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『 迷ヒノ神社 〜渇きの街〜 』
シオン・レ・ハイ3356



 ■序章■

「む〜……」
 ひゅぅ〜っと、哀愁漂う乾いた風が砂塵を伴い、便宜上右から左へ吹きぬけた。
 絶壁の眼下に広がるのは、見渡す限りの砂漠。それを前にサクヤは途方に暮れたような顔で呟いた。
「神社に戻るためのカギと扉が見つからない……」
 その時だった。
 突然、巨大な何かがサクヤを飲み込んだ。



   ◆



 初詣の帰り道、見慣れない神社が建っている事に気が付いた。行く時は気付かなかったほど質素な佇まいの小さい神社である。
 とはいえ、今日はお正月だ。せっかくなのだからお参りしていかない手はない。
 朱塗りの鳥居をくぐると、雑木林の中を石段がずっとのびていた。どうやら奥は思ったより広いらしい。
 苔がはえ、人気のない石段を登りきると御社があった。手水所で手や口を清め、さてお参りと振り返った時、突然視界いっぱいにそれが飛び込んできた。
「大変! 大変!!」
 蝶々というよりは妖精なのか。しかしそれは人に羽が生えているというよりは鼠に羽が生えているように見える。いや、鼠というよりは、手の平サイズの狛犬か。とりあえず人語を解するらしい。
 突然現れた不可解な生き物に、半ば呆気にとられていると、そいつが慌てたような口調でこう言った。
「この神社の守り神、サクヤ姫様が帰ってこないのです。そこのあなた方、姫様をお助けください!」

 刹那、世界は突然歪み、足元から崩れ去った。

 どうやら問答無用で、強制的に、サクヤ姫とやらの捜索に出されたらしい、気が付くと、そこは見渡す限りの砂漠だった。






 ■砂漠の12人■

「荒野じゃないんだな」
 姫抗がぼそりと呟いた。
 見渡す限りの大砂原。しかし目を凝らせば地平線とも思しき彼方に赤い岩肌の山岳地帯が見える。まるでそれらに囲まれるようにして、砂漠地帯は広がっていた。
「ヒメは荒野の方が良かったのか?」
 腰まで編んだ長い銀髪を揺らしてユーリ・ヴェルトライゼンが尋ねた。全身の黒服には間が抜けたような一本の福笹を携えている。互いに、まるで故意に本題から目を背けているような口ぶりだった。ちなみに、これは余談だがユーリは抗を姫だからヒメと呼んでいた。この場合、見た目も本人の性格も関係ない。
「人数が違うだろ」
 抗の足元からゼクス・エーレンベルクがわけのわからない突込みを、憤懣とした口調で入れた。今の澄み渡った空と同じ色の髪を軽く掻きあげ、同じく空色の瞳を冷たく抗に向けている。
「いやぁ、悪い、悪い」
 うさ耳のついた黒い帽子の上から頭を掻いて、抗はゼクスの上に乗っていた巨大な酒樽を軽々と担ぎあげた。中にはお屠蘇陽用の祝い酒が入っている。初詣といえば神社。日本の神社には甘酒やお屠蘇、場合によってはお汁粉や、年が明ける前なら年越し蕎麦などが無料で振舞われる。それに目をつけたセフィロト随一の食欲魔人が神社をはしごして食えるだけ食った挙句にお土産と称していただいてきた代物であった。神社側が是非にと言って渡したところを見ると、恐らく、さっさと帰って貰いたかったに違いない。
「あらあら、どうしましょう?」
 ユーリが呆れたように肩を竦めている傍らで、赤地に白牡丹の振袖を着た色白の女性が、扇を開いて陽を避けながらのんびりと呟いた。口調と内容が微妙に一致していない気がするのは気のせいか。
「初詣の帰り道にこのような場所に出るなんて……」
 彼女の赤い瞳がゆっくりと砂原を巡って、一人の少年の顔で止まった。彼女と雰囲気の似たその少年は蒼い目をわずかに眇めて小さく息を吐く。
「どうしましょうって姉上……とりあえず私たちをここへ連れてきた狛犬どのに話を伺うしかないだろ」
 彼女を姉と呼ぶところを見ると、どうやら二人は姉弟らしい。姉を藤野咲月、弟を羽月といった。
 羽月の呆れたようなそれが、ゆるやかにそちらを振り返る。
 ユーリと抗も釣られたように、彼らが故意に避けてきた問題を振り返った。
 羽月が狛犬どのと呼んだそれは羽のはえた鼠サイズの生き物だった。それは耳も尻尾も鼠とは違っていたが、本題と向き合いたくない心理の現われか、ユーリはマウスのマー君などと虚ろな視線を送りながら命名していた。
 そんなマー君は今、羽をバタつかせ皆の視界の高さを飛びながら喚いている。
「姫様をお助けください!!」
 声を裏返らせん勢いのそれに、しかし返ってきたのは何とも拍子抜けするような愛らしい女の子の声だった。
「登るのでぇす!」
 マー君と同じ手の平サイズの小さな女の子が、おもむろにマー君の背中に飛び乗った。マー君はその体重を支えきれなかったのか、女の子の重力加速度に対抗しながらも徐々に下降し、やがて砂の上で女の子の下敷きになった。
「…………」
 マー君の傍にいて、小さな女の子――露木八重を肩にのせていた切れ長の目にスーツ姿の女が肩を竦めながら八重をつまみあげる。シュライン・エマはそうして八重を自分の肩に戻すと腰を屈めてマー君の顔を覗き込んだ。
「助けてって言われてもねぇ」
「ただ、迷子になっているだけなのではありませんか」
 黒い髪に毛先が白い赤い目をした男――トキノ・アイビスが冷ややかに言った。容赦なく降り注ぐ陽光も、この突然の状況をも、ものともしない涼やかな顔がマー君を見下ろしている。
「いいえ。私は元来このようなサイズではありません。これは姫様の御力が途絶えてしまっている証拠。姫様の御身に何かあったのです!」
 きっぱりと断言してみせたマー君に、しかし気圧されるでもなく、トキノは相変わらず冷たい視線を注いでいた。
「まぁ、その姫様を見つければよろしいのね?」
 咲月が目を細めて、まるで大した事でもないような顔で穏やかに話すのに、ユーリは何となく視線を泳がせて、抗とは逆隣にいた男に目を止めた。
 フードを目深に被った陰気臭そうな男が、ぶつぶつと呟いている。
「ありえない。いや、ありえないなんて事はありえない」
「…………」
 彼―――ヴァイスハイト・ピースミリオンの言いたい事はユーリにもよくわかった。ユーリも含め抗やゼクスのいた世界は、神様などというものとは全く無縁な世界である。勿論、信仰としての宗教は存在していたし、心の中に住まう神様というのはあった。苦しい時は神頼みもする。だから初詣にも出かけるのだ。それでもそれは非現実的なものでしかなかった。神様など現実には存在しない。そんな事はみんな知っている。
「そうか、あれはボディESPの一種だな。あれだ。体を小さくして表面積を小さくする事で、体内の水分蒸発を抑える。つまりナメクジと同じ原理というわけだ。そうか、奴らはナメクジなんだ……」
「…………」
 人は時に自らのアイデンティティを保つため、自分に納得のいくような理由を付けたがるものである。たとえそれが人によっては不条理であったり、事実とかけ離れた答えであったとしても。
「あのぉ……」
 シュラインの傍で座り込んでいた男が、和服の袖で顔に日陰を作りながら遠慮がちにマー君たちに声をかけた。
 白皙の美貌という言葉が似合うほど整った顔立ちの美形だが、今はかわいそうなぐらい青白い顔でげっそりとやつれていた。
「先に、日陰に移動しませんか?」
 声も枯れ枯れに言った男に、シュラインが目を見開く。
「あ……」
 彼――セレスティ・カーニンガムは強い光と気温の高い場所が苦手だった。すっかり忘れていたとばかりにシュラインが慌てて声をかける。
「大丈夫?」
 そうして、彼女は助けを求めるように周囲を見渡した。
 動いたのは赤い髪の小柄な男だった。
「確かに、この日差しでは1時間もあれば干上がってしまう。とりあえずシェルターを作った方がいいな」
 ラフィトゥ・パダッツは薄手の外套を日よけ代わりにセレスティの頭から被せながら言った。彼は元砂漠の遊牧民であり、この程度の日差しは平気であったし、砂漠での過ごし方も心得ていたのだ。日を避けるためのシェルターを作り、昼間はそこで凌いで夜になってから行動する。
「昼間に砂漠を移動するのは自殺行為だからな」
 だが、それにセレスティは異を唱えた。
「いえ、近くにオアシスがあるはずです」
 まるで今すぐそこへ行こうと言わんばかりだ。
「何?」
 ラフィトゥは眉を顰めたが、セレスティは確信に満ちた顔を返してくる。
「水の気配がします」
「本当か?」
 それをシュラインが促した。
「彼の言う事は信じられる。行きましょう」
 どうやら信じていいらしい。そう判じてラフィトゥはセレスティに肩を貸す。
 それを見ていたシオン・レ・ハイが手を挙げた。
「荷物、私が持ちましょうか」
「あぁ、じゃ、頼む」
 ラフィトゥは持っていた背負い袋をシオンに手渡した。
「はい!」
 シオンは元気よく応えて、背負い袋を受け取ると肩にかける。
「あ、シオンさん。俺のも持ってよ。これ、担がなきゃいけないからさ」
 抗がゼクスを指差して肩を竦めながら言った。そして巨大な酒樽をシオンに押し付ける。人が二人ぐらい楽に入りそうなサイズのそれには、どうやらたっぷり酒が入っているらしい。
「お…重っ……といいますか、どうして兎さんは私の名前をご存知なのでしょう?」
 抗のかぶる垂れうさ耳帽子に、シオンが怪訝に首を傾げる。
「それは……この俺がグレイテストエスパーだからだ」
 抗が全開の笑顔で言ってのけた。
「はぁ……?」
 狐につままれたような顔でシオンが見返す。
「わかった、ヒメ。お前には定冠詞を付けてザ・ヒメって呼んでやろう」
「…………」
 それがまるで聞こえなかったような顔で抗はゼクスを担ぎ上げた。ヒメはよくても、ザ・ヒメは気に入らなかったらしい。
「しかし相変わらず貧弱なんだな」
 抗に担ぎ上げられたゼクスに向かってユーリが呆れたように声をかけると、ゼクスはキッと眉尻をあげた。
「うるさい、ユーリ・ヴェルトライゼン!」
 そうして、この暑さの中喉の渇きも気付かぬ態でどうでもいい事を言い合いながら歩き出す彼らに、シオンは半ば置いていかれながら酒樽とラフィトゥの荷物を持って溜息を吐いた。
 何となくトキノと目が合う。
「…………」
 気が付くと、シオンの荷物は増えていた。
 かくして、砂漠を旅するには不釣合いな11人と一匹がオアシスへと動きだしたのだった。
「あ…あの……待ってください……これ、結構重……」
 前を行く11人と徐々に引き離されながら、シオンが荷物を引き摺りつつ、その後を追いかけた。






 ■本当にそこはオアシスなのか■

「そういえば狛犬って、二匹で一対じゃなかった?」
 一番先頭をラフィトゥとセレスティ、その後ろにゼクスを俵のように担いだ抗とユーリ、更にトキノとヴァイスが続く。ずっと後方を大量の荷物を引き摺って歩くシオンを別にして、八重を肩にのせ最後尾を歩いていたシュラインが、マー君に声をかけた。
「はい、います」
 頷くマー君に羽月も気になる態で横に並ぶ。
「どこに?」
「……1ヶ月ほど前、姫様と一緒にここへ来たっきりです。私は神社の方を管理しておりましたので」
「まぁ、そうしますとその方もサクヤ姫と一緒に行方不明なのかしら?」
 羽月と並んで歩いていた咲月が、相変わらず扇を陽にかざしながら顔を覗かせた。
「いいえ。皆さんをこちらへお運びする際に互いの引力を使っているので、たぶんこの近くにいる筈です」
「それって、居場所はわからないの?」
 シュラインが尋ねる。
「今歩いてる方向に気配を感じるので、きっと今から向かうオアシスにいるのでは、と」
 マー君が答えた。
 何とはなしに皆、進む先を見やる。
 前方を歩いていた一行の内、歩いていたわけではないゼクスが感嘆の声をあげた。
「おお、オアシスが見えてきたぞ」
 シュラインがマー君を振り返る。
「それって、サクヤ姫の気配とかは感じないの?」
「はい……」



