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『クリスマス福引 』
梧・北斗5698



「はぅ〜。早いものです。もう冬ですか」
 ステラはクリスマス色に染まっている街中を見回す。
 通り過ぎる人々は寒さに白い息を吐く。
 少し立ち止まって空を見上げると、少し天気が悪い。
「なんだかまだ先なのにクリスマスのことばっかり……。皆さん商売上手なんですねぇ」
 ほうほう、と頷く彼女は首に巻いている赤いマフラーをしっかりと強く巻き直し……そこで手を止めた。
「そ、そうです! こういう時こそあれです!」
 何やら思いついた彼女は嬉しそうにニタニタした。
「ふっふっふっ。日本人は福引が好きと聞きました……。これはやるべきです! クリスマス福引!」
 ガッツポーズをとっていた彼女は周囲から注目されて慌てて身を縮まらせて照れ笑いをし、歩き出す。
(あのガラガラ回すのを用意して……それで、くじを引いてもらうんですぅ)
 そのついでに……。
(先輩に言われていた分は用意できますかねぇ、たぶん)
 にしししし。
 悪い笑みを浮かべるステラはそこではた、とした。
 そういえば景品がいる。
(そうですねぇ……。まあなんとかなりますか)

***

 ちりんちりん、と福引でよく鳴らされるベルの音が響く。
 梧北斗は「お?」と思い、音がどこからしたのか探した。
「どっかで福引やってるみたいだぞ」
 横を一緒に歩く欠月にそう笑って言うと、彼は「へぇ」と呟く。あまりそういうのに興味はないのかもしれない。
 街はすっかりクリスマス一色だ。クリスマスソングが絶えず流れ、豊かに装飾された様々な店が並んでいる。
「クリスマスねぇ。いいね。可愛い女の子と街を歩きたいね」
「……悪かったな、横を歩くのが高校男児で」
「ほんとにねー。クリスマスが近いってのに、なんでボクらは恋人がいないのかなぁ」
「遠い目をして言うな」
 北斗は唇を尖らせる。
「だいたいおまえはモテるんだから、カノジョの一人や二人くらい、どうとでもなるじゃないか」
「あー……」
 欠月はにやりと笑う。
「やっぱりさ、夢を見たいじゃない」
「夢?」
「特別な女の子をカノジョにしたいとは思わないの?」
「…………」
 唖然とした北斗が意外そうに目を瞬かせる。欠月がそんなことを言うとは思わなかった。
「ロマンチストだったっけ、おまえ……」
「まさかぁ。なんかさぁ、肉体の平穏じゃなくて、精神の平穏を求めたいって思っただけ」
「に、肉体って……」
 意味を察して顔を赤らめる北斗は、ごほごほと咳をする。あららと欠月は笑った。
「まだ慣れないの? こういう話題」
「慣れるかっ!」
「もー。これでもかなり遠回しに言ってるんだよ? いつになったら男同士の会話ができるんだろ……」
「だから遠い目すんなっての!」
 北斗がムキになって怒ると欠月は余計に喜んで笑う。どうやら、からかわれているらしい。
「運命の出会いなんてさ、待っててもやって来ないんだから。しっかりしないとカノジョの一人もできずに終わるかもよ? 寂しいねぇ」
「決定すんなよ!」
「ところでさっきの福引って、アレのこと?」
 唐突に話題を変えられて思わずズッコけそうになる。乾いた笑いを洩らす北斗は欠月が指差す方向を見遣った。
 道端に机を置き、そこで福引がされているようだ。サンタ衣装の少女が去っていく客に「ありがとうございました〜」と頭をさげているところだった。
「あらま。可愛いサンタの女の子だね。やっぱりクリスマスだからああいう衣装なのかな」
「……あれ、本物のサンタなんだけどな……」
 ハハハと乾いた笑みを洩らす北斗であった。あの福引を受け付けている金髪の少女は、北斗がよく知る人物だ。
 顔をあげたサンタの少女は北斗に気づき、にっこり微笑んだ。
「あれぇ? 北斗に向けて笑ってない?」
「…………」
「ハッ! も、もしかしてあのコが北斗の好きな女の子とか? いや……うん、いいんじゃない? そのうち年の差なんて気にならなくなるよ、きっと」
