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『クリスマス福引 』
安藤・浩樹6612



「はぅ〜。早いものです。もう冬ですか」
 ステラはクリスマス色に染まっている街中を見回す。
 通り過ぎる人々は寒さに白い息を吐く。
 少し立ち止まって空を見上げると、少し天気が悪い。
「なんだかまだ先なのにクリスマスのことばっかり……。皆さん商売上手なんですねぇ」
 ほうほう、と頷く彼女は首に巻いている赤いマフラーをしっかりと強く巻き直し……そこで手を止めた。
「そ、そうです! こういう時こそあれです!」
 何やら思いついた彼女は嬉しそうにニタニタした。
「ふっふっふっ。日本人は福引が好きと聞きました……。これはやるべきです! クリスマス福引!」
 ガッツポーズをとっていた彼女は周囲から注目されて慌てて身を縮まらせて照れ笑いをし、歩き出す。
(あのガラガラ回すのを用意して……それで、くじを引いてもらうんですぅ)
 そのついでに……。
(先輩に言われていた分は用意できますかねぇ、たぶん)
 にしししし。
 悪い笑みを浮かべるステラはそこではた、とした。
 そういえば景品がいる。
(そうですねぇ……。まあなんとかなりますか)

***

「でも、くるみちゃんがわざわざ学校まで迎えに来ることなかったのに」
 安藤浩樹はそう言いながら歩く。彼は制服姿で自転車を押していた。いつもは自転車で通学しているのだが、今日は恋人の七種くるみが迎えに来たので歩きなのだ。
 隣を歩くくるみはくすくすと笑った。
「ちょうど仕事が早く終わったから。まあいいじゃない。たまには校門前で彼女が待っている、ってのも嬉しいでしょ?」
「……うっかりいつもみたいに裏門から帰るつもりだったから危なかったよ」
 自転車置き場は裏門の近くだ。自転車通学者はほとんどが裏門を利用するのである。
 今日に限って校門前に彼女が堂々と立っていたので騒ぎになり、浩樹は正門から帰ることになったのだ。
「目立ちすぎだよ、くるみちゃん……」
「そうかな? でもニット帽被ってるし、眼鏡もしてきたんだけど」
「……そんな軽い変装じゃ、すぐにバレるから……」
 公認になったとはいえ、これでは彼女のマネージャーにまた文句をくどくどと言われるに違いない。
 帰り道に通る商店街を抜け、のんびりと帰路を行く浩樹は妙なものを見つけた。
 道端に不自然に置かれている机。その背後には紅白の幕。どう見ても小さな福引会場ではあるが……。
 浩樹は後ろを振り向く。通ってきた商店街はもう米粒ほど小さい。
(……商店街のだったら、こんなに離れてないと思うんだけど……)
 インチキ占いとかの類いだろうか……?
 胡散臭さに浩樹は顔をしかめる。
「あ、ねえねえ浩樹君、あそこで福引やってるよ!」
 くるみに腕を引っ張られ、浩樹はがくっと肩を落とす。いま無視して通ろうとしたのに……これでは無視できないではないか。
「ダメだって。だって僕たち、福引の券を持ってないじゃない」
「あ。そうか」
 残念、とくるみがしょんぼりした。
 二人は福引をしている机の前をそのまま通ろうとしたが、受付をしている少女に声をかけられる。
「そこ行く高校生のお二人さん、よろしければ福引しませんかぁ?」
 幼くて高い声。それにかなり可愛い声だった。
 浩樹は怪しげな視線を向けるが驚く。赤いサンタ衣装を着た、西洋人の金髪少女が笑顔で立っていたのだ。かなり可愛いが、どう見ても小学生……よくて中学生だ。
「したいけど……券を持ってなくて」
 くるみの言葉に少女は笑顔で言う。
「大丈夫ですぅ。券がなくても引ける! これがこの福引の特徴ですぅ!」
「券がなくても引ける……?」
 浩樹とくるみが顔を見合わせた。どういうことだ?
 少女はピッと人差し指を立てた。
「このガラガラを回すのに必要なのは、恥ずかしい思い出一つですぅ! どうです? かなり良心的な福引だと思いませんかあ?」
「恥ずかしい思い出!?」
 浩樹が仰天する。そんな福引、聞いたことも見たこともない!
(やっぱり怪しい……)
 じとっと金髪少女を見たが、横のくるみは興味津々な様子で尋ねていた。
「何が当たるの?」
「一等は温泉旅館へ一泊二日。二等は食べ物と飲み物のセット。三等はソリで空の散歩ですぅ。あ、残念賞はボールペンですよ」
「ソリで空の散歩?」
