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『星輝く時、それは一縷の奇跡のしるべ 』
御影・蓮也2276)&御柳・狂華(2213)&(登場しない)

 ――奇跡って信じる――?

「ん? 突然なにを言い出したんだ? 狂華」
 御影蓮也は、隣を歩いていた御柳狂華にきょとんと訊き返した。
「ん……とね」
 言いかけて、狂華はくしゅんとくしゃみをする。
 蓮也は苦笑して、
「ほら、もっとこっち来いよ」
 と狂華の肩を抱き、体を寄せた。
 ――今日は寒い冬の一日。
 けれど皆はせわしなく、期待に心を膨らませてあちこちで笑っている。
 あさっては、どんな人にも等しく幸せになれる可能性がある日だ。

 それはクリスマスという名の。

 狂華は蓮也に抱き寄せられて、幸せそうに頬を染めた。
「ふふっ、蓮也ってあったかい」
 蓮也のはおっている茶色のコートを手でつかみ、狂華はさらに身を寄せた。
「そこまで寄ってると歩けないぞ」
「いい。蓮也とくっついてるほうが幸せ」
 ふたりは顔を寄せ、小さく笑いあう。
 そのまま唇が触れそうになったとき、
「……まったく、最近の若いモンは……」
 傍らからぼそりと老婆の声がして、ふたりは慌てて顔を離した。
 クリスマスにも老婆は歩いている。当たり前の話だ。
 名も知らぬ老婆は邪魔をするだけして去っていった。
「んもう!」
 狂華が拳を振り回す。
「狂華、危ないって」
 人通りの激しい道で、蓮也は狂華が人にぶつからないように道の端に移動した。
 冷え込みが激しくなってきても、イルミネーションの美しいこの広場に人が絶えることはない。
「今日は雪だって聞いてたんだけどな……」
 蓮也は目を細めて空を見上げた。
 あいにくと、天気が悪く空に星はない。
 ――代わりに白い贈り物が天から届くはずだったのだが……
「雪が降るくらい寒くても、蓮也がいれば平気」
 狂華は蓮也の肩にもたれかかるようにしてつぶやく。
「狂華の上に雪が降ったら、きっと妖精みたいに綺麗だろうな」
「ふふっ。蓮也だけの妖精ならいい」
 ふたりはしばらくそのまま、寄り添って路肩にたたずんでいた。
 ――元々何が目的というわけでもない。クリスマスのデートというものは、そんなものだろう。
 狂華は、蓮也にもたれたまま幸せそうに目を閉じていた。まるで蓮也のぬくもりを感じ取ろうとしているかのように。
 蓮也は広場を見渡す。
 ふと、広場の中央にあった大きなツリーのてっぺんの、作り物の星がキラリと光った――ような気がした。
 同時に、
「……あ……」
 蓮也が空を見上げて声をもらす。蓮也の肩にもたれていた狂華が、反応して目を開けた。
「なに……? どうした?」
「雪だ」
「――え!?」
 狂華は慌てて空を見上げる。
 ちらり ちらり……
 ちら ちら ちら ちら……
 風に吹かれて、雪は不規則な舞いかたをしながら――
 家族の、恋人たちの、喜びの声を乗せて、
 あっという間に地面を白く飾り始めた。
「天からの贈り物だ」
 蓮也は目を細めて、笑みを浮かべる。「俺の妖精をもっと綺麗に飾ってくれる贈り物」
 言いながら、ぎゅっと狂華を抱き寄せる。
「蓮也ってば」
 狂華は蓮也のコートを握ってかわいらしく笑った。
「さ、狂華」
 蓮也は雪が降ってきたことに満足して、恋人を促す。「買い物にでも行こうか」
「あ、待って!」
 蓮也が歩き出したとき、狂華はぎゅっと彼のコートを握ったままだった。
 ぴん、と蓮也のコートが引っ張られる。
 ずるっ
 蓮也の革靴が地面を滑った。
 そして――
 どっすん
「蓮也!」
 狂華が、見事にしりもちをついてしまった蓮也の傍らにかがむ。
「だ、大丈夫……はは、ちょっとまぬけ……」
 蓮也はじんじん痛む尻をさすりながら「大丈夫だよ」と心配顔の狂華を見た。
「雪で一気に滑りやすくなったかな……まあこの程度、大したこと、な……い……」
 言いながら、言葉が尻すぼみになっていく。
「どうした? 蓮也」
「いや……」
 蓮也は目をこする。
 狂華が不思議そうに小首をかしげる。
「蓮也?」
「……そっち……に、いるの……って」
「え?」
 ちょうど狂華の背後になる位置を、蓮也は指差す。
 狂華は振り向いた。
 そして、呼吸を止めた。

