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『寺 』
妙円寺・しえん6833)&鈴木・恵(NPC0354)


 沈黙は何時も夢のようで、
 忘れてしまった恋の歌で、
 懐かしい日々を忘れた時、
 それに、浸るの。
 そしてその手が零であるなら、
 愛する誰かの温もりも無いなら、
 任侠一つ頼りましょうか、
 それならば、歩いていける。
 神よ神よと唱えることなく、仏よ仏よと唱える我に、加護は何時ぞややってきましょう。ああ、永遠が言う。見当たらりやしない、かもと。
 そうだそれは待つのでなく、自ら掴み取る事だから。授けられる褒美とて、全て、行動の結果だ。ゆえに彼女は双子みたいな二丁のコルトガバメントを乱射して、獲物じゃない得物の長ドスを振り回し、その刃で貫いてでも、
 引きとめようとするのだけれど、
「おんしゃあ、」
 、
「一体、何しよるがぁ」
 ……少女の、
 そのアフロの少女の言葉は、神に任せられた。
 神に、いや、何かに全てを任せた時、物語は時に、ひねくれる。
 寺内において暴力を振るい、仏の顔を三度以上も潰しながら、不出来な神は致命的に酷く遅れてやってきて、
 それでいて破壊する。きっと、望みを。
 ――こんなモノを望んで、ああ神よと願った訳でもあるまいに
 少女は、ことりと置くように言った。
「お別れや」
 世界が滅びへと、傾いて、傾いて。


◇◆◇


 尼が一人居て、酒を飲んでいる。
 吟醸の燗、本来は禁忌とされている事、しかし、香り飛ばぬよう湯気たたせず、そして人の肌にも届かせないようゆっくりと暖めた時、旨みがより増し、喉から胃へすとんと染み渡る冬の酒となる。つまみは不浄を避けて長ネギの煮びたし、とろとろに熔かしたのを口にほうりこむと、のろのろ甘く口に広がって、すかさずぐい飲みで酒を流せば、ここは極楽か。
 般若湯、仏相手に、恵比須顔。自室に鎮座している、遥か彼方におわす方を相手にしての酒盛りを、一段、深くしている時であった。
「……何事ですか?」
 振り返らずに声で誘えば、一人の雲水が障子を開けて、足を入れた。ようやくに入ってきた者へ向いた彼女はだらしなく、心を身構える。小言だろうか、今酒を飲んでる事か、あるいは請求書の類についてか、
「突拍子も無い話ですが」
 雲水は、剃った頭を一つ撫でてから告げる。
「近頃夜毎、仏像が徘徊しているという話を聞きまして」
「徘徊、ですか?」
 仏が動き出すという奇跡、それは本来、寺にとっては喜ばしい事である。心の篭った仏像が歩く、そういう有り難い説話があるのなら、寺の威光は増す事になるのだし、ぶっちゃけ、賽銭が増える種になる。
 とはいっても世の中はイカれた世紀末を越えた2000年代、そう簡単に鵜呑みは出来ないが。だからこそ、
「確かなのですか?」
 この寺の仮住職、妙円寺しえんは、まず真実かを聞いた。
「一人だけなら酔っ払いの戯言、二人ならば獣の見間違い、しかし、三や四となれば」
 あらゆる人間からあらゆる情報を聴取して、多角的に一つの物事を集約した時、やっとそれは、真実に近くなる。その正体が実際なんであれ、同じように見間違えるのなら、雲水の言葉には説得力があった。
 それに、そういう奇奇怪怪の出来事は、あの事務所と同じく、しえんにはプラズマの四文字で済ませられないと知っているから。
 ならばである、徘徊する仏像、果たしてどう処理すべきか?
 いっそ檻に捕らえれば拝観客もうっはうはで文ちゃんグッズもうっはうはなのだけどと、不埒な事が頭に過ぎったが、「しかし、ちょっと妙なのですよ」
「というと」
 雲水は首を捻りながら、いえ、
「当寺院におわしますのは木造の仏像でございましょう? しかし、雲水達が目撃しているのは、頂髻相の仏像でして」
「超軽装? 確かにきわどい格好の仏様も多いですけど」
「いえそうじゃなくて、そうですね、解りやすく言うと」
 そして、雲水の一言を聞いた時、
「パンチパーマの仏像なんです」
 しえんの頭脳は真実はたった一つだとか祖父の名前にかけてとかこの世に不思議な事などありゃせぬとかの勢いで答えに導き出され、暫く停止した後、その件に関しては今夜ケリをつけます、と申した。


