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『ゆくとし、くるとし。 』
梧・北斗5698



 ソリに乗って空を飛んでいたサンタ娘・ステラは、トナカイにつけられた手綱を軽く引く。
「ふわ〜、疲れましたぁ〜。最近の日本人は本当に働き者ですぅ」
 地上から響く除夜の鐘の音。
 こんな夜だというのに地上はまだ明るい。
「ありゃ……そういえば今日は大晦日でした。皆さん、どんなお正月を過ごされてるのでしょうかね……」
 小さく微笑んだステラは手綱を引っ張らず、レイに話し掛ける。
「わたしたちも帰って寝ますか。起きたらフレアがくれたお雑煮をあっためて食べましょう!」

***

 もうすぐ今年も終わってしまう。
 冷たい風に身を震わせつつ、梧北斗は空を見上げた。曇った空は今すぐにでも雨が降り出しそうだった。

「一年ってあっという間だよな」
 しみじみと腕組みして言う北斗は、学校帰りに欠月の見舞いに来ていた。相変わらずの殺風景な病室ではあったが、部屋の主は呑気に今日も本を読んでいた。
 文庫から顔をあげ、彼は北斗を見る。
「まぁね。キミは若いから時間の流れは早く感じるとは思うよ?」
「そ、そういうことじゃなくて……」
 汗を少し流して呆れる北斗だったが、気を取り直して欠月を見る。
 遠逆欠月と出会って、もう一年は経つ。そう考えると時間はあっという間だ。
(去年の年末もこいつに会ってたけど……あの時の俺はこいつが抱えてるものとか、何も知らなかったんだよな……)
 確実に時間は経過しているわけだ。そして欠月との関係も良好になっている。
(……うーん)
 せっかくの新年。どうせなら欠月と一緒に過ごしたい。だが……。
(こいつまだ本調子じゃないし……外に連れ出すのもどうかなぁ……)
 途中でいきなり倒れたりしたらどうしよう……。
 欠月はそのつもりではないが、北斗からしてみれば欠月は十分病人だ。病人を引っ張りまわすのもどうかと思う。
(……新しい年には、欠月が元気だといいけど……)
 彼との関係が変わっていったように、きっと変わっていく……これからも。
 決意して北斗は口を開いた。欠月が「やっとか」という顔をする。
「き、去年は本当に色んなことがあったなー。おまえとこうして一緒にいられるからいい一年ではあったけどな。うん」
 少し頬を赤らめて言う北斗の言葉に欠月は少し目を細める。そんな欠月の視線に耐えられず、北斗は逸らしてしまう。
 彼が目覚めなかったら……こんな風に話している『今』はない。
(そう……大変なことや辛いこと、たくさんあったけど……)
 あの日……あの一ヶ月の眠りから欠月が目覚めてくれたことがこの一年で一番の幸せな出来事だった。
 こうして振り返ると……本当にたくさんのことがあった。
 北斗はゆっくりと、うかがうように欠月を見る。欠月はじっとこちらを見つめたままだった。相変わらず色違いの瞳は強力な力を持つように澄んでいる。
「去年と同じだけど……さ、一年の終わりと始まりは一緒に居たいな、なんて思ったんだけど………………神社にお参りに行かねー?」
「…………」
 黙ったままだった欠月は……しばらくして嘆息した。
「やっと言った」
「は?」
「さっきからソワソワしてたからさ。言いたいことあるんだろうなぁと思ってて」
「そっ、ソワソワ……してたか?」
「してた」
 うん、と欠月が頷く。恥ずかしくなって北斗は俯いた。そんなに自分の態度は丸分かりだったのだろうか。
 欠月はしばらく北斗を眺めていたが、口を開いた。
「いいよ。初詣に行こうか」
「えっ、マジで?」
 ぱっと顔を明るくする北斗を見て欠月が目を丸くし、それから吹き出して笑った。
 笑う欠月に北斗はきょとんとしている。
「なんだ? 俺、なんかおかしなこと言ったか?」
「いやいや……。キミってほんと可愛いなあって思ってね」
「可愛いツラしてんのはおまえのほうだろっ!」
 ムッと顔をしかめて言うと、欠月は余計に笑う。だがその声は本当に楽しそうで、北斗はあまり怒る気にならなかった。
