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『神社の護衛大募集! 』
来生・一義3179


「これでよしっ!」
 『護衛募集!』なんて怪しい張り紙を神社の前にある掲示板に貼り付け、男は満足そうな笑みをこぼした。袴姿のその男は神社の主ともいえる人物で神主でもある。そんな彼の悩みは専ら、参拝客が殺到する新年にあって。
 大勢の人々が集まる元旦には、それに引き寄せられるかのように集まってくる悪霊などの邪悪なものの量も増える。元旦に起きる事故のほとんどはそんな悪霊たちのせいであり、毎年「今年こそは事故ゼロを目指そう!」と意気込んでみるものの成功したためしもなく。
 今年こそは目標を達成させようと、こうして張り紙をすることにしたのだ。張り紙には内容は以下の通りである。


〜大晦日の護衛大募集!貴方の力を必要としています!〜

○仕事期間は12月31日深夜〜
○仕事内容:初詣に来た人々を狙って集まってくる悪霊などを退治すること
○募集年齢:戦う力を持つ方なら年齢性別は問いません。
○武器等の持ち込みは自由。報酬は相談の事
○服装:戦いやすい格好なら何でも

まずは、ご連絡ください!貴方からのご連絡を心よりお待ちしております!!


 何とも胡散臭い内容であるが、仕方がない。嘘をついて募集をするわけにもいかず、また自分一人で何とかできるとも思えないのだから。
「これで何とかなる……よな……?」
 張り紙を見て誰かが連絡してくる事を祈りながら、男は意気揚々と神社の中へと戻っていった−。




