 しかし、ジュネリアにもただやられ続けるという趣味は持ち合わせていない。
 今まで全く動く事のなかったものが、静かに動いた。

「変身」

 それは紛れもない日本語。そして、目の前の女にはあまりにも不釣合いな言葉。
 ゆえに何か嫌なものを感じ、アヤカは爪を止めてその場を飛び退いた。

 そして。次の瞬間には、己の目を疑っていた。



 日本に住まうものであれば、多かれ少なかれ漫画やアニメというものを見た事があるだろう。
 その中には、実に様々な生物が登場する。人間、そうでないもの、もはや生物ですらないもの。
 そして、その多くに共通しているものがある。

 ある生物がその頂点に、或いは上位に立つ、というもの。

 そも、漫画やアニメなどというものでなくとも、遥か昔から伝わる神話ですらそれは共通である。
 ゆえにそれは何時も畏敬の念を持って扱われてきた。時には悪魔として、時には神として。

 その顔が、今まさにアヤカを見ていた。



 いわば、巨人に竜の頭を加えたもの、とでも形容すればいいのだろうか。それ以外の言葉を、アヤカは知らない。
 ただごつごつと岩立つ肌は、それゆえにその力を如実に表わしている。
 その大きさは、ただ理不尽なまでの暴力を体現するかのよう。
 そう。紛れもない竜とでもいうべきものが、アヤカの目の前に現れたのだ。



「…な、何なのよ、これ…」
 やっと搾り出せたのは、そんな言葉。しかし、その後に何も言葉は続かない。
 アヤカ以上もありそうなその巨大な腕が、振り上げられていたのだ。
 本能の告げるままに、それは危険だと身体が動いていた。
 しかし、それでも遅い。その巨大な腕は、アヤカの左腕を掠めるように大地を穿つ。
「ひっ…」
 熱さが、全身を駆け巡る。
「いやぁぁぁぁ!?」
 巨大なものが掠めていった左腕が、ありえない方向へと折れ曲がっていたから。

 しかし、ただ叫んでいるわけにもいかない。
 痛みと恐怖でおかしくなってしまいそうな思考のまま、アヤカは走り始めた。

 殺される。あれには絶対に殺される。今まで殺す立場だった自分が殺される。
 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ怖い怖い怖い怖い――!!

 だがしかし。逃げようとすることはかなわなかった。
 ぶんと。鈍い風きり音と共に、またあの腕が振るわれた。
 次に掠めたのは右足。ただそれだけで、アヤカの右足は本来の役目を果たさないものへと変わり果てていた。

 軽く吹き飛ばされ、強かにその全身を打ちつける。しかし、今はそんなことよりも、
「いやっ、いやぁ痛いぃぃ!!」
 潰された左腕と右足の痛みが、止まらない。



 悲鳴だけが、人気のない夜の公園を彩っていた。
 その音源へと、ありえない異形は近付いていく。
 大地を振るわせる足取りに、アヤカは狂いそうになりながら逃げようとして…許されなかった。
 動かない右足は自由を奪い、間誤付いている間にその頭を異形が掴み、持ち上げた。
「ひぐっ…」
 頭だけで、己の体重を支えなければならないという拷問。息が詰まり、それだけで骨が折れそうになる。
 しかし、次の瞬間にはそんなことも忘れていた。

 アヤカの瞳と、異形の鈍い光を湛える瞳が交錯した。



 怖かった。
 恐ろしかった。
 助かりたかった。

 まるで、初めて自分が命を付け狙われたときのような感覚。

 涙が溢れる。
 恐怖で身体が動かなくなる。
 全身の穴という穴から、全てのものを吐き出してしまいそうな。

 だから、
「お願い、助けてぇ…」
 弱々しく、そんな言葉を呟いたのだった。

 何を今更、と言われてもおかしくはなかった。
 先ほどまで罪のない少女を殺しておいて。そして関係のない女を襲っておいて。
 何と自分勝手な願いだろうか。
 普通の者ならそう思ったとしても不思議はない。

 不気味な沈黙だけが、世界を支配していた。
 異形は動かず、アヤカはただ歯を鳴らして涙と唾液と鼻汁を流す。
 程なくして。アヤカの身体は地面へと投げ捨てられた。
 興味なさそうに一瞥すらくれず、異形の身体は小さくなっていく。そこにいたのは、ジュネリアだった。
 そうして、アヤカは自分のやったことがどれほど馬鹿げていたことか思い知らされたのだった。

 あの女は駄目だ。絶対に関わっちゃいけない。
 もはや泣き声すら上げることも忘れ、アヤカは動く右腕と左足を必死に動かして、文字通り這い蹲りながらその場を逃げ出した。
 それをつまらなさそうに一瞥して。ジュネリアもまた、その場を立ち去るのだった。





◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 テレビから流れるのは、とある公園で起きた殺人事件のニュース。
 それを。二人の女が別々の場所で見ていた。

 一人は昨日起こったことにまた恐怖し。
 一人は、もう鬱憤が晴れたからか特に何の感情も見せず。



 少女は思った。またあの化け物に出会うことがあれば、私は一体どうなるのだろう。
 まだ治りきらない腕と足が、恐怖につられたように痛み始める。
 その恐ろしさに。少女は叫んでベッドの中へともぐりこんだ。



 女は思った。そういえばそんなこともあったな、と。
 まぁ彼女にとっては、鬱憤を晴らせて相手が反省さえすれば、別に命をとらなくてもよいのだ。
 だから。昨日のことはもう忘れて、今日は何処へ行こうなどと考えるのだ。





 二人が再び出会うことがあるのかどうか。それは分からない。
 ただ、再会したとき。その時、塔が崩れ去っていくのは一体どちらなのだろうか。それもよく分からない。
 答えは、ただタロットカードだけが知っているのかもしれない。





<END>
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2007年02月22日

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