▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『『夜空』 』
蒼柳・凪2303)&虎王丸(1070)&ダラン・ローデス(NPC0464)

 予想通りというべきか。
 相棒は普段着だった。
 時折吹き抜ける冷たい風に、蒼柳・凪は目を細める。
 雲の隙間から降り注ぐ夕日には力がなく、寒さは増していく一方だ。
「いつ見ても、でけぇ屋敷だな。住人は小物なのに」
「虎王丸」
 相棒の虎王丸を諌めつつ、二人はその一際大きな屋敷へと近付く。
 かなり早く着いたせいもあり、他の客の姿はない。
 門の前に立つ警備の男性に、この屋敷の御曹司ダラン・ローデスから貰った招待状を見せ、中へと進む。
「なーぎー! 虎王丸。こっちこっち上がってきて!」
 見上げれば、3階のテラスにダランの姿がある。
「なんだよ、めんどくせえ、パーティは1階でやるんだろ? わざわざアイツの部屋なんかに……」
「そう言うなよ。ダランに服借りないと、パーティで浮くだろ、お前」
「そんなの、どうでもいいだろ。服がメシ食うわけじゃねーし」
 ぼやく虎王丸を宥めつつ、屋敷の中へと連れて行く。
 屋敷内には召使の姿があるだけで、やはりパーティ客の姿はまだない。
 絨毯が敷き詰められた階段を上り、ダランの部屋が並ぶ3階へとたどり着く。
「おっす、凪。……久しぶり、虎王丸」
 上がってすぐの部屋の前で、ダランは待っていた。
 少しだけ気まずそうなダランの言葉に、虎王丸はむすっとしたまま、『ああ』とだけ答える。
「魔術の勉強はかどってるか?」
 案内された部屋に入りつつ、凪はダランに勉強の進み具合を聞いてみる。
「毎日ちゃんと修行してんだぜ! 皆に気味悪がられてるくらい。……もう少ししたら、俺もまた冒険、とかいける、かな?」
 顔色を伺うように、ダランはちらりと虎王丸を見る。
 虎王丸は不機嫌そうな顔をしたまま、何も答えない。
「暖かくなった頃、山はいいぞ」
 虎王丸を肘で小突きながら、凪が曖昧に答えた。
「暖かくなった頃か〜。山菜とか沢山生えてそうだよな! 実りの春って言うもんな〜」
「それを言うなら、実りの秋だろ」
 思わず突っ込みを入れた虎王丸は、ダランと目が合う前にぷいと横を向いた。
「そっか、秋か! 秋には行けなかったな、クソッ。……あ、そうだ。凪に言われてたもの、用意したぜっ」
 ダランは部屋の隅のクローゼットを開いた。
 そこには、ダランのものと思われる落ち着いた服が掛けられていた。
「そのうち伸びるだろうって、大きめな服を作ってもらったんだけどさ、まだ全然伸びる気配無いんだよな俺の身長〜。多分虎王丸には合うんじゃないか?」
 クローゼットに並べれている服は、ダランが親戚や父の知り合いからプレゼントされた服であった。
 虎王丸の服装が気がかりで、凪が予めダランに頼んでおいたのだ。
「虎王丸、その格好じゃ失礼だろ? 借りて着替えろよ」
「あー? こんな服着たら、堅苦しくてメシが美味く食えねぇだろうが」
「けど、そのままの格好じゃ、会場から追い出されるかもしれないぞ?」
「ぐ……。わかったよ。ったく」
 しぶしぶ服を選び出す虎王丸をその部屋に残し、凪はダランに連れられ、隣室へと足を運ぶ。
 その大部屋には、いくつものテーブルがセットされており、冬の花々が活けられていた。
 部屋の隅には、ソファーが並べられている。
「パーティ、ここでやるのか?」
「うん。今日は俺主催のパーティだから!」
 初耳だった。
 今日、凪がダランの家を訪ねたのは、凪がダランに送った手紙の返事にパーティの招待状が2枚入っていたからだ。
 以前食事会に招かれた時のように、家長主催のパーティだとばかり思っていたのだが……。
「月に一度の若者だけの夜食会! 俺の仲間が沢山来るんだぜっ!」
「仲間って……」
 ダランの仲間と聞いて思い浮かぶのは、金で雇った子悪党ばかりなのだが。実際どうなのだろう。
「凪と虎王丸の席は一応ここでどう? 立食パーティだから、自由に移動してくれよな」
「ダラン坊ちゃま。お客様がお見えです」
 執事のような男性が姿を現し、ダランに告げた。
「わかった、すぐ行く。それじゃ、凪、ええっと……よかったら、最後までいてくれよな。皆が帰った後まで」
 言い残して、ダランは出迎えへと向う。
 凪は1人、室内を見回してみる。
 頭上に輝くシャンデリアは豪華な作りだ。
 大きな窓に広いバルコニー。
 テーブルに掛けられたクロスは、蛍光色で彩られており、大人のパーティと違う魅力を感じる。
 絵画などはなく、装飾は煌びやかでどこかしら雑多だ。ダランらしい。
「凪っ、やっぱコレ無理。脱いでもいいか!?」
 顔をしかめながら、虎王丸が現れる。パンツもシャツもぴちぴちで今にも破けそうだった。
 その様子に、凪は思わず吹き出しそうになる。
「こんなんじゃ、食えねぇ!」
「わかったわかった、他の服を借りよう」
 その場で脱ぎだそうとする虎王丸を、凪は笑いながら止める。
 ダランには大きめな服であっても、虎王丸の体格では小さすぎるらしい。
 隣室に戻り、手頃な服を探してみるが、虎王丸に合いそうな服はない。
 仕方なく、上着だけ羽織らせることにする。