   ◆



 セレスティの言った通り、そのオアシスは砂丘を一つ越えてすぐのところにあった。まるで砂原に穴を掘って作られたようなオアシスには、しかし水があるようには見えない。
 ただ、今にも崩れそうなあばら家が立ち並ぶだけで人影すらなかった。
 空は青く晴れ渡っているのに、どこか薄暗い感じがするのは、この集落を包む淀んだような大気のせいだろうか。
 彼らは互いに顔を見合わせながら、集落の中を歩きだした。
「おや、珍しいねぇ……旅人さんかい?」
 煙の上がる家の窓から、干からびたように皺皺の年寄りがしゃがれた声で尋ねた。
 腰を90度近く曲げ、目の端を皺くちゃにして、それは笑っているようにも見える。
「あ、あの……」
 シュラインが言葉を捜した。旅人かといえば微妙に違うような気もしたからだが、さて何と答えたものか。
「ようこそ、カズサの街へ。と言ってももう、何もない街じゃがな……」
 その老人は遠い目をして何かを懐かしむように言った。
「カズサの街?」
「以前は大きな街じゃったんじゃが……」
 小さな集落からはとても大きな街など想像出来なかった。


 かつてカズサの街は大きな湖と河が隣接した、交易の盛んな街であった。大陸を東から西へ横断する街道が走っている為、宿場町としても賑わいを見せる不夜城都市として、この大陸でも有数の大都市だったのである。
 外は日差しがきつかろうと老人に促されるままに、一同は老人の家に入った。それほど広くないダイニングテーブルの上にマー君がのっかると、シュラインと羽月と咲月とトキノとセレスティとラフィトゥが座った。それでテーブルは満員になったので、残りのユーリとゼクスと抗とヴァイスとシオンは、リビングの長椅子に腰を下ろした。八重はシオンの膝の上に座っている。

 かくてダイニング班。お誕生日席に老人を迎えて、シュラインは先ほどから気になっていた疑問を老人にぶつけた。
「街の人は?」
「……みんないんでしもうたわ……」
 しゃがれた声が淋しそうに答えた。そうして俯いてしまった老人に他の面々は困惑げに顔を見合わせる。何と声をかけたものか考えあぐねていると、やがて俯いたままの老人が口を開いた。
「何があったのかはわしらにはわからん。ただ、湖がある日突然涸れてしまったんじゃ。それから井戸の水も涸れ。大地は渇き農作物もみんな枯れてしまってな、日増しに街は砂に埋もれ、この街もとても人の住めるところじゃなくなって、一人離れ、二人離れ……今じゃわしら数人が残っとるだけになった」
「突然という事は、少しづつとか、徐々にとかではなく、急激にそうなったという事ですか?」
 尋ねたトキノに老人が小さく頷いた。
「水の恵みから一変して砂漠……何かが引っかかるのだが……」
 羽月は口元を指の背でなぞりながら、じっと机の上を見つめた。
「羽月さん?」
 俯いてしまった羽月を咲月が心配げに覗き込む。
 しかし、咲月に気付いた風もなく、彼はただ思考を巡らせていた。
「日照……雨も水もなければ大地は乾くのみだが」
 水がある内に殆どの者達が去った。勿論それは、水を持ってという事になる。では残った者たちはどうやって水を手に入れているのか。汲み置きの水がまだ残っているというのなら、その異変からまだあまり日が経っていないという事になる。だとするなら、これだけ砂漠化進むのは、いくらなんでも早すぎる。
「確かに変な感じよね」
 シュラインも腑に落ちない顔で首を傾げた。何かの力が働いている可能性。
「消える数日前から何か変わった事はありませんでしたか」
 トキノが尋ねた。
「数日前? ……特に思いつかんのぉ」
 老人は記憶を手繰るように視線を馳せたが、結局何も思い当たらなかったのか、ゆっくり首を振った。
「そういえば、それはいつ頃から起こったのです?」
 セレスティが尋ねる。
「湖が干上がったのは一月ほど前じゃ」
 老人が答えた。
「一月? ……一ヶ月……それ、ついさっき聞きましたわ」
 咲月が机の上のマー君を見やる。
「サクヤ姫がお供を連れてこちらにやって来たのが、丁度その頃だな」
 羽月も頷いた。
「まさか、姫様が水を涸らした原因だとでも言われるか!?」
 マー君が目尻をこれでもかと釣り上げて、今にも飛び掛らん形相で睨みつけるのに、羽月は慌てて手を振る。
「いや、そうではないが、サクヤ姫の失踪と何か関係があるかもしれない」
「…………」
 偶然と呼ぶには出来すぎている。
 そういえば、とシュラインは思い出した。こちらには、狛犬の相方がいたのだ。彼なら何か知っているかもしれない。この街の異変も。
「マー君。そういえば、相方さんの気配は?」
「誰がマー君なんですか?」
 マー君(仮名)が、不満げにシュラインを見上げた。
「あら、さっきユーリさんがマウスのマー君って付けてくれたのよ」
「私にはれっきとした……」
 マー君がいいかけた名前を、冷たい声が遮った。
「マー君。もう一匹の狛犬はどこにいるんです?」
 今は名前などどうでもいい、そんな風情だった。さっさと話を先に進めましょう、と赤い目が語っている。そこには有無を言わせぬ何かがあって、マー君はトキノの視線に生唾を飲み込みながら答えた。
「……あ、その……先ほどから、ずっと近くにいるような……」
「捜しましょう!」
 シュラインが立ち上がった。

 一方、その頃のリビング組である。
 人を誘っておいてこの家はお茶も出ないのか、と不満げなゼクスを、水がない土地だからサボテンでも齧ってろとユーリが宥めすかしていた。
 時々聞こえてくるダイニング班の話をBGMに退屈そうにしていた八重が何かを見つけて立ち上がる。
「ふぉっ! こっちにも羽鼠しゃん」
 今にも歌いだしそうな軽やかな口調で言うと、シオンの膝の上から飛び降りる。
 そちらに向かって走りだす八重に、リビングにいた面々がリビングテーブルの下を覗きこむ。
 そこには八重が言った通り、マー君に似た羽のはえた鼠サイズの生き物が、ヨタヨタと今にも倒れそうな足取りで歩いていた。
「同じサイズでぇすね」
 ゼクスが興味なげにテーブルの下から顔をあげる。
 その他の面々が見守る中、八重が敢然と立ち向かっていった。
「でも、登るのでぇすよ!」
 それに抗は「よしっ」とばかりにぐっと拳を握り、ユーリは「鬼……」と呟いた。
 同じサイズは最早登るというレベルではない。殆どおんぶのような状態に、力尽きたようにそれがぺしゃりと潰れる。
「あーあ」
「だ……大丈夫ですか!?」
 シオンがおろおろと声をかけた。
 ヴァイスが半ば現実から逃避するようにテーブルの下から顔をあげて、長いすの背に体重を預ける。
 そこへ、ちょうどダイニング班の話しが聞こえてきた。
 もう一匹、狛犬がいるとかどうとか。
 ―――もう一匹の狛犬?
 心当たって思わずヴァイスは確認するようにテーブルの下に顔を戻す。
「捜しましょう!」
 とシュラインが立ち上がるのに、ヴァイスは八重の下敷きになっているそれの首根っこをつまみあげた。
「これの事か?」
 と、ダイニングテーブルの方へ掲げてみせる。
「登ったのでぇすよ!」
 八重が自慢げに胸をそらせた。
「…………」
 ヴァイスがそれをリビングテーブルの上に置く。
「コマ!?」
 テーブルの上でくったりしているそれに、マー君は文字通り飛び上がって飛び寄った。
「シ……シ……?」
 かれがれに、コマと呼ばれたそれが、マー君の名前らしきものを呼ぶ。
「大丈夫か……」
 マー君がコマの背を撫でると、コマが息も絶え絶えに言った。
「み……みず……」
「やめなさい。お約束でも寒いわ」
 ミミズを取り出そうとしていた抗の手を諌めるように止めてシュラインが言った。
「えへ……」
「あの、水……」
 老人を振り返り躊躇いがちにかけようとした言葉を、結局ラフィトゥは飲み込んだ。水が極端に少ない土地なのだ。しかもこの地に残る老人たちは皆、殆どが砂漠で暮らした経験もないに違いない。水の効率よい使い方も、蓄え方も、補給の仕方も、知らないのだ。その上、突然の事である。そんな者たちから水を分けてもらうという事がどういう事なのかよくわかる。だから出来るだけ、自分たちの分の水は自分たちで確保した方がいい。
「酒ならあるけど」
 抗が巨大な酒樽を叩いて言った。
「かえって喉が渇きそうだけどな」
 ユーリが肩を竦める。アルコールを体内で分解するには水分が必要だからだ。
「なら空気中の水分でまかなえばいいじゃないか」
 ヴァイスがぼそりと言った。それがダメなら人間から搾り取ればいい。人間は体の70%が水で出来ているのだ。
「うーん、それはある意味真理かもな」
 抗が何事か思いついたように手の平を拳で小気味よく打った。
「確かにそうだな。蒸留器を作って……少し時間はかかるが仕方がない」
 ラフィトゥは立ち上がると持っていた背負い袋を開けた。確か手頃なビニールシートがあったはずである。
 しかし言った本人は。そのつもりではなかったらしい。
「ま、大量となるとそうだけど、とりあえずコマちゃんの分な。お前も出来るんだろ?」
 抗がにこにこしながらヴァイスを見やる。
「…………」
 ヴァイスは嫌そうに視線を伏せた。
「出来る?」
 ラフィトゥが首を傾げる。この乾ききった地では水の精霊の加護も全くといってないだろう、水の魔術を使うにも限度があるはずだ。一体、どんな技を使うのか、興味津々で抗を見ている。
「ふん」
 ヴァイスは面倒くさそうに鼻を鳴らして立ち上がると、台所にあるコップを持ってリビングテーブルの上に置いた。
 彼がそっとコップの上に手を翳す。すると彼の手の平でほのかな光が生まれ、ぽとりと水滴がコップへ落ちはじめた。
「ふぉ〜、凄いのでぇすよ」
 八重とシオンが共に食い入るようにヴァイスの手元を凝視した。それはまるで手品の種を探すような目付きである。
 しかしそれは手品ではない。エスパーであるヴァイスの使うESP組成変異は、元々は単一分子から他の単一分子を作り出すESPである。それを応用して、空気中の酸素分子と水素分子を抽出し、エアーPKで圧縮してエレクトリックの電気エネルギーで結合させ、水分子を生成しているのだった。と言っても、一度に複数のESPを組み合わせて使うため、大量に作りだす事はできないらしい。せいぜいが一口喉を潤す程度だ。抗と二人合わせてもたかが知れている。
 しかし、鼠サイズのコマにはそれで充分だったようだ。
 水の溜まったコップをヴァイスが差し出す。
「ありがとうございます」
 コマの代わりにマー君が頭を下げた。



