▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『弟子とサンタビーム 』
藤井・蘭2163)&藍原・和馬(1533)&(登場しない)


 ぴんぽーん。
 軽快なチャイムの音が、藍原・和馬(あいはら かずま)のアパートに響き渡った。和馬は「来たな」と小さく言いながら、玄関へと向かう。
「よっ」
 挨拶交じりにドアを開けると、向こうから「こんにちはなのー」という元気な声とともに、藤井・蘭(ふじい らん)が現れた。蘭はにこにこと笑いながら、ずいっと紙袋を差し出す。
「お土産なのー」
「おっ、気が利くな」
 和馬は紙袋を受け取り、蘭に入るように促した。蘭は「お邪魔しますなのー」と言いながら、玄関で靴を脱ぐ。
「寒くなかったか?」
「大丈夫なのー」
 蘭はそう言いながら、びしっと手を挙げる。寒くなかったとは言うものの、心なしか頬と耳が赤い。風が冷たい今の時期、寒くなかった事はないだろう。
 和馬はにっと笑い、頬をぐりぐりと触る。蘭が「ほえ?」と不思議そうな顔をする。
「やっぱり、ちょっと冷えてるな。本当は寒かったんだろ?」
「むー……ちょっとだけ、なの」
「そんな中、蘭は頑張ってここまで来たわけだ」
「はい、なの」
「そんな頑張り屋の蘭に、ご褒美だ」
 和馬はそう言い、台所から大きなマグカップを二つ持ってくる。ほわほわと湯気の立つそのカップからは、甘い香りがする。
「特製レモネードだ! 熱いから、気をつけるんだぞ」
「わあい、レモネードなのー」
 ことん、とコタツ机に置いてやると、それにつられるように蘭がコタツにやって来た。和馬は布団をひょいと持ち上げ、入るように促す。蘭は「わあい」と再び言いつつ、コタツの中に足を突っ込んだ。
「あったかいのー」
「おうよ、俺が温めておいたからな」
「和馬おにーさんのぬくもりなのー」
 蘭はにこにこ笑いながらそう言い、マグカップに手を伸ばす。暖かなマグカップが、軽く冷えていた手を温める。暖を取るように両手で抱え、ふうふう、と何度も息を吹きかけてから口へと持っていく。ふわり、とレモンの香りがする。
 口に入れると、途端にレモンの酸っぱさとそれを和らげる蜂蜜の甘さが広がっていった。甘酸っぱい匂いのする湯気が、蘭の鼻をくすぐる。
「おいしいのー」
「そりゃ良かった」
 和馬はにっと笑い、自らのレモネードを飲む。体の芯から、ぽかぽかと温まっていくようだ。
「さて、本題に入ろうかね? 蘭君」
 和馬はマグカップを置き、蘭に向き直る。蘭は「はい、なのー」と言いながら、びしっと真面目そうな顔になる。
「今年もやってくるな、クリスマス」
「やってくるの。去年も来たの」
「そうだろう、そうだろう。一年というのは、実に早いな」
「クリスマスといえば、ケーキなのー」
「いやいや、それだけじゃないぞ? もみの木とか、トナカイとか……サンタとか」
 クリスマス、と聞いて思いつく限りの単語を並べていく。すると、蘭が不思議そうな顔をし、首をかしげた。
「サンタさん、どうしたらなれるの?」
 その疑問に、和馬は思わず「え?」と聞き返す。
「プレゼントを渡す、お仕事してるの。どうやってなるの?」
「なりたいのか? 蘭」
「ちょっとだけ、気になるのー」
 蘭の言葉に、和馬は「ええと」と呟き、思い起こす。
 そもそも、サンタクロースという職業に就く為に何をすればいいのだろうか。
 巨体に赤と白の服を着て、膨大なプレゼントをソリに乗せ、トナカイを使役して夜空を翔ける。家を一軒一軒まわり、煙突を使って進入と脱出を図る。
(だが、真実味は少ないな)
 夢のある職業だとは思う。実際に居ればいいとも。だが、実際はそのような存在は未だ発見されていないし、子ども達にプレゼントを渡すのはサンタを信じている子どもの親だというオチが殆どだ。
(でも、なぁ)
 和馬は蘭を見る。蘭は目を輝かせ、どうやったらサンタになれるのかを純粋に知りたがっている。きっと和馬なら知っているはずだ、と期待して。
