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『あなたと、ともに 』
ファレル・アーディン0863
―Happy Christmas!―




「今日はクリスマス。聖なる夜〜♪」

実際には今はまだ昼間なのだが、今日この日の夜が楽しみらしい。
良く言えば特別な存在。悪く言えば神様のパシリ的存在である、天使らしくない天使・リューイは、バサバサと羽根を羽ばたかせながら空中散歩をしていた。

「…あれ?せっかくのクリスマスなのにケンカしてる…」

ふと下を見下ろせば、マンションの部屋の前で言い合いをしている二人の少年の姿が目に入った。二人とも銀髪で、兄弟のように見える。では、兄弟ゲンカだろうか?

「どうしたのかな?どうしてケンカなんかしちゃうの??」

今日はクリスマスなのに。
クリスマスといえば、恋人同士が愛を語らったり祝ったりする日、友達同士で盛り上がったりする日、家族で団欒な日……リューイ的にはそういう日なのだが、下で言い合っている少年たちにとっては全くの別ものなのだろうか?

「…そんな事ないよ。きっと、お互いに素直になれてないだけなんだよね!」

きっかけがあれば、必ず仲直りしてくれるはずだ。
そう思ったリューイは、手と手を合わせて「よし!」と一言。

「私が何とかしてあげちゃおう☆なんたってクリスマスだもんね!クリスマスに兄弟ゲンカはよくないもん。大切な家族と素敵な夜を過ごすべきだと思うし。うん、決定!」

満面の笑顔で言うと、リューイは言い合いをしている少年たちのもとへと降り立った。


■■■


「何でなんだよ!俺の約束の方が先なのに、何で行けないんだよ!!」
「だから、急にバイトが入ったって言ってるじゃないですか!」

「ねぇねぇ、兄弟ゲンカはよくないよ?」

「「!」」
突然だった。突然、自分たちの会話に割って入ってくる声が聞こえてきた。その声の方向に振り向けば、そこにいるのは純白の翼を背にもった天使で…
「天使…?」
「うわっ、天使っ?!」
隣人ならともかく、まさか天使に割って入られてくるとは思わなかったデュナン・ウィレムソンもファレル・アーディンも、天使の姿が視界に入った時は今までの言い合いも忘れてポカンとしている。
「こんにちは!私はリューイって言うの。二人が兄弟ゲンカしてるみたいだったから、気になっちゃって。今日はクリスマスなんだし、ケンカなんて止めようよ?」
「別に、ケンカしてるつもりなんてないよ。ただ、デュナンが約束を守らないから文句言ってただけだよ」
「ファレルが聞き分けないから言い返していただけです。ケンカじゃありません。それに、俺とファレルは兄弟じゃありませんよ」
ファレルもデュナンも、ムスッとした表情でリューイに返した。…明らかに二人とも不機嫌で、お互いにそっぽを向いている。これをケンカと言わずして何と言うのだろう?
「きょ、兄弟じゃなかったんだー?」
お互いに背を向け合っている二人に、リューイは少しばかり焦った。とりあえず言い合いは止める事ができたみたいだが、二人の機嫌は直っていない。むしろ、途中で言い合いを止めてしまったせいか、互いに感情を吐き出しきる事ができずに不機嫌さが増しているように見えた。
「…家族みたいな存在ではありますけど」
二人とも銀髪で、瞳も同じ緑色だったのでリューイは二人を兄弟かと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。けれど、他人という訳でもなく、家族のような存在であるとデュナンが教えてくれた。
「…っ…もういいよ!とっととバイト行けばっ?!」
デュナンの「家族みたいな存在」という言葉に、ファレルは一瞬だけ反応した。デュナンを実の兄のように思うファレルにとって、その言葉はとても嬉しくはあるのだが…それとこれとは話は別。ファレルは勢い良くドアを開閉し、中に入ってしまった。
「ファレル…」
閉じられたドアの向こうにいるファレルを思って、デュナンは彼の名を呟いた。