   ◆



 コマの話しによれば。
 1ヶ月前、サクヤ姫とコマはこの街にやってきた。交易が盛んで活気に満ちた街に、サクヤ姫は大はしゃぎでショッピングを楽しんでいたのだという。それから数日経ったある日、突然、街が賑わいをなくしてしまった。水がなくなってしまったからだ。そして、その時初めてサクヤ姫は気付いたのである。自分の扇とカギをなくなっている事に。
 一人と一匹は手分けして慌ててそれらを捜し回った。だがその直後、姫は消息を絶ってしまったのである。姫に何かあった。それは自分の姿がこのサイズになってわかったのだ、とコマは言った。

 そういえば、先ほどマー君は互いの引力で自分たちをこちらの世界に連れてきた、と言ったが、二匹共がこちらの世界に来てしまったら、元の世界にはどうやって戻るのだろう。
「もしかして、サクヤ姫を捜して、扉とカギを見つけないと、元の世界に戻れないんじゃ?」
 今まで故意に避けてきた問題の核心をユーリは思い切って付いてみた。
「はい!」
 マー君とコマは自信満々に頷いた。きっぱり。
「はい! じゃねぇ、ボケが!!」
 ゼクスの鉄拳がマー君とコマを襲う。とはいえ、所詮貧弱なゼクスの攻撃では蚊に刺されたほどのダメージも与えられなかったが。
「初詣の途中でコレって……新年早々ツイてないって事か?」
 ラフィトゥが深い深い溜息を吐き出しながら言った。
「……言わないで」
 シュラインが痛みを堪えるようにこめかみを押さえる。勿論、薄々感じていた事だし、話を聞いてほっておける性分でもないし、今更といえば今更の事なのだが。
「探せっつってもなぁ……砂漠装備じゃないし、どう考えたってアフターケアがなってないだろ」
 その上この街は、元々砂漠の街だったわけではないのだから、その為の装備が揃えられるとも思えない。
 とはいえ、いくらぼやいたところで、こればかりはどうしようもない事である。
「とりあえず、手分けしましょう」
 トキノが建設的に進言した。
「そうだな」






 ■大発掘■

 ――――というわけで。
 ラフィトゥとセレスティは、一番最初に干上がった湖の真ん中に来ていた。
 砂漠で水もなく炎天下を歩き回るのは危険という事で、既に日は落ちている。それまでは、村人たちから出来るだけ多くの情報を得る為に奔走したのだ。
「しかし、この絵は微妙だな」
 ラフィトゥは、シオンが描いた扉の似顔絵とかいう代物をマジマジと見ながら呟いた。マー君の話しによれば、扉の形状は黒い野球ボールだという。しかしそこに描かれている絵からは、とても黒い野球ボールは連想できないようなものだったのだ。
「黒い野球ボールを捜しましょう」
 セレスティはラフィトゥを促すように、そこに座り込むと砂の上を手の平でなぞった。
 水涸れと扉には何らかの因果関係がある、と彼は考えていた。例えば、扉は何らかの重力を帯びているとか、扉がブラックホールのようになってしまい水を飲み込んでしまったとか。
 それが気になったのかセレスティは率先して扉探索に手を挙げた。しかし表向きの動機はともかく、実際に扉探しを願い出た思惑はもっと単純で、もっと酷い。光と高温に滅法弱い彼は、扉さえ見つけてしまえば、後はカギとサクヤ姫を連れてきてもらえばいいと思っていたのである。待つだけで済むからだ。分からない所を歩き回って行き倒れて捜索されるよりはまだマシという事である。この辺り、自分をよく弁えているという点に於いては、ゼクスとは雲泥の差がある。十二人の中で最も貧弱なくせに、無駄にやる気だけはある男―――ゼクス・エーレンベルクは今、どこの家の物置から拝借してきたのか荷車に乗って、シオンにそれを牽かせながら砂漠の探索に出かけて行ったのである。
 閑話休題―――。
「水涸れは、この湖から始まって八方に広がったんだよな」
 ラフィトゥが確認するように言った。見渡す限り湖があったという形跡は何一つない。湖を砂が埋めてしまったようだった。老人たちの話ではこの辺りという事だったのだが。しかし、セレスティはここであると確信しているようだ。
「きっと、ここには何か手がかりがあると思うのです」
 セレスティは着物の袖から一枚の紙切れを取り出して自信満々に言ってのけた。
 彼が取り出したのは初詣の折に引いたおみくじである。
「大吉。失物。必ず見つかります。北東を捜すとよいでしょう」
 今いるこの場所は、一番最初に降り立った場所から見ても、そしてあの老人の家から見ても、丁度北東の位置にあたるのである。
「…………」
 ラフィトゥは敢えておみくじには触れず、胸ポケットから一枚のスペルカードを取り出した。
「それは?」
 セレスティが不思議そうに尋ねる。
「あぁ、これ? これはライトのスペルカード。月明かりだけじゃ、捜し物も大変だからな」
 ラフィトゥは超常魔導師だった。魔法やアイテムを封じたスペルカードを用い、超常魔法を行使する事が出来るのだ。
「なるほど」
 詳しくはわからなかったが、何かを察したようにセレスティが頷いた。あの不思議な神社に辿りついた者達なのだ。いずれ曲者ぞろいには違いない。
 ライトの魔法は5m四方ほどを、柔らかい光で包み込んだ。暗いのに慣れてしまった目には眩しいかと思ったが、それほどでもない。部屋の中にいるぐらいの明るさだろうか。
「ざっと見渡して、それらしい物は見当たらないし、やっぱり埋もれてるのかな」
「その可能性も高そうです」
「一応、鋤を借りてきたが……」
 ラフィトゥがそれをどっかと砂の上につきたてて、その上に顎をのせた。
「この辺りにどうやら水源があったようですね」
 砂の上を撫でていた手を止めてセレスティが言う。
「お」
「水はこの下から溢れ、湖を満たしていた」
「もしかして、それが詰まっているだけだったりして」
 ラフィトゥが冗談ぽく笑う。誰かが、野球ボールのようなそれを、正しく野球ボールのようにバットで打った。ホームランボールとなったそれは湖に落ち、そして水源にスポッとはさまり水を塞いでしまった、とか。
「それにしては、水の匂いを感じませんが」
 詰まっているだけなら、そのボール―――もとい、扉の下には水がある、という事になるのではないか。
「やっぱり涸れているのか」
「何とも」
 セレスティは困ったように首を振った。
「とりあえず掘ってみるか」
「はい」
 そうして二人は扉発掘に向けて砂を掘り始めたのだった。



   ◆



「砂漠のような同じ地が続く場所での探索は、体力を消耗し易そうですから、気を付けるようにしましょうね?」
 咲月が言った。
「気をつけるのでぇすよ!」
 咲月の肩の上で、どこで見つけてきたのかロケット花火を手に、八重が言った。
「確かにそうだが」
 顔にも口ほどによく語る目にも、これといった感情はのせないままで、しかしどこか疲れたように羽月が言った。彼の視線の先には夜の月明かりになだらかな砂漠が広がっている。頼れるものは手の平の上に乗った方位磁石だけかもしれない、と思っているようだった。
「無事、帰れるよう、頑張ってくださいましね?」
 咲月が言った。
「頑張るのでぇす!」
 ロケット花火を突き上げ、八重が復唱する。
 羽月は視線を斜め下に馳せた。
「……何故、疑問系のように語尾があるのだ、姉上……それではまるで、私が頑張らないようではないか」
 ぶつぶつぶつ。
 そんな羽月とは正反対に、無駄に気合の入った男が拳を高々と突き上げる。
「さぁ、行くぞ!」
 どこで見つけてきたのか荷車に自らが乗り込んでいた。自分を『荷物』と自覚しているからだろうか。
「……こんなに暗いところで闇雲に歩いても絶対に見つかりませんよ」
 トキノが冷たく指摘する。とはいえ、トキノ自身はオールサイバーであり、サイバーアイを備えていたからこの程度の暗闇でも昼間のように辺りを見渡す事が出来るのだが。
 ゼクスは「うむ」と頷いた。
「ならば――」
 ゼクスが両手を顔の高さに掲げてみせた。その中に光が徐々に集まって、やがて光の球が生成されると、辺りは電気をともしたように明るくなった。
「凄いのです! ゼクスさん!!」
 シオンが目を輝かせて言った。
「うむ。これでいいだろう。さぁ、シオン・レ・ハイ! 行け! お宝は目前だ!」
 ゼクスはそう言って前に向かって指差した。
「お宝なのですか?」
 シオンが首を傾げる。
「大切なものといえばお宝。その桜色の扇とやらがどれほどのものかはわからんが、必ずや金になる!」
 金は食料に変換できる。海老になる。扇を回収してもう一度売る気なのか。ゼクスの目は本気だった。本気と書いてマジと読む。
「はい!」
「…………」
 何となくトキノと羽月の目があった。互いに何も言わなかったが、2人の脳裏には全く同じ言葉が浮かんでは消えていった―――苦労性。
 どこかで人選を誤ったのか。
 二人はなんとはなしにとぼとぼと歩き出した。その後ろに咲月と八重、それからゼクスの乗った荷車を牽きながらシオンが続いた。
 一応、彼らにも目的地らしきものはある。
 街に残る少ない老人たちの話を総合すると、元の世界へ戻る為の扉を開くカギは、どうやら一つの隊商(キャラバン)に、水と交換するために売られてしまったらしい事が判明したのだ。桜色の扇という形状が一致している。但し、その隊商がこの街を出発したのは一週間以上も前。行き先は隣の宿場街。果たして、今から追いかけて追いつけるかどうか。しかし事態はもっと複雑だった。
 その隊商が、この街を出て間もなく消息を絶ってしまったというのだ。砂漠にポツンとその隊商が使っていた荷馬車だけが残っていたのだという。
「ご老人の話しによると、その荷馬車が発見されたのは、この辺りという事ですが」
 トキノがゆっくりとその位置を確認するように辺りを見渡した。
「他に手がかりになりそうなものがあるといいのだが……」
 羽月は乾いた砂ばかりの足下に視線を投げる。一週間前、ここで何があったのか。何も見つからなければ、次は砂を掘ってみるという選択肢に辿り着く。
「む? あれは何だ?」
 荷車の上に立ち、どこで調達してきたのか双眼鏡を覗きながらゼクスがそちらを指差した。
「あれ?」
 八重が目の上に手を翳す。つられたように咲月が歩き出した。羽月が慌てて追いかける。近くで確認したいというゼクスの要望にシオンは荷車を牽いた。
「やはりあそこで黒い物体が動いている」
 砂丘に囲まれるようにして、円形にくぼんだクレーターのようなものがある。そのすり鉢上になった中心に確かに黒い何かが動いていた。まるでそれは巨大な蟻地獄を連想させる。
 砂は中心に向かって流れていた。
「まさか……」
「蟻地獄に落ちたら大変なのでぇす!」
「隊商を襲ったのは、あれなのかしら?」
「ここからでは距離がありすぎるな」
 しかし、かと言って不用意に近づけば砂に流されて餌食にされるだろう。そのぎりぎりのところで羽月が選択を迷っていると、シオンが弓と破魔矢を取り出しながら言った。
「大丈夫です」
 あの蟻地獄っぽいものを、矢で射ようというのか。しかしシオンは矢を番える前に、それに気付いて言った。
「トキノさん、何をしているんですか?」
 その時、トキノは丁度シオンの腰に縄を結び付けているところであった。
「大丈夫です。命綱をしっかり結びましたから」
 トキノがにこりともせず答えた。
「はい?」
 意味を理解しそこねて、シオンが聞き返す。しかしトキノは淡々と続けただけだった。
「砂漠の地下に空洞があるかもしれません」
「は?」
 言ったが早いかトキノの足がゆっくりと弧を描いた。一転した回し蹴りが見事にシオンの背中にヒットする。シオンは反射的に自分の体を支えようと荷車の持ち手を掴んだ。が、トキノの回し蹴りの威力の前では何の助けにもならなかった。
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 砂に流され落ちていくシオンと、荷車と、それに乗っていたゼクスの姿を羽月も咲月も八重も呆気に取られながら見つめていた。
 巨大な蟻地獄っぽいものと格闘しているのか、シオンが破魔矢を振り回している。しかし程なくして二人の姿は砂に消えた。
 ゼクスが作り出していた光と彼らの絶叫が途絶え、やがて静寂が辺りを包み込む。月明かりの下、マー君と八重が頬を引き攣らせながら呟いた。
「こぇぇ〜〜〜……」
「恐ろしいおじしゃんなのでぇす」
 トキノがその声に振り返る。オールサイバーな彼の耳は人間の可聴領域を遥かに越えているのか、それとも単なる地獄耳なのか。
「ひっ……」
 声を引き攣らせながら八重は咲月の背中に隠れた。
「あの……」
 羽月が遠慮がちにトキノに声をかける。
「何か?」
「命綱の端は持ってなくても良かったのか?」
 トキノはきっかり十秒、羽月の顔をマジマジと見つめていた。
 それから自分の手の中を見る。
「……あ……」



