『一日巫女さん☆アルバイト 』

広瀬・ファイリア（6029）

年明けで、最も忙しい存在とは、どんな立場の人だろう？
あちらこちらの寺院で人々は願いや祈りをかけ、それを受信…つまり、受け取る側である神が一番忙しいのではないか。それもひとつの答えである。
では、忙しい人間、に条件を絞ったらどうなるだろう？
これは、そんな疑問に対するひとつの答え。多忙に正月を過ごす人達の物語である。

●巫女さん急募！
「はいっ、恋愛成就のお守りはあちら、学業関係はこちらで受け付けておりま〜すっ」
この土地では珍しく、八百万の神を奉っている、珍しい神社があった。
それだけお守りの種類も多く、それだけたくさんの願いを持つ参拝客が、大勢押し寄せる。
特に、正月の忙しさは半端じゃない。
中でもひときわ活発に動き回っているのは、この神社の巫女さん総元締め。
「って、普段通ってくれている子達だけじゃ、手が足りなぁいっ！　こうなったら最終手段、バイト募集するわよっ！　募集基準？　そんなものないわよっ、猫の手も借りたいくらいなんだからぁ！」
シフト表のファイルとにらめっこしながら叫んでいる。
「早速募集の手配をして頂戴っ！　報酬？　そんなの後回しよぉっ！」
そういうわけで、巫女さん、大募集。

●種族国籍年齢性別学歴不問。sideファイリア
『急募、販売その他雑用スタッフ！』
広瀬・ファイリア（ひろせ・ふぁいりあ）がそんなポスターを見つけたのは、大晦日のこと。
『報酬応相談、物資貸し出しあります。貴方のその身一つでＯＫ！』
どこにでもある募集の文句だが、どうにも殴り書きのような文体が気になった。
そう、そのチラシは毛筆で力強く書かれたものを、慌ててコピー機で印刷して増やしたような…そんな簡単なものだったのだ。
「お年始から忙しい所ってあるんだね？　これは、手伝いに行かないとっ」
とりあえずは集合場所と時間だけ覚えて、その日は帰宅するのみになる。他の詳しい内容は覚えずに『困っているところがある』とだけ記憶したのが彼女らしい。
「ファイだけじゃなくて、悠輔ちゃんも誘おうっと」
募集要項の致命的な落とし穴を、落とし穴とも気付かず、更にはより捻じ曲げる存在というのも珍しい。

元旦当日。
「わあ、巫女さんだっ？」
「あら、これはまたやる気のある子が来てくれたわね♪　お仕事を任せる側としても嬉しい限り、今日はよろしくお願いね♪」
総元締めの言葉はもとより、ファイリアには、隣にいる犠牲者…阿佐人・悠輔（あざと・ゆうすけ）…の言葉も耳に入っていない。
別の巫女さんに連れられるままに更衣室に向かっていったが、多分そのときの記憶も彼女にはないだろう。
「…っ、おまっ…ファイリア！？」
そんな悠輔の声も聞こえたはずなのだが、ドアが閉じられた後の事である為、ファイリアが気がつく事もなかった。

●ドレスアップ
きゃいきゃい、そんな声が聞こえそうな女性用更衣室。
巫女さんのコスチュームプレイ大会。その控え室をのぞいてみました！　…と、実況中継でも入ればしっくり来るような、そんな事務所の中の一角であるわけだが。
ファイリアも例に漏れず…いや、寧ろ進んで、一人の巫女さんになっていた。
うっすらと（まだ若いからそう分厚くする必要も無く）頬に白粉はいて。小さな唇にはほんのり紅をのせ。基本に忠実な巫女服とあわせ、白と赤のコラボレーションが彼女を彩る。
少し子供っぽい顔立ちに大人らしさを演出する朱の紅は、どこかアンバランスな魅力をかもし出させる。
とはいっても、ファイリアは年齢の割に身長が高い方であるため、そう子供子供しているわけではないのだが。
「えへへ、一日巫女さん体験〜♪」
全身を映せる鏡台の前で、くるりと一回り。体の動きに合わせて、袴部分もふわりと揺れた。
時を同じくして、同じようにくるりと回った人影。
どこか同じようで、同じではないような。そんな気配を感じ、女２人、互いを見つめあう。
「貴女も同じバイトだよねっ？　良かったら一緒にお仕事しないかな？　これも何かの縁だと思うしっ」
そう声をかけたら、一瞬だけ相手…広瀬・悠里（ひろせ・ゆうり）は何か考えていた様子を見せ、しかしすぐに頷いた。
「そうね、貴女が良ければ一緒させてもらいたいわ。　私は…悠里。貴女は？」
「ファイはファイリアだよっ♪　よろしくね、悠里ちゃん」