◇◆◇

 パンチパーマというヘアスタイルを、この時代、堂々と決める方など僅か。
 しかしその僅かをしえんは、幼少の頃から良く知っている。全くもう、今頃になって、
「連れ戻しにきたのでしょうか」
 まだ彼女に怒りはなく、やれやれといった様子であって。パンチパーマの正体は、おそらく、かつて自分が居た組の誰か、
 極道の世界は小指を供にせねば切れぬというのか、冗談じゃない。まだ私は盃も交わしていない。全く、
「わりゃあ」
 そして彼女に怒りはあり、何時ものように口調が変わり、
「とーしょんならぁ!」
 銃をそのパンチに突きつける、しえんの姿は、

◇◆◇


 ……つっこまれていたはずだ、なのに、どうして。
 妙円寺しえんの姿は、普段の袈裟姿が基調とはいえど、ショッキングピンクで、そこらしかにフリルもついて、1200円くらいで販売されそうなプラスチック製のネックレスもつけて、長ドスも振れば流星の尾がたなびきそうだのに、
 帝倶莫摩耶呼なんとかと、二度唱えたゆえの姿、だったというのに、
 スルーされた。
 別に、彼女事態は天然だから、寂しさを感じなくとも、
 普通は寂しい。
 もしも彼女と彼女が旧来からの知り合いだったら、覚えたのは違和感だっただろう。だけど尼が感じた不思議はそこじゃない、そうじゃない、
 パンチパーマじゃない、あれは、
 その、あれは、
「アフロ」
 鈴木恵という少女は、アフロを被った彼女は、
(斬った張ったの世界が嫌で、この小さな囲いへやってきて、けど)
 ドンパチをし始めた。
「おどりゃああああ!」
 彼女の世界が崩れていく。
「なしてそがあぁぁぁ!」
 道化の姿を脱いで、ドンパチをし始めた。


◇◆◇


 破戒僧の彼女より、アフロの女子高生の衝撃は凄まじく、
 あらゆる仏像が大木のように折れ、床が抜け、札が剥がれ、
 ドスとチャカに対抗するのは徒手空拳、銃を屈んでかわし肘を顎にあててくる、頬肉を噛み血を滲ませるが、しえんは悪鬼のように顔を歪ませ、銃底を脳天にあて、彼女の頭をざくろのように割ろうと。
 尋常じゃない戦闘に誘われてきた寺内のものを、一睨みで退散させたのは、邪魔、だからではない。守れない、からだ。
 そすいてから、ドスを、彼女の腹にぶちこむのだけど、
 彼女は器用に身をよじり、内臓をかわさせ、少しだけ命を長引かせた。
 もう、雑巾のように疲弊していってるのだけど、ずたぼろになって、ゴミ箱に捨てられるように、
 何を、望むか、神仏に対して、
 何を叫ぶか、
「おんしゃあ、一体、何しよるがぁ」
 純然たる怒りに対して、そしてアフロは微笑むのだ。「お別れや」と。


◇◆◇

 そして、遂に力尽きた彼女の傍で、
 死に際に煙草を咥えさせられない、未成年の彼女の傍で、ただ佇むしえん。
 朝日が、やってくる。

◇◆◇


「……」
 アフロが戦闘中にこぼれた、その瞬間、彼女の動きは電池が抜けたように鈍った。それがそういう力のアイテムだったのか、知り合いの、チャイナ姿の奴が取り扱っている物だったりしたか。
 でも、こんな結末が呼ばれるなんて、誰も考えてなくて、
 きっとこれは気まぐれで、神様の勝手で、
「……名前は、……聞いても、仕方ないでしょうか」
 仮とはいえ、住職、
「戒名なら考えて」
「死なんよ」
 寺の中で、彼女は、「それ、許されへんねん、うち」ただ、
「もう、会えへんから」
 意味が解るような、解らないような、そんな事を言った後その少女は、
 霧のように散っていった。……そんな、有り触れた奇跡だった。何一つ良く解らなかった事件、どうして潜入したか、どうして私をおびき出し、どうして戦闘したのか、
 なんでこんな話に、なったか。
「さて」
 とりあえずはこの爪跡をどうにかせぬと、仮初の住職は、今日の修行の一切を、それにあてるよう指示をした。


◇◆◇

 そして、後日の事である。妙円寺しえんが例のアンティークショップから贈り物を届けられ、
 “超任侠尼VS美少女女子高生仁義無き戦い! ポロリもあるよ!(アフロが)”っていうDVDが販売されていて、それの製作元がなんとかTVとかあって、え、もしかしてあの戦闘盗み撮り? それ編集して販売? へぇそっかぁふーんよしとりあえず、
「出演料ぉぉぉ!」
 とマシンガンと供に叫んでももうその声は届く事はないのである。ていうか、いいのかこんなオチで。
「いやまぁその、実際うちもうでしゃばるべきやないやろうし」
 なら依頼者差し置いて締めのセリフを言うなと。どんとはらい。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年02月08日

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