 そんな蘭の期待に背く事ができるだろうか。
 答えは、否。
「……俺は、ちょっとだけならサンタになったことがあるんだが」
 和馬の言葉に、蘭は「えっ」と驚きながらも目を一層輝かせた。和馬は「よしよし」と呟きながら、言葉を続ける。
「サンタになるには、それはそれは長い道のりが必要なんだ」
「道のり?」
「そう。例えばだな、サンタにはちょっとした休憩を取る事も許されない」
「駄目なのー?」
「そう。ちょっとでも休んでいると、同僚……であるトナカイに怒られる」
 それは、サンタの格好をしてチラシを配っていた時の話である。チラシを配る事に少し疲れた和馬は、こっそり休憩を取ろうとその場から離れようとした。が、その行く手をがっつりトナカイに扮した同僚に阻まれてしまった。
「サンタがいなくて、トナカイだけがうろついているわけにはいかないだろう!」と。
「他には、他には?」
 どきどきしながら尋ねる蘭に、和馬は「それから」と思い返す。
「サンタは乱暴な言葉遣いをしちゃ駄目だ。こう、丁寧な言葉じゃないとな」
「丁寧な言葉?」
「例えば『おはよ』じゃなくて『おはようございます』だな」
 和馬の言葉に、蘭は感心したようにこくこくと頷く。
 サンタに扮してケーキを売るバイトに入った時の事だ。元気の良い少年に思わず「良かったな、坊主!」と言ってしまった和馬に、店長が注意してきたのだ。
「サンタはそんな乱暴な言葉遣いはしないものだよ」と。
「サンタさんは、大変なのー」
 ほう、と蘭がため息を漏らす。
「しかしだな、蘭。サンタさんには凄くいいことがあるのだよ」
「いいこと?」
「そう。それは、皆を笑顔にする事だ!」
 びしっとポーズを決める和馬に、蘭は「おおー」と感嘆しつつ手を叩く。
「蘭だって、そうだろう?サンタさんに会ったら、自然と笑顔が出るだろう?」
 こく、と蘭が頷く。和馬はにやりと笑い「それだ」と言う。
「それが、サンタの力……サンタビームだ!」
「ビームなの?」
「そう、ビーム! サンタによる、サンタのための、サンタ最強の攻撃なんだ!」
 びしっ!
 だんだん分からない展開になってきているが、とりあえず蘭は感心している。ぱちぱちと手を叩きながら「すごいのー」としきりに呟く。
「和馬おにーさんは、そんなサンタになれたのー」
「いや、俺はまだまだだ。ビームも出るときと出ないときがあるからな」
「すごいのー」
 ふふん、と笑う和馬に、蘭が感心したように何度も頷く。そんな蘭の姿に、和馬は何かを思いつき、にやっと笑ってから辺りを伺う。
「どうしたの?」
「ここだけの話だがな、蘭」
「はいなの」
 ごくり、と蘭が喉を鳴らす。緊張の面持ちだ。
「実は、俺はサンタとして名前を持っているんだ」
「サンタとしての?」
 思わず声をあげる蘭に、和馬は慌てて「しっ」と口を塞ぐ。
「声がでかいぞ、蘭。これは企業秘密だ。男と男の秘密だ」
「男と男の……分かったの」
 こく、と蘭が神妙に頷く。「それで、何て名前なの?」
「A=Kサンタクロースだ」
 適当につけた名前だ。Aとは、藍原のA、Kは和馬のKである。それっぽくつけてみただけ。
 だが、蘭には効果絶大だった。しきりに「すごいの」を繰り返し、きらきらした目で和馬を見る。和馬はにやりと笑い、声を潜めるように蘭に「というわけで」と言う。
「俺のこと、Aサンタと呼んでも良いぜ」
「エースサンタ!」
 一見格好良く見えるその名前も、藍原和馬サンタ、というのとあまり変わりはない名前だ。それなのに、英字を使うだけで格好良く見えるから不思議だ。
 きゃっきゃっとはしゃぐ蘭を見、和馬は微笑む。嬉しそうに、尊敬の眼差しを以って和馬を見ている蘭。いつしかサンタクロースという存在に不審を覚えてしまう日がくるかもしれないが、今は違う。
 今は、サンタクロースと言う存在を信じ、努力によってなれるかもしれないという夢を抱いているのだ。
「蘭、サンタになりたいか?」
「なってみたいのー!」
「よし、なら君はAサンタの弟子第一号だ!」
 びしっ!
