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『一日巫女さん☆アルバイト 』
阿佐人・悠輔5973

年明けで、最も忙しい存在とは、どんな立場の人だろう?
あちらこちらの寺院で人々は願いや祈りをかけ、それを受信…つまり、受け取る側である神が一番忙しいのではないか。それもひとつの答えである。
では、忙しい人間、に条件を絞ったらどうなるだろう?
これは、そんな疑問に対するひとつの答え。多忙に正月を過ごす人達の物語である。

●巫女さん急募!
「はいっ、恋愛成就のお守りはあちら、学業関係はこちらで受け付けておりま〜すっ」
この土地では珍しく、八百万の神を奉っている、珍しい神社があった。
それだけお守りの種類も多く、それだけたくさんの願いを持つ参拝客が、大勢押し寄せる。
特に、正月の忙しさは半端じゃない。
中でもひときわ活発に動き回っているのは、この神社の巫女さん総元締め。
「って、普段通ってくれている子達だけじゃ、手が足りなぁいっ! こうなったら最終手段、バイト募集するわよっ! 募集基準? そんなものないわよっ、猫の手も借りたいくらいなんだからぁ!」
シフト表のファイルとにらめっこしながら叫んでいる。
「早速募集の手配をして頂戴っ! 報酬? そんなの後回しよぉっ!」
そういうわけで、巫女さん、大募集。

●種族国籍年齢性別学歴不問。side悠輔
『急募、販売その他雑用スタッフ!』
渡された手元のチラシと、この現状は、どういった事なのだろうか?
阿佐人・悠輔(あざと・ゆうすけ)の思考は、そこから始まった。
今現在隣にいる妹…広瀬・ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)が、『困っているところがあるので助けてあげてほしい』と言うままに連れられてきたわけだが…なんだ、これは。
改めて、手元のチラシを見る。
『報酬応相談、物資貸し出しあります。貴方のその身一つでOK!』
お給金は自給制だが悪くない額だったし、希望すれば御守りなどの追加もあると説明された。物資…つまり制服や道具も、サイズなどの問題を気にしないでよいくらい、数多く準備されていた。
だが。
この募集のチラシには、致命的な落とし穴があったのだ。 …落とし穴なのだと、思いたい。
そう、制服とはまさに…巫女服だったのだ。
「…これを、俺に着ろと…?」
「あら、『神社』で『販売』ときたら、巫女さんしかいないでしょっ、常識よ? それに一緒の彼女、もうやる気満々よ♪」
総元締めの言葉と、その指し示す方向を見れば…確かに、先ほどまで横に居たはずのファイリアが、別の巫女さんに連れられて更衣室へ向かっているところだった。いつのまに。
「…っ、おまっ…ファイリア!?」
呼び止めようとしたが、時既に遅し。更衣室の扉は閉められてしまった。
一人、置いてけぼりにされた感覚がする。
「…やるしか、ないのか…」
ため息ひとつこぼしつつ。諦めの言葉を口にする。
「そうそう、人生諦めが肝心よ〜♪」
総元締めの声が、なんだか楽しそうに跳ねている気がするのは、気のせいだと思い込むことにした。

●ドレス…アップ?
巫女さんのコスチュームプレイ大会。その控え室をのぞいてみました! …と、実況中継でも入ればしっくり来るような、そんな事務所の中。
ちなみに更衣室は男女別であるため、ファイリアは一緒にはいない。
そして悠輔も例に漏れず、一人の巫女さんになっていた。
うるさくない程度にうっすらと(ただ手を抜いただけの可能性も高いが)頬に白粉はいて。唇には妖しく(怪しくの間違いかもしれない)紅をのせ。基本に忠実な巫女服とあわせ、白と赤のコラボレーションが彼を彩っている。
腕に結いつけられている愛用のバンダナがアクセントになっている。なんだか眩しい。
つまりどういう結果になったのかと言うと…いくら若いとはいえ育ち盛りの少年の体格は隠しようがなく。『女性』にはなりきれず『女装』の程度に終わったというべきだろう。
「恥ずかしい…っ」
うっかり鏡を見てしまい、避けるように右手を自分の額に当てる。今の姿は自分でも忘れたい。
見知らぬ参拝客たちだけなら、まだいい。全て終わった後に何もなかった事にして、記憶の彼方に放り投げればいいのだから。
だが、自分をよく知る存在が一緒だとなると、どんな事でも『思い出』にしなければならないのだ。
「そもそも、この姿を見てなんて言うのやら」
先が思いやられる。

