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『THE BIG G 2nd season 』
宇奈月・慎一郎2322)&鈴木・恵(NPC0354)


 さて、前回。
 ダンダ団とは滋賀県のミステリースポットよりもどちらかというと演歌歌手に縁があるかもしれず、寧ろあの夕焼けに向かってニャンニャンすべきかもしれなかったと、誰が言ったかクックドゥールドゥである。
 そういう間違いを起こしていたのかがまずかったのか、あの後ダンダ団の要であるアフロンジャーロボは、THE BIG Gの一撃により完璧に沈黙した。尚爆発した後の煙は何故かドクロの形であり、操縦者で団長である鈴木恵は、何故か三人乗りの自転車で逃亡していった。
 こうして、宇奈月慎一郎は、失った召還獣の代わりに伝説のロボットを手に入れる事ができ、でもぶっちゃけ他に活躍場所が無いのであんまり出動させず、ますます深まる冬の寒さの中、あつあつのおでんに舌鼓を打つ毎日なのである。
 尚、今回も諸般の事情により、ロボの詳細な造型やデーターに触れられない事はご承知頂きたい。
 ともかく、こうして争いも何もない日々の中、彼はゆったりとした時間を過ごしていたのだ、が、
「師走! それは新たな戦争の始まりや!」
「……いきなり現れて、どうしたんですか恵さん」
「ノー! うちはゲルダンダ団団長、けして鈴木恵ちょっとショタコンの気ある女子高生であらず!」
 プロフ言うてるがなとはつっこまず、宇奈月がこたつに足をつっこんでるのは、都内某所のくつろぎタイプのおでん店である。こたつ、これを店の特色にした店長の試みは、途中で客が寝たりこたつ布団のクリーニングが大変だったりと、よくない方向に転がっている。しかし、屋台で背中を冷たくして食べるおでんとはまた違う、心までぬくぬくで頂く大根も乙なものだと、宇奈月のような客が来て営業事態はさほど問題ではない。
「んぐ、で、どうしたんですか恵さん? 争いって言ったって、賢者の石は譲りましたよね?」
「いやほんま何も解ってへんなぁ、あぁねーちゃん、すじ肉の山椒煮一つ」
 注文をした後、呉越同舟ならぬ同こたつする彼女。
「確かになぁ、一回は敗れたけど、大人の事情っちゅうもんあるやん」
「なんでしょうかそれ」
「平たく言えば年末商戦っちゅうか」
 ああなるほどと納得する宇奈月。「アフロンジャーロボ、クリスマスの時期に向けてまだ売る必要があるんですね」
「そうそう! まぁ言うても今回売るのは前の奴やのうて、新発売のグレートアフロンジャーロボ! なんと今回はアフロにギミックを仕込んでいて、このアフロがびょんびょんと跳ねるんや!」
 そう言って取り出した合金ロボ、……ぶっちゃけ、何処にでもあるようなロボにまたもやアフロを被せただけである。製作者よ、こんなんでいいのか。
 運ばれてきたすじ肉の山椒煮、断り入れてから一つ頂く宇奈月。良く出汁の染み込んだとろとろの肉の甘い旨みを、山椒がピリっと引き立てる。おでんとのはまた違ったすじ肉のうまさだ。
「まぁそういう訳やから、またTHE BIG G登場させてくれへん? うちら宣伝行為で東京適当に壊すから、ばばーっと」
「それ、宣伝効果になるんでしょうか。だったらパイロット席からおでんを投げた方が世界中が幸せに」
「火傷者多発で訴訟起こるわド阿呆」
 と、山椒煮より先に注文していた、冬の味のもう一つ、牡蠣フライが運ばれてきた。レモンだけかタルタルソースか、悩んだが一発目はウスターソースで。サクサクの衣にじわり染み込む香ばしいソースは、一層食欲を引き立てる。唾でいっぱいになった口の中にそれを運んだ時にはもう笑顔、口の中に運んだそれを噛み締めて、サク、ジュワ、トロ、の幸せ三連コンボを堪能したら、もう幸せ。
 思わずうはぁと言いながら、彼はもう一度箸を伸ばす。
「まぁ、うちだけが甘い汁吸うのもなんやし、THE BIG Gはパワーアップせーへんのなんか?」
「そうですねぇ、……コクピットにこういうこたつつけるとか、後、おでん鍋があれば言う事ありませんねぇ」
「戦闘起こったら確実大惨事やん。ちゅうか、それ見た目的パワーアップしとらん」
 改造というよりリフォームレベルの話である。でも彼はそうでしょうか、と小首をかしげながら、練り物に手をだした。ごぼ天、出汁を良く吸った練り物の柔らかさと、ゴボウのシャキシャキは、口の中で実に、うん、実に。
「けど別に私は、THE BIG Gのフィギュアを売る気ありませんしねぇ」
「えー、第二期やろうや第二期ぃ」
「いやですから、最初の目的はもう達成されてるんですよ。召還獣の代わりにロボットを作る目的、あとおでんを食べる目的も」
 それは年中のような気もするが、後、父の事はいいんかとか思いながら、
 ……恵は、そろそろ冷や汗を浮かべた。
「い、いや、ちょっと待って? 宇奈月はん、あんな、もしかして今回――ロボで対決せずこたつでうまいもん食って終わり?」
「え、何か問題があります?」
 大有りやー! と彼女は叫んだ。
「いやいや! 何をまったりしとるん!? お話的におかしいやん、間違い探しやったら指摘箇所ありすぎやん!」