   ◆



 サクヤ姫が消息を絶ったと思われる場所も特定出来ないほど情報不足のサクヤ姫救出部隊。あるのはシオンが描いたある意味素晴らしい似顔絵。抽象画と紙一重みたいな絵である。
 ぬばたまの黒と呼ばれるその髪は、長くまっすぐで艶やかに足下にまで広がっているという。白い面長の顔。桜色のつぶらな瞳。薄紅色の頬。愛らしい唇。身長三尺三寸は5歳児程度という事か。
 シュラインは複雑な溜息を吐き出した。それは見事な絵であったが、果たしてどうやって捜したものか。
 昼間、老人たちに聞いて回った限りでは、殆ど見た者はなかったという。しかもコマは手分けして探している最中だったので、どこで消息を絶ったかわからないというのだ。とりあえず彼女が捜していたらしい場所へ行こうとしたが、その辺りは既に砂漠と化していた事もあり、殆ど手がかりを得る事は出来なかった。
 極度の脱水症状で完全にグロッキーなコマを残して、結局ヴァイスの生体感知能力でサクヤ姫を捜すことにした。しかし精度が劣るせいなのか、それとも別の理由があったのか、四人は東へ西へと走りまわされる事になる。
 歩きつかれたシュラインがやがて一つの結論を叩き出した。
「ねぇ、もしかして、サクヤ姫は今、あちこちを移動してるんじゃないかしら」
「移動?」
 抗が首を傾げるのに、シュラインは力強く頷いた。
「そう。本人の意志か、それとも別の力が働いているのかはわからないけど」
「それは一理あるかもしれない」
 ユーリが足を止めて言った。単にヴァイスの感知能力が不安定と思われ、ここまで走ってきたが、その可能性も念頭に入れて動くべきかもしれない。
「ヴァイスさんはその方角だけでなく、ある程度距離もわかるのよね?」
 シュラインが尋ねた。
「ああ」
 ヴァイスが陰気そうに応える。
「地図よ、地図。それで移動経路を追いかけて、次に移動する場所を予測して先回りしましょう」
「なるほど」
 抗が納得したように頷いた。
「今のままじゃ掴まりそうにないしな」
 ユーリも賛同する。
「よし、そうとなったら、この辺りの地図を入手しよう」
 フットワークの軽い抗が、人のまだ残る家へと走りだした。


   ◇


「でも、大きな街ね」
 地図を地面に広げて周囲を囲むように4人が座ると、シュラインがしみじみとした口ぶりで呟いた。あの老人が大きな街と言っていただけの事はある。この地図を見る限り、彼女の住む東京の新宿区より一回り大きいくらいの広さがあるかもしれない。
「街の九割方が砂漠化しちまったって感じだな」
 今はあまりに小さな集落と化している。九割どころではないのかもしれない。そこにあった筈の家はどこへ消えてしまったのだろう。たった一ヶ月でこうなってしまったのか。
「あの砂漠も、1ヶ月前は街だった、って事だよな」
 広がる砂漠を見やってユーリが感慨深げに呟いた。
「一体何があったんだ」
 抗が肩を竦める。
「どうせ水の使いすぎだろ」
 ヴァイスが興味もなさそうに言った。
「水の使いすぎ……か。耳の痛い話ね」
 シュラインが舌を出す。彼女がいた日本は水不足はあっても砂漠のそれとはレベルの違う世界だったのだ。金を乱費するという意味で『湯水のように使う』なんて言葉があるぐらいだ。ここでは、全く正反対の意味になるかもしれない。
「で、どうだ? 現在地がここなんだが、その姫さんとやらはどの辺りにいる?」
 先ほど地図を貸してくれた老人に教わった通りの位置を指しながら抗が話題を本題へ戻した。
「今はこっちの方角に感じる。距離にして500mってところか」
 ヴァイスがその方向を指差す。
「…………」
 東に向かって500m。地図で追う。
「最初に私たちが向かったのがここよね。それから次がここ。で、その次がここ……ここ……ここ……そして今はこの方向に気配」
 シュラインは地図の上を指で順に辿ってみた。
「姫さんはどこに向かっているんだ?」
 抗が誰にともなく尋ねる。
「さぁ?」
 ユーリは首を傾げることしか出来なかった。
「何か法則性とか、目的があると思うんだけど……」
 シュラインも困惑げに地図を見下ろしている。
「この場所ってさ、何もなかったっけ?」
 ユーリが皆の顔を順に見やった。
「何か? ここに共通してあったもの、っつったら……」
「涸れ井戸」
 ヴァイスが言った。
「あ、そういえばあったな」
 抗が思い出したように顔をあげる。
「涸れ井戸か……」
 ユーリは再び地図を見下ろした。
「でも、なんで井戸を?」
「さぁ、わからない。水を取り戻そうとしているのか、それとも……」
 その逆か。
「これだけの大きな街だ。地下に用水路や下水道が通ってるんじゃないのか?」
 ヴァイスが言うのに、3人は一斉にヴァイスの顔を見た。
「!?」
 井戸には二種類のタイプが存在する。一つは地中深くまで掘って地下水を汲み上げるもの。そしてもう一つは、川などから水をひいて、地下に作った貯水タンクから水を汲み上げるようにしたもの。後者なら、地下に水をひいてくる為の用水路がある筈だ。つまり、井戸は用水路で繋がっている可能性がある。
「そうか、その中を移動しているから……」
 ユーリの言に抗が地図を手に立ち上がった。
「井戸の場所を地図に書き込んでもらってくる」
「ああ、頼む」



   ◆



 鋤で砂を掘り進めてから、どれくらい経ったろう。さらさらと流れる砂は掘ってもすぐに横から崩れて、穴を埋めてしまうのに、なかなか掘り進むのは手間がいった。そろそろゴーレムのスペルカードでも使うかな、などとラフィトゥがチャレンジャーな事を考え始めた頃、鋤の先に手ごたえを感じた。
「ん?」
「どうしました?」
 ラフィトゥの様子にセレスティが尋ねる。ここまで力仕事はラフィトゥにまかせっきりで、崩れる砂を時々掻き出しつつ、殆ど暖かく見守っていただけのセレスティが目をみはった。
「今、砂とは違う感触が……」
 ラフィトゥは鋤を投げ捨てると砂を手で掻き始めた。そんなに深くはない筈だ。そう思ったが、何度も手探りしてみても砂以外の手応えがない。
「おかしいな。絶対この辺に……」
「これ……じゃないですか?」
 背後からセレスティの声がした。
「は? これ……?」
 怪訝にラフィトゥが背後を振り返る。
 セレスティは放り出された鋤を拾い上げ掲げて見せた。その先に黒い野球ボールぐらいの大きさの球体が刺さっている。
「あ……」
 砂に鋤を突っ込んだときに刺さってしまったらしい。そんなに力を入れたつもりはなかったのだが。
「これ、もしかして、扉ですか」
 セレスティの言にラフィトゥは目を見開いた。
「まずいじゃんか……」
 球体に鋤が中ほどまでがっつり食い込んでいるのだ。これが本当に扉ならまずいだろう。やばいかもしれない。
「壊……れた?」
 ラフィトゥが高鳴る心臓を押さえながら、恐る恐る尋ねた。
「さぁ……?」
 セレスティが球体を掴む。
「触った質感は野球ボールというよりガラスか黒曜石のようですね」
 なんて言った時だった。
 ポロリ。
「あ……」
 鍬から外そうとした瞬間、それが真っ二つに割れて落ちた。
「あ゙あ゙あ゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」






 ■大捜索■

「全く……世話のやける方たちですね」
 と、トキノが独白のように呟いた。
「い……今、確かに自分の事を地獄の棚の上にあげた……」
 マー君が呆気に取られる。トキノは、シオンとゼクスがはぐれてしまった原因の一端どころか全端を握っている張本人と言っても過言ではないのだ。
「仕方がありません。助けに行きましょう」
 何とも恩着せがましく言ったトキノに、八重も大きく目を見開いた。
「恐ろしいおじしゃんなのでぇす……」
「それは、この中に飛び込むという事か?」
 羽月が尋ねる。トキノが無言で頷くのに、今も両足らしいものを振り回している蟻地獄っぽいものを見下ろした。
「…………」
 行動を共にするか、シオンとゼクスはトキノに任せるか。
「無事、帰れるよう頑張ってくださいましね?」
 咲月がにこにこしながら言った。まるで羽月は一緒に飛び込むものと信じて疑わない口ぶりだ。
「…………」
 確かにここで別れても、何か他に当てがあるわけではない。それに、見捨てて行くには後味も悪い。ここで下手に二手に分かれるよりは、皆で移動した方がいい。虎穴に入らずんば虎児を得ずのならいもある。内心でそう自分に言い聞かせ羽月は姉を振り返った。
「勿論、姉上も一緒に行くのだろう? 応援のみでは家には帰れないのだから」
 さも当然のように言ってみせると咲月は少しだけ目を見開いて、八重を振り返った。
「あらあら……どうしましょうか?」
 八重はふむとばかりにその場にいた面々を見やった。強そうなトキノと羽月を見送って、咲月と二人でこんな得体の知れない、というよりも砂以外何もない砂漠に取り残されるのは、万一迷子にでもなったら危険である。
「行くのでぇすよ!!」
 それを受けてトキノは腰に佩いていた二本の刀の内の一本を抜いた。
「私が先に行きますので、後から」
 そう言ってクレーターの中へと飛び込む。トキノの持つ刀は高周波振動し、鋼鉄もバナナを切るように切断する事が出来る。それは月光を浴びて光った。蟻地獄っぽいものを一刀両断、そこにぽっかり出来た穴に飛び込む。
 それに続くように咲月と八重とマー君が、そして最後に羽月が飛び込んだのだった。