 怪訝そうにするくるみに、少女は「はい!」と大きく元気に返事をした。
「こう見えて、わたしはサンタですぅ。三等はわたしが責任もってソリで空の散歩をさせてもらいますぅ」
「サンタ?」
 きょとんとしているくるみとは違い、浩樹は頭が痛くなってくる。どこの世界に堂々と「自分はサンタだ!」と宣言するヤツがいるというのか……。しかもサンタの定番と、目の前のこの少女はかなりかけ離れている。白ヒゲでも老人でもないからだ。だいたいなぜサンタが福引をするのだ???
「……くるみちゃん行こう。絶対怪しいよ、ここ」
「そうかな……」
 戸惑うくるみの前で、少女は首を傾げた。
「くるみ……? ああ! 『真夜中の紅茶』!」
 少女は両手を出してくるみの手を握り、上下に振った。
「CM、かわいくて好きですぅ」
 彼女はそのままくるみの胸元を見遣り「うっ」と声を洩らす。
「ほ、ほんとにおっきぃですねぇ……」
 自分の平らな胸を見てしょぼんとする彼女はくるみから手を離した。
 くるみは浩樹に笑顔で言う。
「ね! 一回くらいして行こうよ!」
「ええっ!? くるみちゃん本気!?」
「ファンは大事にしないと! えっとぉ」
 突然自分の恥ずかしい思い出を語りだそうとするくるみを浩樹が止めた。
「ダメだって! どこにマスコミがいるかわからないのに!」
「……そっか。じゃ、浩樹君がやってよ」
「ええっ!?」
 がーんとショックを受ける浩樹だったが、金髪少女のほうを見遣り、それからくるみに降参ポーズをとった。
「じゃ、じゃあ一回やります……。ここで話せばいいのかな……?」
「あ、待ってください。秘密厳守のため、このツボに顔を突っ込んで話してくださいね」
 と、受付の少女がごそごそと下から出してきたのはウツボカズラに似た、わりと大き目のツボだった。大人の人間の頭がすっぽり入りそうな感じがする。
「ここに顔を突っ込んで話してください。恥ずかしい思い出か、そうでないかはすぐわかりますから、ズルはできません〜」
 はいどうぞ、とツボを差し出され、浩樹は「うぅ」と小さくうめいた。怪しい。怪しすぎる。生まれて17年。心霊写真を撮ることはたまにあるが、ここまで奇妙のオンパレードは初めてだ。
 くるみからの期待がこもった眼差しを受け、浩樹は渋々とツボに顔を突っ込む。中は暗いが息苦しくない。しかも、狭くもなかった。それが余計に怖い。
 小さく息を吸い込み、思い返す。
「僕は小学生までサンタが本当に存在しているって信じてた。そんな昔のことなんだけど……サンタが一目見て、僕とくるみちゃんの家だってわかるようにって一生懸命画用紙で煙突っぽいものを作って屋根に置いたんだよね。そしたら……僕とくるみちゃんのお父さんがサンタの格好をして一生懸命プレゼントを持ってそこに入ろうとしてて……屋根から落ちそうになってて助けたんだよね」
 懐かしい思い出でもあるが、やはり恥ずかしい思い出だ。
「こ、これでいいのかな……?」
 不安そうにしながら浩樹がツボから顔をあげる。
 受付の少女は「はい」と頷くと抽選器を浩樹の目の前に置いた。
「さ、どうぞ!」
「…………」
 浩樹は喉を鳴らし、取っ手を掴んでぐるぐると回した。抽選器の中でたくさんの玉がぶつかり合って音を出す。
 手を止めると、抽選器の穴から玉が出てきた。色は黄色。
 からんからんと金髪少女がベルを鳴らす。
「おめでとうございますぅ。二等ですぅ」
「二等? すごいね、浩樹君!」
 くるみまで喜んだ声を出すので、浩樹は呆然とする。
 受付の少女は紙とボールペンを差し出してくる。
「ではここに住所とお名前を書いてください。イブの日にお届けに参ります。どんなものがいくかは、届いてからのお楽しみですぅ」
「え? 今日くれるんじゃないの?」
 驚く浩樹に彼女は申し訳なさそうに肩を落とした。
「すみません。ここはわたし一人でやっているので手が回らないんですぅ。当たった人に一斉に配りに行くほうが効率よくて……」
「配りに行く???」
「はい。サンタなので、配達業もしてますぅ。よろしければ今度使ってやってくださいね」
「…………」
 不思議になりつつ、浩樹は渡された紙に住所と名前を書いた。こういう情報が悪用されそうにないのは……やはりこの金髪少女の雰囲気のせいだろう。悪い子ではないと思うし。
(……というか、かなり純真というか……間抜けそうに少し見えるけど……)



