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『セオリー 』
アヤカ・レイフォード6087)&(登場しない)


 そんな物があれば、いや、
 そんな物が、あったからか。

◇◆◇


 アヤカ・レイフォードがその日、子供を虐め殺していた夜の事だ。
 夜道は危険だ送ってあげようと、優しい声で語りかけ、迷子になった少年を路地裏まで誘導すれば――彼女は軽く豹変した。
 小さな顔を人並みの力で、殴る。
 首がぐるりと跳ね回る、何が起きたか理解しえない少年は、彼女の指先から流れ出す糸で両腕と両足を拘束され、丸太のように転がり、腹への蹴りで回転は加速された。
 何が、どうしてか、解らない。
 そして、やがて疑問は童から完全に抜け切る、この世の物とは思えない痛みで。
 蹴る、蹴る、何度も蹴る。華奢な身体を大いに振りかぶって、踵で頭蓋を射抜き、……遭えて足を止めて相手の瞳が自分を認めた刹那思いっきり蹴り上げて、
 小さな男の子は蹂躙されていた、理由は、はっきりしていた。
 それが彼女の楽しみであるからして。
 愉悦であるからにして――生贄とでもいえばいいか、この残虐的な行為は、そして、少年が助けて助けてと、お父さんお母さんと、やめてやめてと、許して許してと、
 その子には未来が詰まっていた、小さいながらも夢もあった、優しさと愛もたっぷりと受けて、迷子になったその子を、今も両親は探している、
 色々なもので膨らんだ体が、雑巾のようにボロボロになっていく。
 蹴り上げるアヤカの表情は、とても良く笑っていた。
「ほらぁ!」
 今まで無言を貫いていた、それが被害者に恐怖をより与えていた。だが、最早声も失った少年に反するよう、「泣きなさいよ! 笑いなさいよ! もう終わりなの!?」子供のようにとても無邪気な残酷さ、大人のようにとても狡猾な残酷さ、
 歯が、口の中で数本抜けても、その痛みも死のうとしている子供を屠り、アヤカの尾から脳天まで快感が突き抜けようとしたその、瞬間だった。
「待ちなさい!」
 声がする、方に振り向く、
 そこに居たのは――余りにも不思議だった。というか、
 頭がおかしい格好だった。
「この世にのさばる全ての悪は」
 一人は、ピンク色のフリル付きドレスに身を包んだ、変な飾り物のスティックを持っている。
「この私達、ジャスティスガールズユニオンが」
 もう一人も、ドレス姿だが格闘に向いている、黒だの白だののいでたちをしており、
「お日様に変わって――」
 一番奇異な、ブレザー制服を改造したようないでたちの少女が決めポーズを取り言葉を続けようと瞬間、
 ぐちゃり、と、アヤカが殺す気で放った踵での踏みつけは、打ち叩き柔くなっていた、少年の顔面を完全に陥没させて、殺せた。
「……え?」
 血溜りが、じわりと子供の顔からにじんだ。
 事切れた。
「な、何、……何して」
 何をしたも何も、余計な者が来たからとどめを刺しただけだ。
「貴方という人は!?」
 ……助けに来たのか、なら何故、さっさと助けなかった?
 なんだ、こいつら。
 今のは、時を止める呪文のつもりだったのか?
「……何邪魔してんのよ、あんたら」
 不愉快が、起動する。
「折角、きもちよーく殺れたものを、あ?」
 不機嫌が、増長する。
「死ね」
 理不尽となって、彼女を三人へと歩ませた。
「う、うろたえちゃ駄目よ!」魔法少女ヒロインが、「あの少年の無念を晴らさなきゃ!」
「そうよ、そうよね」格闘ヒロインが、「あの子が天国で微笑めるよう、この悪を倒さなきゃ!」
「見守っていて、みんな」ブレザーヒロインが、「いくわよ、私達の新しい力、アルティメットチェンジフォーム」
「「「変身!」」」
 既に奇妙ないでたちが、突然、輝き始めた。少女達三人はそれぞれ瞳を瞑る、何処からか風も吹いてないのに、波のようになびくコスチュームに、新たな飾りつけがされていく。
 魔法少女ヒロインの胸には、ハートのブローチが、格闘ヒロインの腕には、星の形をしたリストが、そして、ブレザーヒロインの腰にはベルトが装着され――
 破砕する。「んげふっ!?」
 おおよそ、少女とは思えない呻きと同時に、変身中の彼女はコンクリートの壁に蹴り飛ばされた。
 そして地へ倒れるよりも先にアヤカは駆けて、「ま、待って」いまだ発光しながら武器が装着されていく少女のコスチュームを、長く長く伸ばした爪で裂いていく。……肉ごと抉り、血に染めていく。
 他の二人は未だ変身中であった。全く、どうして三人同時? 一人一人ならいいものを、こんな隙だらけ、
 不愉快になる。
 三十秒くらいじゃ、全然殺し足りない。
「あ、あぎ、あ!」
 体中に風穴を開けた後彼女は、その爪から今度は、鉄の強度に匹敵する糸を取り出し、
「アルティメットマジックガール!」
 ごてごてとなった、魔法少女が片足をあげた時、四肢と首にそれを絡ませて、
「アルティメットグラップラガール!」
 ごてごてとなった、格闘少女が片腕をあげた時、全て繋がった手を引いて、
「「……あれ?」」
 ごてごてとなった、ブレザー少女の声を待っているその時、
 アヤカは、そのヒロインをバラバラにした。
 斬殺、惨殺。
 ……朝の時間にはけして流れない、光景を見て、
 尚満ちたりぬように、白目を剥いた少女の頭を足蹴に転がす、アヤカを見て、――二人は声を失って。
 悪だとか、そんな範囲じゃない。外道とも、何か違う。
 獣のような習性を持つ、これは、こういう生き物なのだ。
 触れてはいけなかった物なのだと――そう理解しても、彼女達には、
「ま、負けない!」
「そう、負けない! ……見守っていて、ブレザーガール!」
 正義があった。題目があった。
 グラップラガールは身の丈の五倍跳躍して、慣性の法則を無視して斜め上から光を纏い蹴りを放つ。弾力のあるよう糸を組みそれを阻むが、同時に、マジックガールの極大の閃光が己に向かって、髪の切っ先を焼いた。
 ふざけているとしか思えない奴等の、全力での戦力は、アヤカに冷や汗をかかせる。強い、こいつら、そう簡単に殺せない、
 逆に殺されるのでは?
 今まで圧倒しかしていなかった所為で、肉体が殺し合いに順応しきれぬ、感覚を研ぎ澄まし一つの殺すという思念に己が身を染め上げようとするが、それを許さず、絶え間ない近接攻撃と絶え間ない遠距離攻撃が襲い掛かる。
 そうして、アヤカは、正義にとっての悪は追い詰められた。拙い、
 絶対に拙い――「チャンスよ、マジックガール!」「ええ今こそ私の正義の力!」
 マジックガールはステッキを振りかざして――
「フラワーアメンションララルマチックトイユーエンドラヴァーラヴァーラヴァーミラクルアディメンションスーパスターキュンキュンハートアロマティッ」
「ふざけるなぁ!」
「ひぶぅ!?」
 小馬鹿にしているとしか思えない、長ったらしい呪文を詠唱し始めた彼女を殴りつけ、同時に、ステッキを持った腕を鉄糸で捥いだ。
「い、ひ、ぎゃぎ!?」
 呪文を唱えるのを邪魔しなかったグラップラガールは、呆然とその様を見ている。なんで? どうして?
 必殺技は、最後まで待たれるのに、
 だが、コンマ0秒が勝負の世界で、三十秒のシークエンスは余りにも――
「ああ! 殺す気なの本当に!? 舐めてるの私を! さっきから、ふざけた格好で、チャランポランな行動で、あ!? 死ねよ、死んで謝りなさいよ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
「いだ、いぎ、ひぃぃぃぃぃ!?」
 足元を、爪先から何度も削るように切断していく。大根を摩り下ろすように彼女を殺していく、「ひいいいいいいいいいいいい!」
「死になさいよ、死ね、死んで」
 太ももまでその所業が達した時に、マジックガールの完全に瞳に力はなく、
「死んでごめんなさいって言えぇ!」
 そんな矛盾も、実行出来ず。
「……はっ」アヤカは、不機嫌だ。「つまらない」
 首の下までそうする前に、マジックガールは死んでしまったのだから。
 全くもって満たされない、何一つ、満ちない。だから、
「何、逃げようとしてんのよ?」
 ようやく、自分の戦う相手が悪すぎたと理解した少女を、糸で縛りぐいと引き寄せて、
「貴方が逃げたら私はどうして満たされればいいの?」
 その笑顔の形は普通だけど、だからこそ、
 異常――
「殺させてよ」
 狂っている。


