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『刹利、精進あるのみ?! 』
施祇・刹利5307)&秋山・勝矢(NPC2978)


 勝矢の草野球仲間は急造キャッチャーの刹利を加えての試合を経験してからというもの、誰もが口を揃えて『名バッテリー』とふたりを褒め称えた。言われる方もまんざらではないが、彼らの腹はすでに決まっている。当面は「お互いが真剣勝負すること」が目標なのだ。特に刹利がそれを望んでいる。だから興奮覚めやらぬ輪の中に混ざり、今日もまた基本練習から地道に始めていた。
 ふたりとも基礎体力は問題ないので、みんなと混ざって軽くランニングした後でストレッチ。その後、勝矢を相手に守備練習を開始。刹利は手袋をすることを考慮して大きめのグローブをはめている。そう、今日はミットではなくグローブ。彼は勝矢の力を引き出すのは自分ではなく、ちゃんと球種や癖、性格を把握している捕手の方がうまくリードできると判断。あえて経験したことのないポジションの練習を願い出た。それをさせる方もいろいろと考えた末、とにかくいろんな守備位置を体験してしっくり来る場所を見つけてもらうことにしたのだ。要は広く浅く……といったところだろうか。
 内野は外野から送られてくる球を中継したり、実際にたくさんのアウトを取ったりするため、めまぐるしく立ち位置が変わる難しいポジションだ。またダブルプレーなどの連携も多いので、順番に教えようにも量が多すぎる。だから勝矢はあえてグローブを使ってゴロをさばく方法だけ教えた。刹利の前に意地悪なバウンドをするボールがやってくる。

 「ほっ、と。勝矢クン、今のバウンド難しいよー」
 「冗談じゃない。俺に言わせれば『なんで今のをさばけるのかがわからん』ってば!」
 「それは勝矢クンが壁打ちで練習しろっていうからだよ?」
 「お前、すごいよな。普通だったら途中で飽きちゃうような練習でも黙々とするもんな」

 今日はチームに合流して練習しているが、これが毎日行われているわけではない。そういう時のために勝矢は刹利に『ひとりでもできる練習方法』を伝授していた。そのひとつが壁打ちである。ボールを軽く壁に当てて、ただそれを取るだけ。だが、シンプルほど難しいものはない。ボールの回転を変えればバウンドの回数も変わるし、キャッチする高さも微妙に違ってくる。角度をつけて当てれば、その分だけ横に移動しながらさばかなければならない。数秒で終わってしまうはずの練習も方法や回数を増やすだけで格段にレベルアップするものなのだ。刹利にしてみれば、ひとりで野球を楽しめるお手軽な手段といったところか。今はコーチの勝矢も驚きのキャッチングを何度も披露する。

 「内野はゴロを丁寧にさばければ大丈夫。ライナーとかフライは取れなくても仕方ない時もあるしな」
 「そこはちゃーんと見て取れるようにするよ。じーーーっ」

 猫の目を細くして、じっと本塁を見つめる刹利。金色の瞳はただでさえ猫のようなのに、今のポーズや仕草は猫そのものだ。それを見た勝矢は笑いをこらえながら、新しい練習について説明を始める。

 「……そういえば外野のことで聞きたいことがあるんだっけ?」
 「うん。たとえばさ、前のピンチみたいな状況だね。ツーアウト満塁とかでボクが外野にいたとして、フライを無理して捕ろうとして体勢は崩れちゃうわ間に合わないわって時は……どうすればいいの?」

 打ち上げた当たり……つまりフライは取れないと判断した時点でアウトにすることを諦めて、目の前に落として確実に捕球するのがセオリーだ。だが今回の質問はスライディングなどで体勢を崩しちゃった時の対処方法を聞いているのだろう。おそらく最近のテレビかここの練習風景でそういうファインプレーを見たからかもしれない……勝矢は「それが疑問を抱くきっかけになったんだな」と思いつつも、余計なツッコミはせず丁寧に説明した。