 そこに、『星』がいた。

 作り物の星そのままの、ひとでのような形。きらきらと輝く表面。そこだけぽっと特別に灯りがともったように、優しい柔らかさがその光にはあった。
 狂華は目をぱちくりさせる。
 そして、蓮也と同じように目をこすってみる。
 ――消えない。

 『星』は、てくてくと器用に歩いて、ふたりのところへやってきた。
 近づくと、『星』には温度がないかのように、暖かくも冷たくもなかった。
「お前……なんだ?」
 蓮也は座り込み直し、狂華の肩を抱いてかばいながら、慎重に『星』を見つめる。
 『星』は、何も言わなかった。
 狂華がおそるおそる訊いてみる。
「……『星』か?」
 『星』は器用に――
 こくんと、うなずいた。
 次の瞬間、ぴくんと蓮也と狂華は体を震わせる。
 ――その瞬間が終わったとき、ふたりはおそるおそる目を見合わせて、
「……聞こえた?」
「……聞こえた」
 お互いの耳に響いた言葉が幻聴でないことを、お互いにたしかめあった。

 ツリーをさがして――

「ツリーをさがしてって言われてもなあ……どこかのツリーの星なのかな?」
 蓮也は眉をひそめて、てててっとふたりにさらに寄ってきた『星』を見下ろす。
 狂華はおそるおそる手を伸ばした。
 ほわん……
 『星』は、不思議な手触りがした。
「……かわいい」
 狂華はつぶやく。目元をほころばせながら。
 そして彼女は、身を乗り出して蓮也に言った。
「ねえ、さがしてみようよ」
「本気か?」
「だってこんな綺麗な星、飾ってなかったら損じゃない?」
 あさってはクリスマスなのに! と狂華は大きく両手を開いて訴える。
「―――」
 否定できない。うーんと蓮也がうなっている間に、狂華は掌大の『星』を手に乗せ、ほわんほわんとさせて遊んでいた。

 ツリーをさがして
 おねがいします

 声は変わらずふたりの耳に直接響いてくる。
 蓮也は考えてみる。
「星がないツリーなんて寂しいし、あれがあってのツリーだよな……それに見に来た人たちも星がないとがっかりするだろうし……探してやるべきか」
 蓮也の言葉に、狂華はほっとしたように微笑んだ。
「やっぱ、ツリーに星は必須だもんね……当日まで時間もあんまり無いし、頑張って早く見つけてあげようね」
「……やってみるか」
「でもこんな不思議なもの、手に持ってたらヘンかなあ」
 狂華が困ったように言う。だったら、と蓮也は『星』を受け取り、
「髪に飾っておけばいい」
 ――『星』は狂華の赤い髪と、金色の瞳によく映えた。
 狂華は嬉しそうに、
「どう? 似合う?」
 と蓮也に訊いてきた。
 蓮也はぼんやりと『星』を髪にかざっている狂華を見て、
「……これも天からの贈り物かなあ……」
「え? なに、蓮也」
「いや」
 蓮也は笑ってごまかし、
「似合うよ。――それなら気づかれないだろ」
「やった!」
 狂華はぱっと立ち上がった。
「それじゃ、早速ツリーさがしに行こう!」