◇◆◇

 ……ねぇ、
 他者の動きを、圧倒する信念を語る術を持ち、
 敵が下手に手出しを出来ぬ程の、衝撃波や閃光が発生する変身方が有り、
 同じく要領で最大の一撃を放てる力を携えた、
 そんな存在、そんな法則、
 そんなセオリーはこの世、この夜に存在しなく、
 あの日だって――
 それとも、あれが正義だというのか?
 アヤカ・レイフォードは、
 人間と、悪魔の子は。

◇◆◇


「ほら、どうしたのよ! 正義の味方!」
 笑ってる、笑ってる、
「逆転しなさいよ、反撃しなさいよ、助け呼びなさいよ、」
 殺しながら笑ってる、
「もっと私を楽しませてよ!」
 鉄の糸を針金のように身肉に潜り込ませ、操り人形のように、自分相手に戦わせる。
「そうよ、ほら、パンチ、ああそんなのかわせるわ、しっかりしなさいよぉ」
 神経に絡んだ糸が無理矢理身体を動かす度に、想像を絶する痛覚が起こり、肉の内にたっぷりと血が溜まっていく。
 許してくださいと泣いている。靴でも舐める勢いである、
 だから、舐めろと言った、身体を糸で絡ませる、いぎゃあいぎゃあと声が漏れ、無理矢理顔を靴に押し付けさせた、そして舌が爪先に這って――
「唾液で汚れるでしょうがぁ!」
 顎を思いっきり蹴り上げた。そして無理矢理身を起こさせて腕でこちらに向かわせながら蹴る蹴る蹴る蹴る立ち上がらせ蹴る頭を突っ込ませ蹴る尻を向けさせ蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る、
「何よさっきの威勢、どうしたのよかかってきなさいよ! あ、殺して、殺してだってー、ええいいわよ、殺してあげるわ」
 そして、
 彼女は笑っている。
「朝まで、たっぷりとね」
 月は遥か高く、夜明けは永遠に遠く――


◇◆◇

 正義があの日勝ったなら、
 でも、そんなセオリーは存在しない。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年12月20日

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