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『あちこちどーちゅーき −大阪のプロ− 』
桐苑・敦己2611)&(登場しない)


 一代で遺産を食い潰せと、文字通りに贅沢な悩みを受け継がされたのは、183cmの彼、桐苑敦己。全国津々浦々めぐる彼の体験は、新鮮な驚愕の連続ではあるが、今宵の事は、それに比べてはあまりたいした事がない。少なくとも、どこそこの妖怪に出会って、という話とは雲泥の差だ。
 まとめれば、夜遅く、ラーメンを食べた。たったそれだけの事。
 けれどどんな出来事だろうと、なかなかに、印象的な面もあって。

◇◆◇

 日本一騒がしい国と呼ばれる大阪に、たどり着いたのは昼の頃。勢いと無計画に任せあちこちどーちゅーきってた内に、もうすっかり夜になってしまっていた。
 さて、道頓堀。今は飛び込み対策に、内巻きの高いフェンスが組まれているこの場所、大阪を代表するここでも、たとえ、午前零を一つか二つ超えると、思いの外静けさになるとは知らなかった。24時間走り続けるランナーの看板も、足一本で何人前になるか解らぬ蟹の看板も、酔っ払いが巨人に見間違う恵比寿様の看板も、ひっそりとしたものだ。
 ここじゃなければ眠らない部分も当然あるのだろうけれど、どちらにしろ、大阪らしくない部分を敦己は歩く。
 なんにせよ、治安は悪い。なので、何処に泊るかが最重要の問題とするが、同時、腹の虫もグウとなった。串カツを夕飯に食べてから、確かに、大分経っている。合間に黒門市場に出ていた里芋入りのたこ焼を食べたが、そのエネルギーもとっくに消化されてしまったのだろう。
 寝る前に、何かひとつほしいけど、こんな時間にやっている店は牛丼屋くらいか?
 並盛りを一つ頼み、生姜をめいっぱいのせて掻き込む、半ばまで食した後、熱いお茶をかけてずるずると啜る。というコース料理もあるのだけど、
 いや、この時間でも足を伸ばせば寿司屋はやっていた。一人前1500円のを軽くつまむか、あるいは上巻き一本でも頼み、泊る場所でビール一本と供につまむか?
 ……長く一人きりで旅を続けると、やけに、所帯染みた事も身についた気がした。
(あれ?)
 まだ、明かりのある店がある。だがそれは馴染みのない物、――赤いはっぴを来た二十歳くらいの若い青年が、自分を認めると声をかけてきた。
「お兄さんお兄さんすいません」
 水商売での呼び込みは全面的に禁止されたはずのだが、その店は違っていた。いいや、そもそも店なのか。
 白くシンプルな内装は、携帯ショップに良く似ていたが、奥行きはない。起きて半畳寝て一畳、マンションの狭いポスト待ちうけの空間、そして真っ白い床にびっしりなにやら、メモ帳が張られている。
 ここに至って、あああれか、夜のお店への招待状の――と思い当たった時に、
「何か食べたいものをお探しで」
 それは、実に意外に否定された。
「食べ物、ですか?」
 知らない相手は慣れた物なのだろう。青年は、ついっと流れるように説明し始める。
「えー、私達は大阪のいろいろな店を把握しておりまして、で、お客様のご要望にぴったりの店を案内させてもらってます。直接私たちがお客さんを案内致しますので」
 こんな仕事が世の中にあるのかと、驚いたのは確かである。
「で、どうでしょうかお客様。電車を逃したのなら、その時間まで飲める居酒屋とかもありますし、お泊り決まってるんでしたら軽く……。冷凍のお土産も売っている、大阪名物の店など」
 どんな、注文でも受けるのであろうか?
「……えっとそれじゃ、俺、まだ寝る所決まってないんですが、……サウナかネット喫茶が十分くらいの場所で、軽く、ラーメンとか? 食べさせてもらえる所」
 こんな、注文が通るのだろうか――
「はい、お客様、ラーメンは何味がお好きでしょうか?」
 しっかり、把握しているらしい。敦己は何か、プロに出会った気がして、にこりと笑って一番おいしい所をと所望した。


◇◆◇


「はい、それじゃお願いします」
 案内された店はアーケード通りの路地裏であり、本当に狭く、客四人が入ってすっかりぎゅうぎゅう詰めになるようである。
 その店主に、案内人がお願いしたのは、スタンプを受け取る事。なるほど、こうやって収益にしているのかと思うと、案内人はまたこちらに顔を向けて、
「よろしくお願いします!」
 と、元気の良い声で言った。
 自分より年齢が一つ二つ下であろう、若い主人が出した一杯は、透き通るまでに美しいスープの塩ラーメン、麺はストレート。黄身がとろとろにとけたゆで卵が嬉しい。
 スープを一口、舌で受け取り喉に一掴み流すように。口の中にたっぷりと広がるのは、旨みだった。すかさず麺をつつうとやる。コシはシャッキリしていて、かみ締める度に、卵と小麦粉の香りがぷうんとたつ。
 失礼ながらこんなものがあるとは思えぬ店に、こんなものがあった。
 しこたま酔った後に辿り着いたのなら、砂漠のオアシスと見間違えるような極上の一杯かもしれない。
 すっかりスープまで飲み干すと、代金の六百円を払った後、ナイトパックのあるネット喫茶へ。シャワーも完備でドリンク飲み放題、ちょっと値段は張るが清潔な店内らしく、深夜でも従業員がきちんと働く最高の場所、と、案内人は言っていた。
(昼にも尋ねてみようかな、どんな風に注文するかだけど)
 色々な人が居て、色々な仕事があって。
(魑魅魍魎の居る店とか? でも、流石にそれは)
 そんな人達が、世界を回している。
(……でも、案外)
 そういう人達と出会う事も、彼、桐苑敦己の旅の楽しみである。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年02月20日

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