   ◇


 一方、その頃のシオンとゼクスである。
「ここは地下か?」
 ゼクスが辺りを見回しながら言った。真っ暗なので何も見えない。ただ、蟻地獄っぽいものを荷車を身代わりに何とか逃れて、そこにあった穴に砂と共に落ちたのが、その砂に埋もれるでもなく自分の周囲に空間があることで彼はここが地下空洞であると判じたのである。
「ゼクスさーん」
 と、すぐ傍から聞こえる大声に、ゼクスは耳を塞ぎながら光を灯した。
 脇でシオンが地面に這い蹲りながら、ゼクスを捜している。
「ゼクスさん!!」
 満面の笑顔のシオンにゼクスは「うむ」と偉そうに応えた。
 明かりに二人が周囲を見渡すと、そこは砂が天井から降り注ぎ、まるで砂時計の底にいるような気分になる地下の空間だった。但し砂時計と違ってかなり広いらしい。だからこそ降り注ぐ砂に埋もれる事もないのだが。
 それを見上げていたゼクスの脳裏に、先ほどのもろもろが蘇って、怒りが込み上げてくる。
「ぬぉぉぉ〜、しかし奴は何て事しやがるんだ!」
 殆どの感情を出す事のないゼクスの顔に、唯一鮮明に現われる憤怒の形相が浮かんでいた。よほど腹立たしかったらしい。
 しかし巻き添えをくったゼクスはともかく、直接危害を加えられた本人は別段怒っている様子もない。
「トキノさんの言う通り地下空洞がありましたね。もしかしたら、行方不明になっている隊商の皆さんもここにいるかもしれません」
 シオンが言った。
「そうだな」
 ゼクスの相槌は素っ気無い。
「さぁ、早く皆さんにこの空洞の事を伝えに行きましょう」
 シオンが勇んで立ち上がる。
「どうやってだ?」
「大丈夫です。ここに来る前にトキノさんは私に命綱を付けてくださいました。これを辿っていけば……」
 シオンが自信満々の笑顔で縄を辿るようにして歩き出す。その後をゼクスがのろのろと付いて行った。
 縄は砂が降る天井には向かっておらず、ほどなくして縄の端まで辿り着く。
「辿っていけば?」
 ゼクスが冷たく尋ねたが、シオンはそれどころではないらしい。血相変えて辺りを見渡していた。
「……トキノさんがいません!!」
「…………」
「トキノさんに何かあったんでしょうか」
「手放された可能性は考えないのか」
 ゼクスが冷静に突っ込んだ。
「羽月さんや咲月さん達も見当たりません」
 ゼクスの声は耳に入っていないのか。
「元の場所に戻ってきたわけではないからな」
 ゼクスが指摘する。
「どうしましょう。こんな場所で、はぐれるなんて大変です」
「確かにここは砂しかないからな」
 ゼクスは目の前の砂山を見上げた。
「きっと皆さん、私たちの助けを待っているはずです」
 自らの使命に気付いたのか、シオンが握り拳を作った。
「何と言ってもここには食料が何もない」
 ゼクスにとっては、それが一番重要であったようだ。
「行きましょう。皆さんが待っています!」
「うむ。食料が俺たちを待っている!!」
 どこか論点をずらしながらも、二人の目的が互いに明後日を向いていようとも、そこへ辿り着くための手段は合致したらしい。
 かくて二人は地下空洞探索に乗り出したのだった。



   ◆



「次に考えられる場所はこの涸れ井戸ね」
 赤く×印の打たれた地図の一つを指して、シュラインがヴァイスに確認を求めた。ヴァイスは1度目を閉じた後、無言で頷いた。
「しかし、一体どこへ向かっているんだ?」
 先回りするには次の次ぐらいまで先読みしたい。ユーリが地図を睨んでいると、突然、抗が何かに気付いたように立ち上がった。
「!?」
「どうした、ヒメ?」
 怪訝にユーリが声をかける。
「今、何かが……」
 呟く抗をヴァイスが見上げた。
「気付いたか?」
「ああ」
「何かって?」
 シュラインが訝しげに尋ねたが、抗はそれには答えず、不敵な、というよりは楽しげな笑みを浮かべて言った。
「面白い事が起こりそうな予感がする」
 やる気満々の抗に何かを感じ取ってユーリが溜息を吐く。
「面倒な事の間違いじゃないのか?」
「行こう」
 突然、抗が走りだした。
「あ、おいヒメ!!」
 慌ててユーリが後を追いかける。
「何に気付いたの?」
 完全に取り残された気分でシュラインは二人の後を追いかけながら、隣を走っていたヴァイスに声をかけた。
「わからない」
 ヴァイスが首を振る。
「え?」
「奴の勘だろ」
「…………」
 だが、彼も『何か』に気付いたのではなかったか。それが何かはわからず、ただ何かを感じたから、という事か。シュラインは、何も読み取れないヴァイスの無表情をじっと見つめた。それに気付いたのか、ヴァイスが口を開く。
「たぶん、ユーリも気付いているはずだ。……いや、それとも逆に、だから気付かないのか」
 シュラインは彼の言わんとしている事を推し量るように脳をフル回転させた。ユーリも『何か』に気付いている。だが、気付いていない風だ。それは、『逆に、だから気付かない』のか。たとえば『何か』が一つのマイナスの気配だったとして、強力なテレパス能力を持つユーリなら『殺気』や『悪意』などにはすぐに気付いたろう。だが逆に、それらがずっと以前から存在していたとか、自分たちに向けられたものではないとかなら、敢えて無意識の内に無視する事もあるかもしれない。『何かの気配』があった。
「この方角は、次に訪れると予想された涸れ井戸。つまり、サクヤ姫とやらが向かっている場所だ」
「えぇ……」
「だからきっと、何かが起こる」
 どこか確信に満ちたようにヴァイスは言って立ち止まった。見れば、前を走っていた抗とユーリも足を止めている。辺りに井戸はなく、ただ砂丘が広がっているだけだ。どこへ消えてしまったのか。
 どうしたの、と声をかけようとして、結局シュラインはそれを言葉にする事が出来なかった。
「!?」
 ただ、呆然と目を見開いて、やっと口に出せたのは。
「何か……って、あれの事?」
「…………」
 そこには一匹の龍が、その巨体を空に昇らせていた。
「サクヤ姫か……」
 ヴァイスの呟きにシュラインは更に目を見開く。
「え……?」
 ヴァイスと龍を何度も見返して、それからポケットの中に押し込まれていた羊皮紙を開いた。
「えぇ!? 全然違うわよ! シオンさんが作ってくれた似顔絵と全然! っていうか、あれ、人の形してないし」
 それとも、これがサクヤ姫の本来の姿、とでもいうのか。
「いや、ありえない……こんなものはありえない」
 ヴァイスがぶつぶつと何事か呟き始める。既に儀式化したようなそれに、抗が振り返った。
「……ありえない、なんて事がありえるわけないだろ。現実に起こってんだから」
 無駄に自信満々の笑顔で言って、龍に向かって走りだす。
「そうか。ESP肉体変化だな」
 ヴァイスは自分の中でそう結論付けた。実際のESP肉体変化では、その質量を返る事は出来ないのだが、そういう事しておかなければ、彼のアイデンティティは崩壊しかねないのだ。
「ヒメ!!」
 走りだした抗をユーリが追いかける。
「待って!!」
 シュラインが二人を呼び止めた。龍が上空で旋回しこちらに向かってくる。
「どうした」
 振り返るユーリに早口で答えた。
「まずいわ。あれが、サクヤ姫かもしれないのよ」
「違う」
 シュラインの腕をヴァイスが掴むのと、抗がPKバリアをはったのはほぼ同時だった。大量に吹き付ける砂嵐の中で。
「え? でも、あなたサクヤ姫って……」
「あの中に、サクヤ姫を感じる。丁度、あの腹部の辺り」
「は?」
「サクヤ姫は、龍神様の腹の中……ってか?」
 抗が言った。
「人質という事か」
 ユーリが考え込むように腕を組む。
「って、ちょっと待って、龍神? 確かに、龍はそういう風に崇められてたりもするけど……」
 シュラインの言に、そういえば、とユーリも抗を振り返る。彼はなんともナチュラルに、あれを龍神さまと呼んだのだ。
 抗は相変わらず根拠のない自信に満ちた笑顔をたたえている。そしてきっぱりと言い切った。
「さっきの爺さんの家に祀られてたから、絶対そう。この街の守り神だ」
「…………」
 何故そこまで自信満々でいられるのか。ユーリが半ば呆れたように肩を竦めた。確かにそういう可能性もある。あるにはあるが。
「なんで、守り神が?」
 攻撃を仕掛けてくるのか。サクヤ姫を腹に抱えているのか。
「龍神は、普通水を守護しているものよね」
「その龍神さまがおかしくなって水が涸れた……って事か?」
 ハッとしたようにシュラインが顔をあげる。
「さっきの、あれ?」
「俺もそう思う」
 ヴァイスが答えた。
 先ほど感じた『何か』。恐らくはマイナスの気配。
「なるほど。龍神さまは風邪ひいちゃったのか」
 真剣な面持ちの中、拍子抜けるほど明るい声で抗が言った。
「風邪って、あんたね」
「なら、風邪のウィルスを退治してさっさと介抱してやろうぜ」
 無駄なやる気も満々で、にこにこしながらさらりと言ってのける。
「大体どうやって? あんたが言う通り本当にあれが龍神さまだったとして、龍神さまを攻撃するわけにはいかない。かといって、その……面倒だからウィルスって呼ぶけど、それだけを攻撃するなんて……」
「そりゃ俺たちも中に入るしかないんじゃない?」
 やっぱり大した事でもない風に抗が言った。
「中?」
 思わず口を出したのはユーリだった。それに抗は不敵な笑みを返す。
「そう、龍神様の腹の中」
「…………」
 しばしの沈黙の後、シュラインが代表して尋ねた。
「どうやって?」
「…………」
 鳩が豆鉄砲でもくらったみたいな顔をしてシュラインを見返していた抗が、初めて真顔になった。腕を組み、真剣な面持ちで考え込む。
「うーん……」
 どうやらそこまでは、何も考えていなかったらしい。シュラインは痛くなってくるこめかみを押さえた。龍が砂嵐を起こしているのか。それが龍自身の意思ではないとして、では龍の腹の中にいるらしいサクヤ姫は何故。
「ん?」
 龍の中に入ってウィルスとやらはともかくとして、サクヤ姫を救出する、というのはありではないか。シュラインは何かが閃いたように顔をあげた。
「そういえばヒメさん、酒樽持ってきてたわよね?」
「ああ、うん」
「なら、それを使ってみましょう」
「酒樽?」
「そう。スサノヲがヤマタノオロチを退治してみせた時のように」
 きょとんとしている三人に、シュラインはいたずらっぽい笑みを浮かべてみせた。
「スサノヲ? ヤマタノオロチ?」
「ええ」



   ◆



「今、何か出ませんでしたか?」
 両手に割れた『たぶん扉』のかけらを半分づつ持って、セレスティがなんとも落ち着いた口調で言った。
「え? 気付かなかった。ってか、どうすんだ、これ」
 セレスティとは正反対に、それどころじゃないだろ、とラフィトゥはあたふたしている。
「接着剤、持ってませんか?」
「接着剤!?」
「はい」
 真顔で頷いたセレスティに、彼が何をしようとしているのか思い至って、ラフィトゥは目を白黒させる。
「んなもんでくっつくのか!?」
「わかりません」
 セレスティは相変わらず落ち着き払ったものだ。確かに、焦ったところで、元通りになるわけでもない。
 しかしラフィトゥはどんどん不安になってきた。
「くっついたとして、バレないのか?」
「わかりません」
「だあ゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 頭を抱えてラフィトゥが唸った。扉が元に戻らなかったら、元の世界に帰れなくなるかもしれないのだ。どうしてそんなに落ち着いていられるのか。
「……しかし、サクヤ姫が見つかれば何とか方法を見つけてくれるんじゃないですか」
 ラフィトゥの雄叫びにやれやれと肩を竦めながらセレスティが言った。
「そ…そうだな」
 半ばそれに縋るようにラフィトゥは自分を宥めた。そうだ。サクヤ姫なら神様なのだから、きっとこれぐらい簡単に何とかしてくれるに違いない。いや、必ず何とかしてくれる。
「そうです。今は、これを壊した罪を、誰に着てもらうか、が重要です」
 セレスティが両手の『たぶん扉』をくっつけ合わせながら真剣な顔で呟いた。
「は?」
 思わずラフィトゥはセレスティの顔をマジマジと見返していた。彼の言葉を反芻する。
「幸いここには、あなたと私しかいません」
 セレスティはにっこり微笑んだ。
「シオンさん辺りが、やはり無難でしょうか……」
 どうやら彼は本気らしい。
「お、おい……」
「ところで、あなたのスペルカードに割れたものをくっつけるとか、そういった類のスペルはないのですか?」
「接着のスペルねぇ……」
 壊れたものを修復するスペルを考える。しかし果たしてこの特殊ともいえるアイテムを修復なんて、と考えている時だった。
「!?」
 その気配に背後を振り返る。
「のんびりとはしていられなくなったようですね」
 やけにのんびりと、セレスティが言った。
「何だ、こいつら!?」
 いくつもの黒い影が二人を取り囲むようにして近づいてきていた。夜の闇から、ライトの届く範囲へ。そこに現れたのは、獣のようだった。但し、その体は砂で出来ている。
「とりあえず扉の修理は後にした方が良さそうですね」
 セレスティが言った。
「これくらいなら、任せとけ!」
 ラフィトゥが腰に佩いていた短刀を抜いた。刃渡り45cm。漆黒の刀身が光を跳ねる。彼が持つ聖獣装具―――爆炎剣イグニス。
 それを構えたラフィトゥの動きに、何かを感じ取ったらしいセレスティは、目を細めながらこう言った。
「では、お願いします」
「…………」