 彼女は、THE BIG Gとグレートアフロンジャーロボが格闘させようと、宇奈月慎一郎に発注しに来たのだ。だのにこうやってこたつで飯を食い合うだけで終わるとはなんたる事か、場面転換のシンボルマークである“◇◆◇”も登場せずにこのまま終わるというのか。
「なんやねんそのぶっちゃけありえへんYESな5! いやもうほら、早くこたつ出て! とっとと爆発物OKな湾岸あたり行って対戦!」
「こたつはいいですねぇ、温泉に匹敵する癒しの空間ですねぇ」
「まったりするなぁ! キャベツならぬロール白菜を嬉々とした顔で味わうなぁ!」
 恵団長は必死だった、何故って、玩具が売れないと番組が続けられないのだ。下手したら2クール目でプロデューサーが交代して、全く違う路線に変わるかもしれないのだ。黒いアフロが駄目だったから今度は赤いリーゼントでなんて、そんな、恐ろしい!
「ああでも、ぶっちゃけその方が子供たちに人気出たっていうし、あれこれ言う権利はないかも」
「厚揚げにぎんなんが入ってるって楽しいですねぇ」
「己はどこまでおでんに執心しとる!?」
 隠れてない隠し能力なのでしょうがないのである。おでんの鍋底に大根が隠れていると幸せなのである。
「◇◆◇!」
「しかく、って三回連続でいっても、この店からは場面変わらないと思いますよ恵さん」
「ムキー!」
 駄目だ、まさにてこでも動かない。支店力点作用点を利用しても、かように人はこたつに囚われるというのか、イッツ恐るべし、下手すりゃ大晦日NHKでクラシックも聞けぬ侭に鍋をつついてしまうハメになる、人間を堕落させる呪いのアイテムである。
「あらかたおでん食べちゃいましたねぇ、どうしましょう、追加で頼みます?」
「いや、食べ終わったんやったら腹ごなしに運動――」
 その時、である。
 店内にあるレトロなテレビのブラウン管に、臨時ニュースが入ったのは。「ん? あれ?」
「あれは」
 それは目も疑うばかりの、
『た、大変です! 東京に突然謎の巨大ロボットが現れました!』
 鉄の出来た巨人であり、小ビルを見下ろす神のような存在であり、
『このロボットは建築物を破壊し、国会議事堂東京タワーに浅草雷門と、まるで修学旅行のコースですッ!』
 人の悲鳴を糧にして進軍する悪魔、それは、
 そのフォルムは、
「おかっぱ頭の!」「じゃなくて、坊主頭のロボットですよ?」
「……え?」
 まるっきり、坊主頭の童子でした、って、
「あれぇ!? おかしい、うちがあらかじめ頼んでおいたロボ違う!? どういう事!?」
 あっさり自作自演をばらすが、宇奈月は対して気にしてる様子は無い。
「いやだって、恵さん」
 卵を一度端でわって、からしをたっぷりつけてから口に運んだ。
「あふ、あつ、……ん、仮に私の知り合いのオカッパ童女のおでん屋さんを模した人形とか出すよう指示しても、一人だけの物語だからロボとはいえぶっちゃけ違反だって、お寺から怒られるじゃないですか」
「やぁんうちったらそこらあたりはふりーふりーふりーやとってマジかぁ!?」
「まぁそういう訳ですから、私達関係ありませんねぇ」
「ちょ、おま!」
「……現実で、ネットの言葉使うのは痛いと思うんですが」
「いや違うこれは偶々!?」
 そんなんこんなんしてる内、ブラウン管では坊主童子ロボが光の巨人によって宇宙の墓場に連れ去られていった。ありがとう光の巨人。
 万策、尽き果てたといった感のある元局長、現在AD、……いやそもそもそんなに設定固めてない女子高生。
「はぁ、ご馳走様でした。身も心も満足しましたし、後は店員さんに咎められるまでこたつでゆっくりと」
「……こうなったら仕方ない」
「――何を、する気ですか?」
 宇奈月の眼鏡が理知的にきらりと、光る。
 少女はふっと笑うと、やにわ立ち上がり、そして、
 宇奈月慎一郎に対して凄い勢いで――
「お願いしますお願いしますこの通りです」
 思いっきり土下座した。


◇◆◇

 ああ、辞書登録しているのでくぎりと打てば出る記号が出たので、場面変換は完了し、今この大地に、両雄は並び立っていた。
「THE BIG G、開演!」
「爆心! 髪体! GO! グレートアフロンジャーロボ!」
 聳え立つ鉄の城は互いに睨み合い、そして、一瞬の間の後突如、
 決戦!
「ひゅいー、どかーん、どっきんばぐばぐー」
「むげんあふろー」
「いいこにしなさいあふろーわん」
「いちまんねんとにせんねんー」
「ふぁいなるすてーじ」
 ああこうやってロボットを手で握って、無茶な効果音とセリフで戦わせるのって何年ぶりなんだろうついエンジョイアンドエキサイティングって、「幼稚園児かうちら!」
 こたつの角にあたったアフロンジャーロボは、ニンテンドーDS並みに頑丈だった。(でも投げてはいけない)こうしてTHE BIG G二期は、「いやだからまたこのオチか!? ワンパターン繰り返せばええっていうかそもそもうちしゃべりすぎて肝心の宇奈月はんが目立って」「おでん食べれたから満足ですよ」「嘘つけー!?」滞りなく終了した。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年12月14日

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