 そうこうしている間に、会場には若者を中心に客が集まりつつあった。
 食べ物が運ばれてくるなり、虎王丸はテーブルに齧り付くかのように前菜に飛びついた。
 ダランは客の対応に追われている。彼と同じ年頃の男女が多いようだ。
 柄の悪い男女も混じっている。服装もまちまちで、理解しがたい格好の者もいるが、皆、自分なりのお洒落をしているようだ。
「持つべきものは、金持ちの友達よね〜」
「普段は関わりたくないけどねー」
 近くのテーブルで笑い合っている少女の言葉に、軽い不快感を覚える。
「みんなー! 今日は俺の為に集まってくれてありがとー!」
 招待客がほぼ集まった頃、ダランが両手を振りながら声を上げる。
「お前の為じゃねーよ」
「そうそう、料理の為よ〜」
「良い出会いがあるかもしれないしー」
 若者達ははやし立てながら笑う。
 酒場でも良く見る光景だ。
 今日は静粛なパーティではないらしい。
 乾杯後に食事会が始まる。……虎王丸は1人フライングしていたが。
 次々に運ばれてくる豪華な食事を口にしながら、時折凪はダランの姿を探す。
 ダランは同じ年頃の少年達に頭を叩かれながら、笑い合っている。
 彼等がダランの言う『仲間』なのだろう。
「ねえねえ、あなた達冒険者よね? 名前なんていうの?」
 先ほどの少女達が話しかけてきたが、適当に会話をして早々に離れることにする。
 綺麗な装飾。
 豪華な食事。
 明るい雰囲気。
 だけど、何かが違う。
 なんとなく、凪はその雰囲気に馴染めなかった。

 数時間後、皆が帰り始めた頃に、ダランが凪と虎王丸の側に寄ってきた。
「さーて、これからが今晩のメインイベント! このテーブルだけへの特別サービス! ダラン様の魔術お披露目ターイム!」
 ダランは未だ食べ続けている虎王丸のフォークに意識を集中する。
「どぉーりゃぁーーーー!」
 掛け声と共に、フォークに魔力を放つ。
「んん?」
 デザートのメロンを口に運んだつもりの虎王丸が、目を瞬かせる。メロンが口に入っていない。
 見れば、フォークがぐにゃりと曲がっているではないか。
「なんだこりゃ」
 虎王丸は片手であっさりとフォークを元の形に戻す。
 そのままぱくりとメロンを口に入れると、にやりと笑う。
「こんなの何の役にも立たねーじゃねーか、こーゆーのは、魔術じゃなくて、『芸』っていうんだ」
 雰囲気に釣られたのか、それとも美味しい食事のせいか、虎王丸がダランに向けた表情は笑みであった。
「な、なにおぅ〜! 触らなくても出来るんだぞ! 立派な魔術じゃんか」
「手を伸ばせて触れる距離にあるんなら、魔術使う意味ねーじゃん」
「ちゃんと見える範囲なら、遠くのものでも曲げられるんだぜ!」
「俺なら、お前が魔術をかける前にたどり着いて力で曲げることができるぜ」
「う。ううううっ、そんじゃ、あっちにあるメロンで勝負だ! どっちがあのメロンを先に食べれるか」
「いいだろう」
 ダランが指差したのは、反対側の端のテーブル。
「凪、号令だしてくれよ!」
 ――そう振り返ったダランの顔は、今日一番の輝きを放っていた。