■■■


「再びこんにちはー!」
「…何だよ、またかよ。…リューイだっけか?何か用?」
彼女は再び突然現れた。リューイは人間ではなく天使。意識すれば物体に触れる事ができるが、意識しなければ物体をすり抜ける事もできる。つまり、ファレルのもとへはドアをすり抜けてやってきた訳だが、それを予測したらしいファレルは、リューイが目の前にいても先程のような驚きを見せなかった。
「ファレルくんとね、デュナンくんのケンカの原因が知りたくて」
ファレルはリビングにいた。膝を抱えた体育座りで考え事をしていたと見える。
リューイはファレルのすぐ横にちょこんと正座をして、二人のケンカの原因を聞いた。…実は先程デュナンにケンカの原因を聞いてきたばかりだが、ファレルの気持ちが知りたくてわざと同じ質問をしている。
「俺は悪くない。俺だってバイトしてるけど、今日は前々から一緒に遊園地に行くって約束してたから休み取ったのに…なのに、デュナンはバイト入れた!」
それも、当日になって。
ファレルは唇を噛んで眉間にシワを寄せた。今日この日を、本当に楽しみにしていたのだろう。約束を守れないデュナンに対しての怒りと…同時に、共に過ごせないという淋しさが伝わってくる。
「そっかー、約束の日にデュナンくんはお仕事入れちゃったんだー?…怒ってる?」
「そりゃ怒るよ!俺、ずっと楽しみにしてたのに…デュナンの為に、プレゼントだって用意してたのに…」
デュナンはファレルの為にプレゼントを用意しようと頑張っているが、ファレルもまた、デュナンの為にプレゼントを用意しているらしい。
「クリスマスだもんね。プレゼントは必須アイテム!でも、怒ってるならプレゼントはどうするの?デュナンくんにはあげないの?」
「怒ってる。怒ってるけど…どうしようもないくらいに怒ってる訳でもないんだ。デュナンは何も言わなかったけど、きっと何か理由があってバイト入れたんだと思う。それに…俺が用意したプレゼントは今日じゃないと意味がない。デュナンが見ないと…意味が、ない」
あぁ、二人は本当にお互いが大切なんだ。
本当はデュナンの気持ちを察しているファレルに、リューイはそう思った。お互いが大切でなければ、お互いを理解する事はできない。その人の為に何かをするにしても、それはその人を大切に思うからできる事だ。デュナンにケンカの原因を聞いた時、彼は淋しそうな表情をしていた。それはファレルを怒らせてしまったからだろう。そしてファレルが淋しそうにしているのは…共に過ごせない事もそうだが、何よりもデュナンと言い合いをしてしまったからに違いない。
「プレゼント、あげたいならあげようよ。今日じゃなきゃダメなんでしょ?なら、あげようよ」
ケンカした事、きっとデュナンくんは怒ってないよ。
リューイは笑顔でそう続けると、ファレルの前に移動してきて、何故かガッツポーズ。それが可笑しくて、ファレルは口元を緩めると「…そうだね!」と、一言そう返した。
「昼頃、デュナンに連絡してみる。昼ならデュナンもすぐに携帯見れるだろうし」
「うん!」
今日は本当に良い日だ。
デュナンとファレル。お互いを大切に思い合う二人と出会えて嬉しいと思う。
「ファイトー!」
デュナンにも言った言葉をファレルにも言って、リューイはその場を後にした。


■■■



『夜九時半に絶対遊園地の前に来て!』
昼休み。手にした携帯には一件のメールが入っていた。送り主は…ファレル。
「ファレル!」
相手が目の前にいる訳でもないのに、デュナンは思わずファレルの名を声に出してしまった。てっきり怒ったままだと思っていたが、メールをくれるくらいだ。怒りが静まったのだろう。
デュナンはすぐにファレルに返信した。


『今日は本当にごめん。九時半に遊園地だね?必ず行くよ』
デュナンにメールを送信してすぐ、デュナンから返事が返ってきた。それは、今日の事を詫びる言葉と、必ず行くという言葉。デュナンがすぐに返事をくれた事が、たまらなく嬉しい。
「今度こそ約束破らないでよね、デュナン!」
必ず来ると、そう返信してきたデュナンに、ファレルは携帯の画面を見ながら呟いた。



■■■



「デュナン…何してるんだよーっ!」
時計が示す時刻は、九時五分。約束の時間まではまだ十分に余裕があるのだが、ファレルが用意しているプレゼントは時間の制限があるため、どうしても気にしてしまう。
「…やっぱり来れないのかな…」
バイトをしているのだ。いくら必ず来ると返事が返ってきたとはいえ、バイト先の事情もある。信じていない訳ではないが…不安になってしまう。