「ちっがーう! なに勝手に決めてんだ! だいたいあいつはああ見えて16だって……」
 語尾が小さくなった。改めて少女を見ると……確かに小学生というか、中学生というか…………。
 うーんと北斗が顔をしかめた。
「……16歳って聞いたけど……」
 北斗と欠月は彼女に近づく。
 福引はやっているが、規模がかなり小さい。
「いらっしゃいませ〜! 福引、していきませんかぁ?」
 金髪少女・ステラは北斗と欠月に向けてそう言う。しかし彼女はすぐさま「うっ」と洩らして欠月を凝視した。
「うわぁ……すごい美形のお兄さんですぅ」
「あはは。よく言われるよ。ありがとう」
「おまえな……ちょっとは遠慮しろよ」
 欠月の応えに北斗が呆れる。北斗はステラを見遣った。
「福引をしていきたいけど、券を持ってないから無理だ。悪いな、ステラ」
「あらぁ。券なんて皆さん持ってませんよ?」
「は?」
 なんだか嫌な予感がした。
 パッと見て、ここは普通の福引会場のような気がする。規模の小さいところを除けば。
(普通なんだけど、なぜか普通じゃない気がするのは俺だけだろうか……)
 クリスマス近くにステラが街中にいることは不思議ではないが、なんだろう……なんだか非常に、気味が悪い。
「券がないなら、どうやって福引なんてするんだよ?」
「恥ずかしい思い出を一つ話してくだされば、福引が一回できますぅ」
「…………なに?」
 思わず訊き返す北斗に、ステラは丁寧にもう一度言う。しかもゆっくりと。
「ですから、恥ずかしい思い出一つが、福引一回分になるんですぅ」
「なんで恥ずかしい思い出なんだッ!?」
 まだ何も言っていないのに照れてしまう北斗に、ステラが「えっへん」と、ない胸を反らした。
「いいじゃないですかぁ。お買い物しなくても福引できるんですよ〜? お得ですぅ」
「…………おまえ、なに企んでる……?」
「なんにも企んでませんってばぁ」
 ぷうっと頬を膨らませるステラ。なんとも可愛らしい仕種だが、北斗は胡散臭さに素直にそう思えなかった。
(怪しい……!)
 じーっとステラを凝視していると、彼女は視線だけ逸らした。ますます怪しい。
「こら……どうして目を逸らすんだ?」
「逸らしてませんよぅ。
 福引するなら早くしてください〜。後が支えますぅ」
「後が支えるって……俺たち以外いないじゃん……」
 道を行き交う人々は先を急ぐように歩いている。こちらに見向きもしない。
 だがしかし、景品が貰えるのなら……と北斗は視線をステラの後方に向ける。紅白の幕には景品名が書かれた紙が貼ってあった。
 一等は温泉旅行。おぉ……ステラのくせに奮発したなぁ。
 二等は食べ物と飲み物のセット。……食べ物? そんなもんあるならステラが食ってるんじゃないのか?
 三等はソリでする夜の散歩。……ソリ? 夜の散歩???
(どうなんだこの景品……まともなのか?)
 まあいいや。
「えー、コホン」
 咳払いをして、北斗はなぜか周囲を確かめた。恥ずかしい思い出……恥ずかしい思い出ねぇ……?
「なんだその……ステラに言えばいいのか?」
「あ、こちらへどうぞ」
 ウツボカズラの形をした入れ物を差し出される。ちょうど顔がすっぽり入るくらいのサイズだった。
 恐る恐るそこに顔の前半分を突っ込み、北斗は驚いた。狭いはずなのに、中は広い。
(な、なんだこれ……気色悪ぃ……)
 すぅ、と息を吸い込んで北斗はまだ記憶に新しいあの出来事を思い出していた。
「こないだ遅刻しそうで急いでたんだけど、なんでか……」
 思い出して赤面してしまう。
「一階下の教室に飛び込んで……まぁ、そこは1年の教室だったわけで……皆こっち見てたわけで…………ははは」
 最後のほうはもう、笑いしか出なかった。疲れたような笑いを洩らす始末。
 ツボから顔を出した北斗は「はぁ」と息を吐く。
「お疲れ様ですぅ。さ、これを回してください」
 ステラに促され、北斗は目の前の抽選器を回した。出てきた玉の色は――。