   ◆



 砂の上を滑り台のように滑って、ぽっかり開いた穴に飛び込むと、そこには砂山らしきものがあって、咲月と羽月はそれを滑り落ちた。トキノはその体重ゆえか砂山に沈み、八重はマー君の足にしがみついて宙を泳いでいる。
 やがてそれが一段落したように辺りはさらさらと砂の流れる音だけになった。
「姉上、大丈夫か?」
 羽月は暗闇の中、その気配を頼りに声をかけた。目が慣れるまでにはもう少し時間がかかるだろうか。すぐ傍から耳慣れた柔らかい声が返ってくる。
「はい。八重さんも大丈夫ですか?」
 咲月の傍にいるのか元気な声も聞こえてきた。
「でぇすよ!!」
「あらあら、マー君たら」
 そんな声に目を凝らす。おぼろげに、咲月が手の平にマー君をのせているのが見えた。どうやらかなりへばっているらしい。
「しかし本当に空洞になってたなんて」
 咲月が感心したように言った。声の方向から、頭上を見上げているようだ。
「でも、真っ暗なのでぇす」
 八重が言った。
「あちらです」
 トキノの声にそちらを振り返る。かすかに見える彼の影がどこかを指差していた。
「見えるのか?」
 羽月の問いに、トキノが頷く気配がする。
「向こうに明かりが。恐らくゼクスさんのものでしょう。丁度、あなたが立っている位置から8時の方向に200mといったところです」
 羽月は脳裏にアナログ時計を浮かべながら、咲月の方へ手を伸ばした。
「……姉上」
「はい、羽月さん」
 咲月の手をとって、言われた方へと歩き出す。すぐに辺りは明るくなった。歩いているのが道なら、その道の両脇に家が立ち並んでいるように見える。
「もしかして、ここは」
 呟いた羽月にトキノが頷いた。
「恐らく」
「やはり、街が砂漠化したのではなく……」
「ええ。一ヶ月前まで、ここは確かに地上だったのでしょう」
「…………」
 大地が乾くにはそれだけの時間がかかる。それを一瞬にして街を森を湖を砂漠化したのは、この大量の砂。砂が街を埋め、地表を砂漠のようにしてしまったのだ。
「あれは……?」
 咲月が何かに気付いたように足を止めた。
「砂のお化けしゃんなのでぇすよ」
 八重の言葉に、砂に埋もれた街並みを見やっていた羽月とトキノが、そちらを振り返る。
 そこには砂で出来た人形が、ゾンビのように蠢いていた。いや、人の形ばかりではない。四足歩行している獣。
 だが、それ以上に目を疑ったのは、その先頭に立つ、二つの人影だったかもしれない。
「ゼクスさんとシオンさん?」
「……何かに操られているのか?」
 羽月は身構えながら、さりげなく咲月をその背に庇った。
「後ろにいるのは、もしかして隊商の……」
「あらあら、どうしましょう」
 羽月はゆっくり息を吐き出して、横目にトキノを見た。トキノは既に二本の刀を抜き臨戦態勢だ。
「砂のお化けは私が」
 羽月の言にトキノが眉を顰める。
「しかし、数が」
 確かに多い。
「その器が人形である限り、数は大した問題ではない」
 羽月が言った。
「…………」
 トキノは敢えてそれ以上を聞こうとはせず、ただ小さく頷いてみせただけだった。任せます、と。
「それより彼らを操っている者を見つけ出さないと。そちらの方が厄介だ」
 羽月の言葉にトキノが地面を蹴る。
 丁度シオンが、持っていた弓を振り上げたところだった。弓は打撃用の武器ではない。トキノは難なくかわしてシオンの鳩尾に刀の柄尻を叩き込む。ぐえっとカエルが潰れたみたいな声をあげてシオンが倒れた。間髪いれずゼクスが破魔矢で突いてくる。だが、ゼクスの攻撃は威力がない上に、運動神経がきちんと繋がっていないせいか、自分の足に躓いて転んだ。
 羽月はわずかに肩を竦めつつ、砂のお化けに向き直った。
「ゴーレムは泥人形の事だったか。では、砂人形な何と言うのだろうな」
 羽月の目が暗く底光りして、砂のお化け達は一斉にその動きを止めた。






 ■大救出■

 かつて神話の時代、スサノヲノミコトはクシナダヒメを助けるべく、ヤマタノオロチを退治するために一計を案じた。ヤマタノオロチに酒を飲ませ、酔いつぶれて寝てしまったところを切り刻んだのである。
「それ、あんまカッコいい勝ち方じゃねーな」
 抗が嫌そうに舌を出した。どんな時でも正々堂々ガチンコ勝負を信念にしているらしい。
「でも、今は龍神さまを倒さず、が目的なんだから、いいんじゃない?」
 シュラインが酒樽を景気よく叩いてみせる。
「酒の量が足りなくて、酔い潰れなかったら?」
 ユーリが尋ねた。
「その時は子守唄でも歌ってあげて。でも、出来るだけダメージを与えるような手は使いたくないし。それに、中にいるサクヤ姫の事もあるし」
 シュラインが答える。子守唄にユーリは首を竦めるしかない。
「中で……消化されかけ……とかないですかね?」
「縁起でも無い事言わないでよ」
「しかし、どうやって飲ませる?」
 尋ねたヴァイスに抗が任せろと請け負った。
「とりあえず、酒樽ごと、口の中に放り込んでやるよ」
「じゃ、それはヒメさんにお願いして……龍神さまが酔いつぶれたら体内へ侵入。私とヴァイスさんはサクヤ姫救出に向かうから、ヒメさんとユーリさんはウィルスをお願い」
「了解」
 そうしてシュラインは宙に舞う龍を見上げた。
 酒樽を取りに行って戻ってくるまでの間、龍は自分たちを追いかけるでもなく、ただ悠然と夜空を舞い、砂嵐がやむこともなかった。最初は、自分たちを狙って攻撃して来たのか、と思ったが実はそうではなかったのかもしれない。自分たちがたまたま『そこ』にいたから。
 シュラインはぼんやりそんな事を考えた。
 そしてその予測が間違っていなかった事は、ほどなくして明らかになったのである。
「決行!!」



   ◆



 まるで狼か何かのように俊敏な動きで間合いを詰め、獰猛な牙を剥く。
 イグニスでそれらをなぎ倒していくが、切っても切っても数が減らない事に、ラフィトゥは首を傾げつつ、セレスティを振り返った。
 セレスティは、自分やラフィトゥを取り囲む悪意に満ちた何かには全く目もくれず、二つに割れた『たぶん扉』をパカパカと、くっつけたり、離したりしていた。
「おい……」
「もしかしてこれは、本来二つに分かれるものなのではないでしょうか。ほら、こうやって開くと中から何か黒いものが飛び出してくるんです。まるで両開きの扉みたいに」
 セレスティが割れた『たぶん扉』を開くと、確かに彼の言う黒い霧のようなものが、ゆらりと溢れ出た。二つをピタリと合わせると、それが止まる。
「そうだな」
 ラフィトゥは、襲ってきた一体を払って、どこか投げ遣りに相槌を打った。
「しかし、飛び出してくるこの黒いものは何なのでしょう」
 セレスティが再び『たぶん扉』を開く。
「コレ、じゃないのか?」
 ラフィトゥが再びイグニスを凪いだ。胴体を二つに裂かれ、そこから薄っすらたちのぼる黒い霧は四散し、それは砂となって地に還っていく。
「なるほど。カギを使わずに無理矢理開けてしまったせいでしょうか」
「たぶんな」
 ラフィトゥの返事はそっけない。
「では、開くのをやめましょう」
「おせぇーよ!!」
 怒鳴りつけたラフィトゥを、セレスティは上目遣いに見上げた。
「援護しますから……」
 申し訳なさそうなそれに、ラフィトゥは盛大な溜息を吐く。
「ま、これぐらい、どって事ないけどな」
 元々、格闘は苦手ではない。もしかしたら超常魔法より得意かもしれないのだ。
 笑ってみせたラフィトゥに、セレスティはあからさまにホッと人心地吐いて微笑んだ。
「では、宜しくお願いします」
「……って、マジで応援だけかぁ〜〜〜〜〜〜!?」



   ◆



 酒樽を龍神の口の中へ放り込むと、暫くは龍の動きに変化がなかったが、やがて酔いがまわったのか、龍はその巨体を砂漠の上に投げ出した。
「行くわよ」
 シュラインが声をかける。しかし抗は一点を凝視したまま振り返りもせずに言った。
「悪い。そっちは任せた」
 一番乗りしそうな勢いだった彼に怪訝にシュラインが彼の視線の先を追う。そこには砂嵐が更に勢力を増して集落に向かって進んでいたのだ。
 龍神が眠ってしまっても尚―――。
 このままでは、集落は完全に竜巻に飲み込まれてしまうだろう。この大きな街が、またたくまに砂漠化していった理由がわかったような気がした。
「……止める気ね?」
「勿論」
 抗が笑う。やっぱり相変わらず根拠のない自信に溢れた笑顔だ。
「行きましょう」
 この場は抗に任せて。シュラインがヴァイスとユーリを促す。
「俺も残ろう」
 ユーリの言にシュラインが足を止めた。しかしそれも一瞬で、一つ頷くと走りだす。ヴァイスだけがその後に続いた。
「何で残った?」
 二人が龍神の口から体内へ進入するのを横目に抗が尋ねた。
 ユーリは困ったように肩を竦める。
「はいはい。ヒメの邪魔はしないから。俺はこいつらの面倒をみてやるよ」
 ユーリのベレッタが二人を囲むようにして現われた黒い影を撃ち抜いた。
「だからヒメは、心置きなくあれの相手してこいよ」
「おう!」


   ◇


 一方、中へ突入した二人である。
 中はまるで鍾乳洞のようだった。但し、彼らを囲むのは石灰岩のそれではなく、しなやかな肉の壁である。足元もぶよぶよとしていて歩きにくい。頭から垂れてくるのは鍾乳石ではなく、それを滴る雫は恐らくは消化液といったところだろう。シュラインが眉を顰めると、ヴァイスがほどなくしてPKバリアをはってくれた。
「こっちだ」
 ヴァイスが先導する。とはいえ、殆ど一本道である。手をあげれば天井が届き、人一人がやっと通れるほどの狭い空間を進んでいく。
 時折、抗言うところのウィルスが現れたが、ヴァイスはバリアを盾に完全無視で駆け抜けた。
「いいの?」
「今はサクヤ姫のが先だろ」
「……まぁ、そうだけど」
 龍神の風邪を治す目的はどうなるのだろう、と考えなくもない。
「ここは食道かしら」
 シュラインが辺りを見回しながら呟いた。勿論、人間なんかと同じような消化器官を有しているかはわからないのだが。そうしてきょろきょろしながら歩いていたら、ヴァイスが足を止めていた事に気付かなかった。おかげで思いっきりその背中に体当たりしてしまう。
「きゃっ。ごめんなさい」
 慌てるシュラインにヴァイスは別段怒った風もなく、彼女にも前が見えるように体を横にして言った。
「胃に達したようだ」
 胃。正しく、それが胃なのかといえば定かではないが、今までとは少し内装が変わっているから、別の消化器官に突入した事は確かだろう。その内壁には、白っぽい粘液が染み出していた。
「まさか、このバリア、強酸で融けたりしないでしょうね?」
 ヴァイスが立ち止まった事に不安を感じてシュラインが尋ねる。
「ありえない」
 ヴァイスが言った。シュラインはホッと胸を撫で下ろす。だが、この先にサクヤ姫がいるとしたら、ユーリの冗談も笑えなくなるかもしれない、なんて不吉な事を考える。消化されかけの……。
「それでサクヤ姫はどこに?」
 いるのか、と聞こうとして、結局シュラインはそれを飲み込んだ。ヴァイスが低く構える。
「今度は無視できそうにないな」
「…………」
 胃液と思われたそれが、人や獣の姿を形作って二人の前に立ちはだかる。
 そしてその向こうに、シュラインは確かに龍神のものとは違う鼓動が聞こえてくるのを感じたのだった。