 とりあえず、広場のツリーではないようだ。
「どんなツリーなのか、教えてくれないのか?」
 『星』に話しかけてみても、返事はない。ただ、ツリー、ツリー、と繰り返すだけだ。
 デパートの中のツリー。街の路肩に誰かがしゃれて置いたらしいツリー。
 あらゆる店のツリーをさがしてみるが、今日はツリーが大安売り状態だ。十歩歩けばツリーに当たる。
 たとえばデパートの壁をイルミネーションでツリーの形に飾っている場所。
「まさかあれじゃないよな……一応行ってみるけど」
 ――案の定、だめ。
 狂華のほうはツリーをさがすことよりも、自分の髪にかざられている『星』が、ショーウィンドウに映るたび輝くことが楽しいらしい。
「なあ、蓮也。今この星光った!」
「……ああ、知ってるよ」
 『星』がちらちらと輝くたび、それを髪に飾っている人物も輝いて見えて、蓮也はこっそり赤面していた。
 ――『星』の言うツリーには、なかなかたどりつけなかった。
「お前、本当にツリーさがしてるのか?」
 そもそもそんなツリーはないんじゃないのかと、疲れてきた蓮也はつい言ってしまった。
「見つかったとしても、クリスマスには間に合わないよ」

 とたん、
 『星』の輝きが、暗くなった。

「蓮也!」
 ショーウィンドウに映っている『星』が輝きを失ったのを見て、狂華は悲しそうな声を出した。
「そんなこと言わないで。もうちょっとさがそうよ……!」
「ああ、分かった、悪かったよ――」
 はあ、とため息をつきながら謝った蓮也は――ぎょっとした。
 狂華が泣いている。ぽろぽろと涙を流している。
「ちょ――待て待て待て、ちゃんとさがすって。何で泣くんだ」
「わ……分からない……今、『星』の心が伝わってきて――すごく――つらくて――」
「――悪かったよ」
 蓮也は狂華のつややかな赤い髪をひとふさ手に取り、口付けを落とした。
「だから、もう泣くな」
 『星』にも、撫でるようにほわんと手をかざす。
 狂華はハンカチを取り出して、涙をぬぐった。
 それから、髪にある『星』に手を触れた。柔らかく微笑みながら。
「心配しないで……見つかるから……」

 そこからさらに捜索の始まり。
 大きいものから小さいものまで、あらゆるツリーをふたりはさがした。
「蓮也。こうしてみるとツリーって……飾り付けた人の心が見えるような気がするね」
「うん?」
「たとえばあのプレゼントみたいな飾りをいっぱいつけてるツリーを作った人なんかはさ、子供好きなのかもしれない。サンタが好きな人なのかもしれない。サンタになりたい人なのかもしれない」
「そうだな……」
「あっちの静かに青い色でまとまってるツリーはさ、恋人たちのために落ち着ける場所を……って、心優しい人が作ったのかもしれない。ひょっとしたらその人にも好きな人がいるのかも」
「ああ」
 狂華の尽きない想像力に、蓮也は微笑んだ。
 彼女が何かを言うたびに、心なしか、『星』も輝きを増しているような気がする。
 狂華のおしゃべりを聞きながら、ふたりは捜索を続ける。
「あのツリーなんかどうだ? ちょうど大きさがぴったりだしてっぺんに星がないし――」
 とある公園の片隅にあったツリーを、蓮也が指差した時。
 泣き声が聞こえた。
「?」
 子供の泣き声だ。よく見ればツリーの下に数人の子供たちがいる。
 けんかでもしたのか、この時間だと親とはぐれたのか、わんわん泣いている。
「ああ――」
 狂華は胸に手を当てた。「何だか……心が痛い」
 『星』から伝わってくる――と彼女はつぶやく。
 蓮也がふと見ると、『星』もちらちらと点滅している。
 ――この『星』は、人の心に敏感なのかもしれない。
 何となくその場から動けずに、子供たちの様子を見ていると、やがて慌てたように女性が走ってきた。
 おそらく親なのだろう――その女性が泣いている子供の手を握り、頭を撫でる。
 子供はひっくひっくとしゃくりあげながら、その女性のスカートにすがりついた。
 ……泣き声がやんでいく。
「あ……すごくほっとした……」
 狂華が自身大きく胸を上下させながら、嬉しそうに言った。
 蓮也が『星』を見ると、『星』はまたたいていた。先ほどとは違う、強い強い輝きで――