 ポージングまでしっかり決めると、蘭は嬉しそうにそのポーズを真似ながら「わあい」とはしゃぐ。
「弟子第一号、嬉しいか?」
「嬉しいのー! わーい、なのー!」
「よしよし、ならば弟子にも仮の名前を授けなくてはな」
 和馬の言葉に、蘭は目を輝かせながら「何なのー?」と尋ねてくる。
「蘭は、Rサンタだ。半人前だから、文字が一つ少ないぞ!」
「アールサンタ!」
 きゃっきゃっと蘭がはしゃぐ。なんてことは無い。蘭の頭文字なのだが、蘭にとってはサンタの仲間入りを果たした気分がするのだ。
 ただ、名前を貰っただけで。
「勿論、これは俺たちだけの秘密だぞ?」
「分かってるのー!」
「サンタと、その弟子との約束だ」
「約束なのー」
 和馬はびしっと親指を立てる。
「今年のクリスマスは、頑張ろうな? Rサンタ」
 蘭も負けじと、びしっと親指を立てる。
「頑張るの、Aサンタ!」
 二人は顔を見合わせ、にかっと笑う。
「でも僕、サンタさんのお仕事できないの」
 ふと、和馬から聞いたサンタのなり方に不安を覚えた蘭が、しょんぼりして漏らした。和馬はしょぼくれた頭をがしがしとなでながら「大丈夫だって」と言う。
「だから、まだ半人前なんだろう? そんなRサンタにも、ちゃんとサンタとしての仕事があるぞ」
「本当なの?」
「ああ。……今年のクリスマス、俺たち身近な奴らを笑顔にするっていうな」
 和馬の言葉に、蘭はきょとんとしながら「身近な人?」と尋ね返す。
「そうだ。お前には、サンタビームがあるだろう?」
「ビームなんて、出ないの」
「出る出る。知らないのか? お前、笑うとビームが出るんだぜ」
 和馬の言葉に、蘭は「え」と不思議そうな顔をする。
「僕、ビームが出せるの?」
「ああ。皆を笑顔にさせるビームだ。だから、笑ってろ」
 蘭は「笑うとビーム」と呟き、徐々に顔を明るくする。和馬はにっと笑い、がしがしと再び頭をなでた。
「そうそう、それだ。そうやって笑ってたら、俺らは簡単に笑顔にされちまうんだからな」
「分かったのー」
 蘭はにっこりと笑いながら頷く。和馬もそれに笑いながら頷き返し、小さく「よいしょ」といいながら立ち上がる。
「そんなビームの出るRサンタに相談だ。レモネードのお代わりと共に、プリンなんて食べたくないか?」
「食べたいのー」
「よっしゃ。じゃあ、Aサンタからの一足早い贈り物だな」
 和馬はそう言い、台所へと向かう。コタツに残された蘭は、布団にぎゅっともぐりこんでくすくすと笑った。
 今年のクリスマスに、たくさんビームを出せるようにと思いながら。


<サンタビームを放ちつつ・了>
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
霜月玲守 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年11月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.