   ◆



「ふぉっ! あっちに何かいるのでぇす」
 八重がそれに気付いて指差した。砂で出来た人形たちは、羽月の手―――というよりは目なのか―――によってその動きを止め、それ以外の者達は、ゼクスの自滅を除いてトキノの当て身により気を失っていた。
 かつては街の広場か何かだったのだろう広い空間に、それがいた。咲月の縦にも横にも2倍以上はありそうな巨体でそれが轟然と佇んでいる。但し、それも砂で出来ていた。この砂人形たちの親玉、といったところか。
「まぁ、素晴らしい扇。もしかしてあれがカギではないかしら?」
 まるでその巨体は視界に入っていないような顔付きで咲月は、巨体が持っている巨大な扇を指差した。今にもふらふらと扇を取りに近寄りそうな勢いだ。
「姉上……」
 羽月が溜息を吐く。とはいえ、あれが捜していた扇というのは間違いないような気がした。イメージより随分大きかったが。羽月の視界の隅でマー君が頷いた。果たしてそれは何の合図であったのか。
 羽月は巨体に視線を戻す。
「……あれが単なる器ならば……」
 そこに何が宿っていようとも。
 刹那、突然砂塵が舞った。今まで、風らしい風も吹いていなった場所に風が吹き、砂が巻き上がる。その風が、巨体が振るった扇によるものだと気付いた時には既に目に砂が入った後だった。
 咄嗟に目を両腕で覆ったが間に合わず。閉じられた瞳に、傀儡を操るだけの魔は宿りきらず。
 痛みをこらえながら羽月がその目を開けるのと、八重の悲鳴は、どちらが先であったか。
「ぷぎゃぁーーーーーーー!!」
「砂が崩れて……」
 砂で出来た傀儡たちを防御壁代わりにしていたが、その頭上を飛び越え、伸ばされた巨体の腕が、八重と咲月の頭上で突然崩れたのだった。砂が二人に降り注ぐ。
「キャーーーーーーーーー!!」
「姉上!?」
 一歩を踏み出しかけた羽月の肩を掴んでトキノが走る。オールサイバーのスピードは常人のそれをはるかに越えた。
 トキノは瞬時に咲月を抱いて後方へ退いていた。
「大丈夫ですか」
 咲月の着物の砂をはらいながら、トキノが尋ねる。
「はい。ありがとうございます」
「まさか、人形として原形を留めていないとは……」
 崩れ落ちていく砂の巨体をマジマジと見つめながら羽月が呟いた。傀儡の主導権が移るとみて、咄嗟にその借り物の姿を捨てたという事だろうか。黒い霧がくっきりとした影をつくり、扇を手にそこに立ちはだかる。これが本体なのか。
 身構えた羽月の耳に姉の声が届いた。
「八重さん? あらあら、私、八重さんを落としてしまいましたわ」
「え?」



   ◆



「はぁ、はぁ、はぁ……結構、多かったじゃねーか」
 一体、一体は大して強くはなかった。ラフィトゥが片手であしらえる程度のものだ。しかし、いかんせん数が多い。
 それでもセレスティが扉を閉じたことで、ようやくさっきからはそれなりに減ってきたらしく、やっと片手の指で足る数にまで減った。ただ、ラフィトゥも若干、息があがってきている。
 ラフィトゥは段々痺れて感覚のなくなってきた手に、小さく深呼吸した。握力が下がってきているのを感じて、短刀を両手で握りなおす。
 何十度目かの砂を蹴った。
 イグニスを凪ぐ。
 それは血を噴出す事もなく、砂を吐き砂に還る。
 また一つ。また一つ。
「後一体です。頑張ってください!」
 セレスティが後ろから声をかけた。
「ほっんとーーーに、最後まで応援ありがとう!」
「いえいえ」
 謙遜するように手を振るセレスティに、ラフィトゥは複雑な笑みを滲ませる。
「ま、取りこぼしの面倒は見てくれたみたいだしな」
 ラフィトゥが走った。

 ――― 一閃。



   ◆



 抗の目が白く輝くと、その周囲に透明な力場が発生し、やがて大気はゆっくりと回り始めた。エアーPKだ。その力場は徐々に大きくなり、大気の流動は激しさを増す毎に砂塵を巻き上げていた。
 その回転の方向が迫り来る砂嵐と逆向きである事に、ユーリはホッと息を吐く。
 一応、あれを止める方法を彼なりに考えていたようだ。ならPKバリアで竜巻の中心に侵入し、そこで逆位相の竜巻を生み出すという方法もあるだろう。だけど、そういうのは彼の好みに反するのか。
 ―――ガチンコ勝負が好きそうだからな。
 やれやれとばかりにユーリは右手を振るった。ユーリの持つ鋼の糸が彼の指が伝える小さな動きまでも先端にまで走らせる。もし相手が人間だったなら、それが自分の首に巻き付いた事に気づかなかったかもしれない。そして気付かぬまま、首と胴が永遠の別れを迎えるのだ。
 砂で出来た人や獣は二つに裂かれ、大地に還っていった。
「ガチンコはいいけど、男なら死んでも止めろよ」
 ぼそりと呟いてユーリは地面を蹴る。振るった左手から、月光を受け銀色の光が二つ走った。
 それは二つの砂の獣を粉砕した。


   ◇


「PKバリア、3つはれる?」
 シュラインが口早に尋ねた。
「3つ?」
「私とあんたと龍神様の内壁」
 3つ目を聞いて、ヴァイスは理解する。このまま乱闘にでもなれば龍神さまは確実に胃潰瘍だ。
 ヴァイスは言われた通りバリアを3つに分けた。
「このバリア、音は遮断できる?」
「音?」
「えぇ。あんたの分だけでいいけど」
「…………」
 意味がわからない顔で困惑げに肩を竦めていたヴァイスは、その直後、可聴領域を遥かに超えた音に、もう少しで脳震盪を起こすところだった。咄嗟にエアーPKで空気振動を完全遮断する。
 それがどうやら彼女の能力らしい。シュラインの発する高周波に形を保てなくなったのだろう『ウィルス』が崩れ落ちていった。
 やる前に一言言えよ、などと内心で独りごちながらヴァイスも走りだす。
 彼の5本の指にそれぞれ小さな光が凝縮された。目の前に立ちはだかる『ウィルス』をPKフォースの乱射で蹴散らしていく。
 視界にある『ウィルス』が駆除されたのを確認してシュラインがヴァイスを振り返る。ヴァイスはエアーPKを解除する。
「行きましょ」
 シュラインが促し、二人は胃だと思われる場所の更に奥へと進んだ。
 そこには、白い大きな蚕の繭のようなものがあった。その中に確かに鼓動を感じてシュラインが手を伸ばす。
「…………」
「この強酸の中だからな」
 そう言ってヴァイスは繭を掴むと力任せに引きちぎり、中を開いた。一体、この華奢な彼の体のどこにそんな力があるのか。
 小さく開いた裂け目を覗くと、中には小さな女の子が眠っていた。シオンの似顔絵とは全くかけ離れていたが、マー君が話していたそれとは一致する。
「行くぞ」
 ヴァイスはそっと繭ごとサクヤ姫を掲げあげて言った。
 シュラインがそれに頷いて外へと走った。



   ◆



「八重さん?」
 生き埋めになったのか。積もった砂から八重の這い出てくる気配がない。慌てて掘り起こそうと咲月が駆け寄った時、突然、矢のようなものが砂山から扇の舞う黒い影に向かって走った。それが先ほど八重が持っていたロケット花火だと気付くには数秒を要する。
「ふぉぉぉぉぉぉ!!」
 八重の掛け声と共に、砂が大きく盛り上がり、それが姿を現した。
「え? あれは……」
 白い狼、というよりは、たてがみがライオンのようにも見える。
「まぁ、獅子さん」
 咲月が目を細めた。それは神社の入口によく置かれている神使。獅子狛犬の獅子だった。
 獅子、ことマー君が、その背に八重をのせて大きく跳躍する。
「そうか。サクヤ姫の救出が成功したのか」
「あれが、元のサイズというわけですか」
 羽月とトキノが見守る中、マー君は扇へと飛ぶ。
「行くのでぇす! マーしゃん!」
 八重が腕を振り上げた。
「扇を!!」
 まっすぐにその人差し指が扇を捉える。何がその扇を携えていたのか。
 マー君が黒い影に飛び掛かり、扇を口に咥えると飛び退いた。
 それを受けてトキノが地面を蹴る。

 ――― 一閃。



   ◆




 ヴァイスとシュラインがサクヤ姫を包む繭ごと抱えて、龍神の口から飛び出したのと、ユーリが砂のゴーレムの群れを一掃し、抗が砂嵐を止めたのとは果たしてどれが先であったのか。
 ヴァイスが砂漠へ降り立った時、抗は空に向かって拳を突き上げ「勝った」と呟いたまま、大の字に倒れたところだった。
「…………」
 ユーリがそれに駆け寄るのを横目に見て、ヴァイスは繭を肩から下ろすと切り裂いた。
「これが、神様……」
 呟いてヴァイスは後ろを振り返る。龍神様。龍の神様。あれも神様。これも神様。
「サクヤ姫」
 シュラインの呼びかけに、サクヤ姫が薄っすらと目を開けた。
「マー君たちが心配していますよ」
 シュラインの声にサクヤ姫は大きな目を2度大きく瞬く。それからシュラインの顔をじっと見返して言った。
「マー君?」
 それが、便宜上ユーリが勝手に命名した獅子狛犬の獅子のあだ名であるとは、よもや神様でも気付くまい。