 「ああ、捕球しようとする人の後ろには絶対に誰かが回りこんでるんだ。例えば刹利がセンターを守ってたら、ライトかレフトが後ろにいてくれる。だから、球がヘンなバウンドしちゃったりとか身体に当たってイレギュラー起こして後ろに逸れた時はフォローしてくれる。ただ自分の手元にボールが転がってるのなら、とにかくピッチャーのあたりをめがけて投げればいい」
 「でもそこに投げたらさ、どんどんホームインされちゃうよ?」
 「だ・か・ら、内野は難しいんだ。セカンドとかは走者の動きを見ながら常に動き回ってる。地面を滑って転んでる奴よりかはしっかり状況を把握してるもんだ。それにお前はいいけど、外野を守るのはみんな肩の強い奴じゃない。ワンバウンドでホームまで投げ返せる奴なんてなかなかいないし、いくらお前でも質問の状況でちゃんと投げれるとは思えないしな〜。でも、その発想はそんなに間違ってはないけど……」

 当たらずとも遠からず……なぜか話の内容を説明しているかのような言葉が刹利の脳裏によぎる。ホームインされると相手チームに点が入ってしまう。それを阻止するために身体を張ってがんばったが失敗した。その時のミスを最小限に食い止めるにはどうするか。刹利はグローブに握り拳を当てて頷いた。どうやら何か閃いたらしい。

 「ああ……ランナーの動きを止めちゃえばいいんだ!」
 「そういうこと。ホームインするってことは、走者が外野からボールが帰ってこないと判断した上でする行為。だからさっさと内野に戻しちゃえば、連中は塁上で止まるしかなくなる。下手に飛び出すと、塁間で挟まれる可能性もあるからな。そうなると刹利が一番望んでいる『アウトを取ること』を自分からさせてしまうことになるってことだ」
 「じゃあ、走ってる人を見ながら内野の誰かに返せばいいんだね?」
 「お前には地味な練習ばっかりさせてるけど、野球はチームプレイだからな。その時は仲間が『こっちによこせ!』とか大きなアクションとかで合図してくれると思うよ。極端な話……お前なら投げる振りだけでもみんな止まるだろうけどさ」
 「へっ?」

 刹利の運動神経のよさは嫌でも目立つ。敵は警戒してくるだろうし、味方は頼りにするだろう。
 勝矢は心の中で考えた。自分がセカンドランナーなら、絶対にホームには突っ込まない。ボールを落としたのを確認してからサードまで全力疾走するだけでやめる。もし刹利が無茶をして捕球できた場合を想定すると、リードはそれだけ大きく広げられない。タッチアップするのも難しい距離……刹利の肩と勝負するのは大博打になるはずだ。それを考えると、どうしても自重せざるを得ない。「我ながら厄介な敵を仕込んでいるな」と今さらながらに感じている勝矢だった。
 そんな複雑なコーチの心中もどこ吹く風、刹利はとりあえず納得の表情で頷く。

 「とりあえず今のでわかったよ。勝矢クン、後で時間があったら1000本ノックとかしてくれない?」
 「まーたおかしな知識を身に付けたな、お前。あれな、受けてるよりも打ってる方がしんどいんだぞ?」
 「それが目的だって、今度チームの仲間になる人が……」
 「おい、そいつどいつだ? 背番号で教えろよ」
 「ボクの仲間だもん。言えないよ〜。じゃ、今はバットの素振りでもするね」

 友達よりも仲間を選んだ刹利はグローブを外して、今度は懸命にバットを振り始める。勝矢は「とりあえずは100本くらいに負けてもらおう」とリクエストのあったノックの準備に取り掛かった。その時だ。勝矢は素振りをする少年に目を奪われる。あんまりビックリしたもんで、つい大声で理由を叫んでしまった!

 「おいっ! 誰だよ、刹利にスイッチヒッターのテク仕込んだバカはっ!!」
 「右打席だと勝矢クンのスライダーに手が出ないからだって。左打席なら身体のある方向に流れてくるからヒットにしやすいんだよね。ちゃんとみんなからも教えてもらってるんだ。勝負の日、楽しみだね〜」
 「く、くそぅ……俺の言うことだけ聞いてるわけじゃなかったのか。恐るべし刹利。しかし俺も新技を持ってるからな、そうは簡単に打たせないぞ!」

 実はみんなから素直に練習方法や勝矢対策を聞いていた刹利。そして新たなる変化球を習得しようとしている勝矢。はたして本当の試合になった時はどうなるのか……今からチームのテンションは上がるばかりである。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2006年11月20日

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