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『『甘いパーティー〜銀髪の少女と〜』 』
阿佐人・悠輔5973

 鍋から立ち上る湯気が、とても甘い。
 部屋中の空気さえも甘くなるほど、繰り返し実験が行なわれていた。
 今年こそは、この方法で……。
「嫁さんゲットだ!」
 ファムル・ディートは気合を入れて、チョコ作り(特性惚れ薬入り☆)に励んでいた。

 今年のバレンタインに、元弟子ダラン・ローデスの家でパーティーが開かれることを知ったのは、1週間ほど前だ。
 古今東西の美男美女が集まるらしい。
 パーティーには興味はないのだが、集まる女性には興味大ありだ!
 正確に言うのなら、ファムルは女好きなわけではない。ただ、結婚に関して異常なまでの執着があるだけでっ。
「チョコだけではなく、料理にも混ぜれば完璧だな。ふふふふ……」
 怪しい笑みを漏らしながら、ファムルは仕上げに勤しむのであった。

**********

 煌びやかなシャンデリアに、豪華な食事。
 穏やかな音楽に身を委ねて踊る人々は、皆、優雅で美しかった。
 場違いだったかも……。
 異世界のパーティーに興味をもって来てみたのだが、どうにも落ち着かない。
 そう思いながら、阿佐人・悠輔は、隅のテーブルで食事に勤しむことにする。
 出された料理は、お洒落なものばかりであった。
 メイドの説明によると、パンの入った可愛らしいバスケットも、食べることができるようだ。
 参加者は人間ばかりではなく、どう見ても獣人と思われる種族も、普通に受け入れられている。
 日本の東京で暮らす悠輔には、不思議な空間であった。
 様々な食材がちりばめられた見たこともない料理を、皿に取って食べてみる。
 中華風の野菜炒めのような味だ。なかなか美味しい。
 他にも、ハンバーグやシチューなど普段食べている料理もあり、食事は十分楽しめそうであった。
「ねぇ、私と一緒にパーティー抜け出そうよ〜」
 突如、隣の女性が悠輔の腕に自分の腕を絡ませてきた。
 自分より10は年上と思われるその女性は、先ほどまで隣の友人達と騒いでいたのだが。
 媚びるような目に、悠輔は戸惑う。
「二人っきりで、あそぼっ」
「い、いえ、俺はもう少しここで……」
「そんなこと言わないで〜。お姉さん、あなたのことが、とっても気に入っちゃったの。クールなカンジがいいわぁ〜」
「あ、えー……連れがいますので」
 しなだれかかってくる女性の腕を、嫌味のないよう振り解いて、悠輔は席を立つ。
「そんなのほっといて、ここで飲もうよー」
「いえ、失礼します」
 連れなどいないのだが、そう言って席を替えることにする。
「悠輔さん、こんばんは」
 会場の中心付近に差し掛かった悠輔は、聞いたことのある声に振り返った。
 そこには、知り合いの少女の姿があった。嬉しそうに笑っている。
「水菜? 来てたのか」
「はい! 勉強に来ました」
 彼女はゴーレムの水菜。悠輔は以前、迷子になっていた水菜を助けたことがある。
 作り主である呉・水香の指示で、給仕のバイトをしているらしい。水香本人は、お気に入りのゴーレムや友人達と別のテーブルでパーティーを楽しんでいるようだ。
「悠輔さん、どうぞ」
 水菜がトレーを差し出した。
 白い大皿の上に、チョコレートや、チョコレートケーキが置かれている。
「ありがと」
 悠輔は一口大のチョコレートをひとつ摘まんだ。
「俺にもチョコくれよ〜」
 ダラン・ローデスという主催者の息子が、水菜にひっついてきた。
「はいどうぞ」
「こっちにも!」
「俺も〜」
 水菜は結構人気があるらしく、多くの男性にチョコレートをせがまれている。
 微笑ましく思いながら、悠輔はチョコレートを口に入れた。
「……このチョコ……」
 想像以上に美味しい。
 もうひとつ食べたくなり、周囲を見回す。
 水菜はチョコレートを取りに、厨房に戻ってしまったようだ。
 ……と、すぐ近くの席の女の子が、悠輔が食べたチョコと同じものを持っていることに気付く。
「すいません、あなたの手に持っているチョコ、どこに……」
 悠輔の声に、少女が振り返った。
 二人の目が合ったその時。
 体が突然、熱くなった。
 理由もわからなく、鼓動が高まる。
 銀色の髪をしたその少女には、見覚えがある。
 彼女の名前は、広瀬・悠里。悠輔とは違う世界に住む少女。
 思わず伸ばした手を、我に返り握り締める。
 心を落ち着かせながら、言葉を出す。
「……あ、えーと、その、ですね……よろしかったら、俺と一曲、踊ってもらえないでしょうか……」
 悠輔の言葉に、悠里は赤くなって俯いた後、「はい」と答えたのだった。
 悠輔は悠里の手をとって、音楽の流れる舞台の方へと向った。 
 二人の指と指が絡み合い、穏やかな音楽に乗って、ゆっくりと動き出す。
 二人の顔が、呼吸の音が聞こえるくらいに近付く。
 でも何故か、それが普通のような気がした。
 1曲のつもりが、何曲も。
 二人は踊り続けていた。
 やがて、周囲が暗くなる。
 音楽が、より静かで穏やかなものとなり、周りが静まり返る。
「これから少しの間、恋人達の時間です」
 アナウンスは二人の耳には入らなかった。
 絡めていた手を離し、悠輔は悠里を抱き取った。
「俺……君のことが好き、みたいだ」
 想いがとめどなく溢れ出す。
 悠里もまた、悠輔をぎゅっと抱きしめる。
「私も、あなたのこと、好きですぅ」
 悠輔は彼女の柔らかな身体を愛しげに抱きしめ続けた。
 こんなに愛情が溢れる理由はわからないけれど。
 互いが互いを愛している。
 きっと、今日出会うその前から。
 君は自分の愛すべき人物なんだ――。

**********

 夢から覚めるように、恋人達の夜は終わりを告げる。
 外の冷たい風にさらされていた。
 抱きしめていた彼女の姿はもうない。
 だけれど、彼女は確かに存在している。
 ここではない場所に。
 悠輔は空を見上げた。
 東京の曇空だ。
 彼女もこの空を見ているだろう。
 うっすらと見える月に手を伸ばして、呟いた。
「素敵な夜を、ありがとう」

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0098 / 広瀬・悠里 / 女性 / 17歳 / 神聖都学園高校生】
【5973 / 阿佐人・悠輔 / 男性 / 17歳 / 高校生】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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甘いパーティーにご参加ありがとうございます。
悠輔さんが悠里さんを好きということは、もう1人の自分と大切な人を好きだということになるのですよね。
ほのぼのとした気持ちで書かせていただきました!
また機会がありましたら、よろしくお願いいたします。
バレンタイン・恋人達の物語2007 -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年02月15日

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