 欠月は文庫をベッド脇の机に置いた。
「そういえばキミと去年の大晦日も過ごしたっけね」
「そうそう。うちの犬がおまえに飛び掛ったの、憶えてるか?」
「憶えてるよ。キミそっくりのペットだろ?」
 そういえば単純とかなんとか、散々言われた記憶がある。
 北斗はふふっと笑った。
「腕相撲したのも、憶えてるか?」
「もちろん。キミがボクに全敗したのもしっかりと憶えてるよ」
「そこは忘れろよ!」
 むすーっとする北斗は腕組みを解いた。
「じゃあさ、試しにもう一回ここでしないか?」
「ここで? やめときなよ。どうせまたキミが負けるよ」
「むっ。言ったな!?」
「確率の問題だからね。キミよりボクのほうが勝率が高いってだけだ」
 薄ら笑いを浮かべている欠月に北斗は手を差し出した。こうまで言われては引き下がれない!
「よっし! じゃ、ここで勝負だ! 去年は負けたけど、今年は勝つ!」
「ムダなことはやめなよ。体力の無駄遣いだ」
「ムッカー! 俺が勝ったらどうすんだよ!」
 勢い込んで言うと欠月はちょっと悩む。欠月は自分が負けることなど微塵も考えていないようだった。
 そうだなぁと欠月は呟く。
「北斗の言うこと、なんでも一つだけ聞いてあげるよ」
「えっ、ほんとか?」
「本当。
 女装しろとか、キスしろとか、そういうのでも構わないよ?」
「そんな気色の悪い命令、するもんかっ!」
 ゾッとして青ざめる北斗に、欠月はケラケラと笑ってみせる。そして笑いを止めた。
「――で、キミが負けた場合はどうすんの?」
「え? 俺が負けた場合か……? そ、そうだな……」
 ちょっと考えて北斗は天井を見上げた。
 ついこの間だって、動物の物まねをさせられて散々な目にあった。迂闊に欠月の言うことを聞けば悲惨な目に遭うのは明らかだ。
(好きな本を買ってやるよ! ってのも……こいつ貯金はあるみたいだから自分で買ってるみたいだし……。
 好きなもん食わせてやるよ! ってのも……こいつのことだからムチャクチャなこと言う可能性が皆無ってこともねぇしな……)
 何を言っても危険な香りがぷんぷんした。
 眉をひそめてうんうん唸る北斗に、欠月は吹き出すのを堪えていたのだが……北斗は気づかなかった。
「何をそんなに悩むのさ。自分にできる範囲で考えればいいじゃない」
「で、でも……さ」
「そうだね。……じゃ、ボクに負けたら北斗がどこかでナンパをするってのはどうかな?」
 サッと顔色を変える北斗だった。自分が女の子をナンパできるとは到底思えない。
「むっ、無理だって!」
「そんなこと言ってるからいつまで経ってもフリーで、彼女いない歴17年なんだよ。このままだと一生そのままで、寂しく老後を送るかもしれないでしょ」
「それはオーバーだ!」
「じゃあさ、知り合いいるわけ? 女の子の。ほら、ボクに言ってみなよ」
「え……えーっと」
 目を泳がせる北斗は考え込む。女の子の知り合い……知り合いは……。
「クラスの……」
「そういうのはナシ」
「……弓道部の……」
「それも却下」
「………………」
 北斗はますます眉間に強く皺を刻み、口元を歪ませる。北斗のそんな顔が可笑しいらしく、欠月は「ぷっ」と吹いた。
 居るには居るが、金髪のサンタ娘と、白い帽子姿の赤髪の少女は……『女の子』という存在とはちょっと違う。少なくとも今の北斗の中では。
 北斗の中の『女の子』というのは、ある程度おしとやかで……可愛いというイメージがある。性別が女ならばいいという問題ではないのだ。
「じゃ、ナンパに決定」
「ええーっ!」
「嫌なら別ので手を打ってもいいよ。知り合いの女の子とデートする。これでどう?」
「無茶なこと言うなよ!」
 悲鳴のような声をあげる北斗に、欠月は爽やかに笑った。
「後輩でもクラスメートでも構わないよ。罰ゲームだからって言って、相手を誘ったら?」
「うぅ……」
 散々悩んだ末、結局北斗はそれでいくことになった。
 袖をぐっと押し上げ、北斗はベッドに肘をつく。欠月も寝転がって腕を出してきた。
「ズルはなしだぞ、欠月」
「キミ相手にズルなんてするわけないじゃない」