●世話焼き心は恥も越える?
「とりあえず、裏方ならば人目にもつきにくいだろ」
女装姿を女性二人にまじまじと見られ、なおかつ二様の反応…容赦の無い笑い声と、笑いをこらえた褒め言葉を貰い、あまりに恥ずかしくなった悠輔。
客対応などもってのほかとばかりに、販売所の奥でこまごまとした作業に勤しんでいた。なるべく、客に背を向ける形で。
「ファイはもう諦めていたとして…まさか他からもコメントされるとは」
悠里と言ったか…初見のはずなのに、やけにファイリアと並んで違和感が無かった。
そう気付いているものの、同時に自分も、悠里…広瀬・悠里(ひろせ・ゆうり)の存在を躊躇い無く受け入れた事には気付いていない。
今回は俺がしゃしゃり出てフォローするわけにも行かないし、丁度いいだろう、ぐらいに思った程度。
彼女を任せられる、と思った事も不自然のひとつだと気付かないまま。
「あ、根付ならさっきあんたの足元に置いただろ?」
「四十三番な… ほら、これを客に渡せ」
倉庫からの在庫の補充や、御神籤の番号を聞いての結果を取り出す作業。
細かく地道な作業だが、これくらい、女装に比べれば容易いし、続けられる…等と呪文のように呟きながらもこなしていく。
呟きは誰にも聞こえていないからよいが、妙に真剣な表情なものだから、少し見かけただけで結構な恐怖が味わえる…気がしないでもない。
だが誰も彼にそれを言わない。言った後が怖い、というのが本音だろう。

「…御守りの在庫持ってきたぞ」
抱えていたダンボールを手近な台の上に置いたところで、販売担当の二人の姿を探す。
ファイリアが御守りの辺りで…悠里は…? ぱっと見当たらない。
探すのを諦めてファイリアに視線を戻す。
「何やってんだ…?」
手に御守りを持ってはいるものの、客に渡さずにまごついている。
「…っ、仕方ない…おい、あんた。そのお客さんにはこれ、そのお客さんはそっちのひとつの方だろ」
ちゃんと覚えておけよ、と交えつつ。自らも販売に加わる。
「それで、次のお客さんは? あぁ、合格祈願の絵馬?じゃあこれだ…」
結局ファイリアを押しのけるようにして対応に専念し始める。
少しぶっきらぼうなのが気にかかるが、客はそれほど気にはしていない模様。女装巫女という見た目と、販売の的確さに圧倒されているだけなのかもしれないが。
「悠輔ちゃん、すご〜い」
ファイリアの声も届いていないようだ。
対応を始めてすぐに、その忙しさのためか他の事を考えられなくなっているのだろう。

「…俺は何を…っ」
案の定、終わってから、販売所の床に座り込んで呆けた様子の悠輔が見られたとか。

●報酬は?
忙しさにも、いつか終わりは来るもの。
参拝客も数えるほどになった所で、今日はお開きとの合図。
身支度を整え、顔も洗い再び皆が集まったところで、お待ちかね、お給金の配布タイム。
「はいこれ、悠輔君の分♪」
ポンポンポン、と三人にも手渡していく総元締め。
渡されたのは茶封筒。妙に厚さがあるのが不思議だ。
「働きに応じてボーナスを上乗せしたのよ。…と言うのは冗談で、おまけでうちの絵馬を一緒に入れただけよ」
疑問が顔に出ていたらしく、そう答えが返ってくる。
「何なら、この後奉納していく? もう人も少ないし、貴方たちの分くらいはあたしが対応してあげるわよ」

それならば、と三人、それぞれが願いを込めて、絵馬に想いを連ねる。
「幸せが続く1年でありますように…こんなところか」書き終えたところで巫女に預ける。お互いに願いは聞かない、きっと、口にしたらいけない雰囲気があったから。
誰からともなく誘い合い、改めてお参りも済ませ…忙しい一日が終わりを告げた。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

【5973 / 阿佐人・悠輔 (あざと・ゆうすけ) / 男 / 17歳 / 高校生】
【6029 / 広瀬・ファイリア (ひろせ・ふぁいりあ) / 女 / 17歳 / 家事手伝い(トラブルメーカー)】
【0098 / 広瀬・悠里 (ひろせ・ゆうり) / 女 / 17歳 / 神聖都学園高校生】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、そしてあけましておめでとうございます。桐島めのうです。
一月も中旬に差し掛かってからのお届けになってしまいました。遅れましたことをここでお詫びいたします。

改めまして、ご発注ありがとうございました。
3名様同時発注と言う事で手がけさせていただきましたが、全てをひとつに纏めるのではなく、リンクノベルという形にさせていただきました。
一度で三度美味しい、と言う結果を目指しましたが、お口に合いましたら幸いです。

それでは、またご縁がありましたときにはよろしくお願いいたします。
新年がよい年になりますように。
PCあけましておめでとうノベル・2007 -
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東京怪談
2007年01月11日

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