********

 客が全て帰った後も、ダランの頼みで、凪と虎王丸は屋敷に残っていた。
「今日は泊まっていってくれよ、なっ!」
 特に断る理由もなく、虎王丸に関しては朝食を期待して、今夜はお世話になることにする。
 ダランが2人を招いたのは、一番奥の部屋であった。
 部屋は暖かいが、ベッドはなく、大きなマットが敷かれているだけだった。
「ここで、上を向いて眠るんだ。俺の一番気に入っている部屋」
 言って横になったダランの隣に、凪と虎王丸も横になり、毛布をとった。
 それは雑魚寝とも言えたが、野宿の経験もある二人には、特に抵抗はなかった。
 ダランは二人が横になったことを確かめると、ランプの明りを消した。
「ほら、星が見えるだろ! ここから見える星は全部俺のものだ! 見せたのも二人が始めてなんだぜっ」
 天井は硝子張りであった。
 硝子をちりばめたかのような細かい光が輝いている。
「あの星とあの星を結んで出来るのは餃座〜。よし、虎王丸にやろう」
「食えねーからいらね〜。いんや、明日の朝食に出してくれー……」
 語尾が小さいと思ったら、そのまま虎王丸は眠ってしまった。
「そうだ」
 半身を上げて、凪は自分の荷物を手繰り寄せた。
「ダラン、これクリスマスプレゼント。ソーンではクリスマスにプレゼント贈るものなんだろ?」
「う、うん……」
 ダランは驚きながら、凪からプレゼントを受け取った。
 それは、御守りであった。
「俺の故郷の御守りだ」
「故郷のって……故郷ってそんなに行き来できる場所じゃないんだろ?」
「うんまあ、でもこれは、お前の方が必要だと思うから。ダランは危なっかしいからな」
「そ、そっか。うん、ありがと、ありがとな、凪!」
 両手で握り締めて今にもはしゃぎだしそうに微笑むダランは、可愛らしくもあった。
「お、俺からも何かプレゼントをー、何がいい!?」
「そうだな」
 凪は横になって空を見上げる。
 満天の星空を。
「俺にはどの星をくれる?」
「え? あ、う〜んと……」
 ダランは星空を見回した後、一方向を指差した。
「凪にはあの星を。回りの星と繋いで扇座」
 一際輝く星だった。周辺の細かな星々を包み込むよう星を結べば、豪華な花扇のようだった。
「なるほどな……。素敵なプレゼントだ、サンキュー、ダラン」
「いや、俺の方こそ! 俺の方こそ、御守りありがとう。それ以外にもありがと……。いつもありがとう。俺、もっと対等にお礼が出来るように……なりたい」
「対等?」
 今日のパーティにしても、ここでの夜にしても、凪はダランから十分贈り物を貰っていた。
 そう言おうとした凪だが、小さく規則的な音を耳にして、言葉をとめた。
 横を見れば、二人の友が寝息を立てている。
 月と星明りに照らされた二人は、穏やかな寝顔を見せていた。
「おやすみ。また明日な」
 そっと、目を閉じる。
 まぶたの裏にも、星がきらめいていた。
 多分。
 明日ではなく、今日のうちにまた2人と会うのだろう。
 そして、共に笑い合うのだろう。
 夢の中で。


●ライターより
ライターの川岸です。ご依頼ありがとうございました。
こちらのノベルは、時期としてはクリスマスの少し前と思われます。
ダランへの、プレゼントありがとうございました! 凪さんに貰った御守りは勿論、虎王丸さんと普通に会話ができたことも彼にとっては素敵なプレゼントに他なりません。
クリスマスや年末年始もお二人にとって素敵なものでありますように。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
川岸満里亜 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2006年12月21日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.