 もうすぐ、年が明ける。社の屋根の上でじっと月を眺めていた一義はその視線を集まってきた人々−つまりは地上の方へと向け、自分の指からシンプルな指輪をはずしてゆっくりと立ち上がった。
 少々離れたところにある寺院で鳴らされ始めた除夜の鐘の音色が微かに耳へと届き、それと共に集まってくる人間の数がだんだんと増え始める。予想していたよりもずっと多い数の人々が集まってきている事に驚き、そしてどこか納得したように小さなため息をついた一義はふわりと空中へ浮かび上がった。
「なるほど…・・・こんなに人が多くては、邪悪なものが集まって来るのも無理はありませんね」
 まだ年が明けるまでには数分ある。にも拘らず人々は拝殿の前へ列を作り始めており、集まってくる人々に惹かれて"幽霊"と呼ばれる者たちも集まり始めていた。これから来るであろう参拝客の数と集まってくるであろう霊の数は比例するといってもいい。しかも、集まってくるのは霊だけではないと言う。一度にそんなに沢山邪悪なものが集まってくるのでは護衛を募集したくなって当たり前だ、と一義は一人苦笑した。
(それにしても、かなり増えてきましたね……)
 人に害を及ぼすだけの力を持たない霊を祓う必要はないのだけれども、増えすぎるのも良いことではない。”あまりにも増えすぎるようであれば対処しよう”と考えながら、一義は神経を尖らせて注意深く辺りを見回した。研ぎ澄まされた感覚が無数の霊の気配を捉える。
 害のない霊と悪霊の気配は異なっているもののその違いは簡単に分かるものではなく、その上距離が離れているとなれば尚更判別は難しいものになるのだ、と聞いたことがある。自分も霊であるせいかその点で苦労した事がなく、それ故に一義は霊の浄化を任された。他に、霊の浄化を行える者がいなかったのも大きな理由の一つでもあるのだけれども。
『あけましておめでとう!』
 不意にそんな声が聞こえ、一義はふと表情を和らげた。どうやら年が明けたらしい。"今年もよろしく"等と言う明るい声があちこちから聞こえてくる。そのまま幸せな気持ちでこの日を過ごしてもらいたい、と思ったその矢先。
「!」
 悪霊の気配を感じ、一義はバッと勢いよく振り向いた。振り向いた彼の視界に入ったのは、黒く霞んだ大きな霧状のもの。はっきりとした形を持たないそれはどこか不気味に蠢いていて、しかしその気配から悪霊である事が分かる。引きつったようなうめき声を上げながらゆらゆらと漂うその霊に近づいた途端に強い"憎しみ"と"悲しみ"、そして"妬み"と言った負の感情を感じ、一義は驚いたようにその霊を凝視した。
 自我が、感じられないのだ。霊はもともと人であったものであり、それ故に個々が自我を持っているはずなのである。にも拘らず、目の前の霊から感じるのは強い妬みや憎しみと言った負の感情だけ。この霊は既に自分が"誰"であったか、最悪は人であったことでさえ忘れてしまっているらしい。
「何故、こんな事に……」
 長い間成仏できずに漂っていたせいでこうなってしまったのだろうか。なんとも言えない同胞の姿に悲しいような切ないようなそんな複雑な思いを感じながらも、一義は霊に干渉するために神経を集中させていく。人気のない場所へ霊を異動させ、浄化しなければならない。それも、この霊が暴れだしてしまう前に。
 境内奥手に人気のない場所があるのだと神主から聞いていた一義はそれを思い出し、憑依して移動しようとそっと霊に手を伸ばした−途端。
 ―バチィッ!!
「ッ!?」
 強い力によって伸ばした手は拒絶され、弾かれた一義は霊から距離をとるように慌てて後ろへ飛びのいた。ゆらりと霊が怪しく揺らめき、一義に向かって強い殺気が向けられる。
『憎……幸セ……憎イ……!』
 その言葉と共に発せられた強い負の気に共鳴したのか、それまで大人しかった力の弱い低級霊達が殺気をまとう霊の周りに集まり始めた。集まって来た低級霊を霊が取り込んで自分の力にしないという保証はどこにもない。そうなってしまう前に、早く。参拝客のためにも、霊のためにも。
 誰一人自分を見てくれる人がいない世界で、一人きり。紡ぐ言葉が誰にも届かない事の寂しさを、一義は誰より良く知っていた。だからこそ思う”成仏させてあげたい”と。そして、”今それが出来るのは自分しかいない”のだと。
 勢い良く突っ込んで来た霊を上手く避け、一義は人気のない場所に霊を誘導するためゆっくりと後退し始める。既に参拝客のことなど頭にないのだろうか、自分を追ってきた霊の攻撃を避けながら一義は時間をかけて霊を誘導していった。
『オ、ノ……レ!』
「ここまで来れば……」
 目を閉じて過去に心を馳せればいつでも具現化できる浄化の焔をその手に宿し、それまで逃げているだけだった一義が突然立ち止まって霊に反撃を開始する。彼の腕を包む炎は激しく、しかし彼の腕も周りの木々も何一つ傷つける事はない。
『憎、イ…・…寂……シ……!』
「えぇ……。その気持ちはよく分かります。けれど」
 一義の纏う炎が彼の元を離れ火の壁となって二人を取り囲み、勢いを増したその炎によって周りにいた低級霊達はどんどん浄化されていく。炎はその場にある邪悪なものを浄化し尽すまで消える事は無く、故に掠るだけでもいいから霊を炎に触れさせる事が出来れば悪霊を浄化できるのである。
「人を傷つけることは許しませんよ」
 その言葉と共に、霊が一義に向かって咆哮を上げた。霊的な力を持ったその声は衝撃波となって一義を襲い、彼の身体に細かな傷をつけていく。腕で顔を庇ったためにできた一瞬の隙を見て霊は勢い良く一義に襲い掛かった。
 炎を纏った一義の手が霊に向かって伸ばされるのと、霊が一義の身体に傷をつけるのと、一体どちらが早かっただろうか。
『…………!』
 ぶわりと広がった浄化の炎がゆっくりと霊にまとわり付き、それとほぼ同時に一義の頬走った一筋の赤。一義の目の前で静かに霊が浄化されていく。その様子をじっと見つめる一義の顔には、どこまでも優しく暖かい笑みが浮かんでいた。
「きっと、死後の世界もそんなに悪いところではありませんよ」
 少なくともこの、生きている人々のためにある世界よりはずっと。
『…………ソウ……カ』
「ええ」
 炎に包まれて消えていく黒い霧状の霊に一瞬、そうほんの一瞬だったけれども幸せそうに笑う男の顔が重なって見え、一義は酷く驚いたように目を見開き……そして。
 泣きそうな嬉しそうな、それでいてどこか幸せそうな複雑な笑みを微かに浮かべた。
「さて、新たな霊がやってくる前に拝殿に戻らなければ−」
 きょろきょろと辺りを見回してみるが、景色にまったく見覚えが無い。この場所へ来る時目の前にいた霊に神経を集中していたせいか、どうやってこの場所まで来たかもどうすれば拝殿まで帰れるのかもいまいち良く分からなくて。
「こ、困りましたね……」
 悪霊の気配がしない事から参拝客に危険が無い事は分かる。が、新たな悪霊が現れる前に自分が拝殿まで帰れるとは到底思えず、一義は顔色を悪くした。障害の無い空から帰ればたどり着く事が出来るだろうか?
 まだまだ夜はこれからだ。できる事なら何事も起こらなければいいと願いつつ、一義は空へと浮かびあがった。


fin




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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3179/来生・一義 (きすぎ・かずよし)/男性/23歳/弟の守護霊(?)兼幽霊社員

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■         ライター通信          ■
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ご依頼ありがとうございました!ライターの真神ルナです。
納品の長期遅延、本当に申し訳ありません!! お待たせしてしまった事、心よりお詫び申し上げます。
”霊なのに浄化の炎を使える事が出来る”という一義さんの設定をとても面白いと思い、楽しみながら書かせていただきました!
究極の方向音痴だという点も、とても魅力的に思えます!^^
どうやって相手に憑依するのか、浄化の炎はどうやって出すのかなど色々なパターンを考えていたのですが、上手く表現できなくて……。
頭で考えていた戦いの様子を思ったように表現できなかった事がとても心残りです;;
力不足である事が目立つ文章になってしまったかもしれませんが、少しでも楽しんでいただければ幸いに思います。

リテイクや感想等、何かありましたら遠慮なくお寄せくださいませ^^
それでは失礼致します。

またどこかでお会いできる事を願って―。


真神ルナ 拝
PCあけましておめでとうノベル・2007 -
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東京怪談
2007年02月05日

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