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『●最強、を目指して‥‥ 』
ミリア・ガードナー0081)&天井麻里(0057)&ヴァルス・ダラディオン(NPCS011)


「行きますわよ?覚悟は良いですわね?」
 此処はコロシアム。そして、言葉を発したのは天井麻里。相対するは、エルザード最強の剣闘士と名高い、ヴァルス・ダラディオン。
「今日、貴方に勝利して、わたくしがチャンピオンの座に、いえ、最強を名乗らせて頂きますわ!」
 ズビシッと指をヴァルスに突きつける麻里。彼女は武道家である。そして、戦いに身を置くならば、誰しもが一度は夢見る幻想。それが最強。そして、目の前の相手を打ち倒せば、その幻想が現実となるのだ。そして、幾度と無く戦い、訓練し、強くなってきた。だから、負けない。
「もう勝った気で居るのか?‥‥まあ、それが若さ、か。先に言っておくが、俺は戦いに際しては手は抜かん。怪我をしても怨むなよ?」
 余裕綽々とした表情で、体を慣らすヴァルス。目の前に居るのは、まだ自分の半分も生きて居ないような少女。確かに幾度かの戦いは超えてきたようだが、此方も下手すれば彼女の人生と同じくらいの時間を、修練と戦いに費やしてきた。その自分が負ける筈は無い。
 お互いの積み重ねてきた努力と、自信と、プライドがぶつかり合う。其処が、コロシアムなのだ。
「それでは、わたくしが立会いを努めさせて頂きますわ。コロシアムを汚さぬよう、正々堂々とした戦いを」
 そう告げたのは、麻里の悪友にしてライバル、ミリア・ガードナー。麻里と良く似た、蹴り技を主体とした武道家である。
「それでは‥‥始め!」
 ミリアが手を下に振り下ろし、そのまま後ろに飛び退く。それを合図に、両者は地を蹴った。


「貴方にこれが受けられて?ウインドスラッシュ!」
 先ずは後ろに下がり、魔法を放つ麻里。魔法で意表を突き、更に挑発で冷静な判断力を失わせ、そのまま得意の蹴りで勝利を掴む。我ながら完璧な作戦だ。そう、麻里は確信していた。
「成程、遠距離攻撃か。だが、甘い!」
 恐らく、彼ほどの熟練者になると、同じような攻撃手段を持った相手とも戦った事はあるだろう。そして、その経験は確実な血肉となって彼に最適な行動を取らせる。ヴァルスは、魔法が放たれる瞬間に全身のバネを使って横っ飛びし、そのまま弧を描くように走り寄る。
「遠距離攻撃は確かに効果的だったかも知れんが、残念ながらその程度の兵法は通じん!」
「ま‥‥まだまだ、これで終わりではありませんわよ!」
 最初のピースは狂ってしまったが、だからと言ってまだ終わりでは無い。まだ、自分の最強の武器、蹴りが残っているのだ。
「良いだろう。ならば、次なる手を見せてみろ!」
 麻里に肉薄するヴァルス。だが、麻里も勿論それに怯んでは居られない。
「見せるのは‥‥‥足ですわよ!」
 矢のように突っ込んでくるヴァルスにタイミングを合わせた上段後ろ回し蹴り。立ち蹴り最高峰の威力を持った踵が死角からヴァルスを襲う。

 ブオンッ!

「悪くない蹴りだ。流石に当っていたら倒れていたかも知れんな」
 剣を杖代わりに、背中を極限までそらして避けていたヴァルス。麻里の蹴りは、彼の顔の前の空気を根こそぎ吹き飛ばしていた。戦いで得た勘と目の良さは、チャンピオンの座が、努力の対価として相応しい事を裏付けていた。
「何時まで余裕でいられますか!?」
 空振った蹴り足が自由になると、すぐさま体勢を立て直し、下段、中段とコンビネーションを見舞う。だが、その尽くも捌かれてしまう。
「此処まで、だな‥‥」
「なっ‥‥!」
 些か失望したような表情のヴァルス。抗議の声を上げようとする麻里だが、糸の切れたマリオネットのように倒れこむ。ヴァルスの拳が、鳩尾付近にめり込んでいた。
 彼はもう三十路を半ばまで過ぎ、体力的には衰える一方である。その為、自分を満足させられる相手が居れば引退し、後進の育成をも考えていたのだが、どうやら、彼女もそれには至らなかったらしい。