「商店街のほうに戻ろうか」
 蓮也は狂華を促した。
 蓮也が狂華の肩を抱き、一度はツリーをさがしに行った色々な店の立ち並ぶ場所まで戻ることにする。
 と、
 ずるっ
 そんな靴擦れの音がして、
 次の瞬間には蓮也の目の前に、何かが放り出されてきた。
 蓮也は反射的にそれを受け止めた。
「あっ」
 狂華は別のことに気づき、慌てて蓮也から離れてそちらへ行く。
「大丈夫?」
 ――そこに、滑って転んだらしい少女がいた。
 前のめりに転んでしまった少女は、狂華の手を借りて起き上がった時には、額も手も汚れ放題になっていた。
 しかし少女が第一声に放った言葉は――
「ツリー……! 私のツリー……!」
 悲痛な声だった。
 また『星』が苦しむかな。そう思って狂華の髪を見た蓮也は、目をぱちくりさせた。

 ――『星』が、今までにないほどの輝きを放っている。

 視界の片隅が異様に輝いていることに、狂華も気づいたのだろうか。
「『星』? どうした?」
 髪にいる『星』に手を触れる。
 ふわり。『星』は柔らかく揺れた。
「あ、あたしのツリー……!」
 少女は、蓮也を指差してそう言った。
 蓮也は自分の手の中を見下ろす。

 そこには――
 十五センチくらいの小さな木が植えられた鉢植えがあった。

 少女は慌てて立ち上がり、蓮也から手渡された小さな木を受け取って、ありがとうございますと深く頭をさげた。
 そして、その鉢植えの抱いて、にっこりと微笑む――
「あ……それ知ってる」
 狂華がつぶやいた。「たしか育てるツリーっていう……二、三年したら三十センチくらいに育つんじゃなかったっけ」
 うん、と少女が笑顔でうなずいた瞬間――

 みつけた

 狂華の髪から、『星』がひとりでに飛んだ。ふわり、ふわりと。
 そして少女の持つ鉢植えに近づくと、そこに吸い込まれるように消えていく――
 あ、と少女は嬉しそうに微笑んだ。
 あたしのツリーにも、星はつくんだ。と。

 『星』と少女と別れて――
 ふたりで歩き出した蓮也と狂華は、何となく無言になっていた。
 積もった雪。踏むときゅいっと音が鳴る。
 そんな雪の上をゆっくりゆっくり歩きながら。

「……思うんだけどさ」
 狂華は足元を見ながら、つぶやくように言った。
「ツリーの星って……クリスマスそのものだよね」
「狂華……」
「クリスマスっていう想いそのもの……星がなきゃ、ツリーはツリーじゃない」
「………」
「あの子が持ってたツリーは」
 蓮也の手をとり、狂華はきゅっとその手を握りしめた。
「あの子の大切な想いがこもって……ツリーとしてこれからも祝われていくんだ……」
「そうだな」
 狂華は蓮也の手も引っ張りながら大きく手を広げ、
「――奇跡を見たような気分!」
 満足げにうん、と伸びをした。
 蓮也は微笑んでうなずき――ふと思い出した。
「そう言えば……狂華、奇跡がどうとか言ってなかったか?」
「え? あ、そうだった……」

 ――奇跡って信じる――?

 狂華は足を止め、人差し指を立てながら虚空を見た。
「なんか……ちょっと、思い立っただけなんだよね。降ってきた……みたいに」
「降ってきた……」
 蓮也はその言葉を聞き、くくっと笑った。
 彼の脳裏には、『星』に飾られていた恋人の姿が写真のように何枚も焼きついていた。
 今は、雪に飾られつつある恋人――
「……今年は天からの贈り物が多いんだな」
「え? なに、蓮也」
「なんでもないよ」
 蓮也は狂華の髪を撫でて、
「――奇跡は、俺の一番傍にある、と思っただけ」
「……どういう意味?」
 意味の分からない狂華はぷうっとふくれる。蓮也はははっと笑って、
「さ、俺たちのクリスマスの準備しに行こうか」
 と彼女の手を握り返した。

 それはクリスマスを二日後にひかえたある日のこと。
 ――ひとつの奇跡が舞い降りた、ある日のこと……


 ―FIN―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
笠城夢斗 クリエイターズルームへ
東京怪談
2007年01月04日

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