 ■東南の風■

 サクヤ姫の話しによれば、彼女は龍神に襲われたのではないのだという。龍神に取り憑いた連中から最後の正気を振り絞った龍神が彼女を守ろうとした、というのが、彼女が龍神の腹の中にいた真相だった。そして龍神に取り憑いて、或いはカギや扉の元に現われた黒い影たちだが、こちらは魃子と呼ばれる魔物だった。魃子とは、魃姫の子供たち、とも涙ともいわれているが、その実態は実はよくわかっていない。ちなみに魃姫とは日照をもたらす女神の事で、旱魃の語源にもなった姫である。彼女の望むと望まざるとにかかわらず、彼女の溢れる力は水を喰らい大地を乾かしてしまう、とても孤独な女神だった。
 余談はさておき、誰かがカギを使わずに扉を開けてしまったのが、そもそもの原因だろうと思われた。誰かがカギ以外のもので扉を傷つけた。そこからじわじわと魃子が溢れ出てしまった。つまり、セレスティとラフィトゥはその“ヒビ”にとどめをさしただけなのである。
 ところで、その『とどめ』なのだが。
 ぴったりとくっつけ合わせた扉を、少し預かっていてくださいとセレスティがシオンに手渡し、それを受け取ったシオンの手の中で、ぱっかり割れてしまったので、表向きは、シオンがとどめを刺したことになっていた。
「あ゙〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!? すみません。すみません。すみません」
 泣きながら謝るシオンに、多少、二人の心も咎めた、という。
「後は雨でも降れば、この街も元通りになるんでしょうか」
 セレスティが話題をそらせるように言った。
「あら、そういえばサクヤ姫って富士山の噴火も鎮めるような水の神様としての信仰もなかったっけ?」
 シュラインの言に、サクヤ姫が振り返る。
「雨……ですか?」
 床に座り割れた扉をくっつけ合わせ両手で包み込むようにしていたサクヤ姫が小首を傾げていた。
「えぇ、もしかして、降らせる事ができるんじゃ?」
 聞いたシュラインにサクヤ姫はゆっくりと首を横に振る。
「今すぐは無理です。扉の修復に力を使い過ぎましたから」
「…………」
 ラフィトゥとセレスティの視線が泳いだ。
 しかし自分が真犯人と疑わないシオンは大慌てだ。これは何としても自分が雨を降らさなければ、と妙な使命感にとり憑かれる。
 そんな時、シオンにとっては天啓ともいえる情報が舞いこんできた。
 酒樽がなくなって、不機嫌に輪をかけていたゼクスがそれを齎したのである。
「ふん。こんな話を知っているか。大昔、蜀という国の軍師は『雨乞い』なるものをして、見事に大雨を降らせたそうだ。それを行えば水不足など解消だ」
「…………」
 本気で言ってるのか。
 シュラインとセレスティが顔を見合わせる。しかし、言った方も、言われたシオンも真顔だった。
「やり方は簡単だ。やぐらを立て思うがままに踊るのだ。高所は危ないから、俺はやらんが」
「私がやりましょう、ゼクスさん!!」
 シオンが目を輝かせてゼクスの手を取った。それをやるのは自分しかいない。そんな顔付きだ。何と言っても扉を壊してしまったのは自分なのである。
「うむ」
 ゼクスが頷いた。
「って、あんなたちねぇ……」
 シュラインが肩を竦める。
「サクヤ姫の回復を待つまでの余興だと思えばいいではありませんか。運よく雨が降ったらもうけものです」
 セレスティが言った。
「それもそうね」



   ◆



 かくして、急ピッチでやぐらが立てられた。立てたのはもっぱらヴァイスである。こういう事には我れ先に絶対参加の抗がESPのオーバーワークで、まだ意識が戻っていなかったからである。ヴァイスはシオンに、どうしても雨を降らせなければならないと涙ながらに懇願されて断りきれなかったのだ。さすがにラフィトゥも気が咎めたのか手伝ったので、ほどなくしてやぐらは完成した。
 周囲に松明が焚かれ、一種お祭りのような様相を呈し始めると、咲月が興味顔で現われた。八重もマー君の背中に乗って参戦らしい。
「まぁまぁ、楽しそうですわ」
 咲月がやぐらを見上げて言った。
 ラフィトゥが棒で木を叩きながらリズムを取っている。それに合わせてやぐらの上ではシオンが破魔矢を振り回し、花火を付けて、自作らしい雨乞いのダンスを踊っていた。
 それはまるでアフリカ辺りのジャングルの奥地で、首狩り族なんかがやってそうな何とも不思議なダンスである。
「うむ。これで雨が降るはずだ」
「…………」
 ゼクスが自信満々で言ってのけるのに、シュラインは何とも複雑な顔で溜息を吐く。
 呆れたようにトキノがどこからともなくティーセットを用意した。ちゃっかり昼間の内に、巨大な蒸留装置を作っていたらしい、水はそれで調達してきていた。
 そのご相伴に預かるように、羽月とヴァイスとセレスティが、やぐらの見えるオープンカフェテラスで寛いでいる。当てにしていない割には、ちゃっかり屋根があった。
 ユーリは、ベッドでぶっつぶれている抗の耳元で囁いた。
「面白そうな事が始まったぞー」
 その声に抗が目を覚ます。
「行く」
 と言って立ち上がった彼に「うーむ、さすがだ……」と内心で唸っていると、まだ足下は覚束ないのか、ふらふらとしながら抗が自分を睨み付けているのに気付いた。その面白そうな事が始まった場所へさっさと案内しろといった顔付きに、やれやれと息を吐いてユーリは部屋の外へと歩き出す。
 その頃、丁度やぐらの上では、シオンが踊り、マー君の上で八重がはしゃいでいた。
 しかし、高所は風が強い。その上マー君が風を切って飛び回ったので、つい手を滑らせた八重は風に飛ばされやぐらの上に落ちてしまった。
 落ちたところに間が悪く、ダンスを踊っていたシオンの足がのる。
「ぷぎゃ!?」
「あ……」
「ぷぎゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 踏み潰されて八重が悲鳴をあげながら泣き出したのと、抗とユーリが家を飛び出すのとは、どちらが先だっただろうか。
 八重が泣き出した途端、突然空は雲に覆われたかと思うと、いきなり土砂降りの雨が降りだした。
「面白い事って、これか?」
 家を出た途端振り出した突然のスコールにずぶ濡れになりながら抗が、ユーリを振り返った。
 ユーリは抗の視線に耐えられなくなったのか、斜め下に視線をそらせて答えた。
「……終わったみたいだな」
「…………」
「ふっはっはっ。やはり、雨乞いの儀式は正しかった」
 ゼクスがちゃっかり軒の下で雨を避けながら自慢げに胸を張っていた。
 下からではやぐらの上で何があったのかまではわからない。
「嘘でしょ……」
 シュラインも呆気に取られて天を仰いでいる。
「ありえない」
 ヴァイスが再びぶつぶつと呟き始めた。
「…………」
 カフェテラスでお茶を楽しんでいた面々も、一様に言葉を失って空を見上げている。
「まぁ、雨が降って、とりあえず大団円ですね」
 セレスティが紅茶を啜ってのんびりと言った。
「でも、あんまり降りすぎると鉄砲水が発生するんじゃないかしら」
 雨宿りにシュラインがテーブルに加わる。
 それと入れ替わるようにしてトキノがやおら立ち上がった。そこに何かを見つけたのか、土砂降りの雨の中、やぐらの上へと走りだす。
 そこでは、八重を踏み付けてしまったシオンが土下座で謝っていた。
「す、すみません。大丈夫ですか。あぁ、すみません、すみません、すみません」
 しかし八重は一向に泣き止む気配がない。
 トキノが無言で刀を抜く。
「そこになおれ」
「えぇ!?」
 驚くシオンの頭の上にトキノはおもむろに何かを乗せた。
 刀が走る。思わずシオンは目を閉じた。
 紙一重でトキノはそれを千切りにしていた。
「……すげぇ……」
 やぐらの上で、八重を落としてしまった事を少なからず申し訳なく思って八重をなだめようとしていたマー君が呟いた。
「…………」
 トキノがシオンの頭に乗せたのは、シオンが持っていた金太郎飴だった。千切りになった金太郎飴をトキノはやっぱり無言で、八重に差し出す。
 八重はそれを受け取ると口の中へ一つ。
「はむっ」
 甘いものには無条件で機嫌をなおせる八重が泣きやんだ。その途端、雨も止んだ。
「ほっ……」
 シオンが胸を撫で下ろしながら、残りの千歳飴も八重にプレゼントする。
 分厚い雲が晴れると、丁度東の方角に朝日がのぼり始めていた。そして広大な砂漠だったそこは―――。
「街が……砂が水に流されて……」
 地下に沈んでいた街が再びその姿を現したのだ。これで住んでいた人々が帰ってくれば、また街は元通り活気を取り戻すに違いない。そうして誰もが人心地ついた時、酔いつぶれていた龍神からゆらりと黒い影がたちのぼった。
「良かったな、ヒメ。また始まったみたいだぞ」
「そうか?」
 黒い影は水を飲み、砂を吐き出し始めた。それを見上げながらヴァイスが呟いた。
「そういえば、胃の中にいた『ウィルス』以外は全部無視したんだっけ」
「そういえば、そうだったわ……」
 シュラインががっくりうな垂れた。






 ■終章■

 魃子を何とか一掃し、龍神は礼を言って湖に帰っていった。
「ありがとうございました」
 扉と鍵をそれぞれの手に持ったサクヤ姫と獅子狛犬が12人の前に立って深々と頭を下げる。
 それにセレスティは、いやいや、と手を振った。
「いいですよ。楽しかったですし」
「楽しかったかはともかくとして」
 シュラインが半ば呆れたようにセレスティを睨んでから、笑った。
「これで元の世界に戻れるのね」
「まぁまぁ、無事に帰れそうですわね、羽月さん」
 咲月も笑顔だ。
「疲れたけど」
 羽月がぼそりと呟いた。
「やっと夢が覚めるのか」
 ヴァイスがホッとしたように息を吐く。
 トキノがポケットから何かを取り出した。
「末吉」
 それは水につけると文字が浮き出るとかいうおみくじだった。ここに来る前の神社で貰ったはいいが、興味がなかったので見もしないでポケットに仕舞っていたやつである。
「願い事は人を助ける事によって叶う……」
「ま、終わりよければ全てよしだ」
 ラフィトゥが明るい口調でトキノの背を叩いた。
「そうだな。とりあえずよしとするか」
 ユーリも笑みを浮かべる。
「龍神しゃんも登りたかったのでぇす!」
 八重が拳を振り上げた。八重を肩にのせていたシオンがサクヤ姫に頭をさげる。
「お役に立てて嬉しいです」
「ふっ。俺は強かった」
 抗が一人感無量に浸っていた。最後の魃子を倒して満足そうだ。
「面倒毎に巻き込みおって。無論、報酬はあるんだろうな」
 ゼクスがサクヤ姫に尋ねた。
「はい。勿論、皆様に祝福を」
 言ったサクヤ姫にシュラインが身を乗り出す。
「それって、もしかして金運アップとかあるのかしら?」
 どうせなら、今年一年貧乏に悩まされませんように、と強く強く願いたいところな彼女である。
「なんと! 本当ですか!?」
 金運アップに万年貧乏のシオンもサクヤ姫に詰め寄った。
「どうなんだ!?」
 ゼクスが偉そうにサクヤ姫の返事を促す。
「金運……は、私の司るそれとは少し違いますが、お望みなら金運を」

 桜の扇が舞い、扉は正しく開かれる。

 来る時とは少し違って、桜舞う並木道を12人はそうしてそれぞれの世界へと歩きだしたのだった。



 ―――皆さまの新しい一年が、輝かしいものとなりますように。







 ■大団円■


 ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
┃┗┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┳┛┃
┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業・クラス】

【TK1883/セレスティ・カーニンガム/男/725/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【TK0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【TK1721/藤野・咲月/女/15/中学生・御巫】
【TK1856/藤野・羽月/男/15/中学生・傀儡使い】
【PM0779/ヴァイスハイト・ピースミリオン/男/22/エスパー】
【PM0289/トキノ・アイビス/男/99/オールサイバー】
【SN3259/ラフィトゥ・パダッツ/男/19/超常魔導師】
【PM0204/ユーリ・ヴェルトライゼン/男性/19/エスパー】
【TK1009/露樹・八重/女/910/時計屋主人兼マスコット】
【TK3356/シオン・レ・ハイ/男/42/紳士きどりの内職人+高校生?+α】
【PM0644/姫・抗/男/17/エスパー】
【PM0641/ゼクス・エーレンベルク/男/22/エスパー】

 TK:東京階段 / PM:サイコマスターズ / SN:聖獣界ソーン


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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございました。斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。

 遅くなりましたが、旧年中は大変お世話になりました。
 またお会い出来る日を楽しみに。
PCあけましておめでとうノベル・2007 -
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東京怪談
2007年02月05日

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