「勝負あり、だな?」
 倒れた麻里を抱きかかえ、ミリアの方に向き直るヴァルス。
「お待ちなさい。今度は、わたくしがお相手させて頂きます!」
「はっ?」
 今度は、ミリアがヴァルスに向かって指を突きつけた。思わぬ展開に、開いた口が塞がらない様子のヴァルス。
「麻里さんが敗れたのは予想外ですが仕方がありません。ですが、友人として、彼女を倒した貴方に勝負を申し込みます!」
 無茶苦茶な理屈をつけるミリア。だが、麻里の仇討ちと言うのもあるのだろうが、彼女もまた、武道家である以上、最強の称号を持つ彼と、戦わずには居られなかったのだろう。きっと、先ほどの戦いで麻里が勝っていたら、やはり麻里と最強の座を掛けて戦っていたのだろう。悪友と最強の座を掛けて競い合うと言うのが、彼女達の理想のシナリオだったのかもしれないが。
「理由は良く解らないが、戦わんと納得しないだろうな‥‥。解った、相手をしよう。但し、彼女を医務室に運ぶ方が先だ」
 言葉通り、麻里を医務室に運び、再びコロシアムの闘技場に戻るヴァルス。
「さっきの戦いで俺の実力は多少は理解できたと思うが‥‥。本当に良いんだな?」
「勿論ですわ‥‥さあ、始めましょう!」
 厳しい顔でミリアに念を押すヴァルス。だが、ミリアの返事は聞くまでも無いと言う奴である。そして、ミリアは硬貨を投げ上げる。そして、落下と共に両者は動いた。


 麻里とミリアは、足技を主体としている点では良く似た武道家である。だが、麻里は魔法を兵法に取り入れているのに対し、ミリアは膝蹴りやジャンプと言った、より足に特化した兵法を身に付けている。
「‥‥行きますわよ‥‥喰らいなさい!」
 麻里とは逆に、前に向かってダッシュし、得意のジャンプから飛び蹴りを放つ。それを、剣の刃に手を添えて受け止めるヴァルス。その剣を足場に再びジャンプしてヴァルスの背後に回り、すかさず蹴りを見舞う。だが、ヴァルスは素早く反転し、バックステップで回避する。
「中々良い動きだが、まだ隙があるな」
 立ち蹴りは、拳よりは強力な武器ではあるが、放ってしまえば、其処から間合いを変える事は出来ない。よって、避けられるだけの余裕が生まれてしまう。
「ですが、この技は通用するようですわね!」
 先程受けられた飛び蹴り。これは、避けきれないからの受けと判断したミリア。ならば、其処からのコンビネーションなら通用するはずだ、と。だが、現実はそう、甘くは無かった。
「来る事さえ解れば‥‥直線的な攻撃は避けられる!」
 ヒラリ、と言う擬態語がピッタリな程華麗に蹴りを避けるヴァルス。着地と共にバックステップで間合いを取り直すミリア。
「まさか、あれまで避けられるなんて!」
「避けられない、とは誰も言っていない」
 予想が覆されて驚くミリア。一方尤もらしい返事を返すヴァルス。
「さあ、今度は此方から行くぞ!」
 一転、反撃に移るヴァルス。ミリアは次の手が思い浮かばず逃げる避けるでやり過ごす。お互いに走る速度は同等だが、歳の所為か、息が上がり始めるヴァルス。それでも、身体パフォーマンスが落ちていないのは流石である。そして、徐々に乱れ始めた呼吸を見逃す、いや、聞き逃すミリアではなかった。
「チャンスですわ!」
 呼吸のためにヴァルスの肩が上がった瞬間、剣すら振れない間合いに飛び込むミリア。その勢いを利用し、垂直に飛び膝蹴りを放つ。
「呼吸の、乱れを、狙ったか‥‥惜しかったな」
 決まれば一撃必倒であっただろう、ヴァルスの顎を目掛けた膝蹴り。だが、とっさに剣を棄て、両手で膝を受け止めてに回ったヴァルスの方が上手であった。必殺の一撃を止められたミリアは、最早なす術は無かった。

 トン

 ミリアの後頭部に、ヴァルスの手刀が落とされた。そのまま倒れ伏すミリア。またも、医務室に運ぶヴァルス。


「こ‥‥ここは‥‥」
「気が付いたか?」
 暫くの後、漸く目を覚ました麻里とミリア。近くの椅子に座っていたヴァルスが声を掛ける。
「わたくし達‥‥」
「負けたのですわね‥‥」
 落胆する麻里とミリア。
「だが、二人とも、その若さにしては中々だった。俺を倒すには、10年、いや、5年早かったがな」
 ヴァルスの余計な一言が、二人の心に再び火を点けた。
「5年なんて待たせませんわ!」
「次に会うときには絶対倒して見せますからね!」
 先ほどまで気絶していたのか疑いたくなるほどの勢いでベッドから跳ね起きる二人。そして、夕陽に向かって走り去るのであった。
「もっともっと強くなって‥‥」
「絶対に見返してやりましょう!」

「やれやれ、元気のいい連中だ‥‥が、引退までの楽しみがまた増えたかな?」
 取り残されたヴァルスは、苦笑を浮かべながらも、何処か楽しげに見えたと言う。

 了

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 初めまして、九十九陽炎と申します。
 今回の発注、真にありがとうございました。
 実は私、主人公が負けるのを書くのは恐らく初めてなので、苦しみながらも楽しませて頂きました。ありがとうございます。
 ライトな格闘物と言う指定でございましたが、自分の中では重くは無いと思うので、多分軽いと思われますが如何でしょうか?
 それでは、また、気に入っていただけましたらお願いいたします。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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聖獣界ソーン
2007年01月31日

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