 クリスマス・イブ――。

 16時前、チャイムが鳴って浩樹は慌ててドアを開けた。
「サンタ便のステラですぅ。この間の福引の二等をお届けに参りましたぁ。ここにハンコください〜」
「……ほんとに来たんだ」
「ええ〜? 嘘なんてつかないですよう。早くハンコ!」
 浩樹はハンコを取ってくるとすぐに押す。ステラと名乗った金髪少女は「それでは〜」と頭をさげて帰ってしまった。

 くるみに連絡すると彼女はすぐに浩樹の家まで来た。二人は居間のソファに座り、早速二等の小さなダンボール箱を開けてみる。中には色とりどりのキャンディが入っている。形も大きさも様々なもので、美味しそうだ。それと一緒に紅茶のティーバッグが入っている。
「わあ! 可愛い!」
 喜ぶくるみはキャンディが入っている袋を取り出して眺めている。確かに女の子が喜びそうなものだ。
「食べようか」
「うん!」
 浩樹は袋を開けて一つ口に含む。あ、この味はマスカットだ。
 くるみはどれにしようか悩んでいるようで、「これ! あ、でもこっちも」とぶつぶつ呟いている。
(うん……味に変なところはないし……むしろ美味しいかも)
 口の中で味を堪能していたが、頭とお尻のあたりがなんだかむずむずしてくる。不思議になってはいたが、そのまま構わずに食べていると……。
「ひっ、浩樹君!?」
 くるみが仰天した声をあげた。
「? どうかした?」
「み、耳!」
 指差される。だがそこは頭の上であって、浩樹の耳がある場所ではない。
「そこは頭だよ?」
「だから頭に耳! ネコ耳がぴょこんってさっき生えて……!」
「は?」
 浩樹は自分の頭の上に手を遣る。生暖かい感触があり、「えっ」と小さく声を洩らした。
 両手で触る。感触が手を伝わる。それは確かに耳だ。しかも猫の!
(まさか……)
 腰をあげて背後を振り向くと、猫の尻尾が生えているのが見えた。ズボンの上の部分の隙間から外に出ているのだ。
「あ、説明書が入ってる。なになに……。
『注意。カラフルキャンディは様々な味が楽しめますが、同時にアニマル変装機能があります。効果は30分。耳や尻尾が生えたりしますが、人体に悪影響はありません』
 だって!」
「……それを先に言ってよ……」
 がっくりする浩樹だったが、くるみは楽しそうだ。
「すごいね。おもしろい!」
「面白くないよ、僕は」
「そうかな? 似合ってて可愛いよ? あ、そうだ。どっかにねこじゃらしなかったかな……」
 立ち上がるくるみの姿に浩樹は青ざめた。
「ま、待っ……! 僕は猫じゃないよ!」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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PC
【6612/安藤・浩樹(あんどう・ひろき)/男/17/高校二年生】

NPC
【七種・くるみ(さいくさ・くるみ)/女/17/アイドル】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、安藤様。ライターのともやいずみです。
 ちょっと変わったくるみとのクリスマス、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
クリスマス・聖なる夜の物語2006 -
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東京怪談
2006年12月18日

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