 大晦日の夜、欠月の入院している病院まで北斗は迎えにきた。
 病院の前で待っていた欠月は北斗の姿を認めると、すぐに手を振ってくる。
「やあ」
「よ、よぅ」
 力のない北斗の声に欠月は「ぶっ」と吹いて笑う。
「まだそんなに落ち込んでるの?」
「う、うるさいっ! 色々悩んでんだよ!」
「ああ、デートの方法ね。それとも誘う文句で悩んでるの?」
「うるせーっ!」
 泣きそうな声で言う北斗に、欠月は可笑しそうにする。
 結局あの腕相撲はまたも北斗の負けであった。なぜだ。なぜどうして欠月に勝てないのか。
(去年以上に手加減なしだったしな……)
 腕をバン! と強く倒され、痛みに北斗は悶絶して欠月に文句を言ったのである。すると欠月は。
「手加減するとキミに失礼だからね」
 と、しれっとして言ったのだ。まだ多少は他人行儀だった去年は、ある程度手加減をされていたのがわかる。
 二人で並んで歩き出す。夜道には北斗たちと同じように神社に向けて歩いている者もちらほらいた。
「だ、誰でもいいんだろ?」
「いいよ。ちゃんと証拠のツーショット写真を撮ってきてね。携帯の写真でも構わないから。あ、勿論デートの場所でだよ?」
「何度も言わなくてもわかってるよ!」
 あー、やだやだ!
 北斗がヤケになって言うので欠月が呆れる。
「だからやめておけばって言ったのに。自業自得だよ」
「わかってるよ、そんなの」
 今年は勝てるかもなんて考えは、甘かった。
 北斗は上着のポケットから五円を取り出す。
「ほら」
 欠月に渡すと、彼は目を細めた。
「いいよ別に。自分の分は持ってるから」
 突っ返してくる五円玉を受け取り、北斗は言う。
「ちゃんとお願いすれば、なんかいいことあるかもしれないからな」
「……だからさぁ、うちは無宗教で神様は信じてないんだけど……」
「気持ちの問題だろ」
「……まあいいけど。しかし五円ぽっちなんて、相変わらずケチだね」
「なにぃ! 『ご縁』がありますように、の『五円』じゃないか!」
「知ってるけどさぁ」
 やれやれという感じで欠月は肩をすくめた。
 そんな欠月を横目で見遣り、北斗は小さく笑う。
 来年もこうして欠月と一緒に初詣に行ければいい。そうありたい。
(この五円で、お願いするのは……)
 欠月との『良い縁』が、これからも続きますように――!
(だな! うん、これに決定!)
 にやりと笑みを浮かべる北斗を、欠月が不審そうに見た。
「……なに笑ってんの?」
「ん? 秘密だ、秘密!」
 へへっと笑う北斗は空を見上げる。綺麗な星空だった。



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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 腕相撲は去年と同じ結果でしたが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
PCあけましておめでとうノベル・2007 -
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東京怪談
2006年12月25日

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