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『覚えていた約束 』
空木崎・辰一2029)&鈴童(NPC4366)


 今日は良い天気、ということもあり、散歩に出かけようと思い立った空木崎辰一(うつぎざき・しんいち)。
 いつもの神主姿からカジュアルな衣装に着替え、出かけようとして玄関を開けたその時だった。尻尾の先が白い金色の瞳の黒猫が現れたのは。
 にゃあ、と鳴くその猫は、その場でぽんっとトンボ柄の着物に下駄履きという少年、のような外見の子供に変身した。猫耳と尻尾が隠せないのは、まだ半人前だからである。
「君は…以前会った鈴童くんだね。こんにちは」
「おう、元気か」
「はい」
 玄関先で話し込むのは疲れるだろうと思い、辰一は鈴童を家に入るよう勧めた。お茶菓子として和菓子があったはず…と戸棚を捜してみたが、何も無かった。
「そうか、昨日氏子さんが家に来たときにお茶請けに出したんだった…」
 その時、辰一は以前、鈴童に羊羹を用意して待ってるということを思い出した。用意したものが急に無くなったというのでは気まずい。鈴童も一緒に連れ出す方法を考えたが、猫耳、尻尾状態ではまずい。
「鈴童くん、一緒にお菓子を買いに行こう。キミの好きなものを買ってあげる。約束だからね」
「覚えていてくれたんだな、行く!」
 パッと明るい笑顔になった鈴童が元気の良い返事をする。
「ただし、猫の姿で、だよ。その姿では、慣れていない人が驚くから」
 辰一の言うことを素直に聞き、猫に変化する鈴童。二人(正確には一人と一匹)は辰一行きつけの和菓子屋へと向かった。


 和菓子屋につくなり、にゃあにゃあ鳴いて喜ぶ鈴童。
「どれかひとつだけ選ぶんだよ。持ち合わせがあまりないから」
 それにコクンと頷く鈴童に「大丈夫かなぁ…」と辰一は不安な気持ちを隠せない。
「おや? いつも連れている猫ちゃん達と違う子だね。どうしたんだい?」
 和菓子屋のおかみさんが訪ねる。
「この子、ここに向かう途中で一緒になったんです。どうしてでも離れてくれなくて…。店の中に入っちゃったんですけど…今回だけ大目に見てくれませんか?」
 言い訳が通用するだろうかと不安だったが、おかみさんは今回だけは見逃すよと了承してくれた。
 くいくい、と鈴童が辰一のグレーのパンツの裾を引っ張り、食べたいお菓子を前足で指した。
(「こ、これは…! 何でよりによって高いものを…」)
 それは、芋羊羹三本入りの箱だった。お値段は相当高い。約束を破るわけにはいかない、という責任感があるため、辰一は財布の中身を確認。お釣りが来るほど入っていたのが不幸中の幸いだった。
 ルンルン気分で足取り軽やかに歩く鈴童に対し、辰一の気持ちはどよ〜んとしていた。


 空木崎家に着くなり、鈴童は人間に化けた。その様子を見た辰一の式神、白黒ブチの甚五郎と茶虎の子猫、定吉は驚いて逃げてしまう。
「大丈夫だよ、甚五郎、定吉。こっちにおいで」
 主人にそう言われ、おそるおそる鈴童に近づく二匹。
「おいら、鈴童っていうんだ、よろしくな!」
 危険を感じられない安全な存在と認識した二匹が「にゃあ」「みゅ〜」と鈴童に自己紹介した。
「ちょっと待っててね。お茶を淹れて、羊羹を切ってくるから。先に縁側に行ってて」
「はーい」
 甚五郎が率先して、鈴童を縁側に案内しする。

「今日は天気が良いからあったかいなぁ…」
 暖かいお日様の光に、気分が良くなった化け猫と式神猫二匹であった。
「何か眠たくなってきたけど…羊羹が来るまでの我慢だ」
 陽気のせいで、ウトウトと眠気がするが羊羹が待っているので眠ろうにも眠れない。
「お待たせ、お茶と羊羹を持ってきたよ」
 辰一の言葉に「待ってましたぁ!」とパッと眼が覚めた鈴童。
「おまえたちにはコレだよ」
 甚五郎、定吉に削りかつおが盛られた小皿を差し出す。
 用意が出来たので、ひなたぼっこをしながらお茶を飲み、お茶請けの芋羊羹を食べる辰一と鈴童。
「これ、すっごく美味い!」
「喜んでくれて嬉しいよ」
 買った甲斐があったよ、と心の中で一安心する辰一であった。もうないのか? と訊ねる鈴童に、あと一本切ってこようかと辰一が聞くと「うん!」と鈴童は元気良く返事をした。

 切りそろえた芋羊羹を全部食べた鈴童は、お腹一杯になったのか、暖かい太陽のせいか、縁側で気持ち良さそうに眠ってしまった。
 辰一は、鈴童が風邪をひかないようにと毛布を二枚被せた。
「嬉しそうな顔をして眠っているね。夢の中でも羊羹を食べているのかな…」

 鈴童の頭をそっと撫で、自然と笑みが零れる辰一であった。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年01月19日

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