 クリスマス・イブ――。

 夜、北斗はうんと厚着をして現れた。約束した欠月も病院からやって来た。
 北斗は腕時計を見る。時計は夜の8時過ぎ。
「はいは〜い、お待たせしましたぁ」
 上空からステラの声が聞こえ、二人は見上げる。トナカイだ。そして……。
「わぁ。凄いね。本物のサンタみたい」
「いや、だから本物なんだって、あいつ……」

 北斗が当てたのは三等の、夜空をソリで散歩、というやつだった。
 他にも当たったヤツがいるので、時間は予約制だ。北斗はこの時間帯を選んだのだが、どうやら他の当選者とはかぶらなかったようだった。
「さぁさぁ、お二人とも乗ってください〜」
 荒い息を吐き出しているステラを見て、北斗が心配そうにした。
「おまえ息があがってないか?」
「超特急で来ましたから!」
 フヒヒと妙な笑いを洩らした彼女は二人を急かす。
「ほら早く! 次があるんですからちゃっちゃと乗っちゃってください!」
「わ、わかったわかった」
 北斗が渋々という顔をしてソリの後ろ側に乗り込む。その様子に欠月が愉快そうに笑みを浮かべていた。
「? なんだその顔は」
「いや? 可愛いなぁと思ってね、二人が」
「ええーっ!?」
 顔をしかめる北斗と違い、手綱を握っているステラは素直に照れた。
「どうもありがとうございますぅ」
「こら! 馬鹿にされてるんだぞ、おまえ」
「そうだとしても、嫌味のない言い方ですし、女の子は素敵な男の子に『可愛い』って言ってもらえると嬉しくなるもんですぅ」
 そういうもんなのか?
 理解不能だと言わんばかりの顔をしている北斗の横に、欠月が腰掛ける。そして彼は耳打ちしてきた。
「だから北斗はモテないんだよ。女心を多少なりともわからないとね。試しに言ってみたらどう?」
「えー? 俺がステラにか?」
 前の席に座るステラが手綱を引く。するとソリが浮かび上がった。空中に駆け出すトナカイによって、ソリが引っ張られる。
 いきなりだったので「うわっ」と洩らして北斗は欠月にしがみついた。
「命綱とかないので、落ちたらジ・エンドですぅ。しっかり掴まっててくださいね」
「お、おい! 不吉なこと今……!」
 北斗はステラに言い返そうとするが、みるみる地面が遠くなるので驚くしかなかった。
 空高くまで浮かぶと、北斗は眼下に広がる光景に思わず感動した。
「すげー!」
 地上があんなに明るい!
「なあ欠月! 見ろよ!」
 はしゃいで欠月の腕を引っ張る北斗。
「あっ、危ないですからあんまり身を乗り出さないで……」
 ステラの声の途中で、北斗が前のめりになる。しかも、ソリの側部から下を覗いていた時だったので彼はそのまま何もない空に落ちそうになった。
「北斗!」
 慌てて欠月が北斗の襟首を思いっきり自分のほうへ引いた。
「あっぶね」
「何やってるんだよ……もぅ」
 大きく息を吐く欠月に北斗は「わりぃな」と笑ってみせる。
「もー! 怖いからそういうのやめてください!」
 ステラが前からそう声をかけてくる。北斗は彼女にも謝った。
 空の散歩を堪能し、そろそろ地上に降りるという時に北斗は欠月に言う。
「いいもん当たったな!」
「……そうだね」
 欠月も笑顔で頷いてくれた。さて……そろそろこの楽しい時間も終わりだ。ソリは旋回し、地上を目指した――。



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★   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ★
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PC
【5698/梧・北斗(あおぎり・ほくと)/男/17/退魔師兼高校生】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】
【ステラ=エルフ(すてら=えるふ)/女/16/サンタクロース】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、梧様。ライターのともやいずみです。
 欠月と一緒にソリで散歩のクリスマス、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!
クリスマス・聖なる夜の物語2006 -
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東京怪談
2006年12月18日

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