●売り場は戦場てんてこまい♪
「五百円のおつりです。はい、こちらが御守りです、ありがとうございます〜」
予想通りとでも言うべきか、売り場は御守り、破魔矢、ダルマ等、思いつく限りの神社グッズが売られており。
それらを求める客足も少なくなかった…むしろ、多すぎる。
勢いよくお辞儀をしたり、販売の定型句を声高らかに叫んだり。
「はい、家内安全の御守りはひとつ五百円になります〜」
目の前の商品スペースに足りないものを、奥から補充するためにクルクル、回る様に動いたり。
「猪の根付、足りませんです〜！　え、もう持ってきてる？　あ、足元にありましたです〜」
そう、回転だ。
目が回りすぎたのか、はたまた頭の中が文字通りシェイクされたのか、それまでの疲れがピークに達したのか…真実の程は分からないが…ファイに兆候が現れ始めた。
「一万円おあずかりしますです。六千円のお釣りです〜。ありがとうござ…」
最後の一台詞をさえぎって、客から何か差し出されながらも注意が飛ぶ。
「え？　たった今渡した一万円札が混ざってたですか？　ご、ごめんなさいですっ」
一万円札を五千円札と間違えるところから始まり。
「え？　さっき買った御守りが恋愛成就じゃなくて安産祈願の御守りになってたですか？」
袋に入れる際に、色の違うはずの御守りを間違え始め。
「すいませんです、今すぐお取替えしま…っ」
自分の間違いに慌て、焦りすぎたせいもあってか、ついに。
「わきゃぁっ！？」
ドンガラガッシャーン！
はい、ダルマさんの在庫、転がりました。皆さん足元にお気をつけ下さいませ。
それまでチラチラと様子を伺いつつも、手助けできずにいた悠里が、慌ててダルマを拾い集める。
「立てる？　足元気をつけて、また転ばないようにね」
近くの数個を拾ったところで、ファイリアに捕まって、と手を差し出す。
「ありがと〜　…よっ、と」
服についた埃をはらいおとす。
「大丈夫そうね。　じゃあ、しばらくこの場、任せたわ」
「えぇっ！？　まだいっぱいお客さんいるよぅ」
「わかっているわよ、その客達の列を正すのよ、そのほうが貴女も混乱しなくてすむでしょう？」
そう言って、問答無用に販売所を出て行く悠里。

置いていかれた、とは思うものの、お客はこれ以上は待ってはくれなさそうだ、さっきからずっと呼ばれているし。
「あっ、お待たせしましたっ。　御守りですね、これは千円になります」
また、さっきまでの忙しさが戻ってきた。
「はい。交通安全のお守り四つですね。少々お待ちください、今袋に入れますから。あ。お次は恋愛成就で、わかりましたぁ」
一度足りない分の御守りを背後の補充分から取り出し、袋に入れて客の前に戻る。
「え〜と、交通安全の御守りと恋愛成就の御守りお待ちのお客様…　あれ？」
二人反応した客を見比べ、どちらがどちらか分からない、と混乱してしまう。
「…っ、仕方ない…おい、あんた。そのお客さんにはこれ、そのお客さんはそっちのひとつの方だろ」
後ろから声がしたと思えば、悠輔が彼女の手元の御守りを取り、お客さんに手渡している。
一瞬ぽかんと、悠輔の手腕に見とれるファイリア。
「悠輔ちゃん、すご〜い」
ファイリア、君ももう少し見習おう。

●報酬は？
忙しさにも、いつか終わりは来るもの。
参拝客も数えるほどになった所で、今日はお開きとの合図。
身支度を整え、顔も洗い再び皆が集まったところで、お待ちかね、お給金の配布タイム。
「はいこれ、ファイリアちゃんの分♪」
ポンポンポン、と三人にも手渡していく総元締め。
渡されたのは茶封筒。妙に厚さがあるのが不思議だ。
「働きに応じてボーナスを上乗せしたのよ。…と言うのは冗談で、おまけでうちの絵馬を一緒に入れただけよ」
疑問が顔に出ていたらしく、そう答えが返ってくる。
「何なら、この後奉納していく？　もう人も少ないし、貴方たちの分くらいはあたしが対応してあげるわよ」

それならば、と三人、それぞれが願いを込めて、絵馬に想いを連ねる。
「みんな楽しく笑っていられますように…っと」
書き終えたところで巫女に預ける。お互いに願いは聞かない、きっと、口にしたらいけない雰囲気があったから。
誰からともなく誘い合い、改めてお参りも済ませ…忙しい一日が終わりを告げた。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★ＰＣあけましておめでとうノベル２００７★┗━┛

【5973　／　阿佐人・悠輔　（あざと・ゆうすけ）　／　男　／　１７歳　／　高校生】
【6029　／　広瀬・ファイリア　（ひろせ・ふぁいりあ）　／　女　／　１７歳　／　家事手伝い（トラブルメーカー）】
【0098　／　広瀬・悠里　（ひろせ・ゆうり）　／　女　／　１７歳　／　神聖都学園高校生】

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■　　　　　　　　　ライター通信　　　　　　　　　　■
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初めまして、そしてあけましておめでとうございます。桐島めのうです。
一月も中旬に差し掛かってからのお届けになってしまいました。遅れましたことをここでお詫びいたします。

改めまして、ご発注ありがとうございました。
３名様同時発注と言う事で手がけさせていただきましたが、全てをひとつに纏めるのではなく、リンクノベルという形にさせていただきました。
一度で三度美味しい、と言う結果を目指しましたが、お口に合いましたら幸いです。

それでは、またご縁がありましたときにはよろしくお願いいたします。
新年がよい年になりますように。

ＰＣあけましておめでとうノベル・２００７

石田まきば

東京怪談

2007年01月11日