―――それから十分経っても、更に十分経って約束の五分前になってもデュナンの姿は見えない。
「おーい…」
ますます不安になってしまう。自分が用意したプレゼント、デュナンに見てもらいたいのに…。

「またまたこんにちはー!あ、こんばんはかな?」
そして約束の時間。現れたのはデュナンではなく…リューイだった。
「きっと間に合うから大丈夫!神様は二人を見捨てたりはしないよ」
「え…?」
それだけ言って、リューイは「神様のご加護は必ずあるから」とも続けると、そのまま夜空に向かって飛び立って行った。
「…待つしか、ないか」
リューイの言葉に、焦る心は少しだけ静まった。
必ず行く。
デュナンのその言葉を、ファレルは信じて待った。



■■■



時刻は九時三十五分。約束の時間から五分が過ぎていた。
「もう間に合わないなー、さすがに…」
諦めかけたその時、
「ファレルーっ!!」
自分の名を呼ぶ声が聞こえてきた。それは待ち望んでいた相手の声だ。
「デュナン!!五分遅刻っ!」
「ま、間に合うように走ってきたんですけどっ」
「じゃ、もう少し走ってもらうから!」
「えぇっ?!」
デュナンがファレルのもとへ辿りつくと同時、ファレルはデュナンの腕を引っ張って走り出した。訳も分からず着いた先は…遊園地の定番、観覧車の前。だが、デュナンの目に映る観覧車はいつもの観覧車ではなく…

『大好きなデュナンへ。メリー・クリスマス』

デュナンの目に映った観覧車の電光掲示板には、ファレルからのメッセージが表示されていた。
「間に合わないかと思った。あれ、持ち時間一人十分なんだ」
「ファレル…!俺…凄く、凄く嬉しいですよ!!これは、俺からのプレゼントです」
言って、デュナンは大事そうに抱えていた大きめな包みをファレルに渡す。ファレルは受け取り、中身が何か分かる程度に包みを開けて驚いた。
「これ…俺が欲しかったゲーム機っ!!」
少しだけ開けられた包みの下には、自分が欲しかったゲーム機のメーカーロゴと商品名が見えたのだ。デュナンはこのプレゼントの為にバイトを入れたのだと改めて謝ると、ファレルも謝った。お互いに謝っているのが何だかおかしく思えてきて…二人は顔を見合わせると、一緒になって笑った。
「メリー・クリスマス、ファレル」
「メリー・クリスマス、デュナン」
少し離れた所で、音楽が聞こえる。人ごみも激しくなってきた。どうやら今から夜限定のクリスマスパレードが始まるらしい。
「せっかく来たんだし、観に行こう!」
再び、ファレルはデュナンの腕を引っ張って走り出した。












「神様は二人を見捨てなかったでしょ?」
観覧車のてっぺん。リューイはそのてっぺんに座りながら真下にいて走り去っていくデュナンとファレルを見て呟いた。リューイの膝の上にはデュナンから買ったケーキ。食べながら様子を見守っていたらしい。
「これは私から二人へプレゼント!」
ケーキを安定した場所へ置くと、リューイは立ち上がって光の粉を降らせた。その光の粉はキラキラと輝いた後、雪へと変わる。
雪を目にするのは二人だけじゃないけれど、今、この瞬間、確かにリューイは二人だけの為を思って雪を降らせた。
「幸せなクリスマスを!」



―――――Merry Christmas!!





-FIN-


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

PC
≪0862・デュナン=ウィレムソン・男・16歳・高校生≫ 
≪0863・ファレル=アーディン・男・14歳・中学生≫

NPC
≪リューイ・女・18歳・天使≫

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■         ライター通信          ■
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始めまして!朝比奈 廻です。この度はご参加有難うございます!!クリスマスのハプニング。お楽しみ頂けましたならば幸いです。
ファレル様のプレイングに、思わず「おぉ!」と思ってしまいました。実際に観覧車の電光掲示板にメッセージが出たら、凄く嬉しいですよね!羨ましいです。これからも仲良しな二人でいて下さい!
では、有難うございました。またの機会がありましたら、宜しくお願いします。

朝比奈 廻
クリスマス・聖なる夜の物語2006 -
朝比